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明日のざまぁを目指すのですわ!



 ナイアトホテプのお屋敷にハークスが遊びに来た。

 ゲームでは幼少時の話はあまりなかったのだが、婚約者だし、おそらくそういう事もあったのだろう。


「おーいコレハ、遊びに来たぞ!」

「なんですのハークス殿下? ちゃんと事前に連絡も入れてるし、応接室で大人しく待ってるし、手土産に王都の美味しい焼き菓子まで! まるで真っ当な王子のようですわよ!?」

「俺は真っ当な王子なんだが!?」


 そんなはずはない。だって彼は将来、婚約者であるコレハがいるにもかかわらずヒロインに浮気して婚約破棄を告げる男なのだから。

 コレハは何も言わず、ニッコリと微笑んだ。


「……まったく、以前の俺が酷かったのは確かとはいえ、いい加減見直してくれてもいいと思うんだが? って、俺から言う事じゃないのは分かっているんだが」

「私としてはこのままの王子でいてほしくもありますわ」

「ん、そうか? コレハがそう言うなら――」

「おバカな方が扱いやすいですし」

「――うん、改善していこう」


 あら? と首をかしげるコレハ。でもまぁいいかと流しておく。


「なぁコレハ。俺はお前の事、好きだぞ」

「カブトムシと私、どちらがお好み? あるいはチーズケーキ?」

「そういう好きではなくて、ちゃんと婚約者としてだな?」

「あらあら。子供の癖に生意気な。ま、将来それがどうなるかは――フフ、見ものですわねぇ」

「お前も子供だが??」


 ゲームの開始を思い、コレハはニヤリと笑った。ヒロインを前にしたらこの王子は今言った言葉も忘れて頭のお花畑を駆け回るに違いない。コレハはそう信じている。

 その半分邪悪な笑みに、ハークスは「はぁー」とため息をついた。


「なぁメイド。コレハにはどういったら伝わると思う?」

「実際、将来の行動で示せば良いのでは? 今問われているのは未来の殿下は心変わりするだろう、という話ですし」

「……今何と言おうと、それが心変わりしないとは言い切れない、ってことか。やはり一度崩壊した信頼を得るのは容易ではないな」

「あら。私、殿下を信頼したことございましたっけ?」

「……初対面の時は本当に俺がバカだったと認めるから。なんなら書面にしたためておくか? ああ、契約書とかでもいいぞ。そういうの得意だろうお前は」


 契約書。そう聞いて、コレハは使えると思った。


 将来、卒業パーティーで婚約破棄を告げられる時に。その契約書を持ち出して言うのだ。「あーら! 殿下ったらこの契約書のことをすっかりお忘れで! 私は悪くありませんのよ、オーッホッホッホッホ!!」と。


 そのために使える内容をまとめた契約書を、今のうちに作ってしまう――アリだ!

 やれやれ良い心がけじゃないか。ざまぁの種を自ら差し出そうというのだから!


「……コレハもそれで良いようだな」

「ええ、それで構いませんわハークス様」

「ところで、俺の呼び名が殿下とか王子とか名前でコロコロ変わるのは、何か意味があるのか?」

「気分です。深い意味はありませんわよ? その時その時で呼びやすい感じでやってますのよ婚約者様」

「新しいのが増えたな。まぁコレハなら別に好きに呼んでくれて構わないがな……ああ、変な呼び方でなければ、だ」


 ちっ。「鼻詰まりフンフン男」とか呼ぶのはダメと釘を刺されたか。


「では契約書を書こうか」

「ええ殿下」


 そうだ。どうせ忘れるのだし、面白可笑しい内容がいい。その方が無様感が出る。


「ええ、まず殿下が婚約破棄を告げたら頭丸刈りとかどうです?」

「まず婚約破棄とか普通しないだろ……まぁいい。丸刈りは正直嫌だが、嫌だからこその罰則だ。それで良い」

「あら、よろしいの? ではその時は私がバリカンで刈ってあげますわ!」

「それも含めておくか。こんな感じでどうだ?」


 と、草案のメモを自らとっていくハークス。

 『ハークスより婚約関係を解消する事案があれば、コレハはハークスの頭髪を刈る権利を有すものとする』……ふむ、お堅い文章を書けるじゃないかと。関心するコレハ。


「良いですわね。では、浮気についても書いておきましょう」

「浮気か、確かに心変わりの最たるものだ。しっかり書いておくべきだな」

「女に触ったら1回につき罰金1銅貨で」

「まてまてまて! さすがに接触は違うだろ。女性と仕事することもあるし、そういう接触は避けられぬ! 母上とも触れ合えないということになる。コレハ、お前で言うならヤルコット殿に抱っこしてもらえないという事だぞ!」

「む。確かに。罰則は銅貨1枚とはいえ判定が厳しすぎましたわね。事故や業務上仕方ない時や肉親は除きましょう」

「あと婚約者もな。この場合はお互いだから相殺になるが……あ。救命のため等の止むを得ない場合も除くか?」

「うーん、そこは銅貨1枚程度だし払いましょう。むしろ話を聞きたいですわ」

「ふむ、そうだな。その後の弁明は聞いてくれよ?……しかしなぜ銅貨1枚なんだ?」

「わざわざ銅貨1枚を払って弁明するのって、バカっぽいでしょう?」

「なるほど。お前好みだ」


 メモに『浮気防止の観点より、異性に接触したら罰金1銅貨とする。ただし不意の軽い接触・舞踏会のダンス・業務上の事・肉親・婚約者を除く。その他止むを得ない理由があった場合は罰金を支払い、情報共有を行う』が追加された。


「あら殿下? この不意の軽い接触というのは?」

「通りすがりに掠るとかそういう程度だな。学園では狭い廊下などもあるのだそうだ。そういうのは一々数えるのも面倒だろう?」

「確かに面倒ですわ。認めましょう。うーん、3秒以内ならセーフということで」

「3秒か。まぁその程度だな」


 『※不意の軽い接触とは連続3秒以内であるものとする』の補足が追加された。

 ここにコレハはあえて抜け道を残した。3秒以内なら触れる程度のキスは行けるだろう。そういう余地だ。


「……何か考えている顔だな?」

「む、顔に出ておりましたか?」

「それはもう。何か企んでいる時、お前は楽しそうに笑うのだ。孤児院の時もそうだった」

「淑女教育頑張らないとですわね。面の皮を厚くしませんと」

「……俺は柔らかい頬の方が好みだぞ」

「殿下? 淑女教育に殿下の好みは関係ないですわよ? 将来王妃になったものが表情垂れ流しは不味いでしょう? そういうことですわ」

「そういうことなら仕方ないが……俺の前では笑っていいからな?」

「あ、じゃあそれも書いておきましょう。表情を不問とするって感じで」

「……お、おう?」


 『ハークスの前でコレハがいかなる表情を顔に出しても、それを咎めない』が追加された。これでざまぁ高笑いしても不敬罪になることは無い。

 深まる笑みを見て、ハークスはやれやれと呆れ、つられて笑った。


「こんなところですわね」

「む、こんなものでいいのか? もっといろいろあると思うが」

「こんなもの、が、いいのですわ。ハークス様」


 あとはこれをヤルコット侯爵に清書してもらうことになった。

 仕事の邪魔をするようでハークスは気が引けていたが「コレハのお願いならやぶさかじゃないよ」と快く引き受けてくれ、この契約書は王家ともしっかり共有された。



 なんとも子供らしい、可愛い話だ。と、ほっこりした両親たち。

 その陰で、コレハは正式な契約書の写しを手に高笑いしていた。


「オーッホッホッホ! ハークス殿下ぁ、いずれこの契約書が火を噴きますわー!」

「え、その契約書って火魔法のスクロールにもなるんですか?」

「比喩ですわよ比喩! でも社会的地位の炎上のための火種になるのですわ!」


 コレハはルンルンとスキップしながら、化粧台の鍵のかかる引き出しに契約書を仕舞いこんだ。

 いずれこれを使うことになればきっと楽しい。特に丸刈り。


「サマー、バリカン買っといてもらえるかしら? 契約書と一緒に入れておきますわ」

「かしこまりました! 魔道じゃなくて手動のやつですね!」

「ええ!」


 分かってるじゃないの。と順調に育っているメイドに満足して頷く。

 この手で、ジョキンジョキンと、公衆の面前で丸刈りにしてやるのだ! その時の手ごたえもしっかり感じたい。なので手動だ。

 乙女ゲームの攻略対象者のイケメンだろうが、その髪の毛を丸刈りにしてしまえば魅力は半減。いや、75%オフに違いない!



「未来が、ざまぁが楽しみですわぁーーー!!」


 コレハの高笑いが、部屋を突き抜けて屋敷に響く。

 今日もお嬢様が幸せそうで何よりである。






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