(閑話)サマーとお嬢様
その日、サマーは薬草――野良薬草のメイシンを摘み、売っていた。
最近は薬草の売れ行きが悪い。
薬草は孤児たちの貴重なお小遣いになるのだが、最近は安価な薬草が多く出回っており野良薬草の出番がめっきり減ってしまっていた。
だから以前ほどは売れない。しかしその薬草は大変苦く、甘さすらあるメイシンの売れる道はちょっぴり残っていた。
「はぁ、売れないわね」
新しい薬草は領主主導の産業の成果らしく、その影響で孤児院への寄付金も増え毎日のおかずが一品増えた。
なのでひもじさはない。
安価な薬草のおかげで大怪我をしたときのポーションの備えが増えた。
なので怪我への不安も減った。
しかし、自由に使える自分だけのお金は減ったも同然である。
……空腹を紛らす間食を買う分は節約できているので、トントンかもしれないが。
「ジョニー! 馬車を止めてくださいまし!」
サマーがため息をついていたところに、そんな綺麗な声がして豪華な馬車が止まった。
そして、馬車から目もくらむような美少女が飛び出してきたのである。
「オーッホッホッホ! あなた、そこのあなた! 随分みすぼらしいですわねぇ!」
「な、お、お貴族様……っ……」
「それは、お花を売ってるのかしら? 売れるのかしら? おいくらで? あらあらしなびてて元気のない花ねぇ! こんな花、貰っても嬉しくないでしょう? 誰が買うのかしらぁ?」
「うぅ……」
みずぼらしい。それは本当の事だ。この美少女の前では誰でもそうだろうとサマーは思った。花だってしょぼくれて当然だ。
サマーはその美貌に言葉に詰まらせてしまう。
率直に言えば、可愛すぎて一目惚れした。
「で。これでその籠の中身全部買えるかしらぁ?」
「えっ?」
と、お嬢様は銀貨1枚を取り出した。
当然、籠の中身を全部買ってもお釣りがくる大金だった。
天からの施しにも等しいそれを、サマーは畏れ多くて震えながらも受け取る。
「え、あ、ありがとうござ――」
「良い事? 物の売り方というのは大事ですわ。まずあなたの見た目! 素材はよさそうなのにそんな小汚い恰好をしていては売れるものも売れませんわ!」
「あ、えっ」
買ってもらったお礼を言おうとしたら急に褒められた。そしてアドバイスが飛んできた。
素材が良い。素材が良いと! この素材の良すぎるお嬢様をもってして、素材が良い!
サマーはその誉め言葉を脳内で反芻した。
「ん? あら、これよく見たら野良薬草ですわね? 図鑑で見た覚えがありますわ」
「あ、はい。メイシン、という薬草です」
お嬢様が野良薬草のことを知っているなんて! と少し感動を覚えつつも答える。
「でも最近、全然売れなくなってしまって……孤児院の皆も同じで……」
「……」
と、ここでお嬢様が寂しそうに微笑む。
なんと慈愛に満ちた表情だろう。サマーは思わず見とれてしまった。いや、先ほどから常に目を奪われているけれども。
「……あなた、仕事欲しくありません? 今私、従者になってくれそうな人をさがしているのですわ。私のポケットマネーですが、それなりの収入をお約束しますが――」
「やります!!」
サマーは脊髄反射でそう答えた。
従者! このお嬢様の従者になれる!? なる! こんな美少女にお仕えできてお金まで貰えるんですかぁ!? ポケットマネーで!? 個人的な関係ってコト!?
それってご褒美×ご褒美×ご褒美、ご褒美立方体の完成ですよ!
サマーの将来の夢は、こういう美少女にお仕えすることだった気がしてきた。
過去がどうあれ、今そう決まった。
その後、サマーは従者教育でビシバシ鍛えられることになる。
基本文字もまともに書けなかったサマーには中々大変な教育ではあったが、コレハお嬢様の愛を感じる優しい眼差しに見守られ、奮起。
お忙しいお嬢様がこれだけ気にかけてくれているのに、できないなんてあり得ない! とサマーは見事これを乗り越えていった。