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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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70、新作のデザートとセリーヌ様の日記

 昨日のジルベールさんとコレットさんとのおしゃべりは、楽しくてあっという間に時間が過ぎてしまった。

 春の2月の2週目の赤の日が3回目の試験だから、その1週間前に集まろうと約束もしたけど、約束の日までまだ11日もある。

 ・・・とても待ち遠しい。

 学院の図書室と食堂にも3人で行ってみたい。でもキリーやネージュの事もあるから、アンのお屋敷に来てもらうことにしたの。

 特にキリーは、まだ他の生徒には会わせない方がいいと思う・・・驚く人が多いからね。


 ジルベールさんとコレットさんは学院の寮に住んでいて、コレットさんは試験のある週以外は屋敷に帰ることが多いらしい。

 ご両親の仕事のお手伝いをしながら勉強をして、寮にいる時は図書室から本を借りて必死に勉強していると言っていた。


 ジルベールさんはこちらに知り合いもいないから、侍従と護衛だけで朝の鍛錬をして、その後は図書室か食堂に行くだけだったらしい。ほとんど出かける事もなく、少しだけ退屈していたみたい。

 それに魔法の訓練が出来る事を喜んでくれた。学院にいる間、火魔法の訓練をどこでやるか悩んでいたらしい。

 寮に住んでいる他の生徒はどうしているのかな?

 アンも火魔法は使ったことがないから、訓練が楽しみだよ。


 入学式の時に、試験だけ受ける人は3名と先生が言っていたけど、その内の2名がジルベールさんとコレットさんでよかった。

 今までお友だちどころか、子どもの知り合いさえいなかったから、凄く嬉しかったよ。

 二人も一緒にお勉強ができるお友だちができたと、とても喜んでくれた。学院生活が楽しめそうな気がしてきたよ。

 

 今日は黄緑色の帽子を被ったネージュとキリーの帽子を持って庭に行くと、予想通りピンク色の帽子を被ったままのキリーがいた。


「キリー、帽子を洗うから一旦返してね」


 キリーは黄緑色の帽子を被っているネージュを、じっと見ている。

 帽子の右側には白い糸で刺繍がされているの・・・ふわふわの丸いものに羽が付いているから、ネージュを模して刺繍をしたのだと思う・・・たぶん。


「キリーも新しい帽子に交換しようね」


「クワッ」


 納得したらしい。

 キリーの帽子も頭の形に沿った黄緑色の丸い帽子で、同じく右側に白い刺繍がされていた・・・もちろん、白いふわふわの丸いものに羽付きでお揃い。


「飛行訓練は湖まで行く予定でいいのかな?」


「グワァ」

「ピッ」


 同時に返事をしていた。お互いにどうやって通じ合っているのかな?

 ・・・不思議だよね。


「エリーとマリーの家族が無事に湖に到着しているか気になっていたの。見て来てくれる?」


「グワァ」

「ピッ」


「ありがとう・・・でも無理しないでね、疲れたらすぐに戻ってきていいからね」


 キリーが首を縦に振り、ネージュは頭がちょっとだけ下がったように見えたから、たぶん「いいよ」という意味だと思う。

 ネージュとキリーは嬉そうに「グッワワァ」「ピピー」と名前を呼び合って飛行訓練に行ってしまった。

 最近は外で遊ぶ時間も長くなったけど、午後のお茶とおやつの時間までには必ず帰って来るの。

 ・・・お茶の時間がわかっているようだけど、どうしてわかるのか・・・これも不思議だよね。

 ネージュとアンが離れていられる時間が長くなって、お互いにいい事のはずなのに、ちょっと淋しいと感じてしまった。


 ネージュとキリーが湖まで行って、長い時間戻ってこなかった事があったの。

 不安になり屋敷の護衛に見に行ってもらったら、湖上を飛んだり湖の周りを歩いて何かを見ていたりと、仲良く遊んでいたらしい。

 ネージュに体力がついてきたからだろうと護衛は言っていた。

 アンもキリーに乗って一緒に行きたかったけど、ネージュの飛行訓練の邪魔をしてはいけないと思って我慢したのに・・・遊んでいただけだったよ。

 ネージュがもっと大きくなったら、乗せて一緒に連れて行ってね。



 今日は久しぶりに試食会をするから、昼食を軽く済ませたの。

 前から食べてみたいと思っていたデザートを、カジミールに頼んでいたからだよ。

 2日後にジルベールさんが来たら、そのデザートを出す予定なの。

 昨日の夕方に新しいおやつの作り方を紙に書いて、カジミールへ届けるようにソフィに頼んでいたから、もう作って冷やしてくれているはず。

 ・・・凄くたのしみ。



 ◇   ◇   ◇



『 カジミールへ


 新作です、2種類のデザートを作ってね。


 1、プリンアラモードパフェの作り方


 材料

 ウッフ、ミルク、ノールシュクレ、生クリーム、季節の果物、アイスクリーム


 ・カラメルソースを作る。

 オーブンは温めておく。

 鍋にノールシュクレと水を入れて火にかけ、褐色になってきたら火から下ろし、お湯を加え混ぜ合わせ、小さい容器にそれぞれ流し込んでおく。


 ・プリン液を作る

 ボウルにウッフを入れ、泡が立たないように溶きほぐす。

 鍋にウッフ、生クリーム、ノールシュクレを入れて火にかけ、ノールシュクレが溶けて沸騰直前になったら火から下し、溶きほぐしたウッフに混ぜながら加える。

 混ぜ合わせたプリン液はこしてから、カラメルソースの入れた容器に注ぎ入れる。

 大きな浅い鍋にプリン液の入った容器を並べていれ、鍋に容器の2分の1くらいまでお湯を入れて温めておいたオーブンに入れて蒸し焼きにする。

 粗熱を取り、冷やしておく。

 冷めたら容器を逆さにして少し深いお皿に入れ、横にアイスを添える。

 最後に季節の果物と生クリームで飾る。


 2、チョコバナナプリン


 材料

 プリンは上記と同様、バナーヌ、生クリーム、チョコレートソースと砕いたアマンド。


 プリンの横に冷やしたバナーヌ切って、生クリームと共に添える。チョコレートソースをかけて、最後に砕いたアマンドを散らす。

 チョコレートソースは甘さ控えめ。


                        よろしくね、アンジェルより』



 ◇   ◇   ◇



 ソフィと護衛3人で厨房に行くと、カジミールとコンスタンそれにニコラもいた。

 ニコラはついにカジミールの弟子になったらしい。

 よかったね、ニコラ。これからはもっと美味しいものを頑張って作ってね。


「アンジェル様、新しいメニュをありがとうございます。メモの通りに作って冷やしてあります」


 カジミールが微笑みながらお礼を言っていた。この余裕の微笑みは上手く出来たと言う微笑みだよね。


「さすが、カジミールたち。早速試食会をしようね」


 今日のおやつは高級デザートに見えると思うの。チョコバナナプリンは本当に高級だけどね。

 試食会を始めた頃は5人だった人数が8人になった・・・味を確認する人が増える事はいいことだと思う事にしよう。


 みんなが席に着くと最初にプリンアラモードパフェが出てきた。

 季節の果物は大きめにカットされたフレーズと姫ポムのコンポートだ。


「姫ポムのコンポートはいつもより黄色みが強くて、綺麗だね」


「オーランジュの果汁を入れていますので、色が綺麗に出ています。今回はできるだけ甘さを控えめにして、食感が残るようにしてあります」


「ありがとう、カジミール・・・じゃぁ、みんなで一緒に試食会だよ!オォー!」


 久しぶりだったからちょっと張り切って声を出しちゃった。でも拳は顔の横で止めているからね。

 そっとソフィを見たら、なんと!ソフィが拳を作って胸の前まで上げていた。


「厨房でだけ・・・です」


 ソフィが微笑んで厨房限定の許可を出してくれた。嬉しくて思わず「フフフ」って笑ってしまったよ。


 早速、姫ポムのコンポートから食べ始めた。


「シャリシャリ感が強いから果物って感じがするね、美味しい」


「プリンと言いましたか?ツルンとしてすぐに溶けるようになくなってしまいます。不思議な感じです」


 ユーゴには口当たりがよくないのかな?


「食べなれない感じですけど、美味しいです」


 ソフィは大丈夫みたい。


「私はプリンが好きになりました」


 ジュスタンには抵抗がなく受け入れられたよ。ニコラも頷いているから問題ないらしい。


「マクサンスはどう?」


「美味しいですが、沢山は食べられそうもないです」


「う、うん・・・そうだね」


 プリンアラモードパフェを何個も食べようとするのは、シャル兄様ぐらいだよ。普通は1個しか食べないと思う・・・今回は試食会だからもう1個別な味が出てくるけどね。


 アンが食べ終える頃、コンスタンがチョコバナナプリンをワゴンで運んできた。

 チョコレートソースがたっぷりかかっていて美味しそう。


「美味しいね。アンにはちょうどいいけど、ユーゴ達には甘すぎる?」


「いえ、チョコレートは問題ないです。それに砕いたアマンドの食感もあって、美味しいです」


 ユーゴはチョコレートが好きだったらしい。ソフィとマクサンスとジュスタンも頷いている。

 チョコレートは甘くてもいいの?意外と好評だったよ。

 でもお父様が食べる場合は、ビターチョコレートの方がいいかも知れない。



 とても満足した試食会が終わり、ソフィに切ったフレーズを持ってもらって、庭へ向かった。

 庭の方からネージュとキリーの声が聞こえてくる。もう帰って来ていたらしい。


「ネージュ!キリー!おかえりなさい」


「グッグワァー」


「ピッピピー」


 ただいまと言っているのか、返事をしながらキリーが走ってくる。ネージュもキリーと並んでパタパタと飛んでやってくる。


「いつもより早く帰って来たね。厨房からフレーズを持って来たの、食べる?」


「ググゥー」


「ピピイ」


 食べやすい大きさに切ってあるフレーズが山盛りになったお皿を見せると、ネージュは目をキラキラさせて口を開けた。

 丸ごとだと自分で食べるのに、切ったフレーズは自分で食べないのはなぜだろう?

 キリーはいつも食べさせてと言わんばかりに嘴を開いている。

 開けた口や嘴にどんどんフレーズを入れていく。目を細めて嬉しそうに食べるネージュ。

 キリーは表情を変えず、黙々と食べているけど、一応喜んでいるのかな?


「ピッピッィ」


「ググワァー」


 ネージュとキリーは美味しいと言っているような気がする。キリーの表情が変わらなくても満足しているならいいよね・・・。


「エリーとマリーの家族は無事に湖に辿り着いていた?」


「グワァ」


「ピッ」


 キリーは首を縦に振り、ネージュは頭を少しだけ下げていた。

 無事に湖へたどり着いていたらしい・・・良かった。


「これで暫くは安心だね、確認してくれありがとう」


「グワァ」


「ピッ」


 二人とも胸を張って返事をしていた。

 最近は鳴き声でなんとなく何を言っているか分かるようになってきたけど、人の言葉でお話が出来るようになったら、もっと楽しいのにね。

 





「アンジェル様、ジルベール・ミッテラン様がいらっしゃいました」


 バスチアンが知らせに来てくれた。

今日はお父様がジルベールさんを昼食に招待しているからね。


 すぐにホールに向かうと、シャル兄様もやって来た。

 シャル兄様は必ず顔を出すと思っていたよ。今日は新作のデザートがあるからね。


「アン、昼食だけ同席させくれ」


「いいよ。シャル兄様が来ると思っていたもの」


「そ、そうか」


 あっさり返事をしたら、シャル兄様が少し驚いたようすだったけど、断られると思ったのかな?

 シャル兄様の畑作業・・・じゃなくて魔力増加訓練にジルベールさんとコレットさんも一緒に参加出来たらいいかな?と思ったの。

 その時のために顔合わせは大事だから、今日の昼食会は歓迎するよ、シャル兄様。


「ジルベールさん、ようこそ」


「アンジェルさん、こんにちは。今日はお招きありがとうございます」


「今日は兄も一緒なの」


「初めましてミッテラン子爵の長男、ジルベールと申します。どうぞジルベールと呼んでください」


「急に押しかけてすまない。テールヴィオレット辺境伯の三男、シャルルだ。シャルルと呼んでくれ。食事が終わればすぐに退席する」


「シャルル様、あの・・・お会いできてうれしいです」


「シャル兄様は今日の昼食のデザートを楽しみにしているの。ジルベールさんも楽しみにしていてね」


 そう声を掛けると、ジルベールさんの侍従と護衛まで目がキラキラさせていたように見えた。

 食いしん坊さんがどんどん増えていくよ。


 食堂に行くと、ちょうどお父様もやってきた。


「テールヴィオレット辺境伯様、先日はありがとうございました。今日も昼食に侍従と護衛共々呼んでいただきありがとうございます」


「よく来てくれた。アンジェルは兄二人が不在で淋しい思いをしているから、賑やかな方が喜ぶ・・・シャルルはやはり来たのだな」


 シャル兄様は気にした様子もなく頷いている。


「シャルル様とは先ほど、ご挨拶させていただきました」


「そうか・・・まぁ、気楽に接してくれ」


 挨拶を終えると、侍従と数人の護衛は隣の部屋で食事をするよう、バスチアンが案内している。


 みんなが席に着くと、お豆ときのこと葉物野菜のサラダが運ばれてそれぞれの前に侍女が置いていく。

 次にコンソメスープが運ばれ、一緒にマシロパン、クルミパン、レーズンパンが入った籠と、姫ポムとフレーズの2種類のジャムもテーブルに置かれた。


 サラダを食べ終えてからスープを飲んで、そしてマシロパンにフレーズジャムをつけて食べたジルベールさんがアンを見た。


「もしかして、今日のために珍しい食材を遠い領地から取り寄せたのでしょうか?スープは今まで食べたことのない味です。パンは先日食べたサンドウィッチと同じで、ふわふわですね。シャムも甘すぎずとても食べやすいです」


「パンは毎日料理人が厨房で焼いているの。ブーランジェリー・マシロに同じパンとジャムが売っているよ。スープはコンソメスープと言ってちょっと手間はかかるけど、お肉や野菜を入れて煮込んだものなの」


「お店の食事は美味しかったですが、今日も美味しいです」


 ジルベールさんがスープを飲み終わると、お肉が運ばれてきた。

 タルタルソースのかかった塩唐揚げがジルベールさんの前に置かれると、お肉をじっと見てから、アンの顔を見て周りを見ていて、すぐに手を付けなかった。


「これがタルタルソースか?美味そうだな」


 お父様は何のためらいもなく美味しそうに食べているのを見て、ようやくジルベールさんが恐る恐る塩唐揚げを口に入れた。

 見たこともない揚げ物に黄色いソースがかかっているから不安だったのかもしれないね。

 噛んだ瞬間に目を丸くしてまた咀嚼を繰り返していた。


「鶏肉ですよね?とても柔らかくて臭みが全くないです。それにこのソースも美味しいです」


「鶏の塩唐揚げにタルタルソースをかけているの、お口に合って良かったです」


 シャル兄様は黙々と食べ、当然のように追加を頼んでいる。

 料理人が既に準備をしていたのか、すぐに追加のお皿がシャル兄様の前に置かれていた。

 タルタルソースかけの塩唐揚げは今回初めて出すから、シャル兄様は驚きながらも喜んで食べているみたい。

 でもジルベールさんがいるから何度もお代わりはしないはず・・・たぶん。

 ジルベールさんはクルミパンとレーズンパンを一つずつ食べた後、唐揚げを食べて完食をしていた。

 2皿目の塩唐揚げを食べているシャル兄様を見ている。

 お代わりをしようか悩んでいるのかな?でもまだデザートがあるからね、無理しない方がいいよ。


 お肉が大好きなユーゴたち護衛も喜んで食べていると思う。1回だけならお代わりしてもいいからね。

 カジミールとコンスタンは忙しいから、塩唐揚げのタルタルソースかけも試食会をやりたいと言えなかったの。プリンだけでも時間がかかっていたはずだから。


 料理人をこれからどんどん増やしていくから、料理の指導が出来る料理人をカジミールが教育をしているの。コンスタンぐらいに育って欲しいとカジミールが言うとコンスタンが照れていた。でも嬉しそうだったよ。

 ・・・すっかり忙しくなってしまった二人だけど、夏には落ち着いてくれるといいな。


 デザートは試食会で食べたプリンアラモードパフェとチョコバナナパフェの2つ。

 最初にプリンアラモードパフェが運ばれてきた。


「これが今回の新作か・・・見た目が豪華だな」


 お父様は新商品にも慣れてきたのか驚いた様子もなく、スプーンでプリンを掬っていた。

 シャル兄様は目をキラキラさせて見つめている。これが食べたくて押しかけて来たからね。


「プリンアラモードパフェです」


「そうか、悪くはないが私は1つで十分だな」


 もしかして1つで十分とはあまり好きではないという意味なのだろうか?マクサンスも沢山は食べられないと言っていたよね・・・大人の男の人には好まれないデザートだったらしい。

 ユーゴは食いしん坊さんだから、大人の男の人の対象に入れなくていいようだ。しっかり食べていたもの。


「子どもが好むデザートですから」


「シャルルなら喜んで4つくらい食べると思うぞ」


「フフフ、そうですね」


「・・・4つも」


 ジルベールさんはお父様とアンの話を聞いて、目を丸くしてシャル兄様を見ていた。

 シャル兄様は気にした様子もなくプリンアラモードパフェを完食していた。気に入ってくれたのか、食べるのが早かったよ。

 ・・・さすが食いしん坊さんだね。


「シャルルの口には合っていそうだな・・・ああ、ジルベール君は気にしないでゆっくり食べるといい。シャルルは量を多く取るせいか、食べるのが早い」


「は、はい、ありがとうございます。シャルル様は実技がとても優秀で学年1位と記憶しています。体力を使うので沢山食べるのだと思います」


「そうだな・・・実技だけは優秀だな」


 お父様は苦笑いをしていた。


「実技に苦労している人は沢山います、魔力と体力と知力が揃わないと上位にはなれません」


 フンスと鼻息荒くシャル兄様が答えていた。最近は学科成績も上がっているらしいからね。


「もちろんシャルは頑張っていると思っている。持って生まれたものもあるだろうが、日々の努力なしでは上位にはなれない。ジルベール君なら上位に食い込めると思うが」


「あ、ありがとうございます」


 お父様に言われたことが嬉しかったのか、目の縁を赤くしながらお礼を言っていた。

 その後プリンを口に入れたら、今度は目を丸くしていた・・・顔が忙しそうだよ。


「・・・・これ美味しすぎです」


 ジルベールさんの呟く声が聞こえた・・・口に合ってよかった。

 次にチョコバナナプリンが運ばれてきて、すぐに食べ始めたシャル兄様とジルベールさんは、突然スプーンを握りしめて「うーん!」と唸った。

 二人の動きが一致していて、思わずお父様と目を合わせて笑ってしまった。

 唸るほど美味しくて良かったよ。



 食事が終わり、ジルベールさんの護衛とマクサンスとジュスタンは少し休んでから、騎士団の訓練に行くと言っていた。

 お父様とのお話が終わった後は、時間があればジルベールさんとシャル兄様とアンの3人で騎士団の訓練場の隅っこを借りて、火魔法の訓練をすることにした。

 なんと、騎士団の人が指導してくれるらしいの。


 お父様とジルベールさんは応接室に移動するけど、アンはセリーヌ様の日記の内容の確認が終わるまで、自分の部屋で待つように言われてしまった。

 もし王族案件になるような内容が含まれていたら、まだアンには聞かせられないらしい。




 ◇   ◇   ◇




 残念ながらステファニーは不在だ。今日もシャルダン・テ・ローズで食事会だと言っていた。

「何だか太りそうよ」などと言っていたが、嬉しそうだった。

 北の領地の情報も収集する大事な婦人たちの会だからな。

 致し方ない・・・今日は一人で頑張るか。


 ジルベール君と彼の侍従には応接室に移動してもらった。

 イヴァンには扉の前で待機するように伝え、侍従は隣の部屋で待機してもらった。


 ソファーに座ると私にはカフェアロンジェとラムレーズン入りクッキー、ジルベール君には姫ポムティーとプレーンとフレーズの入ったクッキー、それにミルクチョコレートの皿が置かれた。

 アンの大切な友人だからなのか、侍女たちのジルベール君に対するもてなしに力が入っているようだ。

 ・・・彼もついに罪な味を知る日となるようだ。


 紅茶を飲んでクッキーを食べた後、チョコレートを不思議そうにつまみ、そっと口に入れていた。

 また目を丸くしている。

 ジルベール君もついにアンの犠牲者か・・・?

 あまり深く考えるな・・・考えたってわかるはずがないのだからな。

 おずおずとまた手を伸ばし、また口にチョコレートを入れている。

あるだけ全部食べていいぞ。


 ・・・ついに罪な味を知ってしまったようだな?


「この黒いものがとても美味しいです。味はチョコバナナプリンのソースと同じですが、少し食感があるのに溶けてしまいます・・・ちょっと困りました」


「ああ、わかるぞ。皆困っている、止まらないと・・・アンジェルは罪な味と言っていたぞ」


「そうですね・・・これは癖になります。心を強く制御しないと・・・危険です」


「ハハハ、確かに危険だな・・・さて、本題に入ろう。日記の件を聞かせてくれるか」


「日記は祖母が亡くなる前に、父が預かったと聞いています。僕が学院に行く年齢になったら、渡してほしいと頼まれていたそうです。袋に入っていて上から紐で結ばれ、さらに紐の結び目には封蠟までされていました。ですから僕以外は誰も見ていないはずです。それと晩年に書かれたと思われる、僕宛の手紙も入っていました」


「そうか・・・」


「日記は補佐の役割を終えて実家へ戻ってから時々書いていたようです。時々思い出したようにアデライト様の事も書かれていました。ミッテラン子爵に嫁いでからの日常の出来事なども綴られていましたが、子どもの僕では捉え方が違うかもしれませんから、直接読んでいただいた方がいいと思います・・・アデライト様の事が書かれているところには栞を挟んでいます」


「全て読んだのか?」


「はい、一通り目を通しました」


「では栞の挟まっている所を読ませてもらおう」


 一文字一文字が丁寧に書かれた日記を見て、とても几帳面な人だったのではないかと思った。


『春の1の月の1の週


 11歳の時に屋敷を離れ、6年ぶりに実家のある東の領地に戻ってきたわ。

 両親は今までの私の苦労をどこかで聞いていたのかしら?

「とにかくゆっくり休んで今後の事はおいおい考えよう。よく頑張った」と労ってくださったの。

 何かをやる気力はまだないから、暫くは両親の言葉に甘えてゆっくりと過ごそうと思う。


 精霊樹の精霊たちとのお話は楽しかったけど、庭の精霊たちとのお話も楽しい。精霊たちといると心が癒されるわ。

 精霊巫女になって2年、アデライト様の補佐になって4年。この4年がとても長く感じたけど、光属性を持っていて良かったとは思っているの。』



『夏の1の月の1の週


 領地に戻って1年と3ヶ月が過ぎたわ。

 漸く生活も落ち着いたけど、まだ趣味の刺繡などをしてのんびり過ごしているのよね。

 北の精霊樹プラターヌの葉の刺繡をしていて、ふと領地をめぐっていた頃の事を思い出したわ。


 毎年夏には、北の精霊樹を訪れていた。

 アデライト様は馬車で遠出をする事を嫌がっていたけれど、春はアデライト様の実家もあり、近いからと言って何とか西の領地の精霊樹まで行く事が出来た。誤魔化しながらもなんとか連れていけたけれど、北の領地は遠くて坂道が多い。

 私と一緒にどうにか馬車に乗り込み、機嫌を取りながら何日もかけ、途中から徒歩になると護衛が支えながら漸くたどり着くような状況だったわ。

 やっと着いたと思えば、アデライト様は疲れたと言って祈りを捧げようとしなかった。

 しかも「昨年まではセリーヌが祈りを込めて魔力を奉納していたのだから、今回もセリーヌがやればいい」と言い出す始末。

 ここまで来て何もしないで帰るわけには行かない。やむを得ず代わりに祈りと魔力を捧げることになってしまったのよね。

 アデライト様の言動に振り回されるから、一人で領地を周っていた時より疲労が酷かった。だからといって手を抜くことは出来ないから、必死で魔力を込めていたわ。

 あの時は突然上から声が聞こえてきたの。


「今日も来たのだな」


 見上げると美しい男性と思われる方が私を見ていた。

 神殿にある白い像に似ているこの方が、グノーム様だとすぐにわかったわ。

 グノーム様にお会いするのは初めてで、あまりの美しさに一瞬身体が硬直してしまったけれど、すぐに頭を下げて「ご挨拶申し上げます」と伝えたのよね。

 こちらの声が聞こえなかったのか、挨拶には答えずアデライト様を見て「お前は何をしている?」とおっしゃったわ。

 アデライト様は頬を赤く染め「これから祈りを捧げ魔力を奉納するところでした。私が精霊巫女のアデライトと申します。どうぞお見知りおきを」と言ったの。

 グノーム様は何も言わず、私の方を見て「其方の仕事はもう終わりなのだな。いい魔力だった」と言って消えてまわれたわ。

 精霊巫女になって3年目・・・いえ補佐になって1年目ね。

 初めてグノーム様に褒められ舞い上がりそうになっていたら、突然アデライト様が「セリーヌのせいで、グノーム様が消えてしまわれたじゃない、もう帰る!」と怒り、魔力どころか祈りも捧げようとせず、帰ろうとしたのよね。

 護衛が「まだ終わっていません」と伝えていたけれど、結局私がもう一度魔力を注ぐことになって、帰りは疲れ切って大変だったわ。

 そんなことをまた思い出すなんて、疲れはまだ取れていないのかしら・・・。』



『秋の1月の1の週


 もう秋なのね。

 領地に戻って2年6ヶ月が経ったわ。


 嫌だわ、またアデライト様の事を思い出してしまった。

 補佐になって2年目の夏の終わりに、アデライト様は北の領地に行けると張り切っていたの。

 あの年はアデライト様が中々神殿のお仕事を覚えなくて、出発時期が遅れたのよね。

 中々出発できない事でイライラしていたアデライト様は、北の領地にはセリーヌの同行は不要と言い出して・・・もちろん喜んで辞退させてい頂いたわ。

 ついでに補佐役も辞退させてほしいと何度か願い出たけど、許可されなかったのよね・・・それに同行不要なのは北の精霊樹だけだったの。


 アデライト様は頬を染めて「北の精霊樹に行くの」と嬉しそうに出発していったけど、北の精霊樹で帰る時間になっても「グノーム様のお姿をまだお見掛けしていないのよ!」と言って精霊樹のもとを離れなくて大変だったらしいの。

 護衛から報告があったらしく、神殿長が困っていたわね。

「・・・あのバカアデライト」と言う呟きが聞こえたのは気のせいではないと思うの。


 精霊巫女の役割を結局全う出来なかったらしいけど、同行しなくて良かったと胸をなでおろしたのを今でも鮮明に覚えているわ。

 漸く戻って来たと思っていたら、翌日にまた北の精霊樹に行くと言い出して、誰もが呆れて、返事どころか目も合わせず横を向いていたわね。

 アデライト様は私よりも2歳下だから思考が少し幼いのは仕方ないけど、別の思考はかなりおませだったようね。』



『冬の1の月の4の週


 寒いと思ったらもう雪がちらつき始めたのね。

 またアデライト様の事を思い出してしまったの。本当に嫌になるわね、もう4年近くもたつのに。


 北の精霊樹のグノーム様に会いたいのか、冬にもまた行くと言いだしたアデライト様・・・困ったものよね。

 西の精霊樹と北の精霊樹に1度行っただけで、他の領地は回らないと言い張り神殿を困らせていたのが1年目。無理やり連れだされ、北の精霊樹以外はいやいや周っていたのが2年目だったわね。

 グノーム様のお姿が美しかったため、アデライト様は抱いてはいけない想いを抱えてしまった。

 他の精霊樹をおざなりにしようとしたけれど、精霊巫女としての役割を全うさせなければと、なんとか連れ出したのよね。

 でも「もう精霊樹には来なくて良い、お前の魔力は不快だ」とグノーム様を除いた3大精霊に言い渡されてしまったの。グノーム様はあの時以来お姿を現さなかったから、アデライト様を見たときから不快だと思っていらしたかもしれないわね。


 これ以上4大精霊に対して失礼があれば、神殿だけではなく国にとっても大問題になるのではと、神殿長が頭を痛めていらっしゃったわ。

 やむを得ず3年目からは、再び私が精霊樹を周ることになってしまったの。

 周るのは構わないわ・・・でも精霊巫女はアデライト様なのよ。

 アデライト様とアデライト様の実家には報奨金が支払われているけど、私は?

 ちょっと不満を漏らしてみたの。

 神殿長は慌てて国王に願いでてくださり、アデライト様の報奨金は今までの2割となり、差額の8割を私が受け取ることになったの。もちろん補佐の分は今まで通り受け取ったわ。

 アデライト様と実家がとても怒っていらしたわね。それならきちんと役割を果たせばいいだけなのに、実家もなぜ説得をしなかったのかしら?・・・不思議ね。

 でもそんなことは長くは続くわけがないと思っていたわよ。

 アデライト様が4年目迎える年にイザベル様が精霊巫女様と認められて、日記はアデライト様の力で開かなくなったもの。

 どれだけ安堵した事か。

 それでもまた北の精霊樹に行こうとして止められていたわね。

 とても残念な人だったわ。』



『春の1の月の1週目


 実家に戻ってからもう5年が過ぎたのね。

 両親から結婚を考えないかと言われたの、王都に近い北の領地の子爵家から縁談が来ていると言われたわ。3つ歳下の方らしいの。

 行き遅れだから諦めていたけど、本当にいいのかしら?私はもう22歳になったのよ。

 アデライト様があんな形で精霊巫女を辞めてしまい、縁談なども全くなかったようなの。

 お互いが実家に帰る日に「私に縁談がまだ来ていないのだから、セリーヌは領地に帰ってすぐに結婚なんてしないわよね?」ですって・・・何を言っているのかしら?

 結婚は考えてはいなかったけれど、アデライト様が口を挟む事ではないと思うのよね。

 そんな事があったせいではないけれど、そろそろ前に進んでもいいかしら?と思ったの。

 両親にお会いしてもいいと返事をしたわ。

 ・・・ちょっと楽しみね。』



『夏の3の月2の週


 ミッテラン子爵家にお返事をしてから5ヶ月経つのね。

 お相手は私の事情を両親から聞いていたらしく、とてもお温かく接して頂いたの・・・何だか幸せだわ。

 彼は照れ屋でやや無口だけれど、とても穏やかな方なの。会話がなくても気にならないのが不思議。

 派手な方や化粧や香水の匂いが苦手で、私と会った時に品があって落ち着いているからホッとしたとおっしゃっていたわ。

 まぁ・・・年上だし私も神殿生活がなじんでいたせいか、香水のきついのは鼻が曲がりそうになるのよね。香水を被るようにつけている令嬢はよく平気でいられるわね。鼻が詰まっているのかしら?

 彼と初めて街でお食事をしている時に、誰かが噂をしていたの。

 偽物精霊巫女のアデライト様が実家に戻ったけど、待遇が悪くて屋敷を出たと・・・偽物精霊巫女と言われていたのね、噂って怖いわ。でも偽物ではないわよ、だって4年間は日記を開く事が出来ていたのですもの。

 アデライト様はどこかで働いていたらしいけど、その仕事先の家の主人と結婚したとも聞いたわ。

 それなら私も結婚したからとい言って何も文句は言われないわよね。』



『春の2の月の3の週


 夏の終わりに結婚式をすることになったの。

 領地に帰って来てもう6年も経つのね。

 北の領地にお引越しをするのだけれど、王都に近い領地なので北の大領地より幾分暖かいみたい。

 彼に夜会へ一緒に行きましょうと誘われて、素敵なドレスが届いたの。綺麗な青色で彼の瞳と同じなの、とても嬉しいわ。


 彼が得た情報では、アデライト様は先日男の子を産んだらしいの。

 お相手は商人で奥さまが病気で亡くなった為、後妻に入ったとされているけど、結婚が決まったのは子供ができてしまったからだと聞いたわ。

 商人と最初の夫人との間に子どもがいなかったから、アデライト様との間に出来た子どもが商会を引き継ぐ事になるだろうと言っていたわ。

 もうさすがにグノーム様の事は諦めたわよね?』




 毎日書いていたわけではないようだが、これだけの年月の日記を読むのは大変だったと思う。だが、このような内容が書かれた日記をなぜ学院に入ったばかりの彼に託したのだろうか?

 この後に答えがあるのか?栞が挟まれているのはあと1ヶ所だが・・・。



『冬の3の月の4の週


 ミッテラン子爵に嫁いでもう11年が経つのね。

 子どもにも恵まれあっという間の11年だったけど、長男が王都の学院に入る事が決まったの。とても優秀な子だから子爵家の嫡男としてやって行けるわね。

 ちょっと残念だったのは子どもたち3人とも光属性がなかった事かしら。でもどの子も魔力は高いから、それで十分ね。

 今は精霊を心から慕っているイザベル様がいらっしゃるのだから、精霊が光属性の子を求められていらっしゃらないのかもしれないわね。』



 現子爵が王都の学院入ったところまでだった。結婚後は幸せに過ごされていて良かったと思う。


「栞の挟まれた所を読んでみたが、アデライト様の酷さがよく分かった。セリーヌ様は補佐と言う立場だったにも関わらず、よく頑張っておられたようだ。芯が強く明るい令嬢だったから、6年もの間役割を果たせたのであろう」


「祖母は細かいことはあまり言わず、おおらかな人だったと聞いています」


「セリーヌ様が神殿にいらしてから、6年後にイザベル様がいらっしゃって、漸くセリーヌ様とアデライト様が自由になったのだろう。ある意味イザベル様には感謝だな」


「そうかもしれません・・・祖母は結婚して家族にも恵まれ幸せだったと聞いています。今は精霊の地で楽しく暮らしていると思います。そして日記の他にこの手紙も入っていました。祖母が精霊の地に渡られる少し前に書いたのだと思います」


「私が読んでも構わないのか?」


「祖母の願いです・・・読んでいただけますか?」


「願い?・・・そうか、読ませてもらおう」


 何が書かれているのか・・・なぜか知っておかなければならない気がした。

 次回の更新は12月12日「71、セリーヌ様の手紙と夏のメニュ」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


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