学外でも、ヒロインと悪役令嬢
サマー、もといヒィロが聖女として覚醒したことは目下調査中と隠されることになった。
コレハは、それがヒィロを教会に渡したくないがためのハークスの策に違いないと見抜いていた。
「というわけなんで、一応王家からは聖女という認識がされました」
「あらそう。……護衛とか付くんじゃありませんの?」
と、コレハはゲームでは『聖女』に攻略対象の護衛、ジャンガリアが付いていたメタ知識をもとにサマーにそう尋ねた。
イケメンプリズンの後方担当できる存在。しかしそういえばジャンガリアが加わってからはイケメンプリズンが無かったな? と、コレハはどうでもいいことを思い出していた。
「え、あ、まぁ、その、追々? 少なくとも女子寮の中については女子寮の警備もあって安全だろうのでプライバシーを守ってくれるそうです」
それを聞いて、ホッと息を吐くコレハ。
もし寮内まで護衛の目が入るようであれば、サマーではなくヒィロと過ごしてもらう他なくなってしまう。そうなれば、コレハは実質ぼっち。
まぁヒロインに家事を押し付けてる我儘なご令嬢、という風に見えたらそれはそれでアリだったかもしれないが、こうして気軽に話し合える状態ではなくなってしまう。
「む、でも寮の外では……基本的に護衛の目があるってことですわよね? そうなると授業が……」
「あ、あー。学園内も学園の警備があるので大丈夫だろうと言ってましたね! だから護衛があるとすれば学園の外に出る時くらいです」
学生寮は学園の敷地内に建っている。そうなると逆にいつ護衛が付くのだろう。
「というかそんなついてるかついていないか分からない警備なんて意味が……あ。そうか。あんまり大々的に警備してしまっては『聖女ここにあり』と言ってしまっているようなものですものね?」
「そうそれ! それですよ! だから寮内、というか学園内では今まで通りで大丈夫です!!」
「よかったですわぁー。ならこれからもサマーに家事全般の面倒見てもらえますわね?」
「ええ! お嬢様の面倒を見るのはこのサマーです! 今も未来もその立場は私のものです! なにがあろうと、です!」
それはつまり、ざまぁが失敗して追放されることになってもサマーはついてきてくれるという宣言。コレハ的には何よりも嬉しい発言である。なんと心強い事か。
「……素敵な従者をもって、私は幸せですわね……!」
「はい、お嬢様……!」
「今後もこの調子で頑張って、ハークス殿下をざまぁしてやりますわよ!」
「ハイ、オジョウサマ……ッ」
ハークス相手の発言の時、どこかサマーの口調がかたくなる気がするが、まぁおそらく相手が王族だから緊張しているのだろう。
あるいは、ヒロインとして攻略対象を騙している罪悪感かもしれない。その後ろ暗い所があり苦しそうな顔が嫌いではないので指摘はしないが。
「とりあえず護衛のヤツも攻略対象、ジャンガリア・ハスターのはずですわ。ヒロインが誘拐されたときに会ってる……というか、私達誘拐されたときに会ってるあの冒険者っぽいやつですわね」
「アー、アノヒトデスカー」
「学園内では護衛しないということは、この攻略対象と接するには学園の外に積極的に出る必要がありますわ……つまり学園外でのイジメモドキを見せつけてやる必要がありますのよ!」
「あ、じゃあ一緒にお買い物して私が荷物持ちしますか!? 力の限り持ちますよ私! なんなら聖魔法で身体治しつつ限界超えます!」
「たかが荷物持ちで限界超える気? まぁ従者が主人の荷物を持つのは当然の事。――うん、荷物を押し付ける悪役令嬢とヒロイン。行けますわね! 採用ですわ!」
かくして、学外でもヒロインを虐げる悪役令嬢が目撃されることになった。
が、ヒロイン側が「お嬢様と学外デート最高ぉ! でへへ」と始終だらしない顔をしつつどこか聖なるオーラを放ちまくっていたので、まったくイジメ感が無かったとかなんとか……
「なぁ王子。あの二人、聖女ってのを隠す気あるのか? 聖なるオーラ垂れ流しすぎる」
「コレハの方がオーラの発生源だと誤認できるし、まぁアレはアレで良いだろ」
「あ。聖女様コッチ見て笑いましたぜ。ニヤリって」
「……俺への挑発だな。くっ! 羨ましい、俺もコレハとデートして荷物持ちしたい!」
「王子。アンタはどうあがいても人に持たせる立場ですぜ……」
(最終章、断罪劇編は、12:00~ となりますわ!)