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ヒロインは有能ですわ!



「サマーです。しかしそれは世を忍ぶ仮の名前。真の名はヒィロ・イン。皆さんは是非ヒィロと呼んでください……!」

「……え、えっと。サマー……さん?」

「すみません言えない事情があるんです……ヒィロ・インでお願いします……」

「あ、はい……」


 羞恥で顔を赤くしつつ、サマーはそんな頭の痛い自己紹介をすることになった。

 愛しのお嬢様の為だとやりきってみせたサマーは流石である。


 そんな羞恥で頬を染めた顔を見て、恋に落ちた男子生徒が大量発生してしまったのだが……流石ヒロインの面目躍如? とコレハは頷いた。



「うう、やってやりました……! お嬢様、褒めてください……!」

「こらヒロイン。教室でじゃれ付かないでくださる? 私、あなたと何の関係もないテイでしてよ?」

「ぐ、そうでしたぁ……帰ったら、その」

「ええ。帰ったら反省会ね」


 ヒソヒソと話していたので会話は周りに良く聞こえなかったものの、その傍目から見ればこれは涙目のヒロインとしたり顔の悪役令嬢。

 恐らく後々、『悪役令嬢コレハがそう言えとイジメていた』ということになるだろう。今回の件についてはぶっちゃけ事実なので、断罪されたときに否定できそうにない……。


「(流石に同意があったということにしといたほうが良いですわね)……ま、後で褒めてあげますわ」

「!! お嬢様……しゅき……!」


 これでよし。と、コレハ達の学園生活は幕を開けた。



  * * *



 そしてお昼。コレハはサマーとは別行動をとり、一人で食堂までやってきた。

 半分セルフサービスで、トレーをもって列に並ぶシステムの食堂だ。食費は学費に含まれており、ここで払う必要がない。

 前世もちであるコレハにとって慣れ親しんだシステムである。

 のんびりと順番を待ち、気になっていた日替わり定食(コロッケ定食)を受け取り空いてる席を探して歩いていく。


「……って、普通にぼっち飯ですわね私!?」


 しまった。すっかり忘れていたが、学園では『友達』という非売品のシステムがあり、それを使わなければ学園生活が寂しいことになってしまうのだ。

 ゲームのコレハですら『取り巻き』が居た設定だったというのに!!


 これはよろしくない。

 というか、社交についても王子との交流以外、さっぱりやっていなかった……!


「くっ……どうしたものかしら。いえ、ここはゲーム知識に頼る時……!!」


 ゲームでの『取り巻き』はリアルでもお友達になれる筈。と、その姿を思い出そうとするも、さっぱり全く該当する記憶が出てこなかった。

 何故。どうして。焦りを隠せないコレハだが、あることに気付く。



 ――そもそも取り巻きの3Dデータ発注するくらいなら、悪役令嬢がワンオペなわけありませんわ!?



 そう。『かお☆みて』の悪役令嬢はコレハ一人なのだ。王子以外の婚約対象、ケンホやクルシュの婚約者など1ピクセルもでてきやしない。

 取り巻きはあくまで設定。もしくは……それはもしや、コレハの脳内にしか居なかった架空の存在だった……?


「(……いえ。そもそも王子の婚約者が一人で学園にくるわけありませんし、サマーのようなメイドとかが居た設定だったんでしょう。そして、それが取り巻きだった。真相はきっとこうですわ!)」


 つまり取り巻き枠をヒロインにしてしまったので、コレハと一緒にご飯を食べてくれるお友達が居なくなってしまった、ということである……!

 なんという不覚! なんという落とし穴!

 コレハはぐっと歯を食いしばった。



「おや、コレハじゃないか。どうした、一人なのか?」

「む?」


 呼ばれた方を向くと、そこにはハークスが居た。

 なかなかいい場所にある4人席を陣取っており、しかもケンホと、クルシュも座っていた。

 ハークスですら友達がいるのに、自分ときたら……! とコレハは少し悔しくなった。


「あら殿下。ええ、と。その」

「ふふっ。さては俺と一緒に食べたいのだな? いいぞ。ほら、俺の隣に座るがいい」


 そう言って長椅子の真ん中付近に座っていたハークスは奥へと詰める。


「ちょ、まてよハークス。コレハ嬢の返事をちゃんと聞けって。コレハ嬢はきっと他で誘われてるよな? な?」

「あらごきげんようケンホ様。言い方は少しだけ成長しましたわね。でももう少し表情を取り繕えるようになるといいですわよ? 心の内がバレバレで、そんなんじゃ剣の駆け引きも読まれ放題ですわ」

「ぐぅ……!!」


 挨拶に心理的ダメージを乗せるコレハ。他で誘われてないのにそういう言い方をしてきたケンホが悪い。

 尚、コレハ的にはホイホイ悔しがってくれるケンホの事は嫌いではないのだ。オモチャとしては。


「コレハ嬢。お久しぶりです」

「クルシュ様もご機嫌よう。クルシュ様は一つ上の学年でしたわね。本日は入学式の手伝いに?」

「ええ。御明察の通りです」


 ケンホとは違いソツのないもう一人の攻略対象、クルシュ。ナイアトホテプ侯爵家に養子になっていないので、コレハにとって分家筋、ただの従兄妹のクルシュだ。



 と、ここでふと思い出す。

 この3人とご飯を食べるのも、ヒロインのイベントにあったはず、と。

 見れば、視界の隅にヒロインことサマーが食堂に居るのが見えた。一人ではなく連れが2人も居る状態で。3人でトレーに食事をもって、なにやら楽しそうに話しながら座る席を探しているようだ。


「(溶け込むの早くない!? 主人はボッチなのに!)」


 と、ここでサマーと目が合うコレハ。

 ……クイッと顎を動かす。来い、の合図だ。対するサマーはコクリと頷き、連れの二人に一言言って離れこちらに向かい始める。



「……コレハ、座らないのか? ああ、先約があるならそちらを優先して構わないぞ。お互い学園での人脈作りも大事だしな」

「あー、えっと、そうですわね……あ、私用事を思い出したのであちらで食べてますわ! 光栄ですが、どなたか別の方を誘ってあげてくださいまし!」


 と言ってコレハはすぐ近くの空いている席に座った。

 その直後、ハークス達の前に通りかかるサマー。


「……おや、そなたは今朝の。どうだ、俺達と一緒に食べるか」

「え゛っ、あ、はい……お席、失礼します」

「ああまて。クルシュ、俺の隣に来い。ヒィロだったな、そちらに座れ」


 席順を調整しサマーを対角に座らせるハークス。


「(……よし! さすがヒロイン、するっと攻略対象にお呼ばれしましたわね!)」


 計画通りである。それを見届けて、コレハは一人素早くコロッケ定食を食べ、一足先に食堂を去った。

 用事があるのでと言った以上、その場に残って聞き耳を立てるわけにはいかなかったからだ。


 まぁ、後ほどサマーから直接話を聞けば十分だろう。




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