将来のための布石ですわ!(後)
花売りの少女、名前をサマーと言った。
明るい栗毛色の髪をした孤児である。
「さあて。エマ! この子を熱湯に沈めて私特製の毒を体に擦り込んでやりなさい!」
「ええ!?」
「ああ、ご安心をサマーさん。お風呂に入って体を洗ってやれという意味です」
お嬢様はたまにこういう事言います。と、補足するエマ。
「あ。毒って、洗剤ですか?」
「飲んだらお腹壊すので毒ですわよ? 間違って口の中にいれないようになさいね。飲むなら私の前で飲みなさい」
「えぇ……まぁ、確かにそうですね。いや、でもなんというか……その、お茶目なんですね? 素敵です」
「無理に褒めなくて大丈夫ですよ。お嬢様の照れ隠しだと思って慣れてください。私は慣れました」
「は、はい」
と、エマはサマーを連れてお風呂へと向かった。
もちろんコレハが一緒に入ったりはせず、部屋でお茶を飲みつつ待つことにした。
しばらくしてサマーがお風呂から上がってきた。
よく見なくても、可愛らしい顔をしていた。そして栗毛色の髪の毛は、透き通るような金髪になっていた。どれほど汚れていたというのか。
「あら。やはり整っている顔ですわね。よろしくてよサマー」
「この髪の色。どこかの貴族の落胤かもしれませんね」
「まぁ孤児院って半分そういう役目もありますし……可能性はありますわねぇ」
サマーの顔を見つつ、うんうんと頷くコレハ。
よくある有能な孤児とか、才能に溢れすぎてる孤児とか、孤児のくせにやたらいい見た目をしているとかは、それが貴族の落とし胤――庶子であったりである可能性は高い。
単純に平民であるというより、よっぽど説明がつく話だ。
後々親が他国の王族だったとかいう展開も前世の小説で見たことある。私、詳しいんですのよ?
「これなら私の侍女にできるかもしれませんわね!」
「えっ、わ、私がお貴族様の侍女に!?」
「教育次第ですわ。サマー。あなた、やる気はありまして? ないなら畑仕事もあるのでそっちで働いてもいいですわよ?」
「あります!!」
ぐいっと、食い気味でサマーは答えた。
「ではエマ。メイドの仕事と併せて、サマーにマナーを教えてあげなさい。私の隣に立っても見苦しくない程度にビシバシと厳しくねぇ! 脱落したらその時はその時で屋敷のメイドにでもすればいいでしょう」
もちろんコレハはその厳しい教育を自ら視察する予定である。
本人の為とか言ってスパルタ教育――コレハ的に食パン3枚はいける。
「かしこまりました」
「優秀だったら学校で侍女にするつもりですから、最上級の厳しさで教えるのですわよ! おーっほっほっほ!」
「なるほど。優秀であれば侍女枠で学園に通うことも可能ですからね」
ゲームの舞台である学園。そこに1人でも味方がいた方がいい。婚約者をヒロインに奪われて肩身が狭くなっても、裏切らない味方がいれば学校生活もマシになるはずだ。
「わ……私が、お嬢様の侍女に……!?」
プルプルと震えるサマー。お、怖がってる怖がってる。そう、その顔が見たかった! とコレハはにんまりと笑った。
……そういえばゲームだとヒロインはどうだったっけ?
あれは確か……どっかの貴族家に拾われて、それで通うんだっけ?
それとは別に貴族の落胤だったことが判明したりもしたっけ。うん。
つまりこのサマーは、ヒロインの対抗馬足りうる存在!
ヒロインが「私が元平民の孤児だからこんなひどいことを……ぐすん!」とか言ってきたときに、サマーが居れば「あら。ウチの侍女こそ平民の孤児ですわよ?」と返せるのだ!
――その時に言葉に詰まるヒロインの顔が今から楽しみですわね!
「くっくっく。私の学園生活はサマー、貴女にかかっていますわ!」
「そこまでのご期待を……!! 頑張ります!!」
「ま、優秀でなかったらウチでメイドか、畑仕事要員か……とにかく仕事はありますわ! 一度拾ったものをポイ捨てとかはしないのでご安心あそばせ!」
「はい! お嬢様!!」
凄い気合である。きっとこれなら当初の予定通り、『無駄に優秀で心底忠実な従者』になってくれるに違いない。
それはイコールで、コレハを主人公としたざまぁ系の展開待ったなしということで。
「ふっふっふ……学園が楽しみになってきましたわねぇ!!」
将来のざまぁ展開を想像して、コレハは「オーッホッホッホ」と高笑いした。