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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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76、アンの報告とお父様のお話

 パトリック伯父様たちにコピーの操作と作業方法を伝えに行ってから、3日が過ぎた。


 シャル兄様は朝から畑に行ったままだから、昼食は一人だったの。

 食事を終えて、サロンに行っても誰もいない。

 一人でお茶を飲んでもつまらないよ・・・。

 あきらめて部屋に戻り、ソフィに紅茶を入れてもらったの。

 小さく切ったペーシュを乾燥させて茶葉に混ぜているから、甘い香りが漂う。

 甘い香りは強いけど、お花や薬草と違って刺さるような感じはしない。

 すこしほっこりとして、穏やかな気持ちになった・・・。


 お父様たちはいつ戻られるのだろう。とりあえず今日も庭に行ってみようかな?

 ネージュはキリーと外にいる事が多くなった。

 ネージュが長い時間飛んでいられるようになってから、離れている時間が更に長くなったと思う。

 ネージュの魔力が安定したのかな?お互いに離れていても今のところ問題はないみたい。


「アンジェル様、失礼します。パトリック伯爵様の護衛が龍で屋敷に来ているそうです」


 ボーっと考え事をしていたら、フォセットがやってきて知らせてくれた。


「せっかく来てくれたのなら、ひと休みするように伝えた方がいいかな?」


「対応したバスチアンが応接室へ案内したのですが、他にも行くところがあるとのことで、用件だけを伝えて帰られたそうです」


 何か急ぎの知らせだったのかと聞こうとしたら、扉をノックする音がした。

 フォセットが扉に向かうと、扉の外からバスチアンの声が聞こえてきた。

 部屋に通すように伝えると、やってきたバスチアンが少しホッとした顔をしている。


「今日の夕暮れまでには、アレクサンドル様とステファニー様が屋敷に戻られるそうです」


「今日?やっと戻っていらっしゃるのね。今回は長かったから、陛下のお話が長引いていたのかと心配いていたの」


「ええ、今回は本当に・・・長かったです」


 バスチアンに何かあったのかな?目の下のクマが早く取れるといいね。

 お父様とお母様はもう3週間も屋敷を留守にしていたから、パトリック伯父様が気を利かして知らせてくれたのかもしれない。


「それと、パトリック様とフレデリク様は、アンジェル様がノール本店にいらっしゃった日の翌日の夕方に、コピーの作業を全て終えたとのことです。その次の日の朝早くに製本職人にフレデリク様が直接届けたとの事です」


「無事に終わったのね。パトリック伯父様達ならすぐに終わらせると思っていたの」


 今頃は牧草を刈っていた人に牧草ロールを作るように指導しているはずだよ、きっと。


「製本職人から夏のメニュは3日後に直接ノール本店に届けさせてほしいと、要望があったそうです。看板やお店の様子を少しでいいから見たいというのが理由のようです。急いで作ってくれるならお店の一部を案内してもいいと伯爵様も了承していると聞いています」


「季節ごとにメニュの製本を委託するから、気になるよね」


 食べに来てくれればもっといいのに。

 でもメニュを見たら絶対食べたくなると思うよ。

 メニュに名前や値段を書いた代筆職人も、予約を入れたと聞いたもの。

 予約は夏の2月になるらしいけど、それでも夏のメニュは食べられるからね、良かったよね。製本職人もきっと食べたくなるよ。



 お父様たちが戻られたのは、日も落ちかけたころだった。

 戻れた日の夕食は一緒に取ってくれたけど、今回は3週間以上もお屋敷を留守にしていたから、すぐに時間は取れないとおっしゃっていた。


 報告をする事はたくさんあるけど、聞きたいこともあるの。

 月の精霊ベルリュンヌ様の事。

 それと・・・もし精霊巫女様になった人たちが4大精霊からやるべき事を聞いているとしたら、アンは日記を見る方法があるかな?精霊巫女様にはならないけど見たいと言ったらお父様は何というだろう・・・うーん・・・これは聞きづらいかも。


 お話は家族4人ですると、お父様がおっしゃっていた。

 明後日の夕食後にアンの報告聞いてから、お父様が陛下たちと話した内容を教えて下さるそうだ。

 陛下たちは、お土産と新しいメニュを喜んでくれたかな?



 お父様とお母様が戻られて2日が経った。

 やっとお父様達とお話ができるよ。

 バスチアンが「夕食後、ユーゴと一緒に書斎に来るようにとアレクサンドル様がおっしゃっています」と、部屋まで知らせに来てくれた。

 サロンではなく書斎ということは、周りに言えないお話もあるのかな?それにユーゴだけ一緒?ソフィやほかの護衛は駄目なの?


 不思議に思いながら食堂に行くと、誰もいなかった。

 みんな忙しいらしく「自室で召し上がると伺っております」と食事を運んできた侍女が教えてくれた。

 しかたなく一人で夕食をとり、急いでお父様の書斎に向かった。

 ユーゴが扉をノックして声をかけると、扉を開けたのはお父様の護衛のイヴァンだった。


「アレクサンドル様はまだ仕事をされていますが、中でお待ちいただくようにとおっしゃっています」


 中に入るとお母様とシャル兄様はもう来ていたけど、お母様の護衛のヴァランタンとシャル兄様の護衛のアムールはいない。

 護衛はイヴァンとユーゴだけ?


「お母様、シャル兄様、お待たせしました」


「私たちも今来たところよ。どうしたの?不安そうな顔をしているわね」


「お母様の護衛とシャル兄様の護衛はいないのですね」


「書斎はあまり広くないから、隣の部屋で待機してもらっているのよ」


「護衛がイヴァンとユーゴだけだから、お話が重いのかと思ってしまいました」


「そうね・・・軽くはないわね」


「えっ・・・?」


「待たせたな、早速、話を聞こう」


「は、はい・・・えっとたくさんあってどこから話せば・・・」


「牧草ロールなら、パトリック義兄上から聞いている。コレット嬢が始めたらしいな。牧草ロールも見てきたが、随分といい仕事をしたようだ」


 どの話から言えばいいか、悩んでいたらお父様が先に話してくれた。

 パトリック叔父様からは他に何か聞いているかな?


「小麦を刈った後、丸めて麦稈(ばっかん)ロールにすればいいかと思ったのです。西の領地にも便利になると伝えたら、お父様の言っていた『恩を売る』ことができますね」


「アン・・・そういう事は大きな声で堂々と言わないように」


「は、はい・・・お父様のように呟けばいいのですね」


「い、いや・・・私が余計な事を呟いたようだ。その言葉は忘れてくれ」


 お父様が頭を抱えてしまった。恩は売らなくていいようだ。


「えっと・・・ネージュですが属性が増えました」


「「えっ!」」


 お母様とシャル兄様の声が揃って、お父様は無言で目を丸くしている。

 驚くよね、アンも驚いたもの。


「ノール本店の畑で、ペーシュを成長させるため魔力を出そうとしたら、ネージュが突然白い光を出して降り注ぎました。アンがミルティーユを先に成長させたところをネージュが見て覚えてしまったようです」


「光だと?・・・」


「はい・・・木を成長させるのは魔力をたくさん使うから、慌ててネージュを止めたのですが、ペーシュはアンの背丈くらいまで成長していました。でもネージュに疲れた様子はなかったです」


「あの小さな体でそこまで出来るのか・・・しかも4つの属性になった?」


「今は4つですが、たぶん土魔法も使えるのではないかと思います。ユーゴが畑を耕す時に、ジッと見ていました。ネージュは『百聞は一見に如かず』なのです」


「ヒャクブン?」


「たくさん説明を聞くより、実際に見た方が確実で分かりやすいということです」


「そんな言葉は聞いたことが・・・いや、マシロの言葉か・・・いずれネージュは全属性なると?」


「もし、ネージュがテオドール第三王子の闇魔法を見たら、使えるようになるかもしれないと思いました」


「しかし普通は属性がないと魔法はほぼ使えないはずだ。全属性を元々持っていたということになるぞ」


「そうですわね。ただ・・・属性がなくても魔力が少しでもあれば、生活で使う程度の水や火や風は使えるわ。でも光と闇は別よ」


「ああ、確かにそうだな。光と闇だけは属性がなければ全く発動しない。誰でも使えるものではないからな」


「父上、ネージュの火魔法は凄かったです」


「そうか・・・私も飛んでいるところを見たが、風の属性も強かったな」


「水魔法を使って畑に霧状の水を遠くまで撒いていました。ペーシュの木を成長さていますから、水と光の属性も凄いです」


「4つの属性を持っているということは、間違いないわね」


「そうです」

「そうだな」

「そうですね」


 最後のお母様の言葉にシャル兄様とお父様とアンは同時に返事をした。


「ネージュが成長期だとしたら、魔力はもっと増えるはずだ。魔力が増えるとともに危険も伴う。まだ学習している段階であれば、使い方をきちんと教えておくか・・・魔力を制御することや使ってはいけない場所など、人と共存するなら覚えておかなければならない規則だからな。誤った使い方をして誰かを傷つけるのはネージュも本位ではないだろう」


「ネージュが規則を覚えたら、魔法を使っていいということですか?」


「そうだな、貴重な光属性も持っているなら、治癒魔法も使えるだろう」


「ネージュが人を助ける事できるなら・・・遠くの場所でもキリーと一緒に飛んでいけますね」


「治癒魔法の操作を覚えればだが・・・注意も必要になる。魔力が強すぎると傷は治癒するが、身体に負担がかかり不調を訴える者もいる。先ずはきちんと制御ができることだ。暫く龍騎士団で学習させた方がいいだろう。日中だけアンと離れていても問題はないか?」


「ネージュはキリーと一緒に朝から夕方まで外で遊んでいますから、問題はないです。外に出て飛ぶようになってから、アンから魔力を持っていく回数は減りました」


「それでも長時間の訓練をさせるつもりはない・・・ネージュが訓練に行くと、どうせキリーもついてくるのだろう」


「ネージュの邪魔をしないように伝えておきます」


「・・・そうだな。邪魔はしないとは思うが・・・」


 お父様はためらうような言い方をしたけど・・・キリーは存在感がやたらあるから周りがどんな反応をするか、心配なのかな?


「訓練はいつから始めるのですか?」


「4日後からだな。今は私も龍騎士団もすることが多いから、夏の1の月からでいいだろう。シャルも学院が早く終わる日なら、一緒に参加してもかまわないぞ」


「ありがとうございます。是非参加させて下さい」


「魔力量はかなり増えたようだが、精霊の声は聞こえたか?」


「いえ、まだ・・・聞こえません」


「まぁ、焦ることない」


「あの、お父様はすぐに精霊の声が聞こえるようになったのですか?」


「すぐではないな・・・魔力を使って街道の整備をしているうちに、操作が楽になったと感じた時だったな。ふと横を見ると花畑が広がっていて、綺麗だと思ったら精霊がきたぞ。思っていた言葉をそのまま伝えたら、精霊が「うん」と返事をしたのが始まりだったな」


「シャル兄様もお花を見て綺麗だなって、言ってみたら?」


「アン、魔力を増やしている最中にそんな余裕はないぞ」


「操作が楽になった感覚はあった?」


「あったような気もするが、まだまだだ」


「シャル兄様は余裕がなさすぎかも」


「私は龍舎にも通っているから忙しいのだ」


「シャル兄様は精霊にもっと目を向けた方がいいと思うの」


「アン、シャルにも事情があるのよ。もう少し見守ってあげましょうね」


「・・・はい、お母様」


 お母様に止められてしまった。

 シャル兄様も黙ってしまったけど、今は精霊の声を聞くことより龍の方が大事なのかもしれない。

 言い過ぎないように気を付けよう・・・。


「お父様、先日ジルベールさんとコレットさんと一緒に魔力増加訓練をしたのですが。その時にジルベールさんに治癒魔法の操作を伝えました」


「治癒魔法は魔力を多く使う。無理をさせないように気をつけなさい」


「小さい傷だけを治すように伝えました。でも護衛の古傷まで少し治癒したのでお驚きました」


「さすがセリーヌ様の孫だな」


「魔力がもっと増えたら、医療関係でお仕事ができそうですね」


「将来の事はジルベール君とご家族が決めるだろう」


「はい・・・アンも、そう言ったお仕事に就くのがいいのでしょうか?」


「治療院に光属性の者がいれば、多くの人を助けられる。いずれアンがその道を希望するというのなら反対はしない。ただ、怪我人や病人を看護するのは大変な仕事だということだけは覚えておくといい・・・」


「わかりました」


 治癒魔法だけ使えても駄目ということかな?


「もう報告することはないか?」


「あの、月の精霊のベルリュンヌ様の事を聞いてもいいですか?」


「先日、グノーム様が言っていた事が気になっていたのか?」


「はい・・・お父様はなぜ月の精霊の存在を知っていたのですか?屋敷の図書室には月の精霊の事が書かれた本や資料はなかったです。それに王城に行った時も・・・」


 王城の絵画の事はお母様やシャル兄様のいるところで話していいのかわからくてこれ以上言えなかった。


「精霊に関する本は私の書斎にもある。アンには少し早いかもしれないが、気になるなら、私がいる時に書斎で読んでもいい。シャルも来て読んで構わないぞ」


「そ、それは秘密の本ですか?父上」


 シャル兄様がちょっとだけ嬉しそうな顔をしている・・・秘密を知るのが好きなのだろうか?


「秘密?・・・いや隠すような本ではないが、そ、そうだな・・・小さい子どもが気軽に読む本ではないから図書室に置いていないだけだ。昔の文章だから読みにくいのもあるが、ベルリュンヌ様とサラマンダー様の絵が載っている・・・」


「それでしたらいつか時間ができた時に読むことにします」


「そうか・・・シャルは忙しいからな」


「アンは明日読めます」


「明日は無理だ。私の仕事が片付いたら声をかけよう」


「・・・わかりました」


 すぐ行くのは駄目だったよ。

 でも本があると分かったから、ちょっとは先に進んだかな。精霊王の事や王城にあった絵の黒龍の事も書かかれているといいな。

 グー様が言ったやるべき事について、ちょっとでもいいから書かれていないだろうか?

 あれ?小さい子が気軽に読む本ではないと言っていたけど、大人の本?・・・ち、違うよね。アンはまだ子どもだもの。シャル兄様も見ていいっておっしゃっていたよね?

 ベルリュンヌ様とサラマンダー様の絵もあるって言っていたけど、凄く気になる・・・どんな本だろう?


「さて、陛下と話をしたことを少し伝えるか」


 そうだった・・・お父様のお話も聞かないとね。


「陛下とリシェンヌ王妃がアンに礼を言っていた。ハンバーグとフライドポテトは陛下がとても喜ばれていた。リシェンヌ王妃はペーシュの紅茶マリネとマーブル模様のミルティーユシフォンケーキをとても喜んでおられた。シナモン入り姫ポムジャムとラムレーズン入り姫ポムジャムも、夏になったら沢山購入するから用意しておくようにと予約まで頂いてしまった」


「それは良かったです。ではいろいろとお話はしやすかったのですね」


「まぁ・・・少しは進んだと思いたいが」


 お話が進んだのなら、王都の滞在が長引いたのは何が問題だったのかな?


「お二人とも夏のメニュが先に食べられたと喜ばれていたけれど、ハンバーグが秋のメニュだと伝えると、それまで待てないとおっしゃられてしまって、王城の料理人に作り方を伝えることになってしまったわ。条件としてハンバーグは王族のみ王城で食べられるということにしてもらったわ。そうしたらリシェンヌ王妃もペーシュの紅茶マリネもお城で食べたいとおっしゃって・・・了承することになったのよね」


「仕方あるまい、伝える案件が多すぎるのだから・・・それでも陛下とリシェンヌ王妃はとても喜ばれて、翌日の晩餐にロベール第一王子とレオノール王子妃、それにデオドール第三王子を呼んで自慢すると言っていた」


「カロット入りのケーキも喜んでもらえたでしょうか?」


「カロットが入ったケーキですとお伝えしたら、陛下が一瞬ひきつったように見えたが『結構食べられるものだな』とおっしゃり、二切れも召し上がっていらした。お気に召されたと思う」


 ユルリッシュ陛下はカロットが嫌いだったのかも。

 ケーキだけど食べられるようになってよかったね。


「エディット第二王妃とランメルト第二王子の名前は出てこなかったのですね?」


「アン・・・王族の事情に口を挟んではならない。今回は名を上げなかったと言うだけだ」


「視察という長期不在でもなさそうだから、いずれ陛下から伝えられると思うわ」


「・・・はい」


 王族の事は口出ししてはいけないらしい。


「まずはセリーヌ様の話からするか」


 アデライト様の不誠実な仕事のせいで、大精霊たちから信用を失いセリーヌ様が苦労されていた事。

 そしてセリーヌ様とイザベラ様が精霊巫女という立場を、今後誰かにさせる事を望んでいなかった。

 その立場を廃止するべきか神殿と王族の間で話し合う事になったらしい。

 反対意見はまだ出ていないけど、廃止した場合は光属性を持った人たちを今後どうするかなど、多方面にわたって調節しなければならず、すぐには実行できないとおっしゃっていた。


 アデライト様の行動には驚いたけど、精霊巫女廃止の事はもっと驚いた。

 でも、アンは精霊巫女にはなりたくないから、廃止になったらいいなって思ってしまったの。

 アデライト様の起こした問題はセリーヌ様とその後を引き継いだイザベラ様が取り成して今は落ち着いているらしい。

 神殿側は光属性を持った子どもに、精霊巫女という立場を希望しない限り、お金を払ってまで無理に神殿に入れたりはしないらしい。

 神殿もアデライト様で苦労したのかな?

 アンが魔力検査で大神殿へ行った時も、無理にとは言われなかったのはアデライト様のおかげ・・・・いや、アデライト様のせい・・・?

 アデライト様のおかげとちょっとだけ思ったけど・・・・口に出しては言わないよ。


 そんなアデライト様も結婚して孫までいた事には驚いたけど、その孫がマリエル・クラメールさんだと聞いて、驚き過ぎて口が開いてしまった。

 お母様が小さな声で「お口」っておっしゃって、思わず口を手で押さえてしまったの。

 マリエルさんは光属性を持っていながら、魔法で人を傷つけた。

 それなのに、牢に入るのではなく修道院に入り、人として正しい躾を受けることになった。

 それは光属性を持っていたからなの?

 お父様はアデライト様とマリエル様の関係を知っていたということ?

 せっかく光属性を持って生まれたのだから、人の役に立つ事を少しでもしたらよかったのに・・・そうしたらもっと違う生き方があったと思う。


「マリエルさんは精霊さんたちが見えていなかったのでしょうか?」


「精霊が見えていれば、罰を受けるような行動はしなかった、いや、できなかったと思うが」


「・・・そうですね。魔力は高ければ高いほど、制御と正しい操作を学ばなければいけないと、思うようになりました」


「アンはきちんと学んでいるようだな。ある程度の魔力量は必要だが、それだけで精霊が見えるわけではないと私も考えを改めた。心の在り方も重要なのだと思う」


「マリエルさんが見えないということは、精霊とかかわることを望んでいなかったということでしょうか?」


「見えない精霊にかかわりたいと思う人は少ないと思うが・・・マリエルの場合は自分の属性の重要性も、魔力の扱いも理解していなかったのだろう。光属性を持っていながら、残念なことだ」


「精霊さんが見えていればよかったのに」


「心を入れ替えて、正しい行いができるようにと願うしかないだろう・・・そう言えば陛下と王妃は庭園にいる精霊が見えるようになったそうだ。魔力を増やす為の時間がなかなか取れなかったのに、突然見えるようになったらしい。とても喜ばれておられた。今度は声も聞きたいとおっしゃっていたが、次回王城を訪れた時には、願いが叶っているかもしれないな」


「陛下たちは元々魔力量が多いですから、見えないと諦めていた気持ちを見たいという気持ちに変えたのですね」


「アンに刺激されたのだろう・・・シャルも心から望めば声が聞こえるようになると思うのだが・・・」


「シャル兄様もきっと望むと思います」


 シャル兄様をちらっと見たら、気まずそうに視線をそらされてしまった。

 今は気持ちに余裕がないからね。


「そうだな・・・それからセリーヌ様の手紙に書かれていたのだが、開けることのできなかった日記が1冊あるそうだ。歴代でも魔力が1番高かった精霊巫女様の日記らしい。それと長らく精霊巫女様として勤められたイザベラ様の日記も、その後精霊巫女様がいないため、開けられていないとのことだ」


「アデライト様の日記をイザベル様は見られたでしょうか?」


「おそらく見ておられたと思うが、まともな内容が書かれていたかどうかは不明だ」


「もし日記を見ることが出来たら、グー様が誰に何を伝えたかわかるでしょうか?」


「何とも言えない。精霊巫女がいなくてもいい方法を見つけてほしいとイザベラ様希望され、セリーヌ様もそれを望んでいたという手紙があったからな。王族側と神殿側で今後日記をどう扱うかを検討されるそうだ」


「いなくてもいい方法ですか?」


「アデライト様に振り回されてセリーヌ様が苦労されたこともそうだが、4大精霊から不興を買ってしまい、セリーヌ様が2年、その後イザベル様が何年も掛けて取りなしたそうだ。そして今回はその孫のマリエルの件も重なってしまった。光属性を持っていても、精霊巫女様という立場に相応しくない者を、高額な給金を支払ってまでその職を押し付けた神殿側と王国が、廃止を認めるかどうかだ」


「初めてグー様にお会いした時に『いつの間にか精霊巫女などいうものが現れ、ここにも来るようになった』と言っていました。精霊たちが望んで精霊巫女という立場を作って呼び寄せたのではないと思います。人が何かを知って聖霊樹を巡るようになったのではないですか?人の好意で成り立っていた立場をアデライト様は・・・そしてマリエルさんも・・・勝手すぎます・・・グー様の言われた『やるべき事』はもう日記で調べることはできないのですか?」


 酷すぎる。アンはやるべき事がまだわからない。どこで調べていいのか、手がかりさえも掴めていないのに。

 もし日記を見たら・・・見ることが許されるなら、と・・・そんな事を心の奥底で思っていた。

 日記の存在という手がかりが遠くなったような気がした。

 なぜだろう?・・・怒りが湧いてくる。

 精霊巫女という立場を拒んでいるアンに、口をはさむ権利などないはずなのに・・・目の奥が熱くなって涙が出そうになる。


「いずれにしても、アンは学院が優先だ。今は動けないだろう?」


「・・・」


 黙って頷いた。

 膝の上あった両手に力が入り、ドレスを強く掴む。

 口を閉じて歯を食いしばる。

 ・・・涙が出ないように。

 ・・・怒りの言葉が口から出ないように。

 グー様が言ったやるべき事は、自分で探すしかないのだと・・・他に方法はないのだと、自分に言い聞かせる。


 心を落ち着かせるために、息を吸ってそっと吐いた。

 握りしめたドレスから右手をゆっくりと放す・・・。

 その右手は震えているけど、目の前のティーカップをなんとか口元まで持ちあげる。

 冷めた紅茶を一口飲むと、ペーシュの甘い香りが気持ちを少しだけ和らげてくれたような気がした。

 握っていたもう片方の手もドレスから離れた。


 光属性がある事で、精霊さんたちと出会えた。

 魔力検査で精霊巫女様だと言われた。

 リシェンヌ王妃も光属性で、テオドール第三王子も光属性。ジルベールさんもそうだった。

 周りには光属性が何人もいる。

 以前王族は魔力が高いのに、精霊の気配しか感じることができないと言っていた。

 そういえば魔力の高いテオドール第三王子は精霊の声も聞こえていたのに、精霊男巫にはなれなかったのはなぜ?

 イザベル様の方が魔力は高かったの?それともテオドール第三王子は闇属性を持っているから?

 闇魔法は黒い実を闇同士で相殺すると聞いたような気がする、相殺と浄化はどちらも綺麗になるのだから、特に問題はないと思う・・・。

 今は国に一人しかいないと言っていた闇属性は、過去に何人もいたのかな?


 今日のお話と怒りと疑問が頭に中で何度も巡る。

 疲れた・・・・とても疲れたよ。

 これ以上は何も考えられないよ・・・もう休んだ方がいいかもしれない。


「お父様、少し疲れました。部屋に戻って休んでもいいですか?」


「顔色がよくない。すぐに休んだ方がよさそうだな。護衛にもある程度は話しておくが、王族がかかわる話はジルベール君たちにはまだ話さないようにしなさい」


「わかりました・・・おやすみなさい」


「ああ、おやすみ、良い夢を」


「アン、部屋まで一緒に行きましょう」


「は、はい、お母様」


 シャル兄様にも挨拶をして書斎を出た。



 部屋の前まで来ると「中に入っていいかしら?」とお母様に聞かれ、少し驚いたけど、頷いて一緒に入った。

 お母様はソフィとユーゴをちらっと見ると、ユーゴが会釈をして下がっていった。


「扉の外で控えておりますので、御用がございましたらテーブルの上のベルを鳴らしてください」


 ソフィの言葉にお母様が頷くと扉は閉められた。

 部屋の中へボーッとしながら進んでいくと「アン?」とお母様に呼ばれた。

 お母様はアンの前で突然床に膝を付いて抱きしめてくれた。


「よく我慢したわね、立派だったわ。でも、本音を言うと一人で耐えているアンを見るのは悲しいのよ。だから嬉しいことも辛いことも話してほしいと思っているの」


「お母様・・・」


「我慢しなくてもいいのよ」


「お母様・・・アンは・・・」


 もう我慢できなかった。涙が目の中で溜まり、頷いたお母様が滲んでいく。


「アンはどうやって・・・見つけたらいいですか?精霊さんはアンに何を望んでこの地に命をつなげたのですか?光属性を持っているから生かされたのですか?・・・なぜグー様のやるべきことをアンが探さないとだめの・・・ううっ・・・。もし見つけられなかったら、アンは・・・この地で生きている価値はないのですか?・・・アデライト様のせい?マリエルさんのせい?・・・ヒック・・・・アンはどこで見つければいいのですか?・・・手がかりもなくなりました。精霊巫女にはなりたくないけど、日記を読みたいと思うのは悪い事ですか?アンは我儘ですか?・・・アンは・・・・ううっ」


 ・・・涙が溢れだすと、心の中に閉じ込めたはずの言葉も次々と溢れ出してくる。


「生きて生まれてくれてありがとう。私たちのアンはとてもいい子よ。貴女の心はとても純粋で・・・精霊が欲しいと願うほどに」


「ヒック・・・うん」


「でも駄目よ。お父様はアンがとても大切なの。アンを取られたくないから一生懸命守ろうと頑張っているのよ。それだけはわかってね」


「・・・うん。でも・・・ヒック・・・お父様が一番大好きなのは、お母様なの」


「フフフ、そうね。否定はしないわ。でもね、大好きもいろいろあるのよ。お父様はアンの事も大好きなの。心から愛しているのよ。お母様もアンの事がとても大切なの。アンがいるだけでお父様とお母様それに兄様たちは幸せなのよ。価値がないなんて言っては駄目よ。貴女はテールヴィオレット家の宝なのよ」


「・・・お母様・・・」


「シャルも龍のことで苦しんでいるけど、それは自分の事だから遠からず乗り越えて行くはずよ・・・でもアンの事はアンが望んだことではないでしょう?・・・強い光属性を持ったことで巻き込まれてしまったの・・・お父様とお母様はこのことでアンが苦しまないように、少しでも楽しく過ごせるように協力したいのよ」


「・・・うん」


「考えたこと、思いついた事、些細なことでいいの。教えてくれるかしら?私たちも考えたり、調べたりするわ」


「いいの?」


「もちろんよ」


「ありがとう、お母様」


「アンが今までやってきたことは、みんなが幸せな気持ちになることばかりなのよ」


「それは茉白の知識をみんなが手伝ってくれたから」


「誰かのためにと、頑張ってきたでしょう。リュックやお店、車いすも保冷庫も龍の宅急便もみんなが助かっているのよ」


「・・・喜んでくれるのは嬉しい」


「誰もが出来る事ではないのよ。お父様には注意を受けてしまったけど、地龍の子を助けたこともアンが助けたいと思って救ったのでしょう?そんな優しいアンの事を誇りに思っているわ」


「・・・ううっ」


 一人で頑張らなくてもいい・・・そう思ったら、また涙が溢れてくる。

 お母様は泣き続けるアンをずっと抱きしめてくれていた。



 ようやく涙も止まり少し落ち着くと「ソファーに座りましょう」と言って手を繋いでくれた。


「目が赤くなってしまったわね。ソフィに冷たいタオルとお茶の用意をするように伝えてくるわね」


 黙って頷くと、お母様は扉まで向かっていった。

 ソフィがテーブルの上のベルを鳴らしてと言っていたのに・・・。


 ホッとしたら、なんだか急に眠くなってきた・・・気持ちは少し軽くなったけど身体は凄く疲れていた。

 戻って来てアンの隣に座ったお母様に、甘えるようによりかかって目を閉じた。



「愛しているわ、アン。今日はゆっくり眠ってね」



 ・・・遠くでお母様の声が聞こえたような気がした。

 次回の更新は1月23日「77、辺境伯令嬢は初心に戻る」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。



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