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毒魔法と香辛料


 サマーは現状専属メイドとして働いているので、コレハの芋……もとい毒属性について知っている。

 そんなサマーから、質問があった。


「そういえばお嬢様。辛いのって毒ですよね?」

「あら。そうなのかしら?」

「そうですよ。だって辛いんですよ? 身体が受け付けないって証拠です! つまり毒なんですよ! 口の中痛くなるし!」

「……確かに、言われてみればそうかもしれませんわね」


 トウガラシとか、目に入るとすごく痛い。

 これは間違いなく身体に悪影響、つまりは毒である!


「というわけで、この香辛料をお嬢様の魔法で増やせたりしませんか?」

「……香辛料! フフフ、サマー、あなたは柔軟な発想ができるわねぇ?」


 ニヤリと笑って、コレハはコショウの粒を受け取った。

 そして出した。コショウの粉末を! 出せた。普通に出せてしまった!

 魔力を消費して少し疲れたが、まだまだたっぷり出せそうな感じだ。


「(毒魔法ってやっぱチートではないかしら……?)」


 今更ながら、己の才能――毒魔法の緩さが恐ろしくなるコレハ。


 よく考えたら酸素とか二酸化炭素も濃度によっては『毒』である。そのことをコレハは知っている。そして地上のどこにでもあり、触媒に困ることもない。

 コショウもそうだが、塩だって創造(つく)れるだろう。Na(ナトリウム)Cl(塩素)、どちらも単体では毒であるが故に。また、塩分の取りすぎが身体に毒だとも知っているが故に。


 というわけで塩を持ってこさせて、こちらも出してみた。出た。


「うわっ、塩も出せるんですか!?」

「むしろコショウの方が難しいわ。……合わせて塩コショウね。お肉につけて食べたら美味しいわよきっと」

「お嬢様の魔法しゅごい……! 食卓の魔法使い……!」

「……ふふっ」


 コレは使える、とコレハはニヤリと笑う。

 その脳内には、恐ろしい計画が立てられていた。


 香辛料を安く売りさばく

  ↓

 既存の業者に大打撃。お店潰れる

  ↓

 塩コショウの供給を突然停止する

  ↓

 市井から塩コショウが消え、味気のない食事が広まる

  ↓

 それを見ながら香辛料の効いた美味しいご飯を食べる――


 ――うん、間違いなく美味しい!! 二重の意味で!!


 そして香辛料とは嗜好品に近い。なくても死に直結はしない。まぁ塩についてはその限りでないので、程々に流通させてもいい。

 むしろ『今は体調不良で塩をこれだけしか出せないの』とかで誤魔化すのに使えるか。……完璧な計画だ。


 フフフ……クスクスクス……オーッホッホッホッホ!! と、心の中のコレハが悪役令嬢式三弾高笑いをキメた。


「ねぇサマー。これ、売れると思う?」

「はい! 間違いなく売れますよお嬢様!」

「ええ、ですわよね! 香辛料といえば軽くて高く売れる商材ですものねぇ! サマー、アナタに命じます。この塩とコショウを売ってきなさい! 一割はお前の取り分よ!」

「アイアイサー! 現金があれば何でもできる! いち、にー、さん、お嬢様ー!」


 へんちくりんな掛け声に目を細めつつ、コレハはサマーに塩とコショウを預けた。『売ってきなさいと私が許可した』というコレハの一筆をしたためた雑な許可証も携えて。

 こうして、コレハの二重メシウマ計画が始動した。



  * * *


「サマー? 確かに私、売ってきなさいとは言いましたが、これは?」

「はい! 相場の5倍で売ってきました!! どうぞ!!」


 サマーはパンパンに膨らんだ財布袋を持ち帰ってきた。

 それは明らかに大儲けである。


「まぁまぁ。てっきり私は相場より安く売って荒稼ぎ、と思ってたのですけど……一体どのようにして売ったら相場の5倍で売れるのかしら?」

「出処を聞かれて、でも毒魔法の事は秘密なので、ただ『お嬢様の手作り塩コショウ』って言ったら……その場で競りが始まり、なんやかんや5倍の値段で売れました」


 これにはコレハも目を見開いて驚いた。


「なんでそんな価格に!?」

「お嬢様、薬草を広めた関係で市井で大人気ですからねぇ」


 つまりお嬢様、コレハとしてのプレミアが現物に上乗せされたということだった。

 尚、サマーはコレハ付きのメイドであると知られているため信用された様子。あの雑な許可証も無駄に効果を発揮したとか。


「……これでは市場価格に打撃を与えられませんわ!」

「え、お嬢様。塩コショウの市場価格を変えるほどの量を出すんですか? さすがにトン単位は私だけじゃ売るのは大変ですよ?」

「……」


 塩コショウを出してもあまり疲れなかったとはいえ、それは袋に収まる量の話。

 そもそも香辛料をまとめて買ってくれるのは既存の香辛料を取り扱っている商人達であり、そこに安く売ったところで対して影響はでない。となれば、生産元になり替われるほどに出さねばならないのである。


 あと、乙女ゲームのデートで出る食事がマズイわけもなく、塩コショウ含め香辛料は結構流通があるのである。これに打撃を与えるには、キログラム単位では圧倒的に足りない。


 つまり、トン単位での生産が必須。しかも定期的に。

 流石に無理! 魔力枯渇で死ねる……!



 ここにコレハの二重メシウマ計画は頓挫し、食卓の平和は守られた。



「チッ、仕方ありませんわ。今回はこのくらいにしておいてあげましょう……ですがサマーへの報酬は、塩コショウの現物支給ですわ!」

「むしろ現物支給でお願いします、家宝にするので!」


 イヤガラセのつもりが喜ばれてしまった。


「家宝って、あなた孤児じゃないの。将来結婚するまで塩コショウを取っておくつもりなの?」

「無論ですが? だってお嬢様の塩コショウですよ!? 末代までの家宝にします! 子供にも守護らせるしかありません! 成人のお祝いに1ツマミずつ食べることを許可しましょう!」

「お、おう」


 すこしタジタジになりつつも、コレハはサマーに塩コショウを出して与えた。

 そこそこの大きさで1袋分あるので、1世代に1ツマミずつなら多分末代までもつだろう。


「あ、半分は私の棺桶に入れてもらいましょう! 子供が出来なかったら私が末代だから独り占めですねぇ!」

「死体が美味しく仕上がりそうね」

「お嬢様の塩コショウで死後が美味しいとか最高ですね!」

「サマー、あなた頭大丈夫? 勉強で疲れてるんじゃない? 私の手足なんだから万全にしてもらわないと困りますわよ、私が」

「ああああああ! ご心配ありがとうございます! 今完全に疲れが吹っ飛びましたァア!!」


 本気でメイドを心配するコレハ。


 尚、この時売却した塩コショウは塩の純度が異様に高く、なんやかんやで『聖なる塩コショウ』として後々祀られたりすることになるのだが……それはまた別の話。



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