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再会

わかばがまだ眠っている中、扉を開けると、そこに立っていたのは一人の男。


腰に差した刀、無駄のない立ち姿。年齢は三十路前後か。

鋭い眼光の奥に、どこか懐かしさを感じた。


「…佐介か?」


「…閏間、様…?」


その名を聞いた途端、胸の奥で何かが小さく鳴った。


「元気そうで何よりだ、お前が騎士団に入ったと聞いてな、顔を見に来た」


「…ご無沙汰しています」


「俺は今、第四部隊の隊長をやっている、名ばかりのものだがな…騎士団に世話になり、今も侍として生きて来れている」


「閏間様も、侍を続けていたんですね」


「…お前の親父さんにも世話になったからな」


閏間様は、ふっと目を細めた。


「まさか、地獄谷の鬼が、お前だったとはな、懐かしいような、誇らしいような…そんな気分だ

…それよりも俺は故郷に何もしてやれなかった、お前も…死んだと思っていた…こうして生きていてくれて…」


私は何も言わなかった。ただ頭を下げた。


「…騎士団は死に近い役どころなのは確かだ、だがお前を死なすわけにはいかん、お前の父上に顔向けが出来ぬからな…」


閏間様の言葉には、情ではなく覚悟が滲んでいた。


「これから先、戦場では人として在ることを許されぬ時もある…だが、佐介、お前は、お前のままで強くなれ、剣の道は、お前が選んだのだろう」


私は黙って頷いた。


「お前は、もっと上へ行くべきだ、俺なんか飛び越えて行け…!」


「…はい」


「それではな、佐介」


そう言って、閏間様は踵を返した。


その背には、あの頃のままの、侍としての風格があった。




閏間様が去ったあと、私はしばらく立ち尽くしていた。

懐かしさと、昔の痛みが胸の奥をじくじくと掻き立てる。

だが、それも一瞬。背後から、微かに寝返りの音が聞こえた。


「ん…」


わかばが布団の中でもぞもぞと動いたかと思うと、目をぱちりと開いた。


「…あっ、佐介さん…おはようございます〜」


ぼんやりとした声。寝起きの彼女は、いつもの頼りなさに拍車がかかっている。


「ああ、よく眠れたか」


「はい〜…なんだか、安心したのか、ぐっすりと…」


わかばは体を起こし、布団の上で小さく背伸びをする。銀髪が朝の光を柔らかく照り返した。


「…佐介さんこそ、疲れていたのに、無理してないですか?」


「いや、少し眠っただけで、だいぶ楽になった」

私は立ち上がり、袴の裾を整える。


「ふふ…昨日の佐介さん、ちょっと羨ましいくらい可愛かったです」


「…戦闘時のお前は、別人のようだったな」


「え…?」


わかばが一瞬きょとんとした顔をして、それから苦笑いを浮かべた。


「…ああ、あれ、ですね、戦いになると、ちょっと変わっちゃうの…昔からなんですけど、そういうものだと思ってください」


「騎士団の全員も、知っているのか」


「はい、まあ、大体は…みんな慣れてます、私も、二重人格ってわけじゃないんですけど…霧雨って、よく呼ばれてて…」


「霧雨…」


(二つ名、か、やはり、あの鋭さは偶然じゃなかったか)


わかばは、気まずそうに指をもじもじさせながら、笑った。


「…二つ名、秘密にしてたつもりなんですけど、バレちゃいましたね…新兵なのは変わりないし…」


「死ななければ番付も上がっていくだろう」


「うう…精進します〜」


わかばは照れたように顔を伏せた。


一部の実力者には「二つ名」が与えられる。

功績や逸話に由来する通称であり、仲間にも敵にもその名が伝わる。

「二つ名」を持つ者には、番付に+5枚目相当の価値があるとされ、敵にとっては威圧となり、味方にとっては信頼の証ともなる。


この説明は受けた。


(この制度の中で、生き残らなければならない)


私は、帯を締めながら静かに息を吐いた。





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