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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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74、ジルベールさんとコレットさんの魔法訓練

 昨年に引き続き、新しい年も変わらずに更新ができましたのは、皆様がひ弱な辺境伯令嬢を読んでいただいてるという支えがあったからです。

 ありがとうございます。

 今年も、のももワールドの『アンジェルたち』をどうぞよろしくお願いいたします

 今日は学院の3度目の試験。

 予習をしっかりやっていたから、前回よりも早く書き終える事ができたよ。

 メルセンヌ先生に解答用紙を提出すると「今回も1番早かったですね」と前回と同じく小さな声でおっしゃった。

 曖昧に微笑んでいたら、先月受けた試験の答案用紙と実技の結果を渡され、「満点です」と微笑えみ返されたよ。

 次回も同様に頑張りなさいと、さり気なく圧をかけられている気もするけど、なるべく考えないようにしようと自分に言い聞かせる。

 ・・・そう言い聞かせたけど、1番先に提出できた事と2回目の試験も満点だった事になんだかホッとしてしまった。

 メルセンヌ先生・・・来月は何も言わずに答案用紙を返してほしいです。

 なんだか寄り道をする気分ではなくなったよ。

 そっとため息をついて、ユーゴのいる門のところに向かった。


 馬車の中でネージュのモフモフに癒されてから、のんびりと昼食を取る。

 そしてネージュにちょっとだけ魔力をあげて、またのんびりする。

 もしかして馬車の中でお弁当を食べているのはアンだけではないだろうか?他の生徒は食堂で食べているよね。お父様は食堂で食事をする許可をくれなかったから、仕方ないけど・・・過保護すぎると思うの。


 少し時間は早いけど教室に戻る事にした。もう警戒すべき人はいないから、気持ちが少し楽になっていた。

 クラメールさんはこれからずっと修道院で学ぶと聞いている。きちんとお勉強をしているのかな?魔法は人の役に立つことが多いから、正しい使い方を覚えてほしいと思う。

 

 今回も制御中心の試験だったからあっという間に終わってしまったよ。

 ジルベールさんとコレットさんに「先に行っているね」と声を掛けてから、図書室に向った。

 先に3人が座れる席を決めて、そこに筆記用具の入った鞄を置いた。それからすぐに今日の学科の内容が載っている資料を用意する為に、本棚に向かう。


 1つ目の資料は取れたけど、2つ目の資料はアンの背では届かない・・・前回図書室にいた、背が高くて黒髪の親切な人はいないね。図書室の人ではないのかな?

 その人がいたら資料がとってもらえたかもと思ってしまった。決して踏み台の変わりとは思っていないからね・・・ちょっと便利かなって思っただけだよ。


「お疲れ様です、アンジェルさんは相変わらず早いですね」


「ジ、ジルベールさん、お疲れ様」


 急に声をかけられて、思わず肩がビクッとなった。凄く驚いたけど、踏み台の事は声に出してないよね。


「僕が資料を持ちます」


「ジルベールさん、早いね。まだ資料が全部揃っていないの」


「全部の資料は必要ないと思います」


「ジルベールさんは必要ないの?」


「僕は不要です。たぶんコレットさんも不要かもしれないです」


「資料はコレットさんが来てからでいいね」


「そうですね・・・さすがに今日はまだ誰もいませんね」


「他の学生はまだ試験を受けている時間だもの」


「・・・僕は今回も、満点が取れると思います」


「順位が一緒かな?」


「そうだといいのですが・・・もしかしたら実技で差が出ているかもしれません。アンジェルさんとは魔力量が違いますから」


「ジルベールさんも訓練すればもっと増えるよ。来週はシャル兄様と一緒に訓練したらいいかも?良かったらシャル兄様に伝えておくけど」


「とてもありがたいです、是非ともよろしくお願いします」


 急ぎ足のような靴音に振り向くと、息を切らしながらやってきたコレットさんだった。


「アンジェルさん、ジルベールさん、お待たせしました」


「お疲れ様、早かったね」


「アンジェルさんには全く追いつかないけど、前回よりは確実に早く終わったわよ」


「急がなくてもいいのに、実技は大丈夫だったのですか?」


「前回よりかなりいいはず。制御がうまくできたもの」


「良かったね」


「フフフ、来月の試験結果が楽しみだわ。2回目の試験結果はお互いに公表する?」


「いいよ。私は学科、実技ともに満点の400点だったよ」


「僕は学科が満点、実技で195点の合計395点で2位です。前回より5点上がっていました」


「二人とも凄すぎよ。私は今回も学科195点で実技190点の385点で、3位よ。ジルベールさんのすぐ下でよかったわ。順位が下がっていたらどうしようかと不安だったの」


「コレットさんは今回の試験で点数が上がると思いますよ」


「私もそう思う、一緒に頑張ったものね」


「ええ、学科は大丈夫なはず。問題は実技かしら?」


「それでも前回よりは上がるかも。風魔法で牧草ロールまで作ったから」


「アンジェルさん、それ試験で役に立つのかしら?」


「うーん」


「制御と言うより威力で優れていると思います・・・名付けて風刃牧草ロール?でしょうか」


 試験に役に立つのかどうか唸っていたらジルベールさんが魔法に名前を付けていた。


「フウジン?・・・牧草ロール?」


 コレットさんが首を傾げている。


「風魔法で剣の刃を振るように草を刈り取り、刈った草を圧縮するのですから、それにアンジェルさんが牧草ロールと呼んでいました」


「フウジン・・・風刃・・・素敵な響きね。これからは風刃牧草ロールと呼ぶわ」


 真剣に答えるコレットさんに、ジルベールさんと一緒に笑ってしまったけど、牧草ロールは役に立つよ。

 ・・・でも呼び方は牧草ロールだけでいいと思うの。


「試験の見直しはコレットさんが1問だけだからすぐに終わるね。毎月試験の1週間前に私のお屋敷で午前はお勉強会で昼食後に魔法の練習をするのはどぉ?」


「毎回恐縮ですが、勉強会も訓練もありがたいです。よろしくお願いします」


「私も凄く恐縮しているけど、昼食も楽しみにしてしまうわ・・・えっと、よろしくお願いします」


「月に一度だし、私は3人でお勉強したりご飯を食べたりするのはすごく楽しいから、遠慮しないでいいよ。それと魔力増加訓練だけど、今週中にシャル兄様と一緒に訓練しようと思うの」


「僕はいつでも大丈夫です」


「私も大丈夫よ」


「4日後にお屋敷に来てもらってもいい?シャル兄様は午後からなら時間が取れると聞いているの」


「わかりました、紫の日ですね。伺います」


「私も午後から伺うわ」


 コレットさんの試験の見直しもあっという間に終わり、次回の試験の予想と魔法の話をして解散となった。



 試験が終わった2日後、「エタンが夏のメニュの絵を完成させました」とバスチアンが知らせてくれた。

 既に代筆職人に文字を入れるように依頼してあり、4日後からシャル兄様とコピーができるとのことだった。

  でもその2日前に魔力増加訓練がある。

 王都の分はシャル兄様と一緒の作業だから、2日もあれば余裕で出来ると思うけど、無理をしないように気を付けよう。

 コピー作業が終われば今度はノール本店に行ってパトリック伯父様とフレデリク様にコピーの操作方法を伝えに行くの。

 熱を出して寝込むと、パトリック伯父様たちの作業が遅れて夏のメニュが間に合わなくなる。パトリック伯父様達だけではなく、お客様にまで迷惑をかけてしまうから気を付けないとね。


 バスチアンがアンの体調も考え、王都店分のコピー作業が終わったら翌日はゆっくり休めるように予定を組んでくれていた。

 パトリック伯父様への連絡も既にしてあるらしく、バスチアンもカジミール同様まじ優秀だったよ。



  夕食の時にシャル兄様へ、魔力増加の訓練を紫の日の午後にする事と、メニュのコピーの事を伝えた。

 コピーの事はバスチアンから聞いていたらしく、コピーも魔力増加訓練の一環として頑張ると言っていた。

 ノール本店分も手伝うと言ってくれたけど、アンがノール本店に行っている間は、ジルベールさんとコレットさんの魔力増加訓練の手伝いをお願いしたの。

 パトリック伯父様とフレデリク様なら新しい魔法だといえば嬉々としてやってくれるはず。

 コピーはたくさん魔力を使うけど、パトリック伯父様とフレデリク様は魔力増加訓練の一環として頑張ってもらいたい。

 アンは裏の畑にペーシュとミルティーユを育てるから、そっちにたくさん魔力を使うよ。



  今日はジルベールさんとコレットさんが畑作業・・・ではなく魔力増加訓練にやってくる日。

 少し早めの昼食を終えると、濃紺の飛行服に着替えた。

  ネージュには濃紺のベレー帽をかぶせる。

  キリーのベレー帽はソフィに預けてあるの。以前ユーゴに預けた涎掛け風飛行服がシワシワになったからね。

 これでキリーがいつ現れても大丈夫。


 シャル兄様は学院から帰ったら、急いで着替えて東側の畑に行くと聞いていたけど、昼食は済ませてくるのかまでは聞いていなかった。

 朝のうちに休憩用の軽食を護衛分も含めてたくさん作って欲しいと伝えてもらっていたけど、シャル兄様なら軽食だけでは足りないかもしれない。

 ビスコッティも持ってくればよかった・・・。


 今日はジルベールさんに癒しの魔法を教えたいと思っているの。枯れた草をちょっと元気にするぐらいの、成長魔法も一緒に教えてもいいかな?

 そんなことを考えながら庭に行くと、ジルベールさんとコレットさんが既に来ていた。


「ピピー!」


「グッワワァ」


 ・・・キリーもいたよ。

 キリー、ネージュと呼び合っている。今日も仲良く飛行訓練をするのかな?

 ジルベールさんとコレットさんに挨拶をして、キリーの方を見たらネージュのベレー帽をジッと見つめていた。


「グー」


 アンと呼んでいるね・・・わかっているよ、ベレー帽でしょ。


「キリーの分も持ってきているからね」


 毎回こんな感じだから、いっそキリーとネージュはもう何も身に着けない方がいいのでは、と思う。

 でもこれがあることで「北の領地が管理しているよ」ということになるから仕方がない。

 キリーにもベレー帽をかぶせる、満足したようだ・・・お揃いが大事だからね。

 満足したらキリーは飛んでなぜか行ってしまったよ・・・アンたちの行先は知っているのかな?


 馬車にはコレットさんとソフィ、アンとネージュが乗り、もう一台はジルベールさんと侍従が乗り、空いた席に軽食も積んでもらった。

 ユーゴも含めて、護衛は全員馬で並走することになっているの。



 畑につくと、キリーがいた・・・行き先は知っていたらしい。

 キリーの事は気にせず畑を見ると、フレーズが見事に実っていた。あと半月で春のメニュは終わるけど、まだまだ食べられそうだ。ネージュが喜ぶよね。


「ピッ」


 アンの横でパタパタ飛んでいるネージュが、すかさず反応しいている。

 すぐに食べるとは言わなかったから、そのまま通過して姫ポムのところまで行った。


「見事ですね、ここの畑で実っている果物がお店で使われているのですか?」


「うん、果物はジャムやコンポートにすることが多いの。それとネージュのおやつね。お店の裏にも畑があって、そこの果物はそのまま使われることが多いよ」


「フレーズは栄養が行き届いているようね、実が大きいわ」


「う、うん、なぜか大きいの」


 最初に魔力で育てたから、大きいの・・・とは言わない方がいいよね・・・。

 さりげなく目線をそらした先に、シャル兄様と護衛のアムールが急ぎ足でやってくるのが見えた。

 走ってきたのかな?ちょっと息を切らしている。


「・・・待たせてしまったようだ」


「まだ、着いて間もないの。ジルベールさんとコレットさんと一緒にフレーズや姫ポムを見ていたの」


「フレーズはまだまだ取れそうだな」


「バスチアンが食べてもいいって言っていたから、後で食べようね」


「そうか、楽しみにしている」


「シャルル様、お世話になります」


「ジルベール君、今日は頑張って魔力を増やそう」


 ジルベールさんが嬉しそうに頷いていた。シャル兄様の事が気に入っているのかな?


「よろしくお願いします」


「コレット嬢・・・本当に来たのだな」


「魔力増加訓練にえり好みはしていられないのです。とにかく魔力量を増やさないとアンジェルさんとジルベールさんに置いて行かれそうで・・・手段は選ばないことにしました」


「そ、そうか・・・ではさっそく始めようか?」


「シャル兄様は先にコレットさんに霧状に水を撒く操作を教えてあげてくれる?アンはジルベールさんに癒しの魔法の操作方法を教えたいの」


「癒しの魔法か・・・それなら護衛たちの傷を治したらどうだ?」


「護衛?怪我しているの?」


 思わずアムールを見てしまった。シャル兄様の相手をして怪我をしたのだろうか?


「訓練でできる小さな傷は日常茶飯事ですから」


「アムールだけではないぞ、私もちょっとだけある」


 シャル兄様も傷があると言っている・・・しかも「ちょっとだけ」と言っていたよ・・・癒すほどの怪我ではないよね。

 もしかして龍騎士になるための訓練をすると怪我をするのかな?

 癒しは出来るけど、自分が怪我をするのはいやかも。


「アンジェルさん?どうかしましたか?」


 あっ、今は怪我を治す方法をジルベールさんに教えるんだった。


「ううん、大丈夫。ちょっとの怪我なら、初めて操作するジルベールさんでもできると思うの。シャル兄様が練習台になってくれるよ」


「あ、ああ・・・」


「シャル兄様、そんな不安な顔をしなくても大丈夫ですよ。失敗をしないはずだから・・・たぶん」


「たぶん?・・・ますます不安になったぞ」


「フフフ、さぁ始めようね」


「い、いや・・・今日は不要だ」


 シャル兄様が不安な顔をしながらコレットさんに声をかけ、畑に行ってしまった。今日は癒しがいらないらしい。


「ジルベールさん、始めようね」


「は、はい。よろしくお願いします」


「大神殿の神殿長が『癒しの魔法は魔力をたくさん使うから、いきなり大きな怪我を癒さないように』とおっしゃったの。ジルベールさんも気を付けてね。じゃぁ、ジルベールさんの護衛の傷から治してみようか」


「はい」


「操作するから見ていて、私はユーゴの腕を癒してみるね。掌を上に向けて、光属性だけをゆっくり集めるの。集まった魔力は傷を覆うようにかけるだけ・・・ユーゴ、怪我をしているところを出しておいてね」


 ユーゴが頷き、腕を出してくれた。

 あれ?痣があるね、擦り傷もある。痛くないのかな?思わずユーゴの顔を見てしまった。

 ちょっと驚いたけど、すぐに集中することにした。

 ジルベールさんに見せるようにゆっくりと掌に魔力を集め、ユーゴの腕に魔力を包むようにかける。

 魔力は光って、スーっと消えていった。

 痣と擦り傷が消えると同時に、古い傷跡まで治っていたよ。

 ちょっとかけすぎたかな?・・・綺麗になったからいいよね?

 ユーゴや周りの護衛が驚いているけど、魔力で癒したことはないのかな?


「ユーゴの腕が綺麗になったね」


「ここまで綺麗に治るとは思っていませんでした。アン様、無理はしていませんよね?」


「軽い傷はあまり魔力を使わないから、平気だよ。今度はジルベールさんがやってみて」


「は、はい。やってみます」


「ジルベールさんの護衛さんも準備をしてね」


「はっ」


 護衛さんも腕を出して準備している。

 この護衛さんの肘に大きな傷跡があった。大きな怪我をしたのかな?これは少しの魔力では消えないと思う。

 今回は小さな傷を治すだけだから、後からアンが治してあげればいいよね。

 ジルベールさんは掌にゆっくりと魔力を集めている。


「魔力が溜まったら、護衛さんの腕に包むようにかけてね」


 ジルベールさんは集中しているのか、掌を見ながら無言でうなずき、その溜まった魔力をそっと護衛さんの腕にかけている。

 魔力が光だし、スッと消えると小さな痣や傷は消えていた。しかも古傷まで薄くなって引き攣れた所が消えていた。


「ジルベールさん、初めてなのに凄い!古い傷もかなり治っているよ」


「ジルベール様、ありがとうございます。古傷のせいで左腕が少し重かったのですが、腕が軽くなりました」


 ジルベールさんの護衛は驚きで目を丸くしていたけど、すぐに破顔した。

 喜んでもらえて良かったね。

 少し照れたように笑うジルベールさんは、もう一人の護衛に傷がないか聞いている。まだまだやる気十分だね。 

 癒しの魔法がここまでできるなら、今日は枯れた草や花を再生させる魔法までやらなくても良さそう。

 あと2、3人練習したら少し休憩するように伝えると、休憩後はシャル兄様と訓練をすると言っていた。

 もう見ていなくても大丈夫みたい・・・コレットさんの方はうまく操作できているかな?


 シャル兄様のところに行ってみると、コレットさんは片手を挙げて霧状の水を畑に撒いていた。

 シャル兄様は両方の手から霧状の水を出して撒いているけど、霧状とはいえ向こうが見えないくらい濃い霧で、畑がかなり濡れていた。

 広い範囲まで霧を飛ばせるらしく、その場から動くことなくフレーズ畑一面を濡らしていた。

 うわぁ・・・あまりの魔力量に驚いてしまった。

 こんなに魔力があるのに、なぜ精霊さんたちの声が聞こえないのかな?

 魔力量が多ければ精霊さんの声が聞こえると思っていたけど、違うの?

 そういえばジルベールさんは精霊さんが見えると言っていたけど、いつから見えていたのだろう?

 魔力量はシャル兄様の方がかなり多いと思う。

 お父様とベル兄様は精霊さんの声が聞こえるまで魔力量を増やしたのに、ベル兄様よりシャル兄様の方が魔力量は多く感じる。

 ノル兄様もお父様に近いくらい魔力量を増やしていた・・・精霊さんが見えるだけの人、声まで聞こえる人、魔力量以外に何かあるのだろうか?

 アンは突然聞こえるようになったのは、光属性があるから?

 それならリシェンヌ王妃も見えていいはずだよね。

 でも陛下は『私とリシェンヌとロベールは薄っすら見えるだけだ』と言っていた。だとしたら光属性だけでも駄目ということ?

 ・・・何が違うの?


「アンジェルさん、霧状の水撒きが漸くできるようになったわ。シャルル様が凄いです。風魔法も同時に出して、霧を遠くに飛ばしているのよ。同時に二つの属性を使うなんて・・・考えたこともなかったわ」


 うっかり考え込んでいた。


「こ、これも慣れだから、コレットさんも出来るようになるよ」


「もしかして、アンジェルさんも出来るの?」


「うん、水と風の魔法は制御さえできれば、比較的簡単に出来るから試してみて」


「シャルル様に片手ずつゆっくり出せばいいと教わったけど、右手に集中すると左手の魔力が止まってしまうのよね」


「先に利き手ではない方の手から苦手な属性の魔力を出し続けて、次に利き手で得意な属性を操作してみては?」


「利き手の方が楽に使えるから、後出しをするということね。ありがとう、試してみる。先に左手で水魔法を操作して出し続けて・・・次に右手で風魔法を出して広げるイメージ・・・あっ!でき・・・あー・・・残念」


 出来たと言いかけて、水魔法が途切れてしまっていた。


「ちょっとだけど出来たね。練習をすればもっと長くできるはず」


「そうね、集中するわ・・・今度は無言で頑張るわよ」


 にっこり笑って頷き、これ以上邪魔しないようにコレットさんからそっと離れた。


 そういえばユーゴは精霊さんの声が聞こえるようになったと言っていたけど、何かきっかけはあったのかな?


「ユーゴ、質問してもいい?」


「えっ!」


 なぜそんなに驚くの?変なことを聞いたことがあったかな?


「精霊さんのことだけど・・・」


「そのことですか・・・なんでしょう?」


 あからさまにホッとしているけど、アンに隠し事でもあるの?ちょっと気になってしまった。


「そのことって・・・何か隠しているの?」


「何も隠してはいませんが、秘密事項とか言えないこともあるということです」


「秘密事項って?」


「話せないから秘密事項っていうのです。個人の情報も含まれることもあります」


「個人の情報?・・・ユーゴの事で聞きたいことがあったの、聞いては駄目ってこと?」


「質問は一応伺いますが、内容によっては答えられない場合もあります」


「わかった、答えられない場合はノーコメントと言っていいよ」


「のーこめんと?とは」


「答えられないよって言うことだよ」


「そのままではないですか。どこの言葉・・・あ、あの、失礼しました。『のーこめんと』と言えばいいのですね」


「・・・茉白が知っている言葉だったの。ユーゴは茉白の事を知っていたの?」


「・・・少しだけ聞いています。それにあの時に、姿も見ました」


「うん・・・」


「申し訳ありません、余計なことを言いました」


「ううん、気遣ってくれてありがとう」


「いえ・・・」


 そんなに落ち込まなくてもいいのに・・・茉白の事で気を遣わせてしまったみたい。

 茉白がいなくなってしまったことに少しずつ慣れてきたけど、周りの人たちは未だに気遣ってくれているのかもしれない。

 軽く聞こうと思ったけど、なんだか聞きにくくなってしまった・・・でも聞いてみたい。


「あの、聞きたいことだけど・・・ユーゴは精霊さんの声が聞こえるようになったのは、魔力量が増えたと感じた時?それとも何かきっかけがあったから?」


「魔力が増えたと感じてもすぐには聞こえませんでした。どうしたら精霊の声が聞こえるのか、近くに寄ってきた精霊に直接問いかけたら返事をしてくれたのです。驚きましたけど、嬉しかったです」


「えっ・・・それだけ?」


「ええ、それだけです」


「シャル兄様が未だに声が聞こえないのは、精霊さんに話しかけてないからなの?」


「どうでしょう?シャルル様に確かめてみてはいかがでしょう」


「ジルベールさんも同様に話しかければ聞こえるかな?」


「ある程度の魔力は必要だと思います。もう少し魔力量を増す訓練をされた方がよろしいかと・・・でも、もしかしたら人それぞれかもしれません。念のため複数の人に聞いては如何ですか?」


「そうだね。ユーゴはたまたま運がよかっただけかもね」


「運・・・なぜでしょう、ちょっとモヤっとしました」


 あれ?・・・言い方が悪かったかな?


「ユーゴは聖獣のキリーとかけっこしたり、聖獣っぽいネージュを抱っこしたりと仲良くしているから、精霊さんたちが警戒していないと思うの」


「キリーとは遊んではいませんし、仲がいいわけでもありません。ですから精霊の声が聞こえるようになった事と、キリーは関係ありません」


 キリーとユーゴは信頼関係ができていると思ったけど、違うのかな?モヤっとした気持ちは解決しないようだ。


 精霊さんたちは単に気まぐれでそうしているとしたら、果物や木の実をあげて仲良くすればいいのかな?

 お父様はどうだったのだろう?戻られたら聞いてみよう。



 シャル兄様が畑を耕すようになってから、畑の横に休憩小屋を作ってもらっていた。

 結構な人数がいても休めるくらい広い建物で、小屋というにはかなり立派な建物だよね。


 その立派な小屋で休憩にしようとシャル兄様たちに声を掛けたら、マクサンスとジュスタンが木箱を開けてお茶の準備を始めた。

 ジルベールさんの侍従が「これは私の仕事ですね」とにっこり笑って、マクサンス達と交代してお茶を入れてくれた。

 今日持ってきた、姫ポムティーの香りが漂う。

 ジルベールさんは姫ポムティーが気に入り、お土産店で買ったのを飲んでいると聞いたことがあった・・・香りもいいし美味しいよね。

 おやつはクッキーのプレーンとナッツいり、それと厚めに切られたレーズン入りのバターケーキだよ。

 全員分を持ってきてもらったから、ゆっくり食べてね。


「休憩にこんな贅沢ができるとは思わなかったわ」


「バターケーキまで用意されていますね」


 ジルベールさんの侍従も姫ポムティーを味わいながら、チラチラとバターケーキを見ていた。甘いものが好きなのかな?


「バターケーキはラム酒が入ってないから、ジルベールさんとコレットさんも安心して食べられるよ」


「「はい!」」


 コレットさんとジルベールさんの声が、とても嬉しそうに重なっていたからちょっと笑ってしまった。


 フレーズはいつの間にか誰かが摘んでおいてくれたらしい。

 ネージュとキリーは大きなお皿に乗ったフレーズを見つめている。

 うちの護衛たちは用意周到すぎるよね・・・感心しながらお皿に乗ったフレーズをネージュに持たせ、嘴を開けているキリーにもフレーズを放り込んだ。


 ネージュは真っ赤になった口の周りと手らしきところを、ソフィに水魔法でざぶざぶ洗われていた。

 ジルベールさんとコレットさんが驚いていたけど、ネージュは水が好きなのか、嬉しそうに浴びている。綺麗になったら今度は風魔法で乾かしていた。

 ネージュは毛が密集しているせいで、毛の中まで濡れないの。濡れた犬のように細くなったりしないから丸いまま。毛の表面だけ乾かせばいいから、乾きも早いらしい。


 軽く休憩をとった後、キリーとネージュは飛行訓練に行ってしまった。

 ジルベールさんとコレットさんはまた魔法の制御をしながら霧状の水撒き訓練を始めると言っていた。

 ジルベールさんの護衛も交替で霧状の水を撒く練習や、シャル兄様が耕した端の方の畑に風魔法で種を撒く練習までしていた。

 よその護衛に種蒔きまでさせていいのかと思ったけど、ユーゴが指導しながらやっているから、いいのかもしれない。

 蒔いているのは牧草の種だって、今から蒔いておけば夏の終わりから秋にかけて、牛や馬たちが喜んで食べるらしい。

 ・・・食べごろのおいしい草ということかな?

 今までは湖のところの草を食べさせていたらしいけど、キリーとネージュが面白がってすべて刈り取って牧草ロールにしてしまったから、新しい草を育てると聞いた。ただの雑草かと思ったら、牛や馬の餌だったよ。

 これからは勝手に全部牧草ロールにしては駄目だとネージュとキリーに教えておかないとね。


「アン、そろそろ日が傾いて来たから、このぐらいにしておこう。明後日から暫く忙しいだろう?魔力増加訓練は私からジルベール君に声を掛けておくぞ」


「うん、そうしてくれると助かる。」


「ああ、任しておけ」


「ジルベールさん、シャル兄様と頑張ってね」


「ありがとうございます、訓練が継続できるから、助かります」


「良かった・・・コレットさんも一緒に訓練する?」


「参加したいけど、一旦領地に戻ることになっているの。帰ってくるのが月末だから、訓練は領地の畑で水撒きと牧草ロールで頑張るわ」


 コレットさんは畑仕事をやる気満々だったよ。コレットさんのご両親はどう思うのかちょっと心配になってきた。

 ・・・そういえば家の仕事を手伝うと言っていたような気がする。大丈夫だよね・・・きっと。


「う、うん、わかった。会えるのは来月だね」


「そうね・・・月末に両親と兄が一緒に来るの。シャルダン・デ・ローズに予約しているからって、張り切っているわ。フロックコートやドレスを久しぶりに新調したらしいから。でもお店に予約しているのは3人分だけなのよ。私は既に食べたのだからもういいでしょうって。全種類まだ制覇してないのにね・・・もう自分で支払ってもいいから行きたいわ」


「僕もノール本店に行きたいです。両親は王都店に行くと言っていましたから、領地に戻るとそちらに行くと思います。」


「王都店?」


 あれ?コレットさんはジルベールさんの領地が、王都の隣だと知らないのかな?


「僕のいる領地は北の領地だけど、王都の隣でノール本店より王都店の方が近いのです」


「どっちも行けるということね。羨ましいわ」


「夏のメテオール祭までには1度帰ろうと思っていますから、多分その時に王都店に行くと思います」


「来年になれば、コレットさんも王都の学院に行くから、王都店も行けるよね」


「そうよね、絶対王都の学院にいくわよ」


「コレットさん、王都の学院に行く理由がシャルダン・デ・ローズに行くためなんて、おもしろすぎますよ」


「あっ・・・えっと・・・目標が増えただけよ。ジルベールさんだってそうでしょう?」


「・・・・」


 コレットさんが耳を赤くして横を向いてしまったけど、目標にしていたらしい。

 しかもジルベールさんも否定しないよ・・・もしかして目標にしたの?


「ジルベールさん?目標増やした?」


 目をそらされてしまったよ。王都の学院に行けば王都店が近くなるからね。

 ジルベールさんも目標が増えたらしい。人それぞれだけど、それで頑張れるならお店を造った甲斐があるというものだよね。

 まずは夏のメニュに変わったら3人で、ノール本店へ行こうという話になった。

 試験が終わった翌々日に行けるように、アンが予約をすると二人に伝えた。


 そろそろ帰る時間なのにキリーとネージュは戻ってこない・・・飛んでいたいのかな?

 キリーがいれば大丈夫だから、先に帰ろうかな?


 馬車で屋敷に戻り、解散になった。

 今日も充実した一日だったと思う。



 部屋に戻って、明日からの予定を考える。

 明日は1日ゆっくり休んで、明後日はからシャル兄様と一緒にメニュのコピーをする。

 それが終わればノール本店にいるパトリック伯父様に、コピーを教えに行く。ついでに裏庭の奥にペーシュとミルティーユの種を植えて、育てておくの。

 王都店分のペーシュとミルティーユは東の大領地から送られてくるけど、ノール本店は自前で育てるからね。

 あっ、ペーシュは無理だけど、ミルティーユは孤児院の子どもたちに仕事を頼んだ方がいいかな?


 後はお父様たちが帰ってこられたら、王都での話を聞いて・・・これで今月も終わり漸く夏の月になるね。

 なんだか忙しい春だったような気がする。


 ・・・そういえばユーゴが休暇を取るって言っていた。試食会のことを心配していたけど、今のところ新しいメニュを作っている暇はないし、カジミールとコンスタンもいないから出来ないよね。


 そうだ、パトリック伯父様に連絡を入れておかないとね。


「ソフィ、お願いがあるの」


「な、何でしょうか?」


 ・・・久しぶりのお願いにちょっと構えたよね?

 次回の更新は1月9日「75、夏のメニュ作り」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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