第二話
今回はかなり長め。初めてじゃないかな…2000字超えんの。
よろしくお願いします!
白石桜の秘密で知ってしまった翌日、俺の高校生活は大きく変わっていた。いや、正確には俺の見る世界が変わっていしまった、というべきか。
登校すると、昇降口で早速、彼女の姿を見つけた。いつものように、完璧な笑顔で友人たちと談笑している。その姿は、当たり前だが、昨日俺だけが見た「透明で焦りまくりの桜」とは全くの別人だった。昨日の一件は、夢だったのでは??そう思ってしまうほどに。
だが、教室に入って俺の席の隣を見た瞬間に夢ではないことを思い知らされた。桜の机の上に、俺の教科書と1枚の小さなメモが置いてあった。
『放課後、屋上に来てください。 白石』
うわ、来た。これは確実に、秘密の口止めと今後の取り決めだろう。それにしても屋上かよ。まるでドラマやアニメの主人公になった気分だ。普段は立ち入り禁止の屋上だから誰にも見られずに話すには最適だけど、ちょっとベタすぎるのでは?
授業中も俺は生きた心地がしなかった。隣の席に座る桜を見るたびに、昨日の半透明な姿が脳裏に過ぎる。完璧な横顔。サラサラの髪。時折、友達と笑い合う声。どれもこれも、普段の白石桜なのに、俺にはもう彼女が「秘密を抱えた少女」にしか見えなかった。
そして放課後。俺は指定された奥所へと向かった。重い鉄製の扉を開けると、夏の終わりを告げるような。巣k氏乾いた風が吹き抜けた。屋上には、すでに桜が立っていた。制服のスカートを風になびかせ、遠くの街並みを眺めている。その姿は、絵になるほど美しい。
「白石さん」
俺が声をかけると、桜はゆっくりと振り返った。普段の優しい笑顔は消え失せ、真剣なまなざしが俺を捉える。
「結城くん、来てくれてありがとう」
桜はそう言うと、真っすぐ俺のほうへ向き直った。
「昨日、見ちゃったんだよね?私の、その……秘密」
言いづらそうに、桜は視線を泳がせる。その言葉に俺は静かに頷いた。
「あれは、私の病気なの。特定状況下に体が透明になっちゃうのよ。原因は、全くわからない……。でも、誰にも知られたくない。家族にも、友達にも、誰にも。」
桜の声はやや震えていた。学園のアイドルがこんなにも弱々しい声で話すなんて、想像もできなかったし、してもいなかった。
「わかってるよ。昨日も、誰にも言わないでって言ってたし」
俺は、自分にできる限りの誠意を込めて言った。
「誰にも言わないよ。絶対に!」
俺の言葉に、桜の表情が少しだけ緩んだ気がした。
「ありがとう……。それでなんだけど、お願いがあるの」
桜は一歩前に近づいた。その表情は、先ほどまでの弱々しさから一転して、どこか決意に満ちたものに変わっていた。
「私の秘密を知っているのは、この世界で結城くんだけ。だから、もし私が透明になっちゃったときに助けてほしいの。例えば、誰もいないような場所に誘導するとか、隠してくれるとか……」
俺は、一瞬言葉に詰まってしまった。まさか、そんなことをお願いされるなんて誰が予想できるというのだ。
「……具体的にどうすればいいんだ?」
お連問いに、桜はハッとしたように顔を上げた。
「あ、えっと・・・・・・例えば、昨日の教室みたいに、私が透明になっちゃったときは、ほかの人たちが来る前に教室から出してほしいの。透明になっているときって周りが見えないから、物がつかみにくくて、一人だと移動もままならないし、ぶつかっちゃったりしてバレるのが怖いから」
桜の言葉に、俺は昨日の光景を思い出す。確かに、彼女はペンを落としたり、物にぶつかったりしていた。完璧に見える彼女の、予想だにしなかった弱点。
「分かった。できる限り、協力する」
俺は覚悟を決めた。困っている人を放っておけまい。それが俺の性分だし、何より、彼女の切羽詰まった表情を見てしまうと、断るなんてできなかった。
「本当!? ありがとう! 助かるわ!」
桜は、心底ホッとしたように、普段のアイドルらしい笑顔を浮かべた。その笑顔は、どこか安堵と、俺への信頼が混じっているように見えた。
「その代わりと言っちゃなんだけど……」
俺は意を決して、ずっと聞きたかったことを尋ねた。
「あの、透明になる条件って、何なんだ?」
桜は、一瞬表情を曇らせたが、すぐに決心したように話し始めた。
「それがね……実は、まだはっきりとは分かってないの。でも、心臓がドキドキするような、強い感情が動いた時になりやすいみたい。特に、恥ずかしいとか、すごく緊張するとか……そういう時が多くて」
「は、恥ずかしいとか、緊張とか?」
俺は思わず聞き返した。それは、つまり、予測が不可能に近いということだ。テストの時かもしれないし、体育の時かもしれない。まさか、俺と話している最中になることだって、あり得るのか?
「うん……だから、すごく困ってるの」
桜は、困ったように眉を下げた。
そして、その瞬間。
「あ……!」
桜の声が、途切れた。次の瞬間、俺の目の前で、彼女の体が、またしても半透明に揺らぎ始めた。
「な、なんで!?」
俺は焦った。まさか、こんな屋上で、よりにもよって俺との会話中に透明になるなんて。
桜の顔が、みるみるうちに青ざめていく。恥ずかしい、あるいは緊張。今、彼女の心臓は、確実にドキドキしている。それも、俺のすぐ目の前で。
「ゆ、結城くん……!?」
完全に透明になりきる寸前、桜の口からかろうじて発せられた言葉は、悲鳴にも似ていた。そして、風に揺れる制服だけを残し、彼女の姿は、完全に消えた。
屋上に残されたのは、半透明の制服と、焦りまくる俺だけ。この状況、どうするんだ!?
お読みいただきありがとうございました!
次回が気になるようなずるい引きにしてみました。
なるべく早く次回を出します。
だいぶ前から書いてみたいと思ってた話ですが、中々時間が取れず……。書き始めるとかなり楽しいですw