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生徒会のお仕事にて

 生徒会にて。

 今日もコレハは真面目に仕事をしていた。悪役令嬢なのに。

 サマーと王子もいつも通り仲良さそうなのを見ている。照れ隠しなのか、自分の前だからなのか、まるで上司と部下のような会話しかしていないが――コレハには分かる。だってVRゲームでやったところだもの!


 それはそうと、コレハは仕事に不満があった。


「ひとつ思ったのだけど、計算とか面倒じゃありません?」

「ん? どうした、仕事が嫌になったか? フフ、コレハもまだまだだという事だな」

「はぁ? 人の話は最後まで聞きなさいと習わなかったのかしら? ああ、そのくらいのお子様の時は妙な教育係に育てられていましたっけ。おほほ、ごめんあそばせ。人の話は最後まで聞くものでしてよ王子~」

「くっ! し、しかし今の発言はどう聞いても仕事の愚痴ではないか!?」


 ちっちっち、と人差し指を振るコレハ。


「いいえ、いいえ! 提案ですわよ、提案。商人が主婦の皆様に『最近、包丁の切れ味が落ちていませんか?』と尋ねるような前振りでしてよ? おーっほっほっほ、早合点は王族としてどうなのかしらぁー!?」

「くっ! くぅーっ!! 正論すぎて反論できぬーっ!」


 悔しそうに顔を歪めつつもどこか嬉しそうなハークスなわけだが、それを放置していては話が進まないとクルシュが口をはさんだ。


「共に働く仲間同士、軽口くらいいいじゃないですか。……一々煽らないと話できないんですかね? それでナイアトホテプ嬢、提案とは?」

「ああクルシュ様、そうでしたわね」


 そういってコレハはポンと手を叩き、最初に言いたかったことに話を戻す。


「ほら、今って計算は手作業……せいぜい算盤(そろばん)で計算してるだけじゃありませんか?」

「……それが普通だろう?」


 どこの文官もそういうものだ、と首をかしげるハークス達。

 しかしコレハはバンバンと机を叩き一蹴する。


「普通! 普通で満足してしまえばそこで進歩は止まってしまうんですわよ!」

「し、しかしそれならどうしろというんだ!?」

「実は私、こういうものを開発させましたの!!」


 と、そこに持ち出したのは、魔道具であった。

 算盤がゴテゴテとくっついている。


「なんだそれは。文鎮にしてはやたらでかい置物だな。枕にするには固くて痛そうだぞ」

「これが文鎮や枕に見えるとか目玉曇ってるから掃除した方が良いですわよ。これは計算用の魔道具ですの」

「計算用の魔道具!?」


 計算用の魔道具。それは王宮の研究室でも開発中で、しかし単純な計算でも膨大な魔力を消費してしまうので半ばお蔵入りになっている代物。しかも部屋1つ分の大きさがあったはずだが――

 これは卓上に乗る程に小さかった。


 さらに魔道具をよく見れば、6桁くらいの小さい算盤が何個かくっついていて、右側に普通サイズの算盤が付いている。


「まぁこれ、複数の数字の足し算引き算しかできないんですが、このように表の数字を5個ほど算盤にパチパチ打ち込んでボタンをポチっとしてやると――このとおり右のソロバンに合計値が表示されるのですわ!」

「いやいやいや! まて、まってくれコレハ、それは……それだけでもとんでもないぞ!?」

「ナイアトホテプ嬢!? それはもう国家機密の品では!?」

「ッ!?」

「ああ!? ツヴァン会長が気絶しましたよコレハ様!?」


 計算機の動作を見て、大騒ぎになる生徒会室。


「え。ただ算盤を魔道具化しただけみたいな代物ですわよ……何を大げさな」

「コレハ。お前この価値が分かってないのか……?」

「あら。私程これの価値が分かっている人間もそういませんわよ、なにせお仕事が楽になるのですわ! とっても便利ぃー!」


 頭を抱えるハークス。


「ちなみに……その、それを動かすのにはどのくらいの魔力を使うんだ?」

「それが燃費最悪でして……ゴブリン級の魔石1個で、1ヶ月くらいしか動かないらしいんですのよ」

「んんん超低燃費ではないか! つまり嫌味だな……ッ!?」

「え? 普通に短くありません? 魔石交換とか多くて1年に1回くらいで済ませたいですわよねぇ。今改良させてますのよ」


 と、前世の電卓を思い浮かべつつ言うコレハ。基準が圧倒的に違った。


「一体誰だこの魔道具を作ったのは!?」

「私が作らせたと言いましたわよね? もう忘れましたの?」

「いや、魔道具職人だ魔道具職人! どこの天才凄腕魔道具職人だ!? ナイアトホテプのお抱えか!?」

「ああ。そういう意味でしたら……まぁお抱えですわね。ロボロフスキー先生に引き取られたキャンベル君が作ってくれたのですわ」

「ロボロフスキー・ハスターか!? あやつ、なんという……って、養子? また孤児院のやつか!? お前んちの孤児院はどうなってるんだ!?」

「私が『計算仕事が面倒くさい』と言ったらロボロフスキー先生とこの足し算引き算の計算機を作ってくれましたのよ!」


 実際天才だとは思うけれど。

 気まぐれに2進数、ビットというオンとオフだけの概念を教えたら、なんかすごいハマったらしく「すごいよこれ! 片手で31まで数えられるんだよ! 両手だと1023!」とか言いだした子である。

 計算仕事が面倒だといった翌日からロボロフスキー先生を巻き込んで、つい先日計算機が完成したのだ。なんか思っていたよりアッサリできちゃったらしい。


 そして、(オン)(オフ)だけというデジタルな仕組みから生まれたシステムは、王家で開発しているアナログな計算機魔道具より遥かに運用効率が良かった。


「へぇ、キャンキャンうるさい口だけキャン坊が。あれ役に立つとこあったんですねぇ」

「……あらヒィロ? あなたうちの子のことバカにするくらいご存じなの?」

「あ! いえ! 知り合いの知り合いの知り合いからお聞きしただけでして……も、申し訳ありません! ごめんなさいナイアトホテプ様!」


 と、うっかりバレそうな発言をしたことを必死に頭を下げ謝罪するヒィロ。幸い王子たちは気付かなかったようだが……

 でもこれは見ようによってはイジメているように見える光景だったので、コレハは丁度いいと口端を上げ笑う。


「フンッ! 私が面倒を見ている子達を侮っていいのは私だけでしてよ! たとえあなたが平民枠で生徒会に抜擢されるほどの才女だとしても、うちの子を侮ってもらっては困りますわ! あと3回くらい謝ってくださいましてぇー!?」

「はいっ! ありがとうございます! 私が悪かったです! ごめんなさい! すみません! しゅき! 申し訳ありませんでしたぁー!」


 と、ヒィロに追加で何度も頭を下げさせるコレハ。これはもう完全にイジメに見えるだろう。

 しかしこれは領民のプライドを守るためという大義名分があるので、貴族としてはむしろ誇らしい行いと言い張れないこともないのだ!! つまり今日もまた、イジメモドキをキメてしまった。

 コレハは得意げに鼻を高くしてふんぞり返った。


「そ、それでナイアトホテプ様ぁ、私にもその計算機、使わせてくれませんか……? えへへ、私も計算するの面倒だと思ってましてぇ」

「おほほ、みじめみじめ! いい気分でしてよー? なので使わせてあげますわ。というか人数分用意してありますので使って使用感を教えてくださいまし?」

「ははぁー! ナイアトホテプ様の寛大な御心に感謝いたしますぅ!」


 大げさに生徒会室の床にひれ伏すヒィロ。少しやり過ぎたかも? と思いつつ、とりあえず計算機を配っておいた。ヒィロに手伝わせて。

 あまりの衝撃的な展開に、ハークス達攻略対象も固まって口をはさめなかったようであったが、既に話は終わっており今更発言しても仕方なく、完全に遅きに失していた。


 その後、恐る恐る計算機を使っては、自分が救えなかったヒィロを思ってか嘆き頭を抱えていたので、きっとこれも断罪エピソードに追加してくれるに違いない。




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