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人の不幸は蜜の味とは言うけれど、自分の破滅は毒の味ですわ!


 悪役令嬢、コレハ・ナイアトホテプ。『かお☆みて』(ゲーム)における顛末を簡単に言えば、どのルートでも婚約破棄&追放されることになる。

 なんと、悪役令嬢コレハは全てのルートで悪役令嬢をしていたのだ。よほど元平民の男爵令嬢ヒロインが気に食わなかったと見える……恐らくVR用モデルの予算の都合だったのだろうけど。


 追放先については「修道院」「魔の森」「監獄」「外国へ人質」と様々だった。……流石に「魔の森」に追放されたら死ぬんじゃないかとは思う。しかも確か側仕えのメイドに毒を盛られて前後不覚になった状態、とかいう念の入った追放だったし。


「毒魔法使いの悪役令嬢なのに、毒を盛られて動けなくなるなんて滑稽でしたわねぇ」


 そう呟いて、そういえばその悪役令嬢が自分であるとコレハは思い出して頭を掻いた。



 改めて姿見で自分の姿を確認する。

 まだまだ幼いコレハちゃん5歳。ゲームで見た悪役令嬢と同じ紫の髪と眼。将来は縦ロールになるであろう可愛らしいもみあげ。強気な目つき。乙女ゲームの舞台となる学園への入学は15歳からという事を考えれば間違いなくコレハは悪役令嬢になるのだろう。


「しかし、細かいところが思い出せませんわね……まぁ、自分の名前も覚えていないのだからそういうところもありますか……逆に、名前を忘れておいて『かお☆みて』を覚えているのは不思議ですが」


 まぁ神様がうっかり記憶を消し忘れたパターンなのだろう。Web小説で見た。と、コレハは深く考えるのをやめた。



 と、ここでふと気になった。


「……あら? ところで私、ナイアトホテプ侯爵家の一人娘(・・・)なのに、何故ゲームでは攻略対象の()だったのかしら……?」


 クルシュという名前で思い当たる記憶を探すと、従兄妹にその名前を持つ男がいた。

 どうやら現状彼はまだ兄ではないが、兄になるのだろうか。


「……よくある展開だと、宰相の座と侯爵家を継がせるために、一族の中から優秀なクルシュ様を養子にする、とかでしょうか。間違いありませんわ! 私、詳しいんですのよ!」


 予習済みですわ! と満足げに頷くコレハ。

 実際、第一王子の婚約者ともなれば家を出て将来は王妃になるのが普通だ。そうなれば実家を継ぐために親族から優秀な者を養子として引き取るのも当然といえる。


 疑問解消ですわね! とコレハが満足していると、突然バターン! と部屋の扉が開いた。


「お嬢様、先程の悲鳴は何事ですか!?」


 扉を開けて入ってきたのは若いメイド。

 勢いよく入ってきたメイドに向かって、コレハはにっこりと笑う。


「何でもないですわ。それよりも主人の部屋にそのように乱暴に入ってくるだなんて……もし私が扉の前にいたら、大ケガしていたかもしれませんわねぇ?」

「……ッ、も、申し訳ありません。緊急事態かと思いまして!」

「気を付けてくださいまし。まぁ、今は気分がいいので特別に許してあげますわ!」

「はっ、はい! 申し訳ありませんでしたお嬢様」


 深々と頭を下げるメイドに、ふい、とそっぽを向くコレハ。

 ……

 自然と言葉が出たが、はて。メイドの名前がわからない。


「(どうやら、私は幼い頃から使用人の名前を覚えず、わがまま放題だったタイプの悪役令嬢だったみたいですわね……? あるある)」


 平民は駒。いちいち名前を覚える必要はなく、調教して使い物になればそれでよし、ならないのであれば換えれば良い。そんな考えが頭に浮かぶ。

 今までの自分基準では「素直」だと思っていたのだが、前世の記憶に当てはめればこれは順調に悪役令嬢への道を歩んでいるとしか言えない育ち方だ。


 それに、困ったことにメイドが頭を下げているのをみると気分が良い。転生前からそういう性格だったとは思いたくないので、これはコレハとしての気質だろうか。



 しかし、現状まだ5歳。本格的に悪役令嬢になるゲーム開始まではあと10年あり、まだどうにでもできる年齢である。



「(さて。ここから自分がとるべき行動は……)」


 今後の方針として、考えられるのは大きく分けて3パターン。


 1つは、婚約を回避し、悪役令嬢の立ち位置にならないパターン。

 1つは、いずれ起きる破滅に対し全力で準備するパターン。

 そして、すべてを捨てて逃げるパターン。


 ……他にも、悪役令嬢を満喫して破滅を受け入れたり、悪の道を突き抜けて破滅を飛び越えるパターンもないわけではないが……そのどちらに対しても『見てる分には面白そうですが、頭おかしいんじゃありませんの?』と思ってしまうコレハにはできないだろう。


 となれば、方針は先の3パターンに絞られる。


「(いずれにせよ、使用人を味方につけておいて悪いことはないですわね)」


 コレハはそう考えて、未だ頭を下げたままのメイドに声をかける。


「あなた、名前は?」

「!? え、ええと、も、申し訳ありません……」


 あ、これ名前を覚えてもらいたくないんだな、とコレハは正確に理解した。

 だって、名前を覚えられたら個人を特定されて「パパぁ、○○ってメイドをクビにしてほしいのですわー」とか言われるかもしれないから。


「(ま、まずいですわ! これでは将来的に、メイドに毒を盛られて『魔の森』追放ルートになってしまいますわ!)」


 コレハは慌てて行動を開始した。流石に毒を盛られるのは勘弁だったのである。


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