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ヒロインをイジメるのですわ!(茶番)(後)


 ちなみに魔法属性について、コレハは水属性ということになっている。

 もちろん本当は毒属性なのだが、建前のために水属性らしい魔法を披露しなければいけない。

 一応、上層部には話が通っていて、水魔法を使えずとも成績に響くことはないが。


「時にコレハ。お前、水魔法をちゃんと使えるのか……?」

「誰に向かってモノを言ってるんですの? 私ですわよ? 使えるに決まってるでしょう。ほらこの通り」


 ぽゆん、とコレハの手の上にハンドボール程度の水の玉が浮かんだ。

 そう、コレハはちゃんと出せるのだ。水を。


 何せ水は、毒だから。

 ――前世の知識があるコレハは、『水中毒』という言葉を知っている。

 1日に20リットル程の水を飲むと身体に毒だとかなんとか。

 つまり水だって毒なのだ!


「……え、今お前、詠唱は!?」

「あ、やっべ。……水の塊よー、我が魔力に応えよー、くりえいとうぉーたー」

「後から言ってどうする……学生レベルの腕前じゃないことは分かった。その水球もすさまじく安定しているな」


 ついつい無詠唱してしまった。

 普段から使っているうちに、面倒で省略するようにしていたのが祟ったか。


「……それと触媒は? しかもこれ、毒水じゃなく普通に水っぽいんだが……」

「え、水属性は空気中の水分があるから触媒いらないのでは? 昔メイドからそう聞きましたわよ? あと普通に水ですが?」

「……おまえは、毒属性だろうにっ……!?」


 周りに聞こえないように小声で叱られた。

 ……毒属性とバレるような事をしでかしたならともかく、水属性を完璧に装って叱られるとは解せない話だ。


「私悪くありませんわよねぇ……!?」

「そうなんだが……そうなんだが……っ! く、やはり俺が組んで正解だったな……」

「殿下じゃなかったらそもそも普通に『水属性かぁ』でスルーですわよ」

「無詠唱な時点で普通じゃないからな?」


 はぁー、とため息をつかれる。


「殿下こそ、どのくらい魔法が使えますの?」

「……光よ、我が魔力に応えて灯れ――クリエイトライト」


 ぽう、と光の玉が現れる。

 夜読書するのに丁度良さそうな、柔らかな光だ。ただそれだけなら初心者といっても過言ではない、が、ハークスの光の玉はその明るさを変え、点滅してみせた。


「ほぅ、これは遠隔での調光。やりますわね殿下」

「分かるか。この難しさが」

「一度放出した魔法を操作するのは相当な技術力。ま、私もできますが」


 言うや否や、コレハの水球は浮かんだままぐにんぐにんとうごめき、猫や本、果物など様々に形を変えて見せた。


「……くっ、形状変化だと!?」

「オーッホッホッホ! 折角練習したのに私に軽々上を行かれてどんな気持ちですのー?」

「出力操作より数段上……流石だなコレハ……!」

「ナイアトホテプたるもの、このくらい余裕でしてよ!……っとぉ、手が滑りましたわーーー!!!」


 と、ここでコレハは思い出した。

 授業中にヒロインにイヤガラセをしなければいけないのだ、と。

 そして、ヒィロに向かって思いっきり水球を投げつけた。


「! ヒィロ、危ない!」

「きゃっ!?」


 ヒィロにぶつかる直前、ケンホが割り込んできた――ので、ぴょいんと飛び上がるように軌道を曲げ、ケンホを避け無事ヒィロにぶつけた。

 ヒィロは頭から水をかぶり、水浸しになった。


「おい!? 今明らかに遠隔操作しただろ!?」

「オーッホッホッホ! 手が滑っただけでしてよ! 急に飛び出てきてビックリしたのですわぁー!」

「お前なぁ……その言い訳は無理が」

「だ、大丈夫かヒィロ!」


 ケンホが振り返ると、そこには水に濡れたヒロインが居た。

 濡れたことでセクシーなことになってしまっている……水も滴るいいヒロインが……!


 ごくり、とケンホは生唾を飲み込んだ。



 と、ここでヒィロは涙目になり、コレハに文句を言う。


「……うう、な、なにをするんですかぁー、ヒドイデスゥー」

「あーら、濡れた猫が何か言ってますわぁー? んー? 私にこうされる、心当たりがあるのではなくって?」

「うう、ウォータープルーフでなかったらもっとタイヘンなことになってました……!」

「オーッホッホッホッホ! その程度で済んでよかったですわねぇ!」


 ざわ……ざわ……とクラス中がざわめく。

 コレハによる突然の凶行。当然の反応だろう。だが、女生徒の反応は若干違った。


「……見て、あの方、あんなに勢いよく濡れたのに化粧が崩れてない……!」

「なんてこと、これは買いですわ……!」

「ウォータープルーフ……!」


 そう。これは宣伝。ナイアトホテプ製の化粧品は水にも強い、という宣伝であり、イジメではないのである!


 しかし、化粧に疎い殿方にはそれが通じない!

 故に、男達にはコレハがただヒロインをイジメただけのように見えてしまった、というだけなのだ!

 ああなんという誤解! なんたる不本意! そんなつもりじゃありませんでしたのに!

 これぞヒロインと悪役令嬢が裏で手を組んでいるからこそ可能な冤罪発生ギミック!


「コレハ。そなた……」

「な、なんですの殿下? 私、手が滑っただけですわよ?」

「……もしかして嫉妬してくれたのか?」

「ん!?」


 なぜハークスはほんのり顔を赤らめている!?

 そしてハークスの視線がコレハに突き刺さってくる。批難ではない。慈愛……?


「(あ、いや! ヒロインが濡れてセクシーになっているから照れているに違いないですわ!? 思わず目を背けた先が私でしたのね! このウブ王子! そして、そのセクシーを生み出した私への感謝……ッ! こいつむっつりスケベェ王子ですわ!!)」


 コレハは真実(・・)に気付き心を静めた。

 と、ちらりとヒィロに目くばせする。


「は、ハークス殿下ぁー、オタスケクダサーイ。コレハ様がぁー」

「ああ……おいケンホ、ヒィロにタオルでも貸してやれ」

「お、おう。あー、その、ヒィロ。これ良かったら使ってくれ。守れなくてすまなかった」

「……イエイエ、ドモデス。あー、洗って返しますね」


 と、ケンホからタオルを借りて顔をぽんぽん拭くヒィロ。

 その化粧はやはり崩れず健在であった。


「濡れたところをタオルで拭いても大丈夫……!?」

「……どんな魔法ですの!?」

「逆に普段あれちゃんと落ちてるのってどうなってますの……!?」


 宣伝効果はさらにバッチリだった模様。





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