悪役令嬢転生で見たやつですわー!
コレハが朝日に照らされて目を開けば、そこは「貴族のお嬢様が可愛く部屋を飾っていったらこんなかな」と思うほどに素敵に可愛らしいゴージャスな洋風の部屋だった。
寝ていた場所も天蓋付きのベッドで、フリフリのヒラヒラにキンキラにピンク。子供向けな少しの丸っこさを感じつつも、洗練されたデザイン。それに凄く柔らかく、寝心地もいい。
「(なんて高級そうなアンティークベッド……私の住むのアパートの家賃何か月分かしら……ん? まってくださいまし。ここは私の部屋ですわ――)」
コレハがそう考えたその瞬間、ズキリと重い頭痛がコレハを襲った。
「うぐうッ! あぐっ、頭が……ッ!!」
頭痛と共に、見たこともない景色が記憶に浮かび、刻まれていく。
電車、駅、街並み、自宅のアパート、PC、○ンテンドー○イッチ……所々穴が開いているようだが、それが何かを理解できる。前世の記憶だ。今、前世の記憶と今の記憶が混じり合っているのだ。コレハはその衝撃に声も出せずベッドの上でのたうち回る。
「(落ち着くのよコレハ。私は私。コレハ・ナイアトホテプ。誇り高きナイアトホテプ侯爵家の一人娘……ッ! あだだだだだだだ! 5歳のお子様に前世の記憶は刺激が強すぎなのですわぁああああ!?)」
シーツを乱してバタバタ転げまわり、ようやく痛みが引いて落ち着いたところでコレハは枕元のクマのぬいぐるみにぼふっと顔を埋めた。
「……あぁ、なんか無駄に疲れましたわ……」
ぐったりとしてクマさんに頭をだっこなでなでしてもらいつつ、コレハは再びまぶたを閉じて再び眠りに落ち――る前に、状況の確認をすることにした。
確認するのは前世の記憶。
コレハの前世は――名前は不明だが、日本という国のOLであった。
……詳しくは思い出せないが、多分死んだのだろう。転生というやつだ。
そして、ついでに言えばとあるWeb小説サイトのヘビーユーザー。良く思い返してみればこんなことLet's wana be novelistなWeb小説では日常茶飯事。むしろランキング作品で予習済みだった。
「なれば、今この時最適な行動は……まず、容姿の確認ですわね」
どうにも意識が前世に引っ張られており、今世の記憶と混濁している。とりあえず子供で、お嬢様ではあるだろうけども今の自分の姿をしっかりと確認しておきたかった。
コレハはそっとベッドから降りて鏡を探す。貴族の子女ともなれば部屋に姿見くらいはあるもので、当然この部屋にもあった。
「……ほほう! これは、私の姿ですわね!……って、当然ですけれど。見慣れた姿ですわね?」
ぷにぷにほっぺ、紫色のロングヘアにきりっとした目つきの紫眼。ちっちゃいおててのとても可愛らしい、お人形さんみたいなお嬢様が鏡の中に居た。フリフリで紫の寝巻も可愛らしく大変似合っている。
「……ですが……今までは特に気にしていませんでしたが、私のこの容姿――これは間違いなく美人になりますわね。将来勝ち組、であればいいのですけど」
だが、コレハはここで気を抜かない。なにせランキングで予習済みなのだ。そう、この展開は。
「ここまで整っていると、むしろ乙女ゲームのキャラクターに転生している可能性がありますわ」
モブ転生であれば幾分気は楽だっただろうが、これほどまでに可愛らしい姿となれば……まず間違いなく主要キャラの幼少期といったところ。
さて、記憶を漁ってみよう。こういう場合は前世の記憶に乙女ゲーの記憶があるものなのだ。
「私の名前はコレハ・ナイアトホテプ。これほどに特徴的な、どこかの神話の邪神な家名、忘れる方が難しいと思いますの……ああ、ありましたわ。ありましたわ! あってしまいましたわ……」
まさか、まさか本当にあるなんて。コレハは自分の前世の記憶から、その乙女ゲームをの情報を引っ張り出す。
乙女ゲーム『かお☆みて ~顔を見て話そう?~』――
【コレハ☆レビュー】
VR乙女ゲームで、攻略対象達が真正面で顔を見ながら話してくるというのが売りの、かなり中毒性のヤバいゲームですわ。
どのくらいヤバいかというと、VRなので臨場感がパなくて。そして耳元で愛を囁かれるASMRなボイスも死ねましたわ。というか死にました、お財布が。おのれDLC商法め……各キャラの壁ドンDLCは最高でしたわよ!
ええ、間違いありませんの。これは無駄にボイスを聞き込みまくるため前世でやり込んだ乙女ゲームですわ!
【点数:文句なしの10点満点!】
――その攻略対象、宰相の息子『クルシュ・ナイアトホテプ』の妹にして、第一王子、『ハークス・ダイード』の婚約者。
それが、『コレハ・ナイアトホテプ』であった。
つまり。
これは。
「悪役令嬢転生ですわーーーー!?」
ですわーー
すわーーー
わーーーー……
……………………
朝の爽やかな屋敷に、コレハの声が響き渡った。