83、秋のメニュの食材集め
父、アレクサンドルが王都で頑張っている間の、アンジェルの様子を書いていますので、日数が少し遡っています。
お父様が王都に向かわれたその2日後に、試験を受けるため学院に来ている。
今回も筆記試験は一番早く終わり、いつものように先生から前回の試験結果を受け取った。
学科、実技ともに満点だったことにホッとする・・・大丈夫だと思っていても緊張する瞬間だよね。
お父様に満点を取り続けて王都の学院に行くと宣言したから・・・頑張らないとね。
午後の試験も無事に終わり、いつものようにジルベールさんとコレットさんの3人で図書室に集まった。
ジルベールさんは学科が満点、実技が197点の合計398点だったらしい。
「辛うじて1点上がりました。魔法の訓練をしていても、アンジェルさんのように構えることもなく、息をするように操作することがまだできないです。それにもっと魔力量も増やさなければなりません」
「1点上がるだけでも羨ましいわ。私は前回と同じ学科が満点、実技195点の合計395点よ。前回と同じ点数で3位はなんとか死守しているけど、後ろから誰かが上がってくるかと思うと油断できないのよね。せめてジルベールさんとは1点差まで上げたいわ」
「コレットさんも制御はとても良くなっていると思うの」
「アンジェルさん、ありがとう。やっぱり魔力量よね・・・焦らず頑張るわ。先ずは王都の学院を目指して、そしてシャルダン・デ・ローズの王都店に行くのよ」
「コレットさんの第2の目標ね」
「そうよ。美味しい目標が私を育てるの」
コレットさんは拳を作って力説していた。
「明後日、僕は領地に戻ります。メテオール祭を家族で過ごしますから、来月の勉強会はお休みします。領地に戻ることはシャルル様にも伝えています」
「私もメテオール祭は領地で過ごす予定よ。来月の勉強会はお休みにしましょう」
「うん、今度3人で会うのは夏の3の月の試験の日だね。二人とも家族とゆっくりメテオール祭を楽しんでね」
「ありがとうございます。僕は家族とシャルダン・デ・ローズ王都店に行く予定です」
「いいわね。私はお土産店でシフォンケーキと紅茶を買って、領地で家族と楽しむ予定よ」
「フフ、二人ともお店のご利用をありがとうございます。私はメテオール祭用の新しいお菓子を考えて、家族と食べようと思っているの」
「えっ!新しいお菓子を作るの?それはお店で食べられる?」
「お父様とお母様の許可が出れば、冬のメニュになるよ」
「秋ではなく冬なの?」
「うん、新しいお菓子は試作品を作って試食したあと、お店に出しても問題ないと判断されてから新しいメニュ表をつくるの。そのメニュ表も、絵を描いてもらってからメニュ表になるまで半月以上かかるから、夏の3の月に作ったお菓子は秋には間に合わないの」
夏のメニュ作りは始めるのが遅かったせいで、みんなに忙しい思いをさせてしまったから、今回は早めに秋のメニュを決めないとね。
「新しいお菓子を作るのも大変なのに、お店に出すのはもっと大変なのね」
「みんなで手分けして作業をしているから、私の仕事はあまりないけどね」
「それでも、新しいことを考え出すのは凄い事だと思います」
「ありがとう、ジルベールさん」
「秋のお菓子が楽しみね。私も領地に帰ったら、牧草ロール以外の魔法操作を考えてみようかしら?」
「僕は癒しの魔法の練習をしようと思っています」
「二人とも頑張ってね」
「ありがとうございます。ではまた試験の日に会いましょう」
「そうね、来月はアンジェルさんのお菓子とジルベールさんのシャルダン・デ・ローズ 王都店の様子を聞くことができるのね。楽しみにしているわ」
二人と別れ、屋敷に戻るとすぐに秋のメニュに使うミュスカとポワールの種が、どこで入手できるかバスチアンに調べるように頼んだ。
バスチアンは急いで確認してくれたようで、その日のうちに東の領地へ「至急で取り寄せ希望」と書いた手紙を龍の宅急便に依頼したと、知らせてくれた。
でも王都経由だから返信と種が同時に届いたとして最短10日程かかるらしい。
王都を経由せず、東の領地へ直接行き来きできたらいいのにね。
時間がかかりすぎる・・・何か他に方法があればいいのに。
試験が終わってから、4日が過ぎていた。
お父様はアンの事を心配して、お母様を連れずに王都に行ってしまったけど、今ごろは王族や大領地の当主たちを迎えるための準備に追われていると思う。
王都にはノル兄様もいるから二人で頑張っているのかな?
メテオール祭は家族と一緒に過ごしたいと、お父様とノル兄様が言っていた。
待ち遠しいな・・・。
「ピー」
考え事をしていたら、ネージュにアンと呼ばれちゃった。
「どうしたの?ネージュ」
「ピピピッ?」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしていただけ。そろそろ秋のメニュとメテオール祭のお菓子を作りたいと思っていたの」
ネージュと一緒にソファーに腰かけていたのに、考え事をしていたよ。
ぼんやりしているように見えたのかな?・・・ネージュの事を忘れていたわけではないからね。
フォセットが切ったペーシュを持ってきてくれたから、ネージュの口に放り込みながら秋のメニュの事を考えることにすればいいよね。
ポイ、ポイ、ポイ・・・ポイ、ポイ・・・ポイ、ポイ、ポイ。
「ピッピィ」
「うん、美味しいね」
ポイ、ポイ、・・・ポイ、ポイ、・・・ポイ、ポイ・・・ポイ、ポイ、ポイ。
ネージュの口に次々とペーシュを入れているけど、駄目だ、忙しい。
飲むように食べているから、考えている暇がないよ。
仕方がないから食べさせることに専念することにした。
ポイ、ポイ、ポイ・・・ポイ、ポイ、ポイ・・・ポイ、ポイ、ポイ。
「ピッピィ」
「うん、そうだね・・・美味しいね」
ポイ、ポイ、ポイ・・・ポイ、ポイ、ポイ・・・ポイ、ポイ、ポイ。
ポイ、ポイ、ポイ・・・ポイ、ポイ、ポイ・・・ポイ、ポイ、ポイ。
「ピッピィ」
「うん、そうだね・・・」
ポイ、ポイ・・・・ポイ・・・。
やっと口を開けなくなった・・・ようやく満足したらしい。
今度はそわそわし始めたと思ったら、ソファーから降りてテラス窓の方に行ってしまった。
庭に行きたいのかな?
フォセットに窓を開けてもらうと、ネージュがこちらを見た。
「ピィピィー」
行こうと誘ってくれたけど・・・ここは2階だからアンは出られないよ。
それにメニュも考えないといけないしね。
「することがあるから今は行けないの、ごめんね」
「ピッ」
納得をしたのか、うんと言って飛んで行ってしまった。
本当は一緒に飛んで行きたかったよ・・・ネージュは自由でいいね。
窓から飛んで行ったネージュの姿が見えなくなると、そっとため息をついた。
・・・集中しよう。
魚介類の食事はお店のメニュとして許可が下りなかったから、秋は木の実や果物を使ったお菓子にしようと思う。
でもパスタは何かに使えないかな?秋のメニュとメテオール祭のお菓子を作った後で考えてみようかな・・・。
秋だからシャテニエは使いたいよね。
シャテニエでマロングラッセを作りたい・・・マロングラッセはバターケーキに入れてもいいかも。
それにサツマイモやジャガイモもいいよね。
サツマイモがあればスイートポテトができるよ。たしかサツマイモはパタットゥ・ドゥースと言う長い名前だった。
ジャガイモはポムドゥテール。これはポテトサンドにも使っているから材料の心配はいらないよね。
木の実はアーモンドやクルミを使えばいいかな。
アマンドとノワィエと言わないとコンスタンがわからないかな?
でも、ノワィエを使ったパンはクルミパンと呼んでいるから、大丈夫だよね。
今回作るシャテニエを使うパンは、マロンパンと呼ぶことにしよう。
サンドウィッチはミュスカに変更して、秋の季節限定のジャムはポワールがいいかも。
・・・茉白、お店のパンの種類がどんどん増えているよ。これからも、もっと増やしていこうと思っているの。
・・・頑張るからね。
そういえば・・・茉白の世界ではシャテニエを栗と言っていたけど、なぜかケーキに入れるとマロンケーキと呼び、甘く煮てお酒を入れたりする栗をマロングラッセと呼んでいた。
いろいろな国の言葉が入り混じっているよね。
ミュスカはマスカットと呼ばれていて、わざわざ箱に入れて売ったりする、高級な果物らしい。
ポワールは洋ナシと呼ばれていて少し縦長だけど、丸いナシもあったよね。
薄茶色の皮や黄色い皮、大きさの異なるものなど種類が豊富だった。
こちらでは丸いナシはまだ見たことがないよ、洋ナシだけかも。
パタットゥ・ドゥースは西の領地で、ミュスカやポワールは東の領地で収穫されていると地理の勉強の時に学んだ。
茉白の国ではビニールハウスと言うのがあったけど、そのビニールハウスを使えば寒い場所でも育てられたのだろうか?
もしかしたら北の領地でも大きな温室があればパタットゥ・ドゥースやミュスカが作れるかも。
・・・でも大きな温室はさすがに作れないよね。
秋の新しいメニュや変更内容は、紙に書いてからコピーをしておこう。
コンスタンに渡せるよう準備しておかないとね。
【秋の新メニュ】
秋以降の定番品
・パンケーキ、デザート風とお食事風
デザート風
はちみつと姫ポムジャム
お食事風
サラダとウッフ焼きとソーセージ
・ハンバーグセット:サラダとパン(マシロパン、クルミパン、レーズンパンの3個付き)と飲み物の3点
・トースト3種類
はちみつ、ジャム、茹でウッフ付
燻製肉とウッフ焼き付き
ハムとチーズのトースト
・スコーン
プレーン、紅茶葉入り、レザン、チーズとアマンド、姫ポムとノワィエ、 ラムレーズン入り、チョコ入り(7種類)
秋の限定品
・パンケーキ、デザート風
シャテニエとシャテニエのクリーム
ミュスカとミュスカのピューレ
・スイートポテト
【変更になるメニュと販売終了のメニュ】
・クレープ
ミルティーユからシャテニエとポワールに変更
・バターケーキ
カロット入りからマロングラッセ入りに変更
・シフォンケーキ
マーブル模様のミルティーユシフォンケーキからシャテニエに変更
・ミルクレープ
ペーシュからミュスカに変更
・サンドウィッチ
ペーシュと生クリームのサンドからミュスカと生クリームのサンドに変更
・アイスクリーム
ペーシュからシャテニエに変更
・ペーシュの紅茶マリネ 販売終了
ドリンク
・夏摘み紅茶から秋摘み紅茶へ(秋限定)
・ナッツミルクティー(アマンド入り)
・フレーバーティーはシャテニエとミュスカ(秋限定)
果実水
・ペーシュからミュスカに変更
・アイスペーシュティー 販売終了
・アイスペーシュミルクティー 販売終了
お土産店
・マロングラッセ(秋限定・予約のみ)
・ジャムはペーシュとミルティーユからミュスカに変更(秋限定)
・ピューレはペーシュとミルティーユからミュスカに変更(秋限定)
・フレーバーティーはシャテニエとミュスカの2種類(秋限定)
・ペーシュのフレーバーティー 販売終了
【ブーランジェリー・マシロ】
・木の実とレーズンのパン(ノワィエ、アマンド、レーズン)秋以降定番品
・ポテトとチーズのパン(ポテト、オニヨン、チーズ)秋以降定番品
・マロンクリームパン(秋限定)
・ミュスカと生クリームのサンドウィッチ(秋限定・予約のみ)
こんな感じでいいかな?
これをコンスタンに渡しておけば、カジミールとニコラが帰って来てもすぐに確認ができるよね。
マロングラッセは作るのに時間がかかるから、早めに作り方を説明しておいたほうがいいかな?
あっ・・・その前に試食用と絵を描く用のシャテニエやミュスカとポワールを用意しないと・・・。
東側の畑にシャテニエがあるけど、ミュスカとポワールはまだ用意できていない・・・各お店にも定期的に届けてもらう手配もしないと。
とりあえず急いでいるのは、種だよ・・・間に合うかな?
「ソフィ、お願いがあるの」
「な、なんでしょう?」
久しぶりのお願いだからね・・・構えてもしかたないと思うことにしよう。
「ミュスカとポワールの種がいつ届くか確認してもらえる?それと夏の終わりまでに、ノール本店と王都店で使うミュスカとポワールを東の領地から取り寄せて、その後も定期的に送ってほしいとバスチアンに伝えて。種の用意が出来たら東の畑に行って育てるよ。畑に行った後は厨房に行きたいの。試食会をするからフォセットとエタンにも声をかけておいてね」
「は、はい。まずミュスカとポワールの種と、各店で使うミュスカとポワールの取り寄せですね。エタンの件も併せてバスチアンに伝え、コンスタンにも近々行くと伝えてきます」
「うん、それと秋のメニュを書いたからコンスタンに渡してくれる?」
ソフィにコピーしておいた紙を3枚渡すと「すぐに行ってきます」と言って、なぜか小走りで部屋を出て行った。
事情を察しているのだろうか?・・・それよりも今は種だよ。準備出来ているといいな。
コンスタンにスイートポテトの作り方を説明するけど、カジミールにも分かるようにしておいた方がいいよね。
これも紙に書いておこう。
「スイートポテトの作り方」
材料
パタットゥ・ドゥース
バター
ミルク
ウッフの黄身
仕上げ用のウッフの黄身
1、パタットゥ・ドゥースを皮ごと竹串が簡単に通るようになるまでじっくり焼く。
2、火が通ったら熱いうちに皮をむいて容器にいれて素早くつぶす。
3、バターとミルクを入れて練り混ぜ、滑らかになったらウッフの黄身だけ入れて更に練る。
4、鍋にうつしかえて、水分を飛ばすように練る。
5、スプーンで掬って布の上に置き、布を少し絞るようにして成形してもらう。
6、ウッフの黄身を塗って、窯で焼いて焼き色を付ける。
これでわかるかな?
少し冷めたらサツマイモのような形にしてもいいけど、お店に出すから、可愛らしくした方がいいよね。
茶巾絞り風だよ。
厨房に行くのが楽しみなった。
そういえば・・・マロングラッセは出来上がるまでに一週間はかかるはず。
これも作り方を紙に書いておいた方がいいかも。
「マロングラッセの作り方」
材料
シャテニエ
ノースシュクレ
ブランデー
下ごしらえ
1、シャテニエを半日水につける、時間がない時はお湯につけて柔らかくなったら取り出す
2、外の硬い皮(鬼皮)をむく(渋皮を傷つけないようにする)むいたシャテニエは水に入れておく。
3、鍋に熱湯を用意して、シャテニエを入れて渋皮が柔らかくなったツルっとむく。むいたらまた水に入れておく。
作り方
1、シャテニエを目の粗い布にひとつずつ包み、糸で上部を縛る(茶巾絞りのように)
2、鍋にシャテニエを入れて水を入れてしばらく煮る。
3、シャテニエが柔らかくなったら、ノールシュクレを入れ、沸騰しないようにしてノールシュクレを溶かす。シャテニエが浮いてきても乾燥しないように布をかぶせておく。
4、ノールシュクレは毎日溶かし入れる作業を繰り返す。
5、鍋のふちや表面にノールシュクレの結晶ができはじめたら、ブランデーを加え、弱火で鍋に泡が立つまで熱する。
6、鍋からシャテニエを取り出す。
7、縛った糸を切ってシャテニエを出して、乾かす。乾燥させたら完成。
注意、子ども用マロングラッセは5の工程を抜いて作ってね。
これでいいよね。
この作り方もコンスタンに渡しておこう。
材料の確認もできるし、コンスタンが安心するよね。
シャテニエやミュスカ、ポワールの収穫がすぐにできるといいな・・・なんだか楽しみになって来たよ。
ちょっとワクワクしながら書き終えた紙を読み直した。
作り方の紙は3枚コピーをすればいいかな?
秋のメニュの変更は、お父様とノル兄様、パトリック叔父様、ニコラにも渡すから、また4枚コピーをしておいた。
「アン様、戻りました」
コピーまで終わったところで、ソフィが戻って来た。
「おかえりなさい」
「バスチアンに種の件を確認しましたら、種が届くまであと4、5日はかかると言っていました。温室にミュスカとポワールの木が1本ずつあると教えてくれましたが、ジェローが管理しているそうです。それとコンスタンが午後からでしたら、いつでもお待ちしていますと言っていました」
「木があるの?それならすぐに温室に行きたい」
「わかりました」
温室で育てている?
ビニールハウスというものがなくても、温室なら育つ?・・・アンの部屋でも育つかな?試してみたいな。
ソフィとユーゴ達とで温室に行くと、ツルを横に伸ばしたブドウの木が数本あった。
ツルの一番太いのがミュスカらしい。
ミュスカと書いた札が大きな鉢に刺さっていた。
まだ実は小さいけれど、大きくすればいいだけだから大丈夫だよね。
魔法かけようと手を伸ばすと、奥の方で何かを切っているような音がした。
マクサンスに見に行ってもらったら、ジェローがポワールの木のところで作業していると言う。
ジェローが来ないうちに、ミュスカの魔法をかけようとしたら、後ろからジェローが話しかけてきた。
「アンジェル様、ミュスカが気になりましたか?」
驚いて肩がビクッとなったよ。
作業を終えたのか、ジェローがこちらにやって来ていた。
「う、うん。一房でいいからほしいなって思って・・・」
「申し訳ありません。まだ熟していないので食べる事はできないのです」
「えっと・・・種が欲しいの」
「ミュスカの種ですか?・・・それは無理でございます」
「まだ実を取ることが出来ないから?熟したら種はもらえる?」
「いえ・・・ミュスカは種がないのです」
「えっ?そうなの?・・・増やせないの?」
「種がないので増やす時は、枝を接木して育てるのです。房は摘果作業をすることで、粒が大きくなり見た目も美しくなるのです。ミュスカは手間がかかります」
「そう・・・ポワールは種がある?」
「えっ?ええ・・・あります」
「色々教えてくれてありがとう」
「いいえ、お役に立てず申し訳ございません」
「そんなことないよ。勉強になったもの」
「そ、それはよかったです・・・では私はこれで失礼いたします」
ジェローの作業は終わったらしい。
「摘果作業だって・・・無理だよね」
「アン様、摘果作業をしようと思っていたのですか?」
「うーん・・・ユーゴなら出来る?」
「私はアン様の護衛ですから、摘果作業は勤務外です。それこそ畑違いと言うものです」
「う?うん・・・そうだよね・・・護衛と竹串作りで忙しいよね・・・」
ユーゴがしっかり頷いていた。まだ竹串を作っているようだ・・・竹串は助かるけど・・・竹串作りや、収穫作業は勤務になるのだろうか?・・・今は考えないでおこう・・・そうだ、奥の方にポワールの木があるって言っていたよね。
「ユーゴ、お願いがあるの」
「なっ、何でしょうか?」
ユーゴまで・・・そんなに驚かなくてもいいのに。
「ポワールの実を3つ取ってほしいの」
「まだ食べられませんが、よろしいのですか?」
「うん・・・ジェローが気付かないような所から取ってくれる?」
「ちょうど3つ下に落ちていますが・・・これは摘果作業をしたものでは?」
ユーゴが小さな実を拾ってソフィに渡していた。
落ちていた実でもいいだろうか?
すぐに部屋に戻って、落ちていた実をソフィから受け取った。
摘果作業をしたばかりだから、まだしおれていない。
前に未熟な実に魔法をかけて、熟したことがあったから何とかなるかも。
試しにそっと魔法をかけてみた。
・・・実は大きくなったよ・・・やった。
「ネージュ、これは食べられる?」
「ピッ」
横でじっと見ていたネージュに聞いてみたけど、大丈夫のようだ。
「早速、食べてみようか?」
「ピピイ」
ソフィに「種は使うから捨てないでね」と頼んで3つとも皮を剥いてもらった。
一口食べてみたら、みずみずしくて甘かったよ。
・・・明日、植えに行けるよ。
「ピッピィ」
ネージュも美味しいと言っているから・・・大丈夫。
「ソフィもポワールを食べよう。フォセットやユーゴ達にもポワールを分けてあげてね。それと明日は午前中に東側の畑にシャテニエの収穫に行くよ。ポワールも植えちゃう」
「収穫・・・植える?・・・わ、わかりました」
「コンスタンに作ってほしいものがあるから育てて、収穫するの」
「あの・・・シャテニエの収穫は素手ではできませんから、道具が必要なはずです」
「あっ・・・イガがいたいから手袋がいるの?」
「手袋もそうですが、確かシャテニを拾う専用の道具があったはずです。ジェローに確認してきます」
「それなら先に厨房に行ってくれる?コンスタンにこの紙を渡してほしいの。明日の午後に詳しく説明するから、必要な材料とパン生地を用意してほしいと伝えてね」
新しいメニュの作り方を書いてコピーした紙を3枚、ソフィに手渡した。
「厨房に行ってから、ジェローに聞いてきます」
専用の道具って何だろう?
ソフィを待つ間、ネージュの口にポワールを入れながら考えていたら、いつの間にかネージュの目が閉じていた・・・寝ている?
「ネージュ、ここで寝てもいいからね」
「・・・ピ・・・」
試しに声をかけてみたら、一声発したけど目は閉じたままだった。
眠っていても返事が出来るネージュは、几帳面なのかもしれない。
とりあえず明日の事を、扉の外にいるユーゴに伝えておこう。
扉を開けて顔だけ出すと、扉の横に立っていたユーゴと目が合った。
「アン様、どうされました?先ほどソフィが出て行きましたが」
「明日の事でいろいろ確認してもらっているの。ユーゴは明日もいる?予定を伝えておこうと思って」
「明日の予定ですか?」
「うん、明日は午後から試食会もするの」
「明日は絶対います」
「・・・・わ、わかった。午前中はシャテニエとポワールの収穫をするからね」
「シャテニエは厚手の手袋と火ばさみ、それにシャテニを入れるバケツが必要です。他の護衛にも用意するように伝えておきます。あと丈夫な靴を履いてきた方がいいですね。アン様は離れたところで見学をしていてください。イガは怪我をしやすいので一緒に収穫は出来ません。決して木には近づかないと約束して下さい」
「・・・ソフィはそれを知りたくてジェローのところに行ったの」
「・・・そ、そうでしたか」
「それと・・・アンは見ているだけにするね」
「はい、そうしてください」
「・・・うん」
ソフィ・・・ごめんね。もう解決してしまったよ。明日の試食会はたくさん食べていいからね。
息を切らして戻って来たソフィは、ユーゴと同じことを言っていた。
「もう知っているよ」とは言えなくて、黙って聞いていたら「ユーゴさんたちにも伝えてきます」と言って扉の外に向かって行った。
「知っていますよ」とユーゴが言わないように、何とか合図を送ろうと思っていたら、なんとソフィの話を嬉しそうに聞いて、「そうか、わかった。気遣いに感謝する」とお礼まで言っていた。
ユーゴはソフィに凄く優しかったよ。
この調子でアンとソフィには親切にしてほしいと思う。
今日は秋のメニュに使うポワールとシャテニエを収穫するよ。
シャテニエの収穫の時は少し離れた場所で、見学をするように言われている。
でも「念の為に飛行服は着て行きましょう」とソフィが言ったから、朝から着替えたの。
また新しい飛行服が増えていた・・・今日の飛行服は夏らしい薄い水色に襟元に白いレースが付いている。
前空きの服のボタンはお花の形だったよ。
ボタンの縁は濃い青で中心部分は飛行服と同じ薄い水色。
ズボンは足首まであって、オフホワイトの靴は丈夫そうな皮で出来ていた。
ネージュとキリーはツバの反り返ったセーラーと言われる形の帽子で、ツバの部分は白いレースが付いていて右側にアンの飛行服と同じお花の形のボタンが付いている。
ネージュに帽子をかぶせて庭に行くと、キリーが庭で待っていた。
いつも思うけど、アンの出かける時間がどうしてわかるのか・・・不思議だよね。
「ピピー!」
「グッワワァ」
会うたびに、お互いを「キリー」「ネージュ」と呼び合っているけどこれは挨拶らしい。
「キリーの帽子もあるからね。これを被って東の畑に行くよ」
「グワァ」
嬉しそうに頭を下げてきた。
帽子を被せてあげたけど、眉模様は隠れない・・・夏らしくてかわいい帽子だからこれはこれでいいと思うことにしている。
「アンたちは馬車で行くから、ネージュとキリーは飛んでいく?」
「グワァ」
「ピッ」
「東側の畑で待っていてね」
キリーが頷くとネージュとともに飛んで行ってしまった。
アンとソフィは馬車で、ユーゴとマクサンとジュスタンは馬で並走して、屋敷の護衛も前と後ろで4人もいた。
護衛たちも丈夫そうな皮靴を履いているから、シャテニエの収穫をしてくれるようだ。
東の畑に着くと、シャテニエの木は姫ポムの木の奥の方にあるとユーゴが教えてくれた。
でもその前に昨日食べたポワールの種を植えないとね。姫ポムの木の前が広く空いているからここいいかな。
「ユーゴ、ポワールの種をここに撒いてほしいの」
小さな袋に入れた種をポケットから出して見せた。
「昨日食べたポワールの種ですか?」
「うん、そう。あの摘果作業で木の下に落ちていた実を大きくしたの。甘くて美味しかったよね」
「えっ・・・あれですか?」
ユーゴの顔が困惑したように見えるのは気のせいだろうか?
美味しいって言っていたのにね。
ポワールの種は10個あるから、姫ポムの木から少し離れた横に全部蒔いてもらい、成長魔法をかけて小さな実がなるまで育てた。
ポワールは姫ポムより魔力を使う・・・成長の遅い木なのかもしれない。
9本はここを管理している人に任せて摘果作業をしてもらえばいいかな?
魔力を使えば実は大きくなるけど、お日様とお水で育てるなら摘果しないとだめなのかもしれない。
今日は1本だけ実が熟すまで成長させよう。これだけあれば十分だよね。
魔力を注いで実が大きくなると甘い香りが漂ってきた。そろそろいいかな?
「実がなったから、収穫をしてね」
「マクサンス、屋敷の護衛と収穫をしてくれ」
「はっ」
ユーゴが指示を出すとマクサンスと屋敷の護衛二人が木箱をどこからか持ってきて収穫を始めた。
摘果作業をしなくても何とかなった・・・良かった。
次はシャテニエだね。
姫ポムの木の奥に行くと、太くて大きな木が5本そびえ立っていた。
緑色が濃く細長い葉の木には、白っぽくて細長い花が付いている。
でも隣の木は葉が少し丸く、花は少し黄色っぽい。
さらにその隣の木は葉が細長いけど、花が薄いピンク色だった。
「あれ?シャテニエの木の種類が違うね」
「アン様、シャテニエの木はいろいろな品種を混ぜて育てた方が味のいいシャテニエになる確率が高いと聞いたことがあります」
「そういえば、そんな記憶がうっすらあるかも・・・確実なのは接ぎ木がいいって聞いたような?・・・ユーゴはシャテニエに詳しいね」
「シュバリエ領にシャテニエの木がたくさんあって、秋になると焼いて食べていました・・・あの薄いピンクの木がシュバリエ領から持ってきた木です」
「そうだったのね。シュバリエ領のシャテニエが美味しいなら、そこから買い取ることはできるのかな?」
「売るほどの量はと採れないと思います。宿泊に来る人達に焼いたものを配っていますから」
「それは残念・・・ノール本店にも植えたいと思っていたの。ここの木から接ぎ木して持っていけばいいかな?実で育たないかな?」
「種から育てると、親の木とは異なる実がなるので、全部が美味しいとは限らないです」
ユーゴはシャテニエ二の事に詳しいよね。もしかしてシャテニが大好きなのだろうか?
茉白のおばあちゃんが桃栗3年柿8年ユズは9年でなりさがる。梅のなんとか13年でナシのなんとかは18年と言っていた。ユズ以降がなんとかしわからないのは、茉白が聞き流して、ちゃんと聞いていなかったからだと思う。
この言葉からいくとシャテニエは実がなるまで3年もかかるということだよね?それにポワールは18年・・・魔力を使うはずだよね。
そんなに待っていられないから、頑張って育てちゃうよ。ペーシュだってすぐに育ったしね。
魔法をどんどん使えば、アンの魔力量も増える。
お父様に心配かけないように、魔力はたくさんあるよって安心させてあげないとね。
「魔法をかけるね」
「ピー」
ネージュがアンの名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「・・・ピッピ」
「ネージュもやりたいの?」
「ピッ」
「騎士団で制御の訓練もしたから大丈夫だよね」
「ピッ」
「きょうは1本だけだから、二人でやれば一瞬かも」
「ピッ」
「いくよー」
ネージュと一緒に成長魔法をかけると凄い量の光魔法がシャテニエに降り注がれ、一瞬で実がなり、イガが割れ、イガと一緒に地面に音を立てて落ちてきた。
ドサッ、ドサドサ、ドドドッ、ドサドサ・・・ドサッ
「グワワワァー!」
「アン様!怪我はありませんか!」
キリーが「守る!」と言って、風魔法で覆ってくれたらしい・・・ユーゴが放った風魔法まで包んでいた。
キリーの魔力量も多いようだ。
「うん、大丈夫・・・魔法をかけすぎたみたい・・・」
「・・・ピッ・・・」
「・・・グワ?」
護衛たちは口を開けて地面に落ちたシャテニエの山を見ていた。
落ちたものは仕方がない。
ついでに枝も少しもらって接ぎ木も作ってみようかな?
ネージュと一緒にやれば接ぎ木もすぐに大きくなってシャテニエがたくさん収穫できそうだよ。
「ちょっと派手だったけど・・・拾いやすくなった・・・よ、ね?」
思わず目をそらしてしまった・・・。
ネージュは不安そうにアンとキリーの顔を何度も見ていた。
ネージュもやりすぎたと思ったらしい・・・。
「ア、アン様、シャテニエを拾いますから・・・下がって待っていてください」
「・・・うん」
少しだけ落ち込んだように見えるユーゴが声をかけてくれた。
キリーに風魔法を包まれたのが、いやだったのだろうか?
魔力量が違ったのかも・・・キリーは聖獣だから仕方ないよね。
護衛たちが火ばさみでシャテニエを拾ってくれる・・・ではなく、なぜか手で拾っていた。
ゴトン、ゴトンゴトン、ゴトン。
ゴトン、ゴトン、ゴトンゴトンゴトン。
バケツにシャテニを入れるたびに、大きな音がしている・・・そういえば木からイガごと落ちてきた時にドサッ、ドドドとか言っていたけど。
「シャテニエが大きすぎてバケツに入りきらないです。今拾った分は厨房に運び、残りは後から荷馬車で運びますので、一先ず屋敷に戻りましょう」
バケツに入らない?・・・荷馬車?・・・なに?
悩んでいたら、ユーゴがバケツの中のシャテニを見せてくれた。
・・・オオキイ、ネ?・・・。
忘れていたよ・・・。
一個のイガの中にシャテニエは一個しか入ってないから、もともとアンの拳くらいあったような・・・。
それに魔力をかけすぎたから凄く大きくなってしまったらしい。
ユーゴの掌と同じ大きさのシャテニエは、バケツに8個しか入らないと言っていた。
どうやらやりすぎたらしい・・・。
次回の更新は3月13日「84、秋の高級お菓子とパン」の予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




