ざまぁの準備はだいたい完璧ですわ!
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そんなこんなで、入学から1年近くが経過した。
1年。それはVRゲーム『かお☆みて』でのゲーム期間である。
そして今日は、3年生の卒業を祝うパーティーが学園で開かれ、生徒会の面々はパーティーに参加することになっている。
ゲームでの最終。クライマックスシーン。今日が終われば、泣いても笑ってもあとはエンディングである。
自身らの卒業、3年目がクライマックスではないのか? という点については、おそらく1年分で予算が尽きたのだろうと思われる。
いつもの『かお☆みて』クオリティだ。そんなところも嫌いではないが。
ゲームでは、生徒会長の婚約者、コレハにも参加の資格が無いわけではなかった。しかし生徒会長に誘われた場合に限る。
で、ゲームのコレハは誘われていないのに行き、そして断罪されたのである。
「でも今の私は生徒会メンバーでもあるから、ハークス様に呼ばれなくても正当な参加資格がございましてよ! オーッホッホッホッホ!」
「とてもお綺麗ですよお嬢様!!」
そう言ってドレスの着付けを手伝うのはサマー、いや、同じくパーティーに参加するため化粧をしているのでヒィロである。
「それにしてもこのドレス……私、こんなの買ってましたっけ?」
「ああ。これはハークス殿下から頂いたやつですよお嬢様。……ほら、婚約者ってだけならともかく、生徒会メンバーですし?」
「そうでしたの!? さては生徒会メンバー、婚約者、このうち片方の肩書だけなら送らなかった、でも両方だから送らざるを得なくなった。そういう事ですわね!」
「ソウイウコトカモデスネ!」
「名推理ですわぁー!!」
そういう事になった。
紫色をベースに、ハークスの髪色である金色が差し色として入っているドレス。
見ようによっては、コレハに屈しているハークスに見えなくもないのが気に入った。とくにスカートのフチのところなんて地面に這いつくばったハークスみたいで。
「ヒィロのドレスはどうしましたの?」
「あ、これはお嬢様からのお給料で買いました。自腹です」
侯爵家、それも第一王子の婚約者であるコレハの侍女であるヒィロ。
特別手当も貰っており、実はかなりの高給取りだったりする。
「……ハークス様から贈られてないの?」
「ええ、贈られてません。用意するか提案されましたが断りましたし」
「……ヒロインとしてどうなのかしら??」
「なんて慎ましい心の持ち主なんだ! と言ってたので、良いんじゃないですかね」
なるほど。断る方がヒロインとして正解だったようだ。
……ゲームの時にはそんな選択肢はなかったが、それはお金を持っていない平民だったからだろう。
余談ではあるが、ハークスルートの時はピンクに金色の差し色が入ったドレスが贈られていた。
今ヒィロが着ているドレスは、ピンクに紫が差し色として入っている。
確かクルシュルートの時のカラーリングね、とコレハは思い出した。
「ヒィロ……いいえ。今はあえてサマーと呼ばせてもらうわ。サマー。小道具の準備は?」
「はい、文通していたお手紙、契約書、記録映像の魔道具、販売している化粧品の宣伝の証明等々……あとバリカンも。一通りマジックポシェットに用意してあります。どうぞご確認ください」
「うんうん、大変結構。……今日は、フフフ、やってやりますわよぉ……! フフフフッ!」
そう言って、コレハはぐっと拳を握った。
余談ではあるが、文通について、貴族手紙の作法に疎いヒィロは早々に音を上げてしまった。なので内容をコレハが考え、ヒィロが書くという形式になっていた。
ハークスからの手紙にはひたすらに甘々な言葉が綴られていて「これは間違いなく浮気の証拠になりますわね」とほくそ笑んだものだ。
コレハが考えた文面だとも知らず……素晴らしい内容だった、やはり賢いな、増々惚れてしまった、君の言っていた政策を父に進言した、普段口では言えないが……好きだ、愛している、王妃にふさわしい思考だ、君は俺の女神だ、俺の隣に立っていて欲しい――等々と褒め称え続けていたのだ。
もし自分が受け取る相手だったら、たまらず赤面していただろうと思う。
惜しむらくは、ヒィロ宛ての手紙だったという事だ。宛名やヒィロの名前の記載は一切ないが、身バレ防止のささやかな対策だろう。
女子寮の前に迎えの馬車が到着した。
ゲームでは好感度の一番高い攻略対象がエスコートしてくれるのだ。
そして馬車から現れたのは、やはりハークス・ダイードであった。
ハークスは脇目も振らずにヒィロめがけてやってきて――ヒィロを避けて、後ろにいたコレハに話しかけた。あれ?
「コレハ。今日は一段と美しいな。そのドレスも似合っている」
「あらどうもハークス様。ハークス様こそ、その……なんでその、薄紫なんですの?」
「ん? ああ。胸ポケットのハンカチか」
胸ポケットのハンカチの色は本来ヒロインのイメージカラー、ピンクであったはずなのだが……
それではまるで、コレハの色を身に着けたかったと言っているような。
「お前をエスコートするからだが? ほら、お前みたいに可愛い色だろ?」
「……え? マジですの? ちょ、ちょっとお待ちください? じゃあヒィロは誰がエスコートしますの?」
「とりあえずクルシュに頼んであるが? ほら」
と、後ろの馬車からクルシュ・ナイアトホテプが現れた。
「ヒィロ嬢。どうぞお手を」
「ハイ」
ヒィロはコレハを置いて、さっさとクルシュの馬車に乗ってしまった。
……そういえばヒィロ、クルシュカラーのドレスを着ていたか。
となれば余った王子は? そういうことだ。
「……あ。そうか、私をエスコートしないとですもんね?」
「だからそう言ってるだろうが。ほら、行くぞコレハ」
本当はヒィロをエスコートしたかったに違いないであろうハークスだが、王族として正式な参加者の婚約者を放っておくことは出来ないという事だろう。
納得したコレハは、とても丁寧なエスコートで馬車に乗った。