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(閑話)王都の孤児院長



 孤児院とは、孤児を集めて金を得る場所である――と、孤児院長コワルトは認識している。


 たまに視察に来る偉そうなお貴族様にガキ共を見せて「どうかお恵みを」などと言えばそれなりの寄付金が集まる。

 また、育ったら育ったで「好きにしていい人間」を欲しがる連中はいくらでもおり、そちらに流せば金になる。女はもちろん、男も。


 所詮は孤児だ。心配する者など誰もいやしないのだから。



 そんな折に、またお貴族様の訪問があった。

 それもただの貴族ではない、王族だ。王子とその婚約者――ガキがガキを見に来るということだった。


 王族は何もしなくても定期的にまとまった金をくれるお得意様でもある。

 いつも通りガキ共に相手をさせて接待すればいいだろう、と、いつも通りに対応しようとしたのだが、婚約者のお嬢様がこんなことを言い出した。


「小汚い子供達の相手はメイドに任せましたわ。暇になったので帳簿でも見せてもらえるかしら?」


 前半は我儘なお嬢様の発言としてとても良く分かる。

 しかし後半は少し意味が分からなかった。


「……お嬢様が見て面白いようなモノではありませんよ?」

「いいのよ。視察をしたという建前が必要なの。分かるでしょ? でも子供の相手をメイドに任せて私はなにをしていたのか、なーんて聞かれた時の言い訳が欲しいのよ」

「さようですか」


 それで大人の真似をして帳簿でも、などと言い出したのだろう。

 王子も護衛も、こんな我儘を言われていい迷惑だろう。いや、下手に動き回らない分かえって楽なのだろうか?


「ええ。そこの本棚の……ええ、端っこのやつでも貸してもらえるかしら?」

「ええと、しかし――」

「構わんだろう? 我が婚約者に見せてやってくれ」

「殿下にもそう言われてしまっては仕方ありませんな」


 お得意様である王子にも言われて、コワルトは棚から帳簿を取り出し、渡した。

 どうせ見たところで何もわからないだろうに。


 ――後になって思えば、「暇になったから帳簿をみたい」などと言い、的確に帳簿を指定してみせた時点で、『何もわからないお嬢様』ではなかったのだ。


 ぱらり、と帳簿を開くお嬢様。

 ……それは表の帳簿であったのだが、自由に使える金を増やすため、少しだけ小麦の値段を高く(少しだけ少しだけ、を繰り返していつのまにか10倍になっていた)計上していた。


「あら。小麦ってこんなにお高かったかしらぁ? どう思いましてハークス様?」

「うん?……このくらいではないのか?」


 帳簿を開くや否や「小麦」と言われて一瞬ドキッとしたコワルトだが、王子の言葉に冷静さを取り戻す。


「ええ、おかげさまで、良い小麦を食べさせられていますよ」

「あーらあらあら! ちょっとちょっと聞きまして護衛の方! 王子とこの方にとっては小麦ってこのお値段らしいですわよ! プークスクス!」

「お、お嬢様! あまり他人に帳簿を見せるのは――ッ」

「あら? やましいところがありますの? ありますのねぇ? ありますわよねぇ!! なにせ相場の10倍! 子供に王子が口にするような超高級小麦を腹がはちきれんばかりに食べさせている事になってしまいますものね!!」


 ばさばさ、と帳簿を振って挑発してくるお嬢様。

 相場。相場を認識していたのか、このガキは!

 立ち上がり、思わず殴り掛かりたくなったが、護衛のひと睨みで足が止まる。


「し、失礼。桁を間違えていましたかな? いやはやお恥ずかしい」

「あらあら、桁が間違っていたんですの?」

「なんだ、それなら10倍になっていたのも仕方ないな」

「なるほど、なるほど」


 こういう時のために用意していた言い訳を使う。

 そう、10倍というのは単に桁を間違えたら起こり得る話。そのための10倍である。


「じゃあ計算が合うのはおかしいですわよね?……詰めが甘すぎるんじゃありませんこと?」

「あ! 確かに!?」

「いや王子、しっかりして? おバカすぎてこの国の将来が心配ですわー」


 コワルトは逃げ出した!

 しかし、護衛に回り込まれてしまった!


「はい自白同然の逃亡! 確保確保ですわー! オーッホッホッホ、ハークス様、視察って楽しいですわねぇ!」

「……俺の知ってる視察と違う……!」



 そんなこんなで、孤児院は刷新されることになった。



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