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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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79、ベル兄様からの贈り物

 ネージュと一緒にソファーに座って、久しぶりにのんびりとお茶を飲んでいるの。

 ネージュはお茶を飲まないから、ペーシュを口に入れてあげている。

 口に入れるたびに、「ピッピィ」と嬉しそうに鳴いてとても可愛い。

 美味しいと言っているんだよね。

 そんなまったりとした時間を過ごしながら、昨日お父様と沢山お話をした事を思い出していた。


 お父様が「背に腹は代えられない」と言ったの。

 この言葉がこちらにもあったなんて知らなかったよ。

 茉白がまだ小さい時に近所の子に意地悪をされて泣いていたら、おばあちゃんが怒鳴りながらやってきて、箒を振り回して追い払っていた。

 茉白が泣きながら「箒を振り回してはだめ」と言って止めようとおばあちゃんの手を掴んでいた。 

 おばあちゃんは「あんな固そうな頭を手で叩いたら手が痛くなるもの。背に腹は代えられないの・・・しかたないでしょう?」と言っていた。

 言葉の使い方はお父様の方が正しいような気がする。

 おばあちゃんは茉白を守りたいけど、自分の手も守りたいらしい。

 どっちも守りたいという気持ちは、わからないでもない・・・。

 アンにも家族と家族同然のネージュとソフィ、それからユーゴたち護衛、フォセットやお友だちと、傷ついてほしくない人がたくさんいる。

 アンが箒を振り回して守れるとは思えないけど・・・。

 あっ・・・キリーも家族同然だよ。忘れてないからね・・・。

 とっても大切だよ、アンを乗せて飛んでくれるもの。

 それに、キリーは命の恩人だから。

 幸せは、目の前にあるとわかったの・・・今はこの幸せを大切にしたいと思えるよ。


「アン様、お手紙が届いております。荷物も届いているとの事で、保冷室に運んだそうです」


 ぼんやりと昨日の事や茉白の記憶を思い出していたら、荷物と手紙が届いていたらしい。

 封筒の差出人の名にベルトラン、テールヴィオレットと書かれているのを見て思わず口角が上がってしまった。

 ・・・嬉しい。ベル兄様から手紙と贈り物が届いたよ。


「保冷室に入れる荷物?・・・何が届いたのかな?・・・手紙に書いてあるよね」


 ソフィから手紙を受け取ると、フォセットがアイスペーシュティーとクッキーとネージュのペーシュの追加をテーブルに置いてくれた。


「ソフィとフォセットも休憩してお茶にしたらいいよ」


「ありがとうございます」


 ソフィがお茶の用意をしている間、フォセットはネージュにペーシュを食べさせ始めた。

 フォセットは、アンが出かけた時やソフィがいない時はネージュのお世話をしてくれているの。

 嬉しそうにお世話をしているフォセットは、ネージュが好きなのだと思う。

 キリーの事も早く好きになってくれるといいな。


 フレーズの収穫が終わりに近づき、今は旬のペーシュがネージュのおやつになっているけど、ペーシュも秋の初めには収穫を終えてしまう。

 秋になったらシャテニエなどの木の実を食べてくれるかな?

 秋の果物の方がいいだろうか?


 そういえばこれから旬を迎えるシャテニエは、いがから出しても硬い鬼皮と中に渋皮があるから、むく作業が大変かもしれない。

 確か皮むき器というのが茉白の世界にあったけど、屋敷にもあるのかな?

 カジミールに聞いてみないと・・・まずは手紙を読まないとね。

 シャテニエの事はまた今度考えよう。


 ベル兄様は南の領地に行ってもう3ヶ月が過ぎたけど、水龍に会えたかな?



『親愛なるアンへ


 こちらに来てからあっという間に3ヶ月が経とうとしているけど、アンは元気に過ごしているかい?

 無茶をして熱を出していないかと心配しているよ。


 南の領地に来た時は、春なのに北の領地の夏のような気温でとても驚いた。夏はどれだけ気温が上がるのか・・・少し不安になるよ。

 アンに氷が欲しいと言われて訓練しただろう?そのお陰でこちらでも非常に役に立っているよ。

 冷たい飲み物に不自由せずに過ごせているからね。

 もし夏があまりにも暑かったら、部屋の一部を保冷室にしてしまおうかと、ちょっと頭の隅によぎったよ。


 そうそう、こちらに来てすぐに船に乗ったんだ。

 海はどこまでも広く、そして空より深い青色が美しかった。

 船上で微かな潮香のする風を受けながら海を眺めていたら、水龍が現れたんだ。

 しかも親子だよ。

 会いたいと思っていた水龍にこんなに早く会えるなんて・・・とても感動したよ。


 図鑑で見た水龍は薄い緑色だったけど、実際は青に近い緑だった。

 鱗がキラキラと光った美しい親子でね、水龍は人につかないと聞いていたのに、こちらを見たんだ。

 目が合うと「キュルルル」と鳴いて、とても可愛いと思ったよ。

 なんだか「こちらにおいで」と呼ばれているような気がして、船から身を乗り出そうとした瞬間、護衛のクレマンに捕まってしまってね・・・海に飛び込むのは断念したよ。

 船員の話によると、海岸にも時々来るらしい。その時に水龍の機嫌がよければ触れることができると教えてもらったよ。

 北の領地に戻る前に是非とも水龍に触れてみたいと思う。

 アンがキリーに乗って空に向かって飛びたいと願ったように、私も水龍に乗って海を渡りたいと願ってしまいそうだよ。

 ・・・アンのように実行はしないけどね。

 すぐに水龍を見ることができたから、南の領地に行った第一の目的はもう果たしてしまったよ。

 でもせっかく南の領地まで来たのだから、次の目標を作ったよ。


 現在、南の領地では水龍の数が減っているから、水龍を増やそうと研究をしていると知ったんだ。

 私もその重要な研究に携わりたくて、臨時の研究員として参加したいと希望を出したら、春の2の月に漸くその許可が出たよ。


 海は小型の舟や人を襲う魚がいる危険な場所でもある。

 だけど、その魚を水龍が餌としているから、一定の数の水龍がいれば、危険な魚が増えずに済むんだ。

 だからこれ以上水龍が減らすわけにはいかない。

 漁師が海に出られなくなると、魚介類が捕れなくなるからね。

 海岸沿いの領地は肉より魚介類の方が多く食べられていると聞いたよ。

 価格も安く、庶民の食生活にはなくてはならないものだから、生活を守るためにも、水龍を増やす研究は進めなければならないということなんだ。

 今は毎日のように海に行っているから、時々海軍の宿舎にも泊っているよ。


 研究の合間に、漁師たちが捕った魚の保存方法なども聞いてみたけど、年中夏のような領地では保存が難しいらしく、出来るのは干物だけだと言っていた。

 干物は野菜と一緒に煮込んだ、塩味のスープになる。

 魚の出汁がよく出ていて美味しいけど、三日三晩続くと流石に他のものが食べたくなったよ。

 たまに黒っぽくて固いパンが付くけど、漁師にとっては干物入りのスープが主食のようなものらしい。

 北の領地や王都は食に恵まれているのだと思ったよ。


 折角捕れた魚介類を干物にばかりせず、できるだけ生の状態で保存をしたいと思い、漁業を営む商会に大きな保冷室を作らないかと交渉したんだ。

 南の大領地の当主、フールージュ公爵の了承も得ると、それはもう凄い勢いで作ったよ。

 ・・・作ったというより建てたかな?

 北の屋敷の裏にある使用人たちが住んでいる、あの2階建ての建物のように大きくなってしまったから、予算が不足するのではないかと不安になるほどだったよ。

 商会の建物と同じ大きさの保冷室が隣接している感じかな。

 フールージュ公爵にはすごく驚かれたけど・・・漁師たちや商会にはとても喜ばれたよ。

 当然、魔力の多い人には氷魔法も取得してもらったから、後は商会でやれると思う。

 商会の上層部はみな貴族だから魔力には困らないだろうし、護衛も魔力量が多いからね。

 20人くらいで氷を作り始めたけど、あの建物に大量の氷を置くため、久しぶりにたくさんの魔力を使ったよ。

 領地の人は、クタクタになるまで氷づくりをしていたけど、意外と楽しんでいたようだった。

 氷は珍しいから家族に冷たい果実水を飲ませたいと、皮袋に氷を詰めて馬で駆けて行った人もたくさんいたよ。

 領地のためにと、目の下にクマができるくらい魔力を使って、家族のためにと更に頑張るその深い愛情を感じて、私も自分に家族が出来たらそうありたいと思ってしまった。


 氷魔法も慣れてくれば、保冷室の中でなくても作れるようになると伝えたら、訓練も兼ねて作り続けるとみんなが言っていた。

 あの大きな保冷室の氷の心配はもういらなさそうだよ。


 今は忙しくも充実した日々を送っているから、アンもやりたいことは楽しんで進めていくといいよ。

 この手紙が届くころは、南の領地の特産品が龍の宅急便で届いていると思う。

 今回、特産品を贈ることができたのは、保冷室と保冷庫と龍の宅急便があるから実現できたことだ。

 これはアンのおかげでもあるからね。

 だから美味しく食べてくれたらうれしい。


 木箱にエビや貝、魚を氷と一緒に詰めて、これから妹に贈ると言ったら、領地から魚介類を出すのは始めてだと漁師が驚いていたよ。

 これからは各領地に魚介類を出荷できれば、海沿いの街はもっと栄えると思う。

 これはフールージュ公爵とも話をして、父上にも手紙で知らせてある。

 いずれ王都で話し合うはずだよ。王城でも魚介類が食べられるようになるから、陛下たちも喜ばれると思う。

 ただ出荷量には気を付けないといけないけどね。


 今回贈ったのは、捕れたばかりのエビと2枚貝と魚だよ。

 冷凍してあるけど、アンなら何か作れるよね?たくさんあるから、いろいろ試してほしい。

 父上と相談してから、作り方を知らせてもらえるとありがたい。

 こちらでは干物以外は塩茹でか塩焼きくらいしかないから、飽きてしまうんだ。

 楽しみにしているよ。


 久しぶりだから、長い手紙になってしまったけど、くれぐれも身体に負担をかけないようにね。


                   アンの一番大好きなベル兄様より 』



 ベル兄様が自分で『アンの一番大好きなベル兄様より」と書いていた。

 ・・・まぁ、本当のことだからいいけど。


 それよりもエビ!

 エビだよ!

 先ずはエビが食べたい。

 エビフライとエビグラタンとビスクスープ・・・食べたいものがいっぱい

 時間があればエビのオーロラソース和えとガーリックシュリンプもいいかも。

 お魚はどうやって食べよう?

 まさか、まぐろや鮭とか・・・カツオ?それに鯛やヒラメが届いていたら舞い踊っちゃうよ・・・。

 2枚貝も送ったと書いてあったけど何という貝だろう?ホタテはあるかな?

 魚介類は塩茹でか塩焼きしかないと言っていたから、フライがいいかな?

 思い浮かんだものをメモしないとね・・・とにかく楽しみでしかないよ。


 ベル兄様は「作り方を知らせてもらえると嬉しい」と、手紙に書いていたよね。

 もしかして美味しいものが食べたいから、贈ってきたのかな?

 アンも食べられるからいいけど。

 後でお父様に聞いて、許可が出たらベル兄様に手紙を書こうかな?

 それに王族へまた恩が売れるよ・・・お父様。


 ベル兄様の夢は水龍に会うことだったから、すぐに叶って良かったよね。

 今度は水龍に乗りたいと願ったのなら、アンが龍に乗りたいと思う持ちと同じだよ。

 アンと違って実行はしないと言っていたけど、船から飛び出そうとして止められたのだから、実行したのだと思う。

 アンは誰にも止められないように気を付けて実行したよ。心配をかけてしまったけど・・・。


 水龍を増やすことが、南の領地では重要な問題のようだけど・・・どうやって増やすのだろう?

 アンみたいに卵を抱えてお母様になるのかな?

 もしかしてベル兄様も卵をおんぶ紐で背負ってお出かけするのかな?

 ・・・似合わないかも。

 ベル兄様なら周りの目など気にせず、研究の為と言って実行しそうだ・・・。

 どんな姿になっても、ベル兄様が参加している研究がドンドン進めばいいよね。

 ・・・でも1年で戻れる研究なのかな?

 ベル兄様の夢はどこまで膨らんでいくのだろう?・・・でも楽しそうだよね。

 早く帰ってきてほしいけど、その言葉は言えなくなってしまった。


 ベル兄様の為にも、先ずは何が届いているのか見に行かないと・・・ちょっとワクワクする。

 エビはグラタンがいいよね。

 ・・・あっ、マ、マカロニがない!・・・代わりのものを何か作らないと。


「ソフィ、明日厨房に行きたいの。ベル兄様が送ってくれたエビと貝と魚を解凍するように、カジミールに伝えて。あと、パン粉とタルタルソースも用意してほしいと伝えてくれる?」


「わかりました」


「明日、ネージュとキリーが出かけたら、フォセットは時間ができる?試食会に参加してほしいの」


「よろしいのですか?」


「うん、たまには一緒に美味しいものを食べようと思って」


「お気遣いありがとうございます、嬉しいです」


「良かった、明日が楽しみだね」




 今日は試食会があるからお昼は少なめに食べたの。

 ソフィやユーゴたちにも試食会があるから昼食はたくさん食べないように伝えておいたよ。


 昼食後、すぐに厨房に行くと、アンの掌よりも大きなエビがたくさん用意されていた。

 タルタルソースやパン粉もある。


「カジミール、今日はエビグラタンとビスクスープ、それにエビフライを作るの。最初にエビグラタンの材料から用意してもらうね」


「わかりました。エビの料理は初めてですから、楽しみにしていました」


「見たのも初めて?」


「私は南の領地でゆでたものを食べたことがあります」


「私は実物を初めて見ました。図鑑では見たことがありましたが、何度見ても凄い顔ですね」


 カジミールは食べたことがあるらしい。コンスタントは図鑑で見たと言ったら二コラは首を縦に振っていた。

 ユーゴ達も横からエビを覗いていたけど、ちょっと眉をひそめている。

 初めての人は驚くかも。アンの記憶の中にもエビはあるけど、目の前のエビを触りたいとは思わない・・・生きていたらそばにもいけないと思う。コンスタンが凄い顔と言ったけど、凄いではなく変な顔だよね。



「グラタンにはマカロニがいるの、小麦粉でマカロニの代わりになるものを作ってもらおうと思っているの」


「マカ、ロニ・・・?ですか?」


「マカロニは筒状で中が空洞だから作るのが面倒なの。今回はファルファッレと言うのを作ろうと思って、手順を紙に書いて来たから先に読んでくれる?」


 パスタ生地を作ってリボンのような形にしてもらうの。

 ファルファッレは蝶と言う意味らしいけど、形はリボンにしかならないと思うの。

 マカロニがないからパスタで代用するか、パスタを使わないでジャガイモを入れるか・・・悩んだの。

 パスタは生地を休ませないといけないから時間がかかる。

 でもパスタは冬のメニュにも使える。

 パン生地だって発酵させる時間がいるもの・・・カジミールたちに頑張ってもらうことにしたよ。

 それにしても今、夏なのにグラタン・・・汗だくで食べる事になりそうだよ・・・部屋に氷を置いて涼しくしてもいいかな?


 カジミールとコンスタントとニコラに紙をそれぞれ渡して読んでもらう。


『ファルファッレの作り方』


 1、小麦粉と塩を混ぜ合わせて、真ん中にくぼみを作って卵液を入れる。

 2、周りの粉少しずつ卵液にかぶせながら粉に水分を吸わせる。

 3、粉っ気が少し残るくらいで、丸くまとめて布をかぶせて休ませる。

 4、生地がなじんできたら、台の上で生地を伸ばしては折り込む作業を20回ほど繰り返す。

 5、生地が滑らかになったら丸めて、乾燥しないように固く絞った布に包み、涼しいところで暫く休ませる。(保冷室の手間の部屋は温度が低いからそこに置くといいよ)

 6、しばらく休ませた生地を、3等分して棒で2ミリぐらいの厚さになるように伸ばしていく。

 7、伸ばした生地は幅4センチくらいに切っていく

 8、切った生地を2センチ幅に切って、真ん中をつまんでリボンのような形にする

 9、リボンをお湯で茹でる。茹で上がったら湯切りをする。』



「アンジェル様、さっそく作ってみます」


 カジミールは読み終えたのか、やる気満々のようだ。


「コンスタントと二コラはエビの下処理をしてくれる?」


「下処理とはどのようなことするのですか?」


 コンスタンがエビをつまんで聞いてきた。


「頭を取って、身のところの殻を外すの。エビの両足の間に親指を入れて、そのまま殻と身を引き剥がすように片側へと身を寄せていくとツルンって剥けるらしいの。大きいエビは尻尾を残すから、尻尾と殻を切り離してね。小さい方は全部外していいよ」


「わかりました」


「殻をむき終わったら、背ワタを取るの。あっ・・・竹串の予備はある?」


「たくさんあります。ユーゴ様が定期的に竹串を届けてくださいますので」


「ユーゴが?ずっと作ってくれていたの?」


「たまにですが・・・マクサンスとジュスタンも作っていますよ。もう慣れましたから、すぐに作ることができます」


 ユーゴは胸を張って答えていた。


「そうだったの。いつもありがとう。何かお礼をしないと」


「いえ、それには及びません。カジミールから返礼を受けています」


「返礼?」


「アレクサンドル様から好きなものを渡すようにと、言われております」


 カジミールも当たり前のように答えているけど、いいのかな?


「ユーゴ達は何をもらっているの?」


「その時によって違いますが、多いのはナッツのスコーンやカツサンドです。昨日は特性ハンバーガーとフライドポテトを受け取りました」


「そ、そう・・・」


 お腹の膨れるものばかりだけど、竹串数本の対価にしては高くないだろうか?


「毎月3人で300本は納めています・・・一日4、5本程度作ると一か月で一人100本は超えます」


 ユーゴは得意げに答えると、マクサンスとジュスタンは頷いていた。

 護衛の仕事以外に竹串職人をやり続けていたらしい。しかもマクサンスとジュスタンまで竹串職人になっていたよ。


「カジミールは毎月300本の竹串を使っているの?」


「店と屋敷、それに王都の店や屋敷でも使いますから、予備も含めて少し余裕があるくらいでしょうか」


「今回エビに竹串を使ったら足りなくなる?」


「アン様、心配には及びません。器用な護衛はまだ数人います」


 ユーゴが笑顔で堂々と言った・・・竹串職人を増やす気らしい。


「それでいいの?木工職人に頼むこともできるよ?」


「やりたいという護衛もおりますから、ご心配なく。不測の事態に備え予備もかかえております。当面は心配ないはずです」


「そ、そう・・・」


 ・・・不測の事態?

 もしかしてユーゴ達は竹串を作るのが好きなのだろうか?作るというのなら任せるけど。それに自ら在庫を抱えている?


 竹串で悩んでいたら、エビの下処理が終わっていた。

 カジミールもパスタになる生地を涼しい部屋で休ませたと言っている。


「フォアルファッレはまだ時間がかかるから、先にエビの殻でビスクスープを作ってもらうね」


「殻は浅い鍋で先に焼くように炒めておくと後の調理が楽だよ」


「それは二コラに任せましょう」


「はい!」


 カジミールに任されたのが嬉しかったのか、張り切って返事をしていた。

 ニコラは厚手の浅い鍋にエビの殻を入れて炒め始めた。


「材料はオニヨンとセロリとカロットそれにニンニクを薄切りにするの」


 シチューを作くる時に使った玉ねぎをオニヨンと言っていたよね。


「セロリと言うのはセルリでしょうか?それにニンニクとはどのようなものですか?」


 カジミールたちには通じなかったよ。

 結局、食糧庫へ材料を探しに行くことになり、行って見ると大きな玉ねぎがあった。

 凄く大きい・・・ユーゴの掌より大きかったよ。

 セロリはセルリ、ニンニクも大きいけどあった。アンの掌くらいの大きさで、アイユとカジミールが言っていた。

 トマートも大きい、これも玉ねぎと同じ大きさだった。これもコンスタンが持ってきた籠に入れてもらう。

 白いマッシュルームのようなキノコもあったから、それも持ってきた。これもユーゴの握りこぶしくらいあったよ。

 これはキノコと言っていた。

 名前は・・・キノコでいいのかな?他にキノコの種類はないのかちょっと不思議だったけど・・・今は気にしないでおこう。

 あっ、白ワインもいるんだった。

 ブドウで作ったお酒もいると言ったら、白と赤があると言われたから、「白いの」と言ったら、ヴァンブランだとコンスタンが教えてくれた。

 ついでにと言って、赤いのはヴァンルージュだとユーゴが教えてくれたけど、時々赤い方を飲んでいるという情報もくれた。

 それはいらない情報だと思ったのは内緒だよ。

 あとは千切りキャベツもいる。それとレモンだよね。

 キャベツはシューでレモンはスィトロン。

 シューは凄く大きいから、ユーゴに持ってもらった。


 材料がそろったから、ビスクスープつくりを再開する。 

 オニヨン、セルリ、カロット、アイユは薄切りにしてもらう。

 厚手の浅い鍋に油とアイユを入れて熱して、炒めたエビの殻を入れて、香ばしい香りが立つまで焼いく。

 次にエビの身を入れて火が通る程度にさっと炒め、白ワインを加えて煮立たせて身だけ取り出す。

 その鍋にバターを加えて溶かし、オニヨン、セルリ、カロットを加えてしんなりとするまで弱火で炒める。

 塩、コショウ、刻んだトマートを入れて時々潰しながら煮込む。

 ここからは茉白はミキサーと言う機械を使っていた。これは風魔法で撹拌できるかな?


「カジミール、全部すりつぶして細かくしたいの」


「それでしたらすり鉢ですり潰すか、風魔法で攪拌させるという方法もあります。すり鉢の方が時間はかかりますが、滑らかになります」


「最後は布でこすから両方とも試してくれる?」


「わかりました」


 結果、すり鉢の方が滑らかだったけど、布でこすとさほど変わらないから、カジミールたちのやりやすい方でいいと伝えた。


「こしたものをまた鍋に入れて、生クリームとさっき火を通したエビを入れて温めたら出来上がりだよ」


「わかりました。後はニコラにまかせます。私は先ほど休ませていた生地でファルファッレを作ります」


「作り終わったら、固めに茹でておいてね。もう、大きい鍋にお湯を沸かしておいてもいいかな?」


「私が用意します」


 コンスタンがすぐに鍋を用意して、水を入れ始めた。

 カジミールは先ほど渡した手順書をもう一度確認してから、生地を持ってきて伸ばし始めた。

 伸ばした後は生地をすべて切っていく。

 切った生地の真ん中を手でつまんではリボンの形にととのえていると、コンスタンもリボンを作り始めた。

 コンスタンがフォアルファッレを茹でるようだ。


「窯を温めたら、グラタンの作り方を説明するね」


「お願いします」


 カジミールが返事をすると、コンスタンが動いた。誰も何も言われなくても、すぐに動けるのがすごいと思う。

 ファルファッレを茹でる準備をしながら、窯に火を入れるコンスタン。

 その様子を見ながらカジミールは紙とペンの用意をしていた。


「説明するね。オニヨンは薄切り、カロットは縦に4等分して薄く切る。キノコも薄切りにしておく。背ワタを取ったエビは塩でもんで洗い流し、水気を取っておく。厚手の鍋に油を入れてエビを炒め、色が変わったら取出してね。鍋にまた油を入れてオニヨン、カロット、キノコを炒めしんなりしたら取り出す。鍋の汚れを取ってバターを入れ、バターが溶けたら小麦粉をふるいながらいれて、ひとかたまりになるまで木ベラでよく混ぜる。弱火のままミルクを少しずつ加え、その都度よく混ぜる。全体が滑らかになったら塩、コショウをして、炒めておいた野菜とエビと茹でたファルファッレを入れて混ぜ合わせる・・・こんな感じかな?」


「それほど時間はかからないですね」


「時間がかかるのはフォアルファッレだよね。フォアルファッレの代わりに茹でたおいも・・・じゃなくて茹でたポムドゥテールを入れてもいいよ」


「いろいろな材料が使えそうですね」


「エビがないときは鶏肉でもいいの」


「それも良さそうですね。それに燻製肉も使えそうです」


「うん、今後の創作はカジミールにお任せするね」


「承りました」


 にっこり笑って引き受けてくれたから、いろいろなグラタンが出てきそうだ・・・楽しみ。


「グラタンは深めの器に入れたら、チーズを上にのせてその上にパン粉を少しかけるとこんがり焼けるの。あとは窯で焼いてね。焼いている間にエビフライを作るよ」


 コンスタンがグラタンを作っている間、ニコラが少し小さめのココットを出していた。

 カジミールは、背ワタは取ったけど尻尾が付いたままのエビを調理台に乗せ、かみとペンを持って指示を待っている。


「最初に、エビが丸くならないように筋を切るの。尾の先を包丁の背でしごき、エビのお腹側に2、3箇所に浅く切り込みを入れて、胴全体を伸ばしてね。次に卵を容器に入れてよく混ぜたら、エビに小麦粉、卵、パン粉の順に衣をつけていくの。そして鍋にエビが隠れるくらいの油を入れて、油が熱くなったらエビに火が通るまで揚げてね」


 ざっくり説明すると、カジミールは頷いて、エビに切れ込みを入れ始めた。


  二コラは大きくて浅い容器3つを、どこからか持って来た。2つの容器はそれぞれ小麦粉とパン粉をいれ、卵液を作ってもう一つの容器にいれた。

 厚手の鍋には油を入れて準備は整ったようだ。


 コンスタンはエビグラタンを窯に入れ終わると、シューを刻み始めた。

 カジミールは伸ばしたエビに衣をつけていき、温度が上がった油に入れて揚げていく。

  コンスタンがお皿に刻んだシューを盛って、真っ直ぐに伸びたエビフライを置く。

  ニコラは横にタルタルソースとスィトロンを添えた。

 最後にコンスタンが窯からエビグラタンを出した。


 遂に3品が完成した。

 これだけあれば結構食べ応えがあるよね。

 試食会は人数が増えて今回は品数が多いから、ソフィとフォセットがワゴンで隣の部屋まで運んでいた。


 皆の前にエビ料理が並び、全員が席に着いたのを確認した。そして恒例の掛け声だよ。


「みんなで海の幸の試食会を始めるよー!オォー!」


「オォー!」


 ニコラが答えてくれた。

 拳は顔の前、フォセットはちょっと驚いていたけど、怒ってはいないようだ。

 ソフィを見たけど、微笑んでいる。大丈夫、肩に手も置かれていない。


「では、いただきます」


 先ずはビスクスープにそっとスプーンを入れて、そして口に運ぶ。

 濃厚なエビの味が口の中に広がった。

 次にエビを食べる。プリプリしている。


「・・・美味しい」


 みんなも口に入れたとたん、固まっていた。

 ユーゴはきっと「まずいです。美味しすぎます」とよくわからない言葉を心の中で発していると思う。


 次にエビグラタンを食べる。

 ホワイトソースにもエビの味がしみ込んでいた。可愛いリボンの形のフォアルファッレは歯ごたえも少し残っていて美味しい。これは次回パスタでなにか作れそうだよ。


 最後はエビフライ。

 一口目はそのまま食べて、次はスィトロンを絞ってかけて食べてみる。

 最後はタルタルソースもつけて食べてみた。

 エビがプリップリ・・・エビフライが一番好きかも・・・グラタンも捨てがたいけど、やっぱりエビフライがいいと思う。


「うーん」と唸っていたり、うんうんと何かに納得したように、一口食べるたびに縦を首を振っていたりと表現は様々だけど、フォセットは澄ましてゆっくりと食べていた。

 エビはあまり好きではないのかな?


「フォセットはエビが苦手?」


「いいえ、どのエビも凄く美味しくて、好きになりました。このプリップリ感がとても好きです」


「口に合ってよかった」


 フォセットもプリップリって言っていた。この食感が凄くいいよね。


「美味しすぎると、人は固まるのですね」


「そ、そう?」


 フォセットは澄ましているのではなく、美味しくて固まっていただけだったよ。


「エビはこのように様々な料理方法があったのですね。良い勉強をさせて頂きました。ありがとうございます」


「カジミールに喜んでもらえてよかった。3品を作るのは大変だったと思うの。まだ少しエビが余っているね、焼いてオーロラソースをかけても美味しいはずだから、こんど・・・」


「オーロラソースとはどのようなソースでしょう?」


 カジミールが眼をキラリとさせて質問をしてきた。すると、コンスタンが「鍋を温めますか?」と言う。

 ・・・・作るつもりらしい。

 カジミールは微笑みながらアンを見ている。


「えっと・・・マヨネーズとケチャップとソースがあれば、簡単なの」


「ございますよ。常に作って保存しています」


 カジミールの笑顔が深まった・・・。


「エ、エビは小麦粉をまぶして焼くだけなの。オーロラソースはマヨネーズとケチャップは2対1で、カツサンドに使っている茶色いソースは隠し味程度に入れて混ぜるだけ。それをかけて食べるの」


「ありがとうございます。ニコラとコンスタンが作りますので、少々お待ちください」


 一緒に厨房に戻ると、コンスタンがエビに小麦粉をつけて、次々に焼いていく。

 ニコラがオーロラソースを作り始めた。


 あっという間に出来上がり、4品目の試食が始まった。

 これも美味しいね。


「酒が欲しい・・・」


 ユーゴがエビに向かって呟いていた。

 お酒に合うらしい・・・これはお父様と陛下が喜びそうだね。

 エビバーガーもいいかもしれないと思ったけど、今日はもうお腹がいっぱいになってしまったから、後からこっそりカジミールに伝えておこう。


「美味しかったね」


 みんなが頷いていた。


「今日の夕食は、お父様たちだけで食べてもらうから、アンの分はいらないよ。もうお腹がいっぱい」


「私も夕食は不要です」


「私も同じです」


 フォセットとソフィもお腹がいっぱいらしい。

 グラタンに入っているファルファッレが重かったかも・・・でも美味しかったよね。

 カジミールたちに、次のお料理の話も伝えておかないと・・・。

 お父様たちにはサロンでお話すればいいよね。


「ファルファッレも美味しかったけど、この生地で今度はパスタを作ろうと思うの」


「パスタですか?」


「うん、ベル兄様が贈ってくれた貝を使って作るの。2日後に作ろうと思っているの」


「問題ないです」


「良かった・・・ベル兄様がどんな貝と魚を贈ってくれたのか、見てもいい?」


「それでは、保冷室行きましょう」


 保冷室に行くと、アサリのような貝とホタテのように大きな貝があった。

 ユーゴの腕より太くて長いお魚とそれより少し小さい魚が何匹も入っていた。

 カジミールが「大きいのは赤み魚で小さいのは白身魚でしょう」と言って魚の顔をまじまじと見ていた。

 でも見る限り鯛やヒラメでもないと思う。


 エビはまだ半分も使っていないと言っていたけど、どれだけ贈ってきたのかな?

 嬉しいけど、また何か考えた方がいいのかもしれない・・・やはりエビバーガーがいいかな?


 保冷室を出てそのまま部屋に戻ることにした。

 カジミールには夕食のエビづくし料理を頼んで、フォセットにはお父様の時間が取れるようであれば、サロンでお話をしたいと伝えるように頼んだ。


 フォセットがすぐに戻ってきた。


「アレクサンドル様は長い時間でなければ構わないとのことで、夕食後にサロンに向かうとおっしゃっておりました」


「うん、ありがとう」



 お父様たちが来たら、サロンでアイスティーを飲もうと思っているの。

 ソフィに頼んで朝のうちに水出し紅茶を作ってもらっていた。

 乾燥させたペーシュと茶葉を水の入った容器に入れて、涼しい部屋に置いていたの。

 すりおろしたペーシュの果汁が入ったアイスペーシュティーと違って香りと甘さが少し控えめだから、食後でも飲みやすい。

 夏の暑さが厳しい南の領地なら、氷を入れて飲むといいかも。

 ベル兄様に贈ろうかな?・・・そんなことを考えていたら、夕食を終えたお父様たちがサロンにいらっしゃった。


「アンは試食のせいで、夕食が入らないと聞いたが、新しい料理の4品で納得した」


「味は問題なかったですか?」


「問題ない、どれも食べ応えがあった。特にエビフライがいい。カリッとした衣とプリっとした食感が癖になる。オーロラソースとからめたエビも酒に合いそうだ。ベルは随分たくさん送ってきたのだな」


「エビの他にも貝やお魚もありました。また2日後に作ります」


「そうか・・・楽しみにしている」


「シャル兄様はグラタンが好きでしょ?」


「リボンの形の白いものが入っていたが、あれは食べ応えもあっていいな。エビも初めて食べたが旨かった。まだエビはあるのか?」


 また食べたいと言い出すと思っていたよ。


「まだ残っているけど、グラタンではなく他のものも作りたいの。エビなしグラタンでよければ、カジミールには頼んでみたらいいよ。鶏肉を入れても美味しいと思う」


「そうか・・・あのリボンは入れるのか?」


「小麦粉で作っているフォアルファッレというパスタなの」


「パスタ?」


「うん、パンの代わりになる主食かな?」


「ファルファッレはかわいらしいわね。それにビスクスープもコクがあってとても美味しかったわよ。エビフライにタルタルソースがかかっているのも良かったわ・・・どれも好きよ」


「シャルダン・デ・ローズで出してもいいですか?」


「シャルダン・デ・ローズで出だすかはまだ決められないのよ。だからといってお食事のお店を作る時間もまだないの」


「あの・・・小さなココットに入れて何かとセットにするとか・・・グラタンは熱いですから、冬のメニュにするのはどうでしょうか?」


「料理はとてもおいしくて、素晴らしいわ。もちろん冬に食べられるのも嬉しいわ」


 今日のエビづくしの料理には満足してくれたということだよね。でもなぜシャルダン・デ・ローズではすぐに出せないの?


「今日食べたエビと後日調理する貝や魚は南の領地の特産品です。王城の料理人と南の大領地の料理人に料理の作り方を教えてはどうでしょうか?今まで南の領地から出したことのないエビや貝、お魚を取引することで、どちらの領地にも利があると思うのです」


「料理方法を公開すると?」


 お父様がちょっと驚いていた。


「王城の料理人には公開した方が恩を・・・いえ有利に・・・その、喜ばれると思うのですが」


「・・・そうなると仕入先の南の領地に便宜を図るということか」


「そこまでは・・・今回は南の領地の特産品を使いましたから、いずれは他の領地も何かできればとは思います」


「第一陣が南と言うことか?西は?」


「西はまだ・・・」


「アンの考えはわかった。だがパスタは小麦で作るのであろう?その小麦はどこの特産品か知っていると思うが?・・・それにパンに代わるパスタが出来れば、どうなるか考えたか?庶民の住むところにもパン屋はある、そのパン屋のパンが売れなくなったらどうなる?売り上げが落ちたパン屋はパスタ屋になれるのか?」


「あっ・・・」


「どのように広めるのか、どこまで公開するのか、どこを優先するのか。アンだけで考えることではないだろう?ここは大人に任せなさい」


「・・・ごめんなさい・・・考えが足りませんでした」


「私たちを信用しなさい。アンの気持ちをできるだけ尊重したいとは思っている。今回はアンからの相談ということで聞いておく」


「は、はい・・・よろしくお願いします」


 また考えが足りなかったよ・・・。

 次回の更新は2月6日「80、グー様の事情」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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