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プロローグ

気分を変えて完全な王道(?)学園恋愛ものを書いてみました。

これ、書くの楽しい♪



 コンクリートの匂いが染みついた放課後の教室は、いつもと変わらない静寂に包まれていた。聞こえるのは、どこか遠くで響く運動部の掛け声と、窓から差し込む西日が描く埃のダンスだけ。結城大和、高2。俺は、そんな平凡な教室の、さらに窓際という地味な席で、数学の参考書とにらめっこしていた。期末考査まで残り1週間。このままだと確実に赤点になってしまう。


「うーん…」


 シャーペンを握る指に無意識に力が入る。焦りが募り、頭をガリガリとかいた、その時だった。


 カツ、カツ、カツ……。


 規則正しい、何かを書くような音が聞こえた。鉛筆か、それともペンか。俺が顔を上げたが、教室には俺以外は既に帰っているはずだ。当然、人影は存在しない。


「気のせい、かな……?」


 いや、気のせいじゃない。音は、確かにそこにある。それも、俺の隣の席――いつもは白石桜が座っている、あの席からだ。


 ここで白石桜について説明しよう。

 白石桜。学年中どころか学校中の男子のあこがれであり、女子からも絶大な支持を得ているどころか教師陣からの信用も高い、才色兼備の学園のアイドル。完璧という言葉をそのまま人間にしたような彼女が、なぜか幸運なことに俺の隣の席に座っている。いや“座っているはず”なのだ。


 音の出所に目を凝らす。桜の机の上には、開かれたノートと、なぜか宙に浮いているシャーペンがあった。いや、浮いているのはシャーペンだけではない。ノートのページが、まるで誰かの指で押さえられているかのように、ピンと張られている。


「…マジ?」


 思わず声が漏れた。この状況は、俺にとっては見慣れた光景というわけではないが、理解できないわけではない。なぜなら、俺は昔から時々そういうものが見える体質だったから。


 ――幽霊、だよな…?


 まさか、こんな昼間の教室に、それも桜の席に幽霊がいるとは思うまい。しかも、シャーペンで何かしらを書いているときた。いや、シュール過ぎない?


 恐る恐る、俺は宙に浮く―というより舞っている―シャーペンに手を伸ばした。触れるかどうか、いや、触れたらどうなる?不安と好奇心が入り混じる。


 その瞬間、シャーペンが、まるで熱いものでも触れたかのように、ピクッと跳ね上がった。そして、ノートがガタッと音を立てて、机から滑り落ちる。


「ひっ!」


 小さな、しかし確実にそこに存在する「声」がきこえた。驚き、焦り、あと少しの悲鳴が混じったような高い声。


 それからだった。俺の霊感がまるで覚醒したかのように、これまでにないくらいクリアになったのは。いや、なってしまったのは。


 次の瞬間、俺の視界にうっすらとだが、まるで水面に移った蜃気楼のように揺らぐ桜の姿が浮かび上がったのだ。


 制服は身に着けているものの、その姿は半透明で、背景の教室が壁を透けて見える。髪の毛も、肌もすべてがぼんやりとしていてつかみどころが全くない。


 しかし、その表情は、はっきりと見て取れた。完ぺきな笑顔を受けベル学園のアイドルとは似ても似つかない、真っ青な顔。そして驚きに見開かれた瞳が、真っすぐと俺を捉えていた。


「き、き、君……⁉」


 透明な唇が震え、か細い声を発する。

 俺は、おもわずゴクリとつばを飲み込んだ。まさか、あの白石桜が、こんな形で目の前に現れるなんて思いもしなかったのだ。

 白石桜は、誰にも見えない「透明人間」と化し、そして、この秘密を俺だけが知ってしまった。


 これは、俺の平凡な日常が、一変するような予感がした、運命の始まりだった。


お読みいただきありがとうございました。

この作品は、いつもと違って既に完結まで書き終えているので、かなり早くすべて投稿できると思います。

次回は7/14(月)の15:00頃投稿予定です!

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