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6、知らない人の記憶と白い卵 

漸く、アンジェル登場です。


 目が覚めると何かを抱えていた。

 薄暗い・・・まだ夜なのかな?そう思ったとたんに、頭の中に黒髪が肩口で揃えられた、黒目の女の人が出てきた。


『御縁 茉白』22歳、みえにし ましろ?・・・ん?誰・・・?

 知らない人の記憶が流れてくる。


 両親を早くに亡くし、おばあちゃんと二人暮らし。受験勉強も頑張って国立大学に入学した。

 趣味は読書と紅茶を飲みながら焼き菓子を食べる事。大学に入ってからバイトを始めていた。おばあちゃんと二人とはいえ、楽しく穏やかに暮らしていたのに、21歳の時に難病を患い直ぐに入院した。翌年の22歳の途中までの記憶・・・その後の続きがない。


「何が起こっているの?」


 頭を押さえていても、また記憶が流れて来る。

「茉白」が10歳の時に、おばちゃんが買ってくれたお気に入りの「精霊巫女物語」と言う本。入院してからベッドの中で、また読むようになっていた。

 身体の弱い主人公アンジェルは辺境伯の末娘で、魔力が多く光魔法に優れていた。その為、王都の大神殿に行き巫女としての祈りや魔力について学び、僅か12歳で巡礼巫女として各地を回り祈りと魔力を捧げた。

 精霊巫女アンジェルは精霊が見え会話もできる。生涯結婚することはなかったが、精霊と共に暮らし幸せだった。

「茉白」は身体が弱いのに前向きで頑張り続ける精霊巫女を応援していた。自分も頑張って楽しく暮らしたかったと・・・。


「茉白」って優しいお姉さまなのね・・・。

 ん?・・・あれ?・・・辺境伯?末娘アンジェル?光属性が強い・・・え!!!!それアンの事・・・!?


 ふぇ!・・・フワフワと飛んでいる白い光は何?

『こんにちは』って、頭の中で聞こえるけど・・・まさか精霊さん?

 いやぁー!精霊巫女にはなりたくないの!アンは・・・龍騎士になりたいの!!!


 はぁー・・・心の中で叫んでも疲れる。


 さっきから抱えていたのって大きい卵だね・・・?何の卵?なんでアンが持っているの・・・?

 そうだ、物語には卵は登場していないよね?・・・うん、大丈夫。きっと大丈夫・・・この物語はアンじゃないよ・・・たぶん。

 だから・・・声も精霊さんじゃない、アンは見えないもの。


「アーン」「こんにちは」「こっちー」


「な、な、何?・・・やっぱり精霊さんなの?・・・?いやぁぁぁ!!!」


 パニックになり、再び気を失った。




 とても困惑しているの、6日間眠っていたらしい・・・正確には昨日の夜に1度目が覚めていたから5日かな?

 ブリジットとソフィが何か聞きたげに、アンの横で膨らんでいるお布団を見ているから、何も気付かない振りをして目を瞑っている。


「目覚めたばかりなので、お腹に優しい食事をご用意しますね」


 ブリジットがそう言うと、ソフィが直ぐに動き出し食事の手配に行った気がする。目が覚めているのを侍女達は気が付いている・・・起きようかな・・・さすがにお腹が空いたよ。

 目を開けて横を見ると、ソフィがワゴンに何かを乗せて戻って来たところだった・・・支度が早いね。

 食事はミルクが入ったパン粥だった。起こしてもらいベッドでゆっくりと食べる、そしてまた横になる。もう眠くないけど・・・。


 ブリジットとソフィがまたアンの横で膨らんでいるお布団を見ている。さっきと同じように、何も気付かない振りをして目を瞑る。なぜ卵を抱えていたのか、なぜ今も抱えていなければいけないのか?

アンだってわからないもの。


「一緒」「抱っこ」「離さなーい」


 精霊さんたちの声が頭の中に流れてくる。出かける時はどうすればいいの・・・?ベッドの中で悶々と悩んでいた。

 窓の外は薄暗い・・・もう夕暮れなのかもしれない。寝ているのも飽きて来たよ。

 どうしよう・・・悩んでいるとお父さまとお母さまと三人の兄さまがやって来た。

 みんな心配そうにアンの顔を見て、その後アンの横で膨らんでいるお布団を見る。


「あー・・・アン、やっと目が覚めたか。辛いところはないか?」


 お父さまが声を掛けてきた・・・膨らんだ部分に目線が言ったまま・・・。気になるよね・・・アンも気にしているもの。

今は布団の中に深く潜って眼から上だけ出している。


「・・・大丈夫です」


 お父さまを見つめ、小さな声で答えた。


「何でアンの横は膨らんでいるのだ?」


 みんな聞くに聞けないでいるのに、空気を読まない3番目のシャル兄さまが聞いてきた。


「まだ目覚めたばかりだから話は明日以降だよ、シャルル」


 ノル兄さまが優しく答えてくれた。流石気遣いの兄さま。

 茉白さんの記憶や精霊さんの事をお父さまやお母さまにお話をして良いのかわからない。精霊さんに聞いたら教えてくれるかな?今も白いものが、フワフワと浮かんでいる・・・ジーっと見つめても何も言ってくれない。


「今日、様子を見てもう熱が出なければ、明日はベッドから出ても良いとお医者様が言っていたわ」


 お母さま・・・明日ベッドから出たら、この卵をどうすればいいのでしょうか?精霊さんは『一緒』って言っていたし・・・困っています。


「お熱が出ないように今日はもう休みます」


 そう言ってみんなを部屋からすぐ出そうと思った。


「ええ、そうね・・・ゆっくり休んでね」


「アン、部屋から出られるようになったら少し話をしたい」


「はい、お父さま」


 お父さまやお母さま、ノル兄さまはアンの頭を撫でて部屋から出て行った。少しは説明をしないとだめらしい。


「・・・その膨らみは明日か」


 シャル兄さまがぼそっと言った。明日追及されるかな・・・いやだな、聞かれても何の卵かわからないもの。


「困ったことがあればいつでも相談に乗るよ」


 ベル兄さまが優しく頭をなでてくれ、微笑でいる。


「ありがとう、ベル兄さま」


 ベル兄さまは頷いてから、シャル兄さまと共に部屋を出て行った。

 ベル兄さまは生き物のことに詳しいから、この白い卵のことを相談できるかもしれない・・・でも明日から出歩く予定なのに卵はどうしよう・・・。



 寝るからと言ってお父さまたちを部屋から出してしまったけど、本当に眠っていたらしい。ソフィに声をかけられて、ハッとして起きた。


「アンジェル様、朝食の時間が過ぎてしまいましたが、よろしかったらお腹に優しいものをお召し上がりませんか?」


 えっ、そんなに寝ていたの・・・次の日の朝・・・?


「ス、スープだけでいい・・・それよりソフィ、お願いがあるの」


「なんでございましょう?」


「おんぶ紐を作って欲しいの」


「オンブヒモですか?・・・それはどういったものでしょうか?」


「長方形の布の長い方を立てにして、上の両端に少し太めの紐を付けるの。下の方は紐を通すための輪を付けるの」


 太めの紐と説明した時、人差し指同士を立てて幅を作って見せた。


「3㎝位ですね」


 そう言えば茉白さんの世界にも「センチ」ってあったけど同じなのかな?


「う、うん、3セン・・・チ?」


 センチがよくわからないので取り敢えず返事をしてみた。


「ところでチョウホウケイとは何でしょう?」


 あれ?こっちは長方形と言う言葉はないのかな?


「えっと・・紙に書くから、紙とペンを持ってきてくれる?」


 すぐに絵を描いて見せた、ついでに布を2枚合わせて布の間に綿を入れてキルティングにしてもらう事も説明した。

 ソフィは不思議そうに描いた絵を見つめている。




 昨日、ソフィにおんぶ紐を作ってもらうように頼んだのは、茉白さんの記憶に赤ちゃんを背負う道具があったから、卵をおんぶして歩くことにしたの。卵が落ちたり飛び出したりしないように底と蓋も付けて貰うからこれで大丈夫なはず。

 おんぶ紐が完成したら、外出用のリュックと言うのも作ってもらうことにしよう。


 おんぶ紐が出来るまでベッドで卵を抱えながら、茉白さんの記憶の中の本「精霊巫女物語」の内容を思い出していた。

 本の中のアンジェルは光属性で、10歳から王都に行って魔法と精霊巫女としての勉強を学び、12歳から毎年、東西南北の各大領地にある精霊樹に祈りと魔力を捧げる巡礼と言う旅をしていた。

 旅?龍ではなく馬車で移動するから?大領地は遠くて何週間もかかるのかな?それなら旅になるかもね。

 精霊樹には精霊王レスプラオンデュールさまの眷属で4大精霊がそれぞれ宿っている。

 東の大領地の精霊樹は栃ノ木と言う大木・・・マロニエの木の事かな?そして水の精霊、オンディーヌ様がいらっしゃる。

 西の大領地は菩提樹、ティユールの木に似ているね、ここは風の精霊、シルフェ様。

 南の大領地は楡の木、これはオルムで・・・火の精霊、サラマンドル様。

 北の大領地はプラタナス、これは言葉が似ているプラターヌでいいはず、土の精霊でグノーム様・・・。

 ベル兄さまと何度も植物図鑑を見ていて良かった・・・凄く理解できる。

 そういえば中神殿に行った時に見たすごく綺麗な顔の白い像が名前の長い精霊王かも。その横にいた背の高い像がたぶんグノームさま。

 精霊巫女は巡礼先で精霊王の眷属や精霊と会話をして楽しんでいる。

 王都の大神殿にある聖なる樫の木・・・こっちではシェーヌサクレの木だよね。そこには精霊王が住んでいた・・・あれ?住んでいた・・・今は?

 精霊巫女は4大精霊と話をしたとなっているけど、精霊王は出て来こないね。


 んー・・・とりあえず今はいいかな。

 アンは龍騎士になるから精霊巫女にはならないもの。そのためには10歳になったら王都ではなく、龍舎に行って龍に選んでもらうの。もう本の事を考えるのは、やめよう。


 午後からはお父さまとお母さまや兄さまたちとお茶室に行く事になっていたので、ソフィと一緒に行くと既にみんなが揃っていた。


「お待たせしました」


 いつも座っているソファーにチョコンと腰かけた。


「その背中のものはなんだ?」


 シャル兄さまが首を傾げて聞いてきた。


「卵が入っているの」


 にっこり笑って答えてみた。ソフィが急いで作ってくれた渾身の作品、おんぶ紐が完成したのだ。

 可愛らしくしたと言って背の所に、オルタシアンの刺繡をしてくれたの。忙しいのに出来た侍女見習だと思ってしまったよ。そう言えば、オルタシアンは茉白さんの家の庭にもあって紫陽花と言っていた。


 ソフィがミルクティーを入れてくれたの、ミルクティーと言ってもほとんどミルクだけど。

 すまして飲んでいると、視線が痛い・・・みんなアンを見ている。


「「「「「・・・・・・」」」」」


「あの・・・何か?」


「アン、身体は辛くないの?・・・ところでその布と紐はどうしたのかしら?」


お母さまの首がゆっくりと傾いていく。


「身体は元気になりました。えっと・・・おんぶ紐はソフィに作ってもらいました。」


「そう・・・変な・・・いえ・・・面白い・・・コホン・・・不思議な形ね」


 お母さまが困惑している。


「アン、先ずは聞きたいことがあるのだが、その卵はどこで拾ったか記憶はあるか?」


 お父さまも困惑しながら聞いてきた。


「いいえ・・・気がついたら卵と一緒にベッドの中でした」


 精霊さんのことは話していいのかな?・・・今、私の周りには白いフワフワとしたものが沢山飛んでいるけど見えていないのかな?


「ベル兄さまは何の卵か分かりますか?」


 おんぶ紐の前の部分の結び目をほどいてから、ソフィにおろして貰って、卵を見せた。ベル兄さまは少し身体を乗り出して、卵を見ている。


「鳥にしては大き過ぎるし、龍にしては小さいね。もし龍なら卵は属性の色を持つから少し赤みかかったり、ほんのり黄色かったりするけど・・・真っ白だからね・・・調べてみるよ」


「ありがとう、ベル兄さま」


 ベル兄さまにお礼を言っていたら、ノル兄さまが話しかけてきた。


「元気になってよかった。崖下にアンが落ちていった時は、本当に生きた心地がしなかったからね。崖下の穴の中から見つけた後、アンを抱え龍で急いで屋敷に戻ったのだよ」


 なんですと!・・・アンが龍に乗ったと?気を失っていて全くわからなかったよ、なんてもったいないことを。

 ノル兄さまがほっとした表情で話しているけど・・・それどころではないの。・・・乗りたい、意識がある時に絶対乗りたい!


「ノ、ノル兄さま、ありがとうございます!あの・・・また乗せてほしい!」


「あの時は緊急だったからね」


「あのちょっとでいいの・・・アンの背丈位、浮く程度でもいいの」


「だめだよ・・・龍は遊び相手ではないからね」


「うう・・・そんなぁ・・・」


 ・・・ガックリとうなだれた。

 そうだ・・・せめてグレースのモフモフ!お父さまに許可をもらわないと。


「お父さま・・・元気になったので今度、湖まで行ってみたいです・・・その時にグレースも一緒に連れて行っても良いですか?」


「あと2日様子を見て熱が出なければいいだろう。グレースも連れて行って構わないが、護衛は付ける」


「2日後ですね、ベル兄さまも一緒に行ける?」


「2日後は予定があるから、3日後の午後なら一緒に行けるよ」


「私も一緒に行く!」


 ベル兄さまと一緒は嬉しいけど・・・シャル兄さまも一緒か。


「シャル兄さま、午後は剣術のお稽古があるのでは」


「稽古は朝のうちに終わらせるから問題ない。絶対行くぞ、アンと出かけると面白そうだからな」


 胸を張って言っているけど面白い事って何?ちょっと失礼だよね。

 もう何を考えているの?

 あれ?・・・目覚めてからちょっと変かも・・・前はこんなに反抗した言い方をしなかったような気がする・・・茉白さんの影響じゃないよね?


「ただの散歩兼ピクニックだから・・・ね、ベル兄さま」


「ふふっ・・・もちろん私も、ただの散歩兼ピクニックでいいよ」


「ベルトランが一緒なら心配はないと思うが、アンには専属の護衛を付ける予定だ。3日後までに護衛が来るよう手配しておく、部屋から出る時は必ず一緒に行動するように」


「わかりました、お父さま」




 屋敷の西側の長い並木道を抜けると湖が見えてくると聞いたことがあったの。それにしてもうちの敷地はどれだけ広いのだろう。丘があったり、湖があったりすごいよね。

 ピクニックはベル兄さまとシャル兄さま、侍女のソフィとグレースが一緒。グレースはアンが背負っているリュックの匂いを何度も嗅いでいた。この卵はグレースにとって警戒対象?それとも食べ物なのかな?・・・とにかく気になるらしい。


 そして今日から護衛が付いたの。


「アンジェルお嬢様、今日から護衛に就かせて頂くユーゴ・シュバリエと申します」


 胸に手を当て一礼していた。


「シュバリエさんよろしくお願いします、私のことはアンと呼んで下さい」


「お言葉に甘え、アン様と呼ばせていただきます。私のことはユーゴと、護衛ですからさん付けは不要です」


「うん、わかった。ユーゴね」


 ユーゴとの挨拶が終わっていよいよ出発だ。

 今日はおんぶ紐ではなく追加でソフィに作ってもらったリュックなの。もちろん布はキルティング仕様。リュックの背にローズの花が刺繡されている。

 東の庭に咲いているグラデーションが綺麗な花・・・リュックにローズの刺繡はどうかと思うけど、折角ソフィが刺繡してくれたから何も言わないでおくことにした。

 ・・・ソフィは刺繡が好きみたい。


 今日は湖まで行き、休憩にお茶とお菓子を食べて、帰ってくる・・・体力作りなの。アン一人のお出かけは禁止だから、今日の運動に付き合ってくれているのは兄さまたちとソフィとグレースとユーゴ。

 夏の3の月にあるメテオール祭は夜も起きていられるようにと・・・それと最も優先事項の龍騎士になるため。そうそう休憩の時にグレースをモフモフすることも忘れないようにしないと、これも優先事項だからね。

 今日の優先事項を考えていると馬車が2台やって来た。

 湖に行く途中の並木道まで馬車で行き、その先から歩いて湖に行くとベル兄さまが教えてくれた。


 そんなに遠いと思っていなかったよ。1台はベル兄さまとアンと護衛のユーゴにソフィ。

 余ったシャル兄さまはグレースと乗ることになった。

 グレースをアンの所に乗せたいと言ったけど、狭いから駄目と言われちゃった・・・。ユーゴと交替でって思ったけど・・・言えないよね。今日就いたばかりの護衛だものね。


 出発して窓の外を眺めていると、ここにもお母さまが好きなグラデーションのローズが沢山咲いていた。庭師はどれだけ苗を増やしたのかな?・・・驚いてしまった。

 ローズを眺めていたらその先は並木道となり、長い並木道の先の先に湖があるらしい。本当に敷地内なのだろうか?悩んでいると馬車は止まった。


 ベル兄さまに抱えられて馬車を降り、のんびりと歩き続けているとやっと湖が見えてきたけど、リュックを背負っているからなのか・・・もう疲れている。


 回りにフワフワと精霊さんが浮かんでいる。湖と森が近いからなのか精霊さんの数が多い。『もうすぐー』って頭の中に声が響いてくる・・・うん、頑張るよ。


 シャル兄さまがグレースと追いかけっこしている。朝から剣術の稽古もしてきたと言っていたけど・・・あの体力を少し分けてほしい。


「アン・・・大丈夫かい、疲れたらその背中の袋を持ってあげるよ」


「ベル兄さま、背中の入れ物はリュックと言うの。もう直ぐ着くからこのまま頑張って歩くから大丈夫」


「そうかい、ひょっとしてリュックの中は卵かな?肌身離さずだね、周りに精霊の気配がするけどその卵と何か関係があるのかな?」


 ベル兄さまはアンの耳元に顔を寄せて小声で話し始めた。


「ベル兄さまは精霊さんが見えるの?」


「見えたら嬉しいけど・・・残念ながら見えないよ、気配だけは感じるのだけどね」


「そうなの?卵のことはアンも良く判らないの・・・『卵と一緒』って精霊さんの声が頭の中に響いてくるけど・・・ベル兄さま、このことはまだ内緒にしてね」


「アンは精霊の声が聞こえるのかい?・・・そうか・・・この事はまだ広めない方がいいね。それと卵の事を図書室で調べてみたけど、その大きさの白い卵の文献はなかったよ。王都の図書館に行く機会があれば調べたいと思っている」


「・・・図書館に行けるといいね」


「そうだね・・・ところでこのリュックはアンが考えたのかい?両手が空くからいいね。形を改良して騎士団や鉱山で仕事をする人が使えるように出来たらいいかもしれないね。父上に相談してみようと思うけどいいかい?」


「ベル兄さまにお任せするね」


「龍騎士も使いたいと希望が出ると思います。私も欲しいです・・・刺繡なしで・・・」


 ユーゴ、刺繡なしでと小さい声で言っていたけど聞こえているよ。それよりユーゴは龍騎士なの?おもわず2度見しちゃった。

 ベル兄さまとユーゴがリュックについて何か話している。ユーゴは歩きながらおしゃべりしてもちゃんと周りも見て護衛の仕事をしているんだね。



 ふぅ・・・やっと湖に着いたよ。

 木で出来た長椅子があったからベル兄さまと一緒に座って一休み・・・結構疲れたかも。体力づくりって疲れるね・・・でも頑張らないと、龍騎士目指すんだもん。


 シャル兄さまは草むらにグレースと並んで座っていた。野性味あふれるシャル兄さまは、本当にただ遊びたかっただけみたい、卵の事で話しかけられなくて良かった。


 焼き菓子とジュースを飲んで少しのんびりしてから、湖の周りの散策をはじめた。

 少し歩くと草の陰に巣のようなものを見え、アンが片手で持てるくらいの白い卵が2つ入っていた。

 その巣の横に2つの卵の2倍くらい大きい卵が1つ転がっていて、黒い線のような汚れが横長に付いていた。


「これはカナールの卵です。親鳥が交代で卵を温めているはずなのですが、親鳥はいないようです。猟人に撃たれてしまったのではないでしょうか・・・こっちの卵はずいぶんと大きいですが・・・カナールなのか変異種なのか・・・わからないです」


「親鳥がいないとどうなるの?」


「このまま放置されれば卵は死んでしまいます」


 ベル兄さまが薬草を探している間に、ソフィが持って来ていたバスケットにこっそりと3つの卵を入れた。死んでしまうのはかわいそうだし、精霊さんもダメって言わなかったもの。ユーゴは横を向いているから気がついてないよね。

 大きさは違うけど白い卵は全部で4つになっちゃった。


 ふと思ったの・・・茉白さんの名前『御縁 茉白』・・・茉白さんの国では御縁(みえにし)は『ゴエン』と読んで縁があると言う意味らしい・・・茉白さんが出てきたから、白いものに縁が出来たのかも。

 カナールは茉白さんの国のカモと同じみたい。茉白さんはバイトサキと言うところで働いていた時に、マカナイと言ってカモのお肉が入ったカモナンバンソバと言う物を箸と言う2本の棒を使って上手に食べていた・・・美味しそうだった。

 カナールのお肉は美味しいけど、この卵は孵って大きく育っても食べたりしないよ。


  卵を拾ったあとも湖の周りを歩いていたら、ベル兄さまが草を抱えて戻って来た。いい薬草が採取出来たと喜んでいたけど・・・薬草は何に使うの?

 あ!・・・グレースをモフモフするのをすっかり忘れていた・・・今から走ってグレースに突っ込んで行ってもいいですかぁ!


 シャル兄さまが面白がって走るから、グレースがシャル兄さまを追いかけ、アンがその後ろを追いかけたけど、卵を背負ったアンが走ってもグレースとの距離は開くだけだった。背負ってなくても追いつく気がしないけど・・・。

 結局諦めるしかなく・・・ゼーハー言いながら、馬車に戻った。・・・何だか悔しい。



 やっと屋敷に着いたけど、すっかり疲れてしまった。でもバスケットから卵を出さないといけない。

 ユーゴにバスケットを部屋まで運んで貰った。

 ソフィが飲み物の用意をすると言って部屋から出て行ったので、バスケットから黒い線の付いた卵を出して拭いてみたけど・・・取れなかった。汚れではなく模様なのかな?

 残りの2つも取り出して、線の付いた卵と一緒にシーツに包みベッドの端に入れた。


 凄く頑張った1日だったけど、久しぶりに熱を出してしまった・・・茉白さんの世界ではアンのこの状態を通常運転と言うらしいの。

次回は10月27日に更新予定です。

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