71、セリーヌ様の手紙と夏のメニュ
ジルベール君から受け取ったセリーヌ様の晩年の手紙は、日記より筆圧が弱く線が細かった。しかし一字一字丁寧に綴られているのは変わらない。
晩年に何を伝えようとしたのか・・・思わず背筋を伸ばしてしまった。
『愛するジルベールへ
この手紙を読んでいるということは、学院に行く年齢になっているのね。
入学おめでとう。
ジルベールの学院服姿を見るまではこの地にいたかったけど、精霊がお迎えに来るようなの・・・とても残念だわ。
聡明な貴方なら、1組の上位にいるのでしょうね。
私の子どもと孫の中で光属性があるのは、貴方だけかしら?あなたの弟オベールは今のところ、精霊が見えていないわね。
貴方は生まれて半年を過ぎた頃から、精霊を目で追って手を伸ばして笑っていたの。だからまだ魔力検査を受けていない貴方が、光属性も持っているとわかったの。たぶん魔力量も多いはずよ。
今はまだ、私より少しだけ光属性が弱いかもしれないわね。姿は見えても声は聞こえていないようだから。
でも心配はしないで、身体の成長と共に魔力は増えるの。必ず精霊の声を聞くことが出来るわ。
精霊巫女のイザベル様が精霊の地に渡られたのは、夏の3の月メテオール祭の最後の日だったの。あの日は珍しく月が出ていたから、月の精霊のベルリュンヌ様がいらっしゃっていたと思うわ。
そしてそのメテオール祭の後に子どもが数人生まれているの。精霊が光の子は3人と言ったわ。
一人目はジルベール、貴方よ。
二人目は商人の子どもでマリエル・クラメール。
アデライト様の孫よ。凄く驚いたわ。聞き間違いかと思って、精霊に3度も聞き直したのよ。
アデライト様は私より光属性が高かったから、光り持ちの孫がいて当然かもしれないけど・・・。
でも、ジルベールと同じ年というのが、とても怖いと思ってしまったの。
貴方がアデライト様の孫に振り回されない事を、思わず願ってしまったわよ。
そして三人目はアンジェル・テールヴィオレット様。
お身体が少し弱いと伺ったわ。
恐らくこの3人の中に精霊巫女様もしくは精霊男巫様が選ばれるはずよ。
でも心配しないで、この役職は強制されないはず。神殿はアデライト様の事があってから考えを改めたの。
嫌がる人や向いていない人は精霊巫女にするべきではないと・・・でも有事の際は率先して呼ばれてしまうのよね。
イザベル様に呼ばれて大神殿に行ったことがあるの。その時におっしゃったわ。
「昔は精霊巫女がいなかったのだから、いなくてもいい方法を探すべきだと思うわ・・・だから私が最後の精霊巫女であってほしいと願っているの」
とても驚いたけど・・・思わず頷いていたわ。
ジルベール、お願い。
テールヴィオレット辺境伯様を通してご令嬢に伝えてほしいの。
イザベる様がおっしゃった『いなくてもいい方法』を見つけてと・・・。
そしてジルベールと辺境伯様のご令嬢がもっと魔力量を増やすことが可能なら、4大精霊にお会いして何を望まれていらっしゃるのかを伺って頂戴。その望みがとても重要な事のような気がするの。
辺境伯様のご令嬢が、3人の中で魔力が最も高いと精霊たちが言ったわ。
貴方はお身体弱いアンジェル・テールヴィオレット様の力になって差し上げて。私のような苦労をする補佐になったりはしないはずよ。辺境伯様は良識のある方ですもの。
精霊巫女としての引継ぎを終えて3年ぐらい経った時だったかしら・・・イザベル様はグノーム様から「既に伝えていた事はどうした?」と、問われて困惑したらしいの。
「アデライト様から何か聞いていなかったかしら?」と手紙が来た事があったわ。その時は何も思いつかず、聞いていない旨の返信をしてしまったの。
でも、昨日の夜、月を見て思い出したの・・・なぜ今頃になって思い出したのかしら・・・。
各精霊樹を廻っていた時の事よ。
行く先々で、大精霊たちがアデライト様に言っていたわ。
大精霊たちが怒ったようにアデライト様に何かを伝えていたの、確か「満月の夜」とか「魔力がまだ」と。
何をおっしゃっていたのか、アデライト様に聞いても教えてもらえず、これ以上機嫌を損ねると今後の精霊樹めぐりに差し障るから、聞くことを諦めてしまったの。
アデライト様が祈りと魔力を捧げられるようにと・・・そればかりに気を配り、4大精霊たちの話を聞き流していたのよ。
何を望まれていたのか・・・。
『満月の夜』その言葉が鍵になるかはわからないけれど、もしかしたら過去の精霊巫女様の日記に何か書かれていたかもしれないわね。
歴代の精霊巫女様の中で魔力の高い方が何かを聞いていないか、調べる事が出来ればいいと思ったの。
私の魔力では足元にも及ばないらしく、表紙すら開かなかった日記が1冊あったのよ。
もちろんアデライト様も開けられなかったわ。それとイザベル様の日記は読んでいないわ。補佐を退任しているのだから。
イザベル様から何か聞いていないかと手紙を受け取って、もう30年も経過しているの。あの時と状況は変わっている可能性もあると思うけど、それでもイザベル様の日記も読めたらいいと思っているわ。
これは私の一方的な考えだから、貴方やテールヴィオレット令嬢が拒むのであれば、無理はしないでね。
ジルベール・・・この件とは別に貴方がテールヴィオレット辺境伯様と繋がりが持てる事を心から祈っているわ。
今の状況が誰かの力で少しでも変わってくれるならと願っているけれど、貴方がこれから進む道の為に、何かを得られる機会があるはずよ。
・・・光属性はとても貴重なのだから。
一人で頑張らなくていいの、出来る範囲で構わないから。
あとはお願いね。
貴方を心から愛しているセリーヌより』
セリーヌ様はジルベール君が5歳の時に、精霊の地に渡られていると聞いた。この手紙を書かれてから3年経過している。
私と繋がりを持って欲しいと書かれているが、それはアンジェルが関わるからか?それとも姉が王妃だからか?光属性が貴重なのはわかるが、「何かを得られる機会」とは治癒魔法かそれとも再生や育成の魔法についてなのか?
アンジェルは再生と育成という2つの魔法を使えるようになっていたが、神殿で学んだとは聞いていない。
いつの間にか何でもないように使っていた。
セリーヌ様は光属性の事を精霊から何か聞いているのだろうか?
我々は既にグノーム様にお会いして『やるべき事をせよ』と言われている。
アンの魔力量はセリーヌ様どころかアデライト様の比ではないだろう。
いや、魔力だけではなく様々な知識と行動力。
身体が弱く無理な行動が続かないから、突然出かけていなくなったりしないで済んでいるが、もしもアンが丈夫だったらと考えるだけで恐ろしい。
・・・心臓がいくつあっても足りない。
いや・・・一度あったな。キリーに乗っていなくなったことがあった・・・いや・・・2度だ。
冬の早朝に部屋を抜け出して、庭の奥で倒れた事があった。グレーズが吠えなければ凍死していた可能性もあった。
背中に汗が流れるような事ばかり思い出す。この手紙のせいか・・・?
アデライトの素行の悪さ。セリーヌ様の苦悩。イザベル様の考えと言う今後の精霊巫女様の在り方。それに大精霊たちの望み。
結局グノーム様に言われたやるべき事の鍵は日記なのか?
「満月の夜」に何があるのだ?そしていつの満月の夜だ?
イザベル様が密かに思っていた精霊巫女の廃止を神殿に伝える事など、すぐには無理だ。
・・・時間が必要だな。
「ジルベール君、君は未成年だが、日記や手紙を見てどう思った?私は日記も手紙もこのままアンジェルに見せるつもりはないぞ」
「・・・只々驚いています。正直どうすればいいのかわかりませんでした。それにアンジェルさんとはこの事にかかわりなく勉強仲間として友人になったのです。この手紙の事は言えないと思っていました・・・でも、今回辺境伯様より招待を受けた時に、これは祖母の願う縁のかもしれないと感じてはいました」
「・・・この内容はアンジェルと君には負担が大きすぎる。もしアンジェルが神殿に行って精霊巫女様の日記を見る事が出来たとしても、今は学生だから行動は難しいだろう・・・先ずは王族や各大領地にも知らせなければならない・・・検討する時間が必要だ」
「手紙を読んで繋がりを持って欲しいと願われても、子どもの僕がどのように辺境伯様と繋がりを持ったらいいのか・・・その方法がわからず困っていました。とりあえず学院を卒業後は、龍騎士になって精霊樹めぐりをしようと考えました。まだ3年は先の話ですから、その間に魔力を高める努力をしようと思っています・・・そうしないと精霊達に尋ねる事も出来ません」
「誰にも言えず一人で悩んでいたのは辛かったな」
「はい・・・でも今回日記と手紙を辺境伯様に見て頂けましたから、少し気持ちが軽くなりました」
「アンジェルにも関わってくる内容だからな。神殿側はアンジェルが精霊巫女様にならないと言っても日記を見せてくれるか、精霊巫女様の廃止をどう受け止めるのか、王族や大領地の当主たちがなんと言うか、確認しなければならない。今はこの手紙の内容を他言せず、暫く待てとしか言えぬ」
「・・・はい」
「この後はアンたちと訓練をすると言っていたが、これから訓練するにはもう時間が遅い。明日の朝から訓練をしてはどうだ?今日はもう疲れただろう。龍騎士団の寮に護衛や侍従と共に宿泊して、ゆっくり休むといい」
「龍騎士団に!よろしいのですか?」
「龍騎士希望だったな?」
「はい!」
「残念だが龍舎には入れないぞ、あくまでも火魔法の訓練だけだ」
「構いません。憧れの龍騎士団に宿泊できるなんて・・・」
「宿泊施設内であれば見学しても構わない。侍従や護衛と共に龍騎士団に宿泊出来るように手配しておく。夕食と明日の朝食も出るから、今日はゆっくり休みなさい・・・気になる事も多いだろが、今は学業に専念したほうがいいと思う」
「はい、ありがとうございます」
「アンジェルの友人だからな・・・アンジェルには私から精霊巫女様の撤廃の事以外の話はしておくが、もしアンジェルから聞かれるようなことがあったら、私から止められていると言いなさい」
「わかりました、お気遣い感謝します」
さて、アンには何と伝えたらよいか・・・。
アデライト様の仕事が誠実ではなかった事で大精霊に不信を買ってしまった事や、セリーヌ様の苦労などは伝えるか・・・。
アデライト様が抱いてはいけない想いをグノーム様に向けた事、そしてセリーヌ様とイザベル様が願っていた精霊巫女様という役職の廃止案は、王族案件のため今は伝えられないな。
王都に持って行く土産は菓子だけでは済まなそうだ・・・。
・・・どうしたものか。
だがアンが精霊巫女様にならない方法があるのなら、どうにかして捜してみたいと不謹慎なことを思う私を、陛下はどう思われるだろうか?
◇ ◇ ◇
ジルベールさんがお父様との話を終えて漸く戻って来た。
これから騎士団の訓練場で火魔法の練習をするはずだったけど、もう時間が遅いから龍騎士団に宿泊して、明日の午前に訓練する事になったと聞いた。
ジルベールさんがちょっとすっきりしたような、うれしいような顔をしているけど、龍騎士団に宿泊出来るのが嬉しいのかな?
なんだか羨ましい。
アンも宿泊してみたいけど、泊まることは絶対出来ない・・・女性がいないからね。
・・・・残念だよ。
今日のうちにキリーとネージュの紹介をしておこう。
「お疲れ様、すぐに庭に行っても大丈夫?キリーを紹介したいの」
「キリーですか?・・・その・・・」
今はいないキリーよりアンの横でパタパタ飛んでいるネージュの方が気になるよね。
「先に紹介するね、ネージュよ。たぶん聖獣だと思うの」
「ピッ」
「は、はい。ジルベールです?」
思わずネージュに挨拶してみたものの、どうしていいかわからない様子だった。
「たぶんまだ赤ちゃんだと思うの、アンの魔力とフレーズと姫ポムで生きているのよ」
「魔力とフレーズと姫ポム・・・?そ、うですか、良く判っていない生き物と言う事ですか・・・?」
「・・・で、でも言葉は通じるのよ」
「ピッ」
「は、はい」
ネージュも返事をしたら、ジルベールさんも慌てて返事をしていた。庭に行ってキリーに会わせたらもっと驚くのかな?
「ピィピィー」
行こうと言っているよ。
「ジルベールさん、庭へ行こうってネージュが言っているの」
「えっ?ピィピィだけわかるのですか?」
「うん、何となくだけど」
「す、凄いですね。聖獣っぽい生き物の言葉が理解出来る人がいるなんて・・・初めて聞きました」
「初めはわからなかったけど、最近は何となくそうかなって」
「それって・・・凄いことだと思います」
ジルベールさんが目をキラキラさせていた。言葉はキリーの方がわかりやすいけどね。
ネージュが嬉しそうにアンたちの前を飛び、時々振り返っては「ピィピィー」と鳴いている。庭を案内しているつもりでいるのかな?嬉しそうだから黙って付いて行こう。
庭に着くとネージュが「ピピー!」と鳴いた。
キリーって、呼んでいるような気がする。
キリーがどこから飛んできて、着地するとこちらに向かって走ってきた。いつも思うのだけれど、なぜ近くで着地しないのかな?そうしたら走ってくる必要がないのにね。
「グゥーグワ?」
呼んだ?って、聞いているのかな?
「ピッ」
「キリー、今日はアンのお友だちを紹介するね。ジルベールさんだよ。学院で一緒なの」
「ジ、ジル・・・べ、ベールで・・・す?」
なぜ疑問?
「・・・グワ」
「ア、アンジェルさん、頭に何か被っているこの大きな鳥も、もしかして聖獣っぽい生き物ですか?」
キリーは頭の形に沿った黄緑色の丸い帽子を被ったままだった。
「キリーはオワゾデュヴァンと言う風の聖獣なの」
「オワゾデュヴァンは黒い2本の線があると記憶していますが?」
さすがジルベールさん、各領地を周りたいと言うだけあって聖獣の特徴を覚えていた。
「線ならあるよ・・・キリー、帽子を取るね」
キリーが頭を下げてくれたので、帽子を外すと、キリッとした眉・・・いや線が見えた。
「えっ・・・そこ?」
グー様と同じ反応で驚いた後、すぐに横を向いて肩を揺らしていた。みんな横を向いて肩を揺らすから、もうこれが普通の反応なのかもしれない。
・・・キリーの頭にそっと帽子を戻しておいた。
「キリーは私を乗せてくれるの、キリーに乗って王都まで行くのよ」
「では、龍に乗らなくても旅ができるのですね」
「えっ?・・・う、うん出来るけど・・・」
キリーが嫌と言う訳ではないよ、龍に憧れて乗りたいとずっと思ってきたの・・・本当は龍に乗りたいのだと、今は言えない。
「空を飛んで遠くに行けるなんて、羨ましいです・・・あっ、そろそろ行きます。龍騎士団まで送っていただけるのです。明日の朝は騎士団の訓練場で火魔法の操作ですね。楽しみにしています。」
「私も楽しみ、ネージュとキリーも一緒に行くからね。次の練習の時はコレットさんも一緒に練習したいね」
「3人での訓練も楽しみです、今日はごちそうさまでした。プリンとチョコは特に美味しかったのですが、自制心が鍛えられました・・・」
「・・・自制心・・・?」
「我慢できるか・・・心の制御が難しいのです・・・お店に毎日・・・通ってしまいそうで・・・」
そんなに悲壮感が漂うほど気に入ってくれたの?
「チョコレートは売っているけど、プリンは売ってないよ。お店でも夏にならないと食べられないの」
「なんと!」
ジルベールさんが目を丸くして固まってしまった。
「ジルベールさん、またお屋敷に来て食べたらいいよ。プリンだけでいいなら、いつでも食べられるよ」
チョコとバナーヌは高いからね。プリンアラモードパフェならおやつに出してもいいよ。
「ありがとうございます。楽しみにしています」
・・・後ろにいた侍従も会釈をして、ジルベールさんと共に嬉しそうに去っていった。ジルベールさん達も遂に食いしん坊さんの仲間入りをしたようだ。
ジルベールさんを見送ってから、部屋に戻りこれからの事を考える。
明日の午前中は火魔法の訓練をする。
試験の前にジルベールさんたちと3人で勉強会をする。
あっ、お父様が王都に向かう前に夏のメニュの話をしたいな。
カジミールとエタンにも夏のメニュの準備をしてほしいと伝えなくちゃね。
それとハンバーガーを食べてみたいの。
「ソフィ、お父様たちに夕食後に夏のメニュについて相談したいと伝えてくれる?それと、3日後の午後からは厨房に行きたいの。カジミールと夏のメニュの確認もしたいから」
「畏まりました」
カジミールはお父様たちと一緒に王都に行くはず。各領地から王都の屋敷に料理人がやってくるから、パンの専用粉を使ったパンの焼き方を教えると聞いた。
王都店は多忙を極め、指導する為の予備の台や窯もすべて稼働させているらしい。職人を増やさなくても大丈夫なのだろうか?
人材はお父様が考えているかな?
先ずは新メニュと変更メニュを書き出しておかないとね。
『シャルダン・デ・ローズ、夏のメニュ』
新メニュ
・フレンチトースト、アイス付
・プンアラモードパフェ(季節の果物と姫ポムのコンポート添え)
・チョコバナナプリン
・ペーシュの紅茶マリネ(夏限定)
・アイスペーシュティー 夏限定)
・アイスペーシュミルクティー(夏限定)
・ハンバーガー、フライドポテト付き(お母様に要相談)
春限定から夏限定に変更するもの
・クレープ、アイス付
フレーズからペーシュとミルティーユ
・バターケーキ、アイスと生クリーム付
フレーズからカロット入り
・シフォンケーキ、アイスと生クリーム付
フレーズからミルティーユ
・ミルクレープ
フレーズからペーシュ
・サンドウィッチ
フレーズからペーシュと生クリームのサンド
・アイスクリームとパフェ
フレーズからペーシュ
・ドリンク
フレーバーティー
フレーズからペーシュ
春積み紅茶から夏摘み紅茶
・サクッとクッキーの乾燥フレーズ入りは販売終了
・フレーズミルク販売終了
・果実水
フレーズからペーシュ
・ジャムとピューレ
フレーズからペーシュとミルティーユ
ブーランジェリー・マシロのパンもフレーズを使っているものはペーシュとミルティーユに変更。
これをコピーしてお父様とお母様、カジミールとコンスタンに渡さないとね。
あとペーシュの種とミルティーユの種が欲しいな。秋の事を考えたらシャテニエとオランジュとスィトロンの種も欲しい。すぐに手に入るかな・・・?
厨房に行くにまでにはペーシュの種を手に入れたい・・・。
東側の畑には成木を植えてもらったけど、庭にも1本ずつ欲しい。思いついた時にすぐ使えるようにしたい。
アイスペーシュティーは茉白がとても美味しいと言っていたの。
茉白はお気に入りのお店「コール・ア・ビジュー」でアイスペーシュティーとアイスペーシュミルクティーのどちらを飲むか悩んでいた。
ペーシュティーは夏の3日間だけの限定商品だけど、茉白は月に一度しかお店に行けない。
「今年はアイスペーシュティーにして、来年はアイスペーシュミルクティーを飲めばいい」と自分に言い聞かせていた。
でも翌年は入院中だったから行けなかったんだよね。
更にその翌年の夏にはあちらの世界にはいなかったから当然飲むことは叶わなかった。だから茉白に会ったら「美味しかったよ」っていつでも言えるように、アイスペーシュミルクティーを最初に飲んでおこうと思ったの。
夏限定のバターケーキにカロット入りを出そうと決めたのは、茉白が小学校と言う学院に通っていたころ、調理実習で人参ゼリーを作っていたから。
茉白を含め人参が嫌いな子が多くて不満も出たけど、あえて先生が授業で子どもたちと作っていたようだ。出来上がって恐る恐る食べる茉白や子どもたちが目を丸くして「あれ?美味しい!」と言って、ほとんどの子が人参を食べられるようになっていた。
だからこちらでも人参の苦手な子どもや大人も食べるようにとバターケーキにカロットを入れて作ることにしたの。
アンは人参が好きだから、どんな料理入っていても出されたらちゃんと食べるけどね。
夏限定でもう一つ追加したのはミルティーユ。
青味かかった紫色の実で、茉白はブルーベリーと言っていた。
角食パンを焼いてから、バターと甘酸っぱいブルーベリージャムを塗って食べていたの。
味も好きだけど、色がとても綺麗だと言っていたから今回、使うことにしたよ。
ジャムにすると赤みかかった紫になるから、今回は紫色の流れるような縞模様のシフォンケーキを作ってもらいたいの。
たしかマーブル模様と言っていた。
茉白が好きな色で北の領地の色だからね。
これからも茉白が好きだったものをどんどん作っていくよ・・・本当は見て欲しかった・・・。
今はどこにいるの?
茉白はどっちを選択したの?消えたりしてないよね・・・?
お父様とお母様、それにシャル兄様とアンの4人で夕食を食べている。
ノル兄様やベル兄様がずっといない食事の時間にまだ慣れない。
そのことに気を留めないようにしてお店の事を考え、試食をしたプリンの楽しい話をした。
「私も食べたかったわ、だけど今日もシャルダン・デ・ローズに行っていたから、当分は甘いものを控えないといけないのよね」
『今日も』って言っていたけど、もしかして毎日通っているの?昨日はアンたちと一緒だったし、今日は婦人たちの会で行ったと聞いていたけど、もしかしてグランドオープンから毎日行っているの?お店では毎日何を食べて、飲み物は何を飲んだのかな?
それ凄く羨ましいと思うのはアンだけだろうか? 曖昧に笑って頷いておいたけど。
「そろそろサロンへ移動するぞ」
「は、はい、お父様」
お母様の事を考えていたら、皆は食べて終わっていたらしい。
急いで、残っているお肉を口に入れた。
サロンに行くとお父様が侍従や護衛たちに扉の外で待機するように伝えていた。
「夏のメニュについてと聞いていたが、先にセリーヌ様の日記と手紙の内容を一部だけ伝える。王族案件に当たる内容は、王城での話し合いが済んでから伝える。ジルベール君にもその旨は伝えてある。シャルルにも情報を共有するが他言無用だ。いいな」
「「・・・はい」」
アンと一緒にシャル兄様も神妙な顔をして返事をしていた。
アデライト様の話とセリーヌ様の補佐の時の話を聞き、驚いたのはアンとジルベールさんとマリエルさんは生まれた月が一緒で光属性もあると言いう事だった。
マリエルさんがアデライト様の孫だなんて・・・。だから同じ光属性を持ったアンに敵対心のようなものを向けていたのかな?お店で魔法を使って捕まってしまったけど・・・。
ジルベールさんは何かあればアンの手伝いをするようにとも書かれていたと聞いた。でも聖霊樹めぐりをしたいと言っていたよね?
そう言えば精霊樹に未成年は行けるの?アンはグー様に呼ばれたから特別に行けたけど。
「お父様、ジルベールさんは龍騎士になったら各地の精霊樹めぐりをしたいと言っていましたが、未成年は精霊樹に行っても良いのですか?」
「本来は特に規制がないのだが、北の領地だけは道が険しい事と、冬は特に寒さと吹雪などで危険が増すから、未成年が訪れる事を許可していなかったのだ。だがこれからは精霊の声が聞こえる者に限り、冬季以外は許可をするか、騎士団と検討中だ」
「ジルベールさんの夢が叶うといいのですが・・・」
「ああ・・・さて、この件は終わりだ。アンの話を聞こう」
「は、はい。アンからはシャルダン・デ・ローズの夏のメニュについてです。新しいメニュと春限定から夏限定への変更内容を紙に書いてきました」
お父様は「ああ」とおっしゃっただけで、話題を変えてしまわれたけど、ジルベールさんの話は終わり?
今考えても仕方がないからかな・・・?
取り敢えずお父様とお母様にコピーをした紙を渡し、シャル兄様にはアンの紙をみせた。
「新メニュは冷たい飲み物が増えるのだな。ペーシュの紅茶マリネと・・・ん?ハンバーガー、フライドポテト付き?・・・ステファニーに要相談と書いてあるが?」
「ハンバーガーというのは、細かく切ったお肉を丸めて焼いてパンに挟むのです。本当は手で持って食べるものだから、お店でお口を大きく開けて食べてよいのかどうか悩みました。小さく作ってナイフとフォークで食べるか、お店で出せないなら大きく作って騎士団の食事として出そうか・・・お店で出すことにお母様が反対するかもしれないと思ったから、相談してから決めようと思ったのです。それとフライドポテトはポム・ド・テールを切って油で揚げたものです」
ユーゴ達は絶対好きだと思うの。もちろんシャル兄様も好きだと思う。
ハンバーグのお肉を作るのは大変だから、お肉を刻む機械を鍛冶職人のリアムに頼んでみようかな・・・?
茉白の世界では、ミートチョッパーと言っていたはず。
あっ・・・パトリック伯父様の所ではソーセージのお肉はどうしているのかな?
「お店で食べた方がいいわ。騎士団だけ優遇されると、文官や侍女、侍従から不満が出るでしょう?皆、休みを利用して家族とお店に来てくれているのよ」
「・・・知りませんでした」
シャル兄様はお母様の意見にブンブンと縦に首を振っていた。
「それにタルティーヌやサンドウィッチも手で食べているわ。いずれスコーンも出すのでしょう?あれも手で食べるのですもの。今更だわ」
「は、はい。それではお店のメニュとします」
そっか・・・確かに手で食べているからいいのか。でも本当にいいのかな?厚みがあるよ?
「でも実際はどの程度の大きさなのか、早めに確認したいわ。カジミールが王都の料理人も伝えないといいけないでしょう?それとこのメニュは早めに兄とノルにも渡したほうがいいわね」
お母様の確認と言うのは「試食を早くしたい」という事ですね。
「メニュは今、コピーしてしまいますね」
ソフィを呼んで予備で持ってきている紙を受け取り、人差し指で土魔法を操作する。文字が書かれた紙に魔法を乗せて光らせ、その光った紙を何も書かれていない紙の上に乗せると光は消えた。それをもう一度繰り返して2枚のコピーが出来上がる。
そういえばベル兄様は「トリセツ」を100枚以上コピーしたりお店のメニュをコピーしたりしていたけど・・・夏のメニュは誰がコピーするのかな?
アンがすればいいのかな?王都店はノル兄様に頼めばいいかも。
出来上がったコピー用紙をお父様に渡そうと顔を上げたら、お父様とお母様が目を丸くしてアンを見ていた。
「アン・・・人前で気軽にコピーをしてはいけない。屋敷内でも周りを確認してからにしなさい」
「あっ・・・はい」
「コピーは店長である兄とノルに任せましょう」
「その方がいいな。義兄上はアンから操作を習った方がいいと思うが・・・」
「お店の2階の部屋を使いましょう、あの部屋は許可がなければ従業員も入って来ませんから。それとエタンには早めにメニュを描いてもらった方がいいわね」
お父様とお母様で話がどんどん進んでいく。アンは出来るだけ表に出ない方がいいと言われていたのをすっかり忘れていたけど、コピーの仕方は教えていいらしい。
「あの・・・試作品に使うペーシュなのですが、種か幼木はすぐ手に入るでしょうか?庭で育てたいのです。あとミルティーユも欲しいです。それと夏にはシャテニエとオランジュ、スィトロンの木も欲しいです」
「ミルティーユの幼木は東の領地から貰い受けた。庭師のジェローが1本は庭の奥に植えたと、今朝報告があった。以前アンが欲しいと言っていたからな。ペーシュの実は春の3の月の2週目から3週目辺りに、東の領地から王都へ定期的に届くように発注もしてあるぞ。他の木は裏山から幼木を1本ずつ見つけて取って来て、庭の奥に植えてあるから時間のある時に見に行くといい」
・・・シャテニエとオランジュ、スィトロンの木も植えてくれていた。良かった、さすがお父様。
「ありがとうございます、すぐにペーシュティーが作れます。あとハンバーガーの中に入っているお肉の事なのですが、お肉を細かく切るための道具が欲しいです。パトリック伯父様の所ではソーセージのお肉はどんな道具を使って細かく切っているのでしょうか?」
「アシュワールと言う専用の道具があるのよ」
「お母様、そのアシュワールというのはすぐに手に入りますか?」
「これから鍛冶職人に依頼しても時間がかかると思うわ。兄の所は業務用で大型のものがあるけど、小型で良ければうちの厨房にもあるはずよ。カジミールに確認したらいいわ」
「ありがとうございます」
よかった・・・アシュワールと言う道具があればお肉を細かく切る事が出来る。
試食会ができるね。
ペーシュとミルティーユも庭に行って育てないと・・・明日火魔法の練習に行く前に、庭に行って育てておこう。
「新しいメニュはすぐに試作品ができるのか?」
「はい、お父様。3日後にカジミールに作ってもらう予定です。お父様とお母様が王都に行く前に試食をお願いします」
「アン・・・陛下に献上するものを増やしやしたいのだが・・・」
「マーブル模様のミルティーユシフォンケーキとカロットケーキはどうでしょう?王都で焼いてもらえれば日持ちもします」
「そうだな。夏の限定品と言えば喜ぶだろう。カジミールに伝えておくか・・・」
陛下と王妃様もすっかり食いしん坊さんの仲間入りをしたよね。
次回の更新は12月19日「72、火魔法の練習と試食会」の予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




