表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

漆黒の鎧武者


眼前に敵の第三部隊、そして残存の全軍が谷底を埋め尽くしていた。

数は百を超える。獣のような咆哮が重なり、地を這うような圧迫感が迫ってくる。


「…多いなぁ…」

わかばが、銃を握りしめながら息を呑む。


「だが、やるしかない」


私は一歩前へ出る。鞘から抜かれた刀が、冷たい光を帯びた。


「行くぞ!」


閏間様が叫び、太刀を振るって突撃する。


その声に続いて、王国騎士団の戦士たちが一斉に駆けた。


――激戦が始まる。


激しい金属音、発砲音が谷に響く。


わかばが撃つ。数発の弾丸が、群れの前列を次々と倒す。

だが敵の波は止まらない。射線に飛び込むようにして、獣の妖魔が牙を剥いてくる。


私とわかば、そして閏間様が先頭を切り、敵の軍勢に風穴を開けていく。

互いに背中を預け、斬り、撃ち、叫ぶ。


――それでも数の差は歴然だった。


押し寄せる濁流のような敵の勢いに、徐々に押され始める騎士団の列。

一人、また一人と傷つき、後退を余儀なくされていく。


「ああくそっ、キリがない…!」


わかば自身と銃が熱を帯びてきた。もうすぐ冷却が必要だ。


私の肩も、斬撃で少し裂かれている。前を向き、黙々と剣を振るい続けた。


そして――


ドォォォォォン……!


轟音が、戦場の後方から響いた。


何かが、吹き飛んでいた。

敵の列が、後方から凄まじい衝撃によって崩れている。


黒煙と粉塵の中、爆風に巻かれた妖魔たちの肉片が宙を舞う。


「…!?」


「…あれは」


閏間様が目を細め、呟く。


「ヴォーグか、上手く後ろに回り込んだな」


「挟むぞ!!!!」


金属的な音声が戦場に響く。


敵の背後に突如として現れた脅威に、妖魔たちがざわめき始める。

混乱が生まれる――いまこそ好機。


「作戦成功!いける、今なら押し込める!」


わかばが叫び、冷却を終えた銃を再び構える。


「今だ!射撃隊、発砲せよ!!!!」


パアアアンパアアアン!!!!


激しい炸裂音が響くーーー


閏間様の部隊が崖上から一斉射撃を行った。



次々と側面の妖魔が崩れていく。


わかばも負けじと連射する。


「この隙に叩くぞ、味方の弾に当たるなよ?佐介」


「承知」


第三陣へと切り込んでいった。




形勢が、徐々に王国側へと傾き始めた――その時だった。


「…下がれッ!」


ヴォーグの機械声が、急に鋭く響く。


そして、


ズン……ッ ズン……ッ


地面が、鳴った。


ただの足音とは思えない。重く、空気を震わせるような、異様な響き。


前方の妖魔たちが、次々と道を開けていく。

まるで何かを恐れ、道を譲るように。


霧の中から、黒い炎を纏った鎧武者のような影が、ゆっくりと現れた。


槍を持ち、ただ立っているだけなのに、場の空気が一変する。


「…来たな」


閏間様が身構える。


わかばの表情が固まる。


「あれが…幹部…」


敵の幹部――


この圧はアークと同じ、二度と感じたくないと思わせる圧倒的な圧力。


全てを弾くような漆黒の鎧に身を包み、口も開かぬその存在から、どこか不気味な圧が滲み出る。


「――我が名はライエン」


静かに、だが地を揺るがすような声が戦場に響く。


「剛の者は、我に挑め」



槍を握るその手がわずかに動いた瞬間――


シュッ


脇にいた兵士数名が、吹き飛んだ。


「…速いッ!」


閏間様が叫ぶ。


ライエンはまだ、構えを解いていない。

それでいて、誰も近づけないほどの殺気を放っている。


わかばが銃を構える、が


「やばい…あれ、普通の妖魔じゃない…ッ!」


言い終わるが早いか、数名の兵が挑みかかる。しかし――


「がっ…!」


閃光のごとく放たれた槍の一閃。挑みかかった兵士たちは、叫ぶ暇すらなく空を舞った。


「…まずいな、だがまずは一手…!」



閏間様が飛び出した、閃光のような居合いもーー



ギンッッ!!



太刀と共に弾かれた。


「速い…だが我には見ゆる…」


後方よりヴォーグと、ヴォーグの部隊が迫ってくる。


ヴォーグの腕が青白く光る


キィィィーーーンと甲高い音が響く


ヴォーグの拳が背後からライエンに襲いかかるーー



ゴオオオオオ……!!!



激しい衝撃波が辺りを包む



が、ライエンは槍先でそれを防いでいる。


「剛力よ、だが我には通じぬ」


そのままヴォーグの巨体を吹き飛ばしてしまう。




圧倒的な力の差を目前に、この場にいる全員が言葉を失う。


王国部隊が総力で攻撃を仕掛けるも――


全て弾かれる。かわされる。受け流される。


砲弾をも受け止める黒鎧は、まるで戦場そのものの化身のようだった。


わかばが前に出る


「狙撃します!」


わかばが隙を突いて頭部を撃つも、銃弾は甲冑に弾かれた。


「やっぱ効かねェかあ…!?なら!」


両足、関節部――複数発が撃ち込まれると、ライエンも一瞬だけ動きが鈍る。


「…相棒!!今だ!!」


刀が唸りを上げる。


ライエンの喉元へーー


刹那――


ライエンが槍を薙ぐ。


見えなかった、


次の瞬間、凄まじい衝撃で吹き飛ばされ、地に叩きつけられた。


「っ…!」


意識が遠のく


「相棒!!!!」


わかばの叫びが辛うじて意識を保たせた。



「…くっ、これは歯が立たぬ…隊を下げるぞ、これ以上は無駄死にだ!!!!全軍、撤退準備!!!!」


閏間様が叫ぶ。


それでも私の一太刀は、かすかにライエンの鎧を裂いていた。


黒い鎧の隙間から、血のような霧が漏れる。


ライエンはその場で静かに口を開いた。


「血河を作りし、地獄谷の侍――佐介」


そして、霧雨ーーわかば、か」


その目に、初めて明確な興味が宿る。


「…お前達、隙を見て退け!!俺が注意を引く!!」


閏間様は再び太刀を取り、ライエンの方へ向き直る。


だがライエンは


「深追いはせぬ、またこの地にて待つ、剛の者達よ、再び我に挑め…!」


そして、背を向けた。


黒い炎をたなびかせながら、地を裂く猛者は、再戦を予告し、去っていった――






私はその背中を目で追いながら意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ