72、火魔法の練習と試食会
今日は初めて龍騎士団の訓練場に行くの、しかも火魔法の練習だよ。もう凄く楽しみ。
「これからジルベールさんと火魔法の練習をするから龍騎士団の訓練場へ行くよ。ネージュもそこの隅で、キリーと一緒に飛ぶ練習したらいいかも」
「ピッ」
今日の飛行服は濃紺の生地に赤味のある黄色の糸で、縦に蔦の刺繡が何本も施されている。
外での訓練だから汚れても目立たない色にしてくれたらしい。
ネージュとキリーは飛行服と同じ生地で作られたベレー帽だよ。
生地に蔦の刺繡がされているから、今回はソフィの自作の刺繡をする場所がなかったらしい。残念だったね・・・ソフィ。
ネージュの頭にベレー帽を乗せると白いモコモコのドングリみたいになった。なんだか可愛いい。
キリーも一緒に行くから、庭に行って「キリー」と呼んでみたら、庭の奥から走って来た。
奥で何をしていたのかな?
「グワァ」
「キリー、今日は龍騎士団の訓練場に行くの。ネージュとお揃いの帽子をかぶって行こうね」
「グワァ」
「・・・」
キリーは眉のあるドングリになった。
可愛いとはちょっと言いにくくて、無言になってしまったよ。
「ピィー?」
「どうしたの?」と聞いているのかな?ネージュは可愛いけど・・・「キリーはちょっと微妙かも」なんて・・・声に出して言えない。
ユーゴがキリーに鞍を付けてくれたけど、キリーの顔を見ないようにしているのは気のせいかではないと思う。
次回は違う形の帽子を考えないと・・・。
とりあえず今はこのまま出発しよう。
みんなが龍に乗り飛び立つ。
キリーのすぐそばを飛ぶネージュ。前方には屋敷の護衛が1名、右にユーゴ左にジュスタン、後ろがマクサンスと相変わらず囲まれている。少し上昇したらキリーの下にも護衛がいたよ。
前後左右と下に囲まれていた。
飛び立って少しすると、ユーゴが上を向いて手を振った。
えっ?・・・上だけが空いていると思ったら、上にも護衛がいたの?
誰だろう?ユーゴの知り合い?
あきらめて飛び続けていると、前方に騎士団と思われる建物が見えてきた。訓練場まで行ってそこで降りるらしい。
訓練場の端に降りると、アンの上にいた龍も降下してくる。
騎士が龍からポンと飛び降りていた。
いいな・・・アンもポンと飛び降りてみたい・・・たぶん格好良く着地はできないと思うけど。
キリーが足を折り曲げて引くい姿勢になったから、そっと足を地に付けた。
さっき龍から飛び降りてきた騎士がこちらにヒラヒラと手を振りながら、近づいてきた。
知り合いだったかな?
・・・あれ?何処かで見たような気がする。白銀に近い金髪に金色の目の人・・・どこで会っただろう?
「おはようございます。大きな鳥に乗った子はやはり君だったのか」
「えっと・・・何処かでお会いしましたのかもしれませんが・・・」
「覚えていないかい?・・・学院の食堂で君はお金がないと言っていたけど」
あー・・・あの時の・・・思い出したよ。食堂でお茶を飲んでいた人だ。ちょっと綺麗な人だと思ったような気がしたような・・・。
「そ、その節は失礼いたしました。アンジェル・テールヴィオレットです。アンジェルとお呼びください」
この人はあの時座っていたから気付かなかったけど、見上げてしまう・・・凄く背が高い。
「テールヴィオレット辺境伯の令嬢でしたか。私はクレメント侯爵家の嫡男マルスランといいます。マルスランと呼んで下さい」
「マルスラン様よろしくお願いします。上空でユーゴが手を振っていたようですが、お知り合いなのですね」
「龍騎士団第二部隊でユーゴ先輩が副隊長だった時に、1年ほどお世話になりました。現在は第一部隊に所属しています
「そうでしたか。私は火魔法の訓練できました。お世話になります」
「伺っております。訓練は私も加わりますから、お手柔らかにお願いします」
にっこりと笑っているけど、マルスラン様のほうが絶対慣れているのに・・・これが謙遜というやつだよね。
「ところでアンジェル様の横でパタパタ飛んでいる白いのと、そこの大きな鳥も何か訓練をするのですか?」
ネージュを見る目はちょっと優しく感じるけど、キリーにはとても不審な目で見ている。
「ネージュは飛ぶ練習をするのです。キリーはネージュを見守る役をしてくれています」
「鳥が見守る・・・?そ、そうですか」
何かおかしいことを言っただろうか?訓練の邪魔にはならなければ問題ないよね。
そういえばジルベールさんはまだ来ていない・・・少し早く着きすぎたのかも。
ジルベールさんを待つ間、マルスラン様がご自身の話をしてくれた。
王都の学院を卒業してすぐに北の領地を訪ね、龍舎に行ったら1週間で龍に選ばれたらしい。
訓練の為に龍騎士団に入ったけれど、今もここで訓練をしながら、お仕事をしているらしい。
今年で3年だと言っていたから、13歳かな?侯爵の嫡男というだけあって落ち着いた感じがする。
学院の食堂にいたのは、以前王都の学院でお世話になった先生が、北の学院に移動になったと聞いて会いに来たらしい。
その日が試験日だったから、先生が担当している試験が終わるまでお茶を飲んで時間を潰していたと言っていた。
南の大領地の公爵夫人ジャネット様の弟の子どもで、クレメント領は観光地で海の近くに街があると聞いた。
夏はとても暑いらしい。
なんとクレメント領にアンゴーラピイという聖獣もいると聞いた。だからキリーの眉を見ても驚かないのかな?アンゴーラピイも目つきが悪くて、しかも脱皮するんだよね。
キリーと同じだよ。
王城の秘密のお部屋にも絵があった・・・青色とピンク色の2種類がいて、耳が長く大きな前歯が2本見える聖獣だった・・・。
気温が高い領地なのにモフモフになるアンゴーラピイは、大変そうだよね。
・・・そっか、暑いから丸ごとスポーンと脱皮するのかも。
マルスラン様はシャルダン・デ・ローズへ早々に予約を入れて一通り食べて、パフェに凄く感動したらしい。
「南の領地は冬でも暖かく、アイスは1年中食べられると思います。あとクレープも好きですが、やはりカツサンドが最高です」と言っていた。
騎士だからお腹にドンとくるものがいいのかも。
ユーゴと同じ食いしん坊さんだよね。
夏から『プリンアラモード』を始めるからまた食べに来て、と宣伝してもいいだろうか?
「成人前には領地に戻るつもりです。それまでにシャルダン・デ・ローズのようなお店がクレメント領にできると嬉しいのですが」
呟くように言っていた。
嫡男と言っていたから、いつまでも北の領地にはいられないらしい。
「お店が増えるといいですね」
すぐには無理だよと言う意味で答えたら、悲しそうに頷かれてしまった。プリンアラモードの宣伝がしにくくなったよ・・・こちらにいる間は何度でもお店に来てねと言っておけばいいのかな?・・・悩んでいたら後ろから声がかかった。
「アンジェルさん、おはようございます。お待たせしてしまいしたか?」
「おはようございます、大丈夫です。予定より早くついてしまったので、騎士団の方とお話しをしていました」
ジルベールさんがマルスラン様のほうを向くと胸に手を当てて会釈をした。
「初めまして、ミッテラン子爵家の嫡男ジルベールと申します。どうぞジルベールとお呼びください。本日はよろしくお願いいたします」
「クレメント侯爵家の嫡男マルスランです。私もマルスランと呼んで下さい。火魔法の訓練は無理せずゆっくりと始めましょう・・・では行きましょうか。せっかくなので護衛の方々は龍と共に飛行訓練をされてはどうかと上司が言っていました。お二人には龍騎士団が護衛をしますので安心してください」
「お気遣いありがとうございます」
ジルベールさんがお礼を言い、ユーゴたちとお屋敷の護衛も含め、みんな違う建物のほうに向かっていった。
アンたちは広い訓練場の奥の黒くて高い塀の方に歩いていく。
「火魔法でも焼けない壁だから、間違って火を放っても大丈夫でしたよ」
「そ、そうでしたか・・・」
マルスラン様が『大丈夫でしたよ』と笑っていたから、たぶん火魔法を放った経験者だと思う。ちょっとお茶目な人らしい・・・。
「間もなく第二部隊のベクトーン隊長がお見えになります。それまで龍騎士団の上空訓練を見ていてかまいません」
上空を見ると龍騎士の人たちがどんどん飛び立って、戦隊を組み始めた。
ユーゴやマクサンスとジュスタンもどこかにいるはず。ジルベールさんの護衛たちも飛んで行ったと思う。
最後に飛んで行ったの・・・あれ?・・・キリーだよね。横の小さいのはもしかしてネージュ?
・・・いいのだろうか?
そっとマルスラン様のほうを見ると、驚いた様子はなかった。誰かがこちらにやってくるのが見えた・・・どうしよう叱られるのかな?
「ベクトーン隊長、お疲れ様です」
「ああ、待たせたな・・・今日の訓練は2名でしたね。第2部隊隊長フィルマン・ベクトーンです」
「初めまして、アンジェル・テールヴィオレットです。よろしくお願いいたします」
第二部隊はユーゴがいた部隊だ。ユーゴの元上司かもしれない。
「ジルベール・ミッテランです。どうぞよろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく頼む。アンジェル嬢とジルベール殿と呼ばせてもらいます」
「あの・・・私が連れてきたキリーとネージュが龍騎士団の訓練に入ってしまって、ご迷惑をかけているようなのですが」
「ああ、大きな鳥と白いけだ・・・コホン・・・白い生き物?たしかネージュでしたね」
「・・・はい」
今、毛玉と言いかけたよね。見た目は毛玉だから否定はしないけど・・・。
「ユーゴが『あの大きい鳥のキリーなら問題ないし、ネージュの事はキリーが死んでも守るはずです』と言っていたので、参加を許可しました」
良かった、ベクトーン隊長が許可したなら大丈夫だよね。
・・・ん?・・・キリーが死んでも守る?
「ユーゴが疲れたら勝手に離脱するように言い聞かせていました。大きい鳥が頷いていましたから、わかっているのでしょう・・・ユーゴはキリーと仲がいいのですね」
「・・・そうです、ね?」
曖昧な返事をしてしまった。
ベクトーン隊長さんはユーゴとキリーの仲がいいと言っていた。
いつの間にか仲良くなっていたらしい・・・。
それにしても、上空が気になって目が離せない・・・龍たちはあんなに速く飛んでいるけど、大丈夫なのかな?キリーは飛びなれているけど、ネージュが心配だよ。
遠くまで飛んで小さくなって行くと、もう点にしか見えなくなった。その点が旋回しているのか上がったり下がったりしている。
暫くすると、キリーとネージュだけがこちらに飛んできた。
離脱したのかな?・・・凄くホッとした。
「・・・ではそろそろ訓練を始めます」
そうだった・・・気になってずっと見てしまっていた。
「申し訳ありません。気がそれていました」
「そのようですね。集中できない時は訓練をしないほうが良いです。特に火魔法は危険を伴いますから」
「「申し訳ございません」」
あれ?ジルベールさんと声が被った。
「僕も気になってしまって・・・」
そうだったの?ジルベールさんでさえ集中できないなら、アンは絶対無理かも。
「初めてここに来る人は、上空で訓練している龍が気になります。ですから初めから見せておいたほうがいいのです」
「・・・僕だけかと思ってしまいました」
「私も・・・です」
「グー」
「ピー」
キリーとネージュがアンと呼んでいる。でもこれ以上訓練を遅らせるわけにはいかない。
「キリー、ネージュ、今度はアンが訓練するから、ここで大人しく待っていてね」
「グワァ」
「ピッ」
「もう大丈夫です、訓練をお願いします」
「わかりました。ジルベール殿にはマルスランが、アンジェル殿には私が担当します」
マルスラン様がジルベールさんと一緒にアンたちから少し離れ、操作方法の説明を始めているようだった。
「ではこちらも始めましょう、普段から魔法はよく使われますか?よく使われる属性で操作してみてください」
「水魔法をよく使いますので水を出します」
出来るだけ制御して細く水を出し、次に上に向かって広く霧状に出してみた。お天気が良いから小さな虹が出て、とても綺麗だなぁと見とれてしまった。
キリーとネージュも上を見ているから、虹を見ているのかな?
「もう結構ですよ」
「は、はい」
ずっと霧を出していたら止められてしまったよ。綺麗だったのにね。
「制御は問題ないです、よく訓練されており大変素晴らしい。これだけ制御ができていればすぐに火魔法を始められますね。火がどのような形状だったか思い出して、今の水魔法と同じように細くゆっくりと魔力を流してみましょう」
「はい」
指を上に向けて小さな火を思い出してゆっくりと指先に魔力流す・・・ポッ!
火だ、火が出たよ・・・。
今まで火魔法の使用どころか練習すら禁止されていたから、ちょっとドキドキする。
「そうです、そのまま細く小さく出し続けてください」
「は、はい」
蠟燭の炎のようにゆらゆらと指先で揺れている。不思議・・・指先は熱くない。
熱かったら火魔法のたびにやけどしちゃうから、当たり前だよね・・・。
「良く出来ました。次は大きな炎を出してみましょう。この場合は指をそろえて4本指全体に魔力を流しましょう」
「・・・4本指全体」
ブワッ!・・・シュー・・・。
わぁ・・・火が吹き出て壁に当たって消えたよ。すごいね。
ブワッ!ボォー・・・ドン!
「えっ!・・・ネージュ?」
「はあっ?・・・」
ネージュの口から炎が噴き出た・・・ネージュはキリーと同じ風魔法だったはずなのに、火魔法も使えるの?
ベクトーン隊長があんぐりと口を開けている。ネージュはアンの数倍の大きさの炎を出していた。
ネージュは合体聖獣なの?まるで黒龍みたいだよ。まだ口から黒い煙が出ているけど大丈夫かな?
「ネージュ、火傷してない?大丈夫?いつから火が出せるようになったの?」
「ピィー?」
何?と言うように返事をしているけど、思わず口の周りやモフモフの毛を確認してしまった。
毛が焦げた様子や火傷もないみたい・・・念のため口もこじ開けて中を見たけど大丈夫みたい。
・・・驚いたよ。
「アンジェル殿?ネージュは先ほど風魔法を使っていたと認識していましたが、火魔法も使えるのですね。他の属性も使えるのでしょうか?」
「あの・・・今初めて火魔法が使えると知りました・・・ネージュ、他の魔法も使える?」
「ピィー?」
「ベクトーン隊長・・・ネージュはわかっていないようです」
「もしかして、今火魔法を見て学んだということでしょうか?アンジェル殿、試しに水魔法を操作してくれますか?」
頷いて水魔法を操作する。最初は細く長く、そして次は霧状にして出してみた。また虹が出たよ。
うーんやっぱり綺麗。
・・・・あっ・・・見とれている場合ではなかった。
「ピィー」
ネージュが虹を見て喜んでいる・・・綺麗だからね。
「ピピピィ」
ネージュが翼を広げて動かすと翼の先から霧がでて大きく広がった。もっと高い位置に虹が出ると、楽しいと言って喜んでいる。
・・・ネージュはまだ赤ちゃんなのに・・・霧を大きく広げられるなんて、魔力が多いの?
マルスラン様とジルベールさんがこちらにやってきて、虹を見ている・・・もう今日は屋敷に帰ったほうがいいような気がする。
お父様・・・要相談案件ができました。
「ピピピィ」
「楽しかったの?新しい魔法を覚えたからね。でも火魔法は危険だから、使う場所を考えないと」
このわずかな時間で、2つの魔法を覚えてしまった・・・。
楽しいと言っているネージュを叱ることは出来ないよね。
使えるはずの魔法なら止めるのではなく、正しく使う方法を学べばいいと思う。でも今はここで操作させていいのか・・・判断ができないよ。
アンが操作すれば、喜んで真似をしてくる。色々なことを学ぼうとするネージュは成長期なのかもしれない。
龍騎士団がどこまでアンとキリーとネージュの事を知っているのだろう?
「ベクトーン隊長、あの・・・お父様に相談したいことができました。ユーゴたちが戻り次第お屋敷に帰ろうと思います」
「・・・そ、そうですね・・・火魔法はまた改めて練習しましょう」
「はい、今日はありがとうございました。またよろしくお願いします・・・ジルベールさん、火魔法はどう?アンは炎を出せたから、そろそろ帰ろうと思います」
「僕は中々集中できませんでしたから・・・もう少し練習をしてから帰ります」
ネージュのせいだよね・・・ごめんなさい。
「もし良かったら帰りにビスコッティを持って帰って。護衛が食事をする時間がなかった時に、重宝しているようなの。保存期間は1か月になっているけど、2週間くらいで食べきるようにしてね。受付でジルベールさんか護衛の名前を伝えてくれれば、訓練でこちらに来るたびに受け取れるよ」
「ありがとうございます、2週間も持つということは保存食ですね」
「うん、鉱員さんや護衛の為に作ったの。結構美味しいよ」
「ありがとうございます。護衛が喜びます」
「ジルベールさんと侍従の分もあるから、おやつにして食べてね」
ジルベールさんは嬉しそうに頷いてくれた・・・話題をずらしてみたけど、ネージュの事はごまかせないよね。
ベクトーン隊長とマルスラン様の口は堅いかな?
さすがに誓約書に署名はしていないよね?
詮索しない事と常識に囚われず柔軟な対応で冷静に判断をする事だったはず。あれはお屋敷の護衛限定かな?出来れば器用なほうがいいというのはお屋敷限定だとは思うけど・・・ユーゴに聞いてみようかな?
少しするとユーゴとマクサンスとジュスタンが戻ってきた。
「ユーゴ、すぐにお屋敷に戻りたい。お父様に伝えたいことができたの」
「わかりました」
ユーゴたちは誓約書にサインをしているから、余計な質問をせずに行動してくれる。こういう時は凄く助かるよね。
ベクトーン隊長とマルスラン様に挨拶をして、ジルベールさんに次回の予定は、後で連絡を入れると伝えて別れた。
ユーゴたちの龍がいる場所まで歩きながら、3人にネージュの事を話したら驚いていたけど、帰ったらすぐにお父様に取り次いでくれると言った。
3つも魔法が使えるって・・・まるであの黒龍と同じ合体龍みたいだよね。
なんだか急に気になって、横でパタパタと飛んでいるネージュの密集している毛を思わずめくってしまったよ。
「ピィ!?」と言って驚いていたから「ごめんね」と謝ったら、金色の目をまん丸にして「ピッ」と返事をした・・・可愛い。
やはり黒龍じゃないよねと、ホッとして自分を納得させた。
でも地肌は白かったけど手の先の爪らしきところが黒いんだよね。納得したばかりなのに・・・またちょっと不安になってきてしまったよ。
別に黒龍が嫌というわけではないの、ネージュは真っ白がいいなぁって思ってるいだけなの。
まさかキリーみたいに脱皮したら、真っ黒になるとか?
悶々としながら考えても結果が出るわけではないのに・・・。
これ以上考えて仕方がないと自分に言い聞かせてみる。
・・・気がついたら頭の中のネージュが真っ黒になっていた。
黒いのはやはり嫌かも・・・せめて灰色ぐらいで留めてほしい・・・。
ユーゴは何も言わなかったけど、なんだか遠い目をしていたのは気のせいだろうか・・・マクサンスとジュスタンも無言だった。誰も口を開かないままお屋敷に戻った。
夕食の後、時間を取ってくだったお父様に、龍騎士団での訓練の様子とネージュが3つの魔法を見ただけで使えるようになったと話したら「そうか」とおっしゃった。
少し考えているようだったけど「暫くはネージュを見守るしかないだろう」とおっしゃって小さく息を吐いていた。
「火魔法は危険なので、訓練場以外では使用しないようにきちんと伝えておくようにしなさい」と注意を受けただけだったの。
「王都に行ったら陛下にだけは伝えるが・・・土産は増やした方がよさそうだな」とおっしゃったあと久しぶりに天井を見ていたよ。
夏のメニュのペーシュとミルティーユのジャムも持参するように伝えたら、しっかりと頷いていた。
何個ずつ持っていくのかな?
明日の朝はペーシュとミルティーユを育てて大量に収穫しようと思う。ジャムを作ってもらわないとね。
今日は朝から庭に行き、ペーシュとミルティーユをドンと成長させたから、ユーゴたちに収穫してもらった。
ユーゴたちはもうすっかり慣れているから、篭の準備から収穫までの仕事が早かったよ。
果物や野菜の収穫が手早くできるから、護衛を引退しても次の仕事の心配はいらないかもしれない。
明日はカジミールたちに試食分を先に作ってもらって、味の確認をしよう。
それから陛下へ持っていく分とシャルダン・デ・ローズ各店に持っていく分も作ってもらう。
ノール本店分のペーシュとミルティーユはお店の裏庭に行って育てないとね。
エタンに絵も描いてもらい、描き終えたらノール本店に行ってパトリック叔父様にコピーの操作を伝えないと。
王都店分はアンが数枚コピーすればあとはノル兄さまがすると、お母様がおっしゃっていたけど任せて大丈夫かな?
カジミールに渡す夏のメニュは、この間お父様たちに見せた紙をコンスタントの分もいれて2枚コピーしておけばいいかな?
・・・あっメニュの内容を書いておいたほうがいいよね。
『カジミールへ
夏の新メニュと変更について
季節限定品の変更内容は別紙を参照(コンスタントの分もあります)
夏の新メニュと作り方は下記の通りです。
新メニュ
1、アイスペーシュティーとアイスペーシュミルクティー
2、ペーシュの紅茶マリネ
3、マーブル模様のミルティーユ、シフォンケーキ
4、バターケーキ、カロット入り
5、ハンバーガーとフライドポテト
作り方
1、アイスペーシュティーとアイスペーシュミルクティー
香りの強いものを選んで皮を剥いて切り、容器に入れる。ペーシュにノールシュクレをまぶす。これはペーシュの変色防止。
1、夏摘みの茶葉で紅茶を作る。
2、容器にペーシュを入れて、紅茶が熱いうちに注ぐ。
3、味見をして甘味が十分でれば粗熱をとったあと、保冷室の手前の部屋で冷やしておく
4、ノールシュクレをまぶしたペーシュをすりおろして、布でこしておく。
5、グラスにペーシュ果汁と冷やした紅茶をいれる。
6、切ったペーシュを飾る
ペーシュミルクティーは上記の5の時にミルク入れ、よく混ぜる
男性も飲めるように甘さ控えめで作る。
甘味を希望の場合はガムシロップで調整。
「ガムシロップの作り方」
お水とノールシュクレは1対1
お水を沸騰させてからノールシュクを入れる
再沸騰したらすぐに火を止めてさます
2、ペーシュの紅茶マリネ
材料
ペーシュ(新鮮で、甘い香りが漂うものを選ぶ)
ノールシュクレ(完熟の甘いペーシュならノールシュクレは不要)
夏摘み紅茶をすりつぶして細かくしておく
1、初めにペーシュは半分に切り、種を取り除き、8等分にして皮を剥く
2、ボウルに切ったペーシュを入れて、ノールシュクレをまぶし、少し置く
2、ペーシュにすりつぶして細かくした茶葉をかける
4、濡れた布をかけて保冷室の手前の部屋で冷やす
3、マーブル模様のミルティーユシフォンケーキ
ミルティーユはジャムより甘さ控えめで少し緩く作っておく
シフォンケーキの生地にミルティーユジャムを入れ、軽く混ぜたら型に流しいれて焼く
4、バターケーキ、カロット入り
材料
ウッフ、ノールシュクレ、バター
カロット(すりおろし)は小麦粉とアマンド粉を合わせた分量と同等
酵母、カネル、粗く刻んだノワィエ
作り方
窯は温めておく
1、いつものつくり方とほぼ同じ
2、溶いたウッフを入れたあとに、すりおろしたカロットをボウルに入れる。小麦粉とアマンド粉とカネルは、空気を入れるように混ぜ合わせる。ノワィエも入れて全体に混ぜる
3、型に流しいれ焼く
5、ハンバーガーとフライドポテト
材料
アシュワールにかけた牛のお肉
塩、コショウ
ナツメグ?(お肉の臭みを取り、甘さを引き出すもの)
まん丸いかたちのマシロパン
ポムドゥテール
パテを作る(お肉のこと)
1、アシュワールにかけた牛のお肉、塩、コショウ、ナツメグを入れてヘラなどで混ぜる(肉ダネと言う)。
手で混ぜると体温で脂が溶け、パサついたパテになるから、ヘラなどを使って混ぜる
2、「肉ダネ」を等分して、厚さは1,5センチ、大きさはマシロパンより一回り大きいくらいに形をととのえながら空気を抜くように押しつぶす。
焼く直前まで保冷室の手前の部屋に入れておく。
3、パンは横半分に切り、葉を乗せその上に焼きあがったパテ、チーズ、トンカツに使ったソースとマヨネーズ、大人はムータルトもかける。
また葉を乗せて、マシロパンの上半分を乗せる。
フライドポテトの作り方
ポムドゥテールは厚さに1、5センチに切り、幅1、5センチの棒状にする。
油で揚げて取り出したら塩を振る。大人用はお好みでコショウを振っても良い。
以上。
アンジェルより
追伸
試食会にエタンを呼ぶのでいつもの人数より多いです。
新メニュは翌日の朝食と昼食に分けてお父様とお母様とシャル兄さまにお出ししてね。
お父様とお母さまから許可が出れば、王都とノール本店の料理人に新メニュを伝えること。
ペーシュとミルティーユのジャムはお父様が王都に持参されるはず、他のものは王都についたらすぐに作ってもらうことになるよ。ペーシュとミルティーユが足りなければすぐに届けるから遠慮なく言ってね。 』
これでいいかな?
ペーシュとミルティーユは足りなければ、また育てればいいからね。
マーブル模様のミルティーユシフォンケーキのマーブルという言葉はこちらではマルブルと言うのだけれど、茉白がマーブルと言っていたから、そのまま呼ぶことにしたの。
ハンバーガーとフライドポテトはジャンクフードと言うらしい。子どもや若い人が気軽に食べるものだって。
フライドポテトは美味しそうだと思うの。これはお食事のお店でも出したいよね。明日の試食会で一番の楽しみかも。
あとペーシュの紅茶マリネに使う紅茶は、満足できる味になるかわからないの。
茉白が月に一度行っていた「コール・ア・ビジュー」で、毎月出会う親子が食べていたもの。
気にはなっていたけど、茉白はそのマリネに使われている紅茶が苦手だった。
人名がつけられた有名な紅茶で、産地で香り付けされていてその香りがいいという人が多いらしい。
茉白はコーヒーより紅茶が好きだけど、その紅茶の香りだけがダメだった。だから自宅で違う紅茶で試して作っていたの。
茉白は満足していたからたぶん大丈夫だと思うけど・・・アンも挑戦してみるからね。
今日は厨房の隣の部屋で夏のメニュの試食会だよ。
カジミールにコンスタン、ニコラとエタン。そしてアンとソフィとユーゴとマクサンスとジュスタンの9名になったからね。
試食会もだんだん人が増えていくよ。
厨房に行くとエタンがすでに来ていた。
「アンジェル様、試食会に呼んでいただきありがとうございます。すごく嬉しいです。絵も頑張って描きますので、よろしくお願いいたします」
「見るだけじゃなく、一緒に食べたほうが楽しく描けると思ったの」
エタンがとてもいい笑顔で頷いた。
カジミールの方を見ると、相変わらずニコニコしている。たぶん、凄く張り切って作ったような気がする。
「アンジェル様、今回も楽しませていただきました。ハンバーガーとフライドポテトはいいですね。間もなく焼き上がります」
コンスタンがワゴンで運んできたとたん、とてもいい匂いが漂った。
初めて参加するエタンは少し緊張しているかと思ったけど、ハンバーガーとフライドポテトを見たとたんに、顔がパッと明るくなった。やはり男の子はお肉がいいみたい。
ユーゴたち護衛も嬉しそうにハンバーガーを見ていた。匂いをかいでいるのかな?鼻がちょっとひくひくしたのを見ちゃったよ。
ハンバーガーとフライドポテトはきれいなお皿に乗せられていて、ナイフとフォークがついていた。
それなりの大きさと厚さがあるから、手に持ってお口を大きく開けるのはだめかもしれないね。
ニコラがアイスペーシュティーを運んできたけど、アンの分だけアイスページュミルクティーにしてもらったの。先に飲んでみたかったから。
「そういえばカジミールはナツメグでわかったの?」
「ナツメグというのは恐らくミュスカドゥだと思います。入れてみて問題なかったのでそのまま使用しました」
「さすが、カジミール・・・それじゃあみんなで一緒に試食会を始めるよー、オー」
「「オー」」
ニコラとエタンの声だけが聞こえたけど、カジミールとコンスタンとソフィが顔の横で拳を作ってくれていた・・・うん、それで満足だよ。
ソフィはアンが精霊樹で倒れてから、「オー」は許してくれるようになったの。でも「外ではだめですよ」って言われているけどね。
早速食べようと思ったけど・・・ナイフとフォークはいるね。手で食べるのはお店では無理だと分かったよ。
お食事のお店でなら、商人や庶民が手に取ってガブっと食べてもいいかもしれない。
熱々のフライドポテト・・・これは癖になる。美味しすぎるよ
「アン様、これはまずいです。旨すぎです・・・それに絶対エールが欲しいです」
「ユーゴ、まずいと旨いどっち?」
「あっ、いや・・・美味しすぎます。ハンバーガーはあと4ついけます。フライド?ポテトでしたか、これは塩加減とコショウが最高です」
よくわからない事を言い出したユーゴは、錯乱するくらい美味しいってことでいいのかな?やっぱり男の人に喜ばれるね。エタンもニコラも黙々と食べていた。
「ソフィはどう?食べにくい?」
「ちょっと食べにくいですが、お肉が柔らかくて食べやすので、問題ないです。フライドポテトはチョコレートの次に好きになりました」
ソフィはチョコが一番だったの?アンはチョコバナナパフェが一番で次がプリンアラモードだよ。
お肉が食べやすいなら、ハンバーグにして食べてもいいよね。今度カジミールに作ってもらうことしよう。
ハンバーガーを少し食べてからアイスペーシュミルクティーを飲んでみた。これはペーシュの香りと味が紅茶と溶け合っている感じ。
まろやかでなんて美味しいの。ペーシュティーも後から飲んでみよう。
もうみんな無言になっちゃったよ。黙々と食べているから、美味しいということだよね。
「これは絶対お店で出してくださいね」
マクサンスが言うとユーゴとジュスタンがうんうんと頷いていた。
「お父様たちが試食してからになるけど、大丈夫だと思うの。美味しいのは正義だから」
「正義ですか?・・・そうですね正義ですね」
ユーゴたちが納得したように頷くと、カジミールまで頷いていた。
コンスタンがペーシュの紅茶マリネと、カットされたマーブル模様のミルティーユ、シフォンケーキとカロット入りバターケーキを運んできた。
紫のマーブルとオランジュ色のケーキはどちらも色が綺麗だ。
ニコラが追加でアイスペーシュティーとミルク入りの2種類を運んできた。
今度はミルクなしを飲んでみる、こちらの方が紅茶の味がしっかりしていたけどペーシュの甘さがあるからごくごく飲めちゃう。
・・・凄く美味しい。
マリネも食べてみる、もっと大人味かと思っていたけど結構食べられるね。夏なら冷えたマリネが進みそうだよ。
「アンジェル様、今回も楽しませて頂きました。来週ノール本店にコンスタンが新メニュの指導に向かい、私は王都に行きます。たぶん王城の料理人もやってくるかもしれませんね」
「カジミール、王城にはハンバーガーではなくハンバーグを伝えたほうがいいかもしれないよ。作り方を教えるから、明日の夕食に出してもらえる?」
「ええ、もちろん喜んでお引き受けします」
カジミールはニッコリと笑った。
次回の更新は12月26日「73、お友だちとのお勉強会」の予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




