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【完結】人の不幸が大好きな悪役令嬢、ざまぁのために頑張っていたら普通に溺愛されてますわ?  作者: 鬼影スパナ
幼少期編 ~私、詳しいんですのよ!~

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疫病イベントが発生しません

(2025/10/10 落丁してましたわー! すみませんでした!)




 誘拐事件は犯人と共に無かったことになった。

 なにせ王族の婚約者のスキャンダル。バレたらバレたで囮捜査であると言えるのだが、バレなければそっちの方が都合が良いのである。


「サマー、あなた口封じに消されなくて良かったですわね」

「えっ!? 急に何の話ですか!?」

「なんでもなくってよ」


 しかしイベントについて、すっかり意識から消えていた。

 前世の記憶が生えてきてからもうだいぶ経つ。ここらで一度記憶を整理しておくべきだろう。


 ゲームではヒロイン視点だったのでよく分からないところも多いが、それでも悪役令嬢周りの話はあったのだ。なにせ、攻略対象(ハークス)の婚約者だし、攻略対象者(クルシュ)の妹だし(今は兄妹ではなくただの親戚だが)。


「クルシュあたりの話を重点的に思い出してみるとしましょうか」


 なにせ家族だし、コレハに関わる情報も多いだろう。

 確か、父親のヤルコットが『氷の侯爵』と呼ばれており、クルシュは非常に厳しく育てられていたはずだ。その一方で溺愛され我儘に育つコレハ。温度差が酷い。


 そのくせ、最後にはコレハを追放するのだが。



 と、ここでふとコレハは、すっかり気安くなったメイドのエマとサマーに質問する。


「エマとサマーはもし私が家を追い出されたらついてきてくれたりするかしら?」

「え? 追い出される予定があるのですか?」

「私は何があってもついていきますよ!」

「もしもよ、もしも」

「だとしても、旦那様がお嬢様を追い出すという状況が想像できませんね」


 確かにあの(コレハ)大好きなお父様がコレハを追放とかするとは思えなかった。


「……確かに。となると、家族ざまぁモノではないのかしら」

「家族ざまぁ?」

「ううん、なんでもない。こちらの話よ」


 そもそも家族に酷使・搾取されているケースでこそ「私が居なかったらこの事業は維持できない」という設定がが生きてくるのである。悪役令嬢に依存しているにもかかわらず、無能な家族は悪役令嬢を追放してざまぁ展開になる。それが家族ざまぁだ。


 現状はそれに当てはまりそうで当てはまらない。

 まず侯爵、お父様は普通に有能で、個人口座も用意してもらえていて、正当な報酬(完全に自由に使える金)が自動で振り込まれている。今の状況は確実に「家族もざまぁされる話」には繋がらないだろう。


「(むしろ婚約破棄された時には『何! あのバカ王子、ウチの可愛い娘によくも! こんな国に居られるか!』と家ごと他国へ出奔してくれる系家族に違いないですわね!)」


 知ってるぞ、私は詳しいんだ。と、コレハは一人で頷き、いずれ来る『国ごとざまぁ』の展開を想像してほくそ笑んだ。



 そして、ひとつ大きな違和感を覚えた。


「(……って、氷の侯爵? あの人当たりの良いお父様が?)」


 首をかしげざるを得ない。

 コレハの記憶にあるお父様はお母様とラブラブで、むしろ跡継ぎは弟が生まれるんじゃないか、とある。ゲームとは大きく異なる点であり、お母様が居る限り、お父様が氷になるとは思えない。

 それが家族にだけ見せる顔で、仕事では氷なのだと言われてしまえばそうなのかもしれないが……


「(……いや、普通にロボ爺とも和気あいあいでしたわね)」


 外部の人間、ロボロフスキーとの接し方を考えてみてもやっぱり氷とは思えない。

 となれば、切っ掛けがあるはずだ。それこそ親戚(クルシュ)を跡取りとして引き取る程の。

 そう、つまり――


 ――お母様が、死んだ?



 侯爵夫人が死に、跡取りを産むことができなかった。

 だから親戚から優秀な者を引き取った。


 筋が通る話だ。


 侯爵夫人が死んだから、忘れ形見のコレハはどんな我儘も許された。


 あり得る話だ。



「……お母様が、死ぬ……!?」


 そう思うや否や、前世の記憶や情報とは関係なく、コレハの中にある母親の記憶が溢れてきた。愛しい家族の、優しいお母様の、本物の記憶だ。


 寝る時に頭を撫でてくれた、優しい手。

 本を読み聞かせてくれた、優しい声。

 一緒に寝てくれた温かさ。


 しかし前世の記憶を思い出してから、母親とは一度も会っていなかった。

 前世の記憶を思い出すことがなければ、コレハは一人寂しく拗ねていただろう。

 その理由は……病気の療養。


「ま、まさか、お母様が病気で……? ぐっ!」


 ズキン、と頭に痛みが走る。

 新たな情報を思い出した。それは、疫病。


 最初は風邪かと思われたそれはナイアトホテプ領で流行し、猛威を振るった。

 領民の5割が死に、その中には病気の療養で一時的に別居していた侯爵夫人も含まれていたのだ。


「……っ、領民はともかく、お母様が死ぬのはダメですわ!!」


 人の不幸は大好物であるが、家族の死亡は自分の不幸。

 たまらずコレハは母親を救うべく、ヤルコットお父様の執務室へ走った。




「え? 疫病? 最初は風邪みたいな症状の……」

「ええ、そうですわ! 早急に対策しないと!……今はまだ起きていませんが、それが流行して大変なことになる夢を見たのです!!」

「夢で? ははは、大丈夫だよ。コレハは心配性だね」


 コレハが必死であるのに、ヤルコット侯爵はのほほんとそう言った。

 このままでは良くない事が現実に起きてしまう、と思ったコレハは、なぜか丁度そこに居たロボロフスキーに叫ぶように尋ねる。


「ロボロフスキー先生! そういう病気に心当たりはありませんの!?」

「ふむ。最初は風邪、そこから流行るとなると……イルンザじゃろうな。対策はある」


 落ち着いた様子で答えるロボロフスキー。さすが王家関係の医者だ。

 コレハは一瞬。一瞬だけ考えた。今までの良い子の皮を剥ぎ取り、それでも母親を救う方向に覚悟を決める。


「その対策を教えてくださいましロボロフスキー先生!」

「うむ。早いうちに薬草を飲めばすぐ治る病じゃよ」

「薬草が必要なのですわね!? ではどんな手段をもってしてでも、今すぐ薬草の確保を!!」


 他の領地や領民なんてどうでもいい。とにかく、自分たちが、お母様が助かる分だけでも確保する。その覚悟でコレハは机を叩き大人たちを急かす。

 だが、大人二人は朗らかに笑う。笑っている。これっぽっちも真剣さが伝わっていない――


「ほっほっほ、コレハ嬢は本当に心優しいですなぁ」

「だねぇ」

「何を悠長なことを! 我が家の一大事ですのよ!? ウチの倉庫を薬草で満たす程かき集めるのですわ!!」


 そう言ったコレハに、ヤルコットはのんびりと答える。


「そうだね。コレハの作った薬草がもう倉庫にたっぷりあるから、領民全員がいっぺんにイルンザになったとしても余裕だよ」

「……あら?」


 ――コレハは思い出した。


「(そういや私、薬草長者でしたわ!!)」


 そう。確保も何も売る程持ってるし、既に領内に薬草が行き渡っているのである。

 ひどく苦い、薬草キヤスが。


「というか、丁度ロボロフスキー先生はそのことで来ててね。イルンザ流行の(きざ)しがあったから、領民に風邪だと思ったらすぐ薬草を飲むように告知してほしい、と。今、了承したところだ」

「そ、そうなのですか?」

「ああ。だからその夢が現実になる心配はないよ」


 それを聞いて、コレハはへなへなと座り込んだ。

 それはつまり、お母様も無事だという事。


「よ、よかったですわぁーーー!!」

「ほっほっほ、コレハ嬢はまさに聖女じゃよな」

「だろう? 我が家の天使だよ」


 おや? と首をかしげるコレハ。先ほどの発言は自己中心で聖女とか天使とかとかけ離れていたと自分では認識している。領民なんてどうでもいいから自分たちの分だけでも確保を、と言いたかったのだ。


 しかし何分コレハは薬草長者。そのコレハが薬草を確保してと言うとなれば、領民以上の規模の為に増産しろという意味に他ならない。

 大人たちは当然そう受け取っていた。


 間違いない、天使だと。領民も心配していたんだなぁと。


 ……コレハはそうだったことにした!


「うんうん、皆が助かりそうで何よりですわ……!」


 一度捨てた評判が誰にも拾われずそのまま落ちていたので拾っただけ! 何の問題もないのである!


「それもコレハのおかげだね。ああ、そういえばロボロフスキー先生。妻の様子はどうだった?」

「うむ。そろそろ完治じゃな」

「え、お母様も治りますの!? ていうかロボロフスキー先生、お母様診てましたの!?」

「うむ。ついでにのう。……儂、これでも結構な腕前の医者なんじゃよ?」

「ありがとうございますわ、ロボロフスキー先生!」


 ついでに、コレハが毒魔法を習得することが早まってロボロフスキーを先生にしたのも、母親の治療に一役買っていた。

 この調子であればクルシュが兄になることは無いかもしれない。



 こうして、ストーリーは原作から大きく変わっていくのを体感したコレハ。

 これは順調に悪役令嬢がざまぁする側になっていってますわ! と、コレハは信じている。




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