初めての生徒会
先日、無事食堂でヒロインと攻略対象のお食事イベントが発生した。
当のヒロインに一体どういう会話をしていたのか確認するサマー。
「えっと、生徒会に誘われました」
「! フフフ、やはり。シナリオ通りですわ!」
何か手順を飛ばしているような気もするが、ヒロインが生徒会に所属するのはゲームの通りである。
つまり、物語が順調に進んでいるということ。
「それで、ハークス殿下はお嬢様も生徒会にお誘いするつもりのようでした」
「? それはシナリオ通りではないですわね?」
手順をすっ飛ばさずとも、悪役令嬢が生徒会に所属するのはゲームの通りではない。
これにはコレハは首を傾げた。
「……お嬢様。ですがこれはチャンスでは?」
「チャンス?」
「はい。ゲームとは違うということは、ざまぁの流れにきちんと乗っているからこそであるという証左。なにより、お嬢様が生徒会に所属することで証拠が集めやすくなるかと!」
「おお! 言われてみればその通りですわね!」
サマーの言葉に納得しかないコレハ。
そんなわけで、翌日、ハークスが生徒会に誘った際にコレハは「よろしくってよ、オーッホッホッホッホ!」と元気よく高笑いしつつ了承したのである。
* * *
と、こうして無事「生徒会の集まりがありますのよ」というボッチ回避の言い訳を得たコレハは、同じく生徒会に勧誘されたサマーことヒィロと生徒会室にやってきていた。
更に同じく、今年から所属するハークス殿下も一緒だ。
「……あら? ケンホ様の姿が見えませんわね」
「ああ。あいつは執行部の方に回した」
「適材適所ってことですわね」
どうやらコレハが所属することになった代わりに、ケンホが外されたらしい。
そういうこともあるのか、とコレハは歪みに目をつぶった。
「よくおいでくださいました。私が現生徒会長の、ツヴァン・ダゴンです」
「副会長のクルシュ・ナイアトホテプです。私のことはご存じですね」
そしてコレハが名前を知らない人物が出てきた。
ツヴァン・ダゴン。コゲ茶髪の地味な見た目の男子……攻略対象ではない?
そもそも、ゲームにおいて生徒会長はハークスだった筈だ。
「殿下が入学してきた時点で生徒会長の座を譲ろうと思っていたのですが……」
「いや、選挙もなしに生徒会長の座を奪うような真似はしないぞ?」
「王族にはその権限があるはずでは?」
「権限があっても使うかどうかは別の話だ。そもそも俺も学園生活を楽しみたいのでな、わざわざ大変な生徒会長に1年からなろうなどとは思っておらんよ」
なるほど。ゲームではそこを問答無用に奪い取って生徒会長になっていたのか。
まぁ生徒会長を務めるほどの優秀な人材だ。いないよりいたほうが良いに決まってる。
「あら殿下? 王族であるのに苦労から逃げようと?」
「手厳しいなコレハ。だが俺も学園生活を楽しみにしていたのだ、少しくらい見逃してくれ」
「……ふぅん。仕方ありませんわねぇ」
そう言って、息抜きと称してヒロインといちゃつくつもりなのだろう。と、コレハは内心ほくそ笑んだ。ざまぁの証拠はすぐに集まりそうだ。ああそうだ、記録用の魔道具をたっぷり用意しなければ! 入学前に用意しておいた分では足りないかもしれない!
「王族の方に指示を出す、というのも中々心労が貯まるところですが」
「はっはっは、そこは慣れてくれとしか言いようがないな。こちらはこちらで、下の立場というものを経験させてもらういい機会だと思っている。遠慮しないでくれていい」
やれやれ、と生徒会長は肩をすくめた。
「では早速三人には庶務の仕事をしてもらってもいいですか? いやぁ、色々と書類が多くてですねぇ。3人とも相当優秀だと聞いてるし、期待していますよ」
「ええ、構いませんわ。これでも事務は得意でしてよ?」
コレハは率先して書類を受け取る。
さっそく仕事ができるトコを見せつけてマウントを取っていくのだ。
「(そして無能を見せつけられて嫉妬した殿下が、ストレス発散と称してヒロインに手を出す……この流れ! 勝ち確ですわ! っと、どれどれ?)」
コレハは、パラパラと受け取った書類の内容を確認した。




