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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第2章 ちょっと丈夫になった辺境伯令嬢のやりたい事とやるべき事

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52/70

52、ソフィ視点

第1章が予定していた内容より長くなってしまい、それでも最後まで読んでいただきました読者の方に、ただただ感謝です。

ようやく今回から第2章が始まります。

第1章では進められなかった内容を少しずづ進めていきますので引き続きよろしくお願いいたします。

 北の精霊樹から戻られたアレクサンドル様は、意識のないアンジェル様を抱えておりました。


「ソフィ、アンを部屋で休ませたい、準備してくれ」


「畏まりました」


 何が起こったのかわからないまま、急いでアンジェル様の部屋に行き、手足を拭くためのお湯とタオル、着替えなども用意しました。

 ベッドで眠っているアンジェル様は泣いたのでしょうか?目の周りに赤みがありました。悲しいことがあったようです。

 ステファニー様や3人のお兄様たちも慌ててアンジェル様の部屋に来られました。

 今、アンジェル様はモロー女医の診察を受けています。



 診察の結果、疲労と魔力が乱れ漏れている状態とのことでした。

 魔力が漏れたり安定しなかったりするのは、大きなショックを受けた時や命に関わるような怪我をした時だと、聞いたことがあります。

 アンジェル様の小さなお身体にどんなご負担があったのか、心配でなりません。

 お目覚めになられた時のために、飲み水を用意しようと部屋を出ると、ユーゴさんが廊下に立っていました。

 懐からネージュを出したことに驚きましたが、アンジェル様の意識がなかったからだと直ぐに気が付きました。

 ネージュを受け取ると、フワフワの白い毛の中の翼らしきものがほんのちょっと手に触れました。

 ピコピコと動いています。


「ピッ・・・ピィー」


 不安そうな目をして鳴いています。

 お水を取りに行く前にユーゴさんにアンジェル様に何があったのか聞いてみたいと思いました。

 どのように聞いてよいのか、悩みながらユーゴさんを見つめてしまいました。


「ソフィ?」


 私の名を呼ぶユーゴさんの目の周りがほんのりと赤いです


「し、失礼しました、ネージュをアンジェル様の所に連れて行きます」


  とにかく魔力の事がありますから、直ぐにアンジェル様のところにネージュを連れて行くほうが大事だと気がつきました。

  ユーゴさんに会釈をして受け取ったネージュを抱え、アンジェル様の寝室に戻りました。


「ステファニー様、ネージュをユーゴさんから預かりました。アンジェル様のおそばに置いても宜しいでしょうか?」


「えっ?・・・ええ、そうだったわね。ネージュがいてくれることで魔力が安定してくれるといいのだけれど」


 ステファニー様はネージュの事を忘れていたようです。アンジェル様の事をとても心配されているのですから仕方ありません。アンジェル様の容態が落ち着いたら、また可愛いと頬ずれされると思います。


「ピッ・・・ピィー」


 ネージュはもぞもぞとアンジェル様のお布団の中に入っていき、安心したのかすぐに目を閉じてしまいました。ネージュも疲れていたのかもしれません。


「ピッ・・・ピ、ピ」


 何か言っているようですが、目を閉じているので寝言かもしれません。ネージュも不安なのでしょうか?


 ステファニー様は休憩も取らず、ずっとアンジェル様のおそばにいらっしゃいます。このままでは倒れてしまいます。


「私がアンジェル様のおそばにおりますので、少しお休みされては如何でしょうか?」


「ありがとう、でも・・・もう少しそばにいるわ。夜には一旦部屋に戻るから、その時はお願いするわね」


「畏まりました」


 そう言えばユーゴさんは私の名を呼んでいましたが、何か伝えたかったのでしょうか?

 ・・・すぐに言わなかったのは急ぎではないのかもしれません。いつか機会があれば聞いてみれば良いですね。



 夜が明け朝を迎えてもアンジェル様はお目覚めになりません。アレクサンドル様やステファニー様、3人のお兄様たちも交代でいらっしゃってアンジェル様にお声を掛けていきますが、反応はありませんでした。

 ネージュは片時も離れず、アンジェル様の横で座ったり、お布団の中に入ったりしています。


 夕方、キリーが窓に張り付いているのを見かけてとても驚きました。

 部屋の外に待機しているユーゴさんとマクサンスさんにキリーが来ている事をお伝えしたところ、アレクサンドル様の許可があれば部屋に入れても良いと教えて下さいました。

 マクサンスさんが直ぐにアレクサンドル様の所に向かったのですが、アレクサンドル様と共に戻ってきました。

 アレクサンドル様が部屋の窓を開けてキリーに話しかけています。


「キリー・・・アンジェルはまだ眠っている。魔力が安定していないのだ・・・部屋に入ってもいいが、静かに出来るか?」


「・・・グワ」


 キリーが首を縦に振って小さく返事をしました。キリーが部屋に入って来ると、直ぐにアンジェル様のそばに行き、羽を広げて何かしています。暫くするとキリーがほんのり金色に光り出しました。何をしたのでしょう?ネージュまでほんのり光っています。


「キリー?・・・アンの魔力を吸ったのか?」


 キリーは頷いてからヨロヨロと窓の方に歩いて行き、嘴で窓をコンコンとつついています。


「ソフィ、窓を開けてくれ・・・キリーが外に出たいようだ」


「はい」


 窓を開けるとキリーは北の方に向かって飛んで行きましたから、アレクサンドル様にそのことを伝えました。


「精霊樹の所に行ったのだろうか?」


 アレクサンドル様が呟いていましたが、なぜ精霊樹なのでしょう?アンジェル様の魔力を置いてくるのでしょうか?どうやって置いてくるのか疑問ですが、キリーの事ですから・・・深く考えないようにします。


 キリーは翌日の朝に戻ってきましたが、もう金色に光っていませんでした。夕方頃再びアンジェル様のおそばに行き、羽を広げてはほんのりと金色になって再び北に向かって飛んで行きました。

 翌日の朝にまた戻ってきましたが、3日目から5日目のお昼まではアンジェル様のおそばにずっといたせいで、キラッキラに輝いているキリーに驚きました。

 すごく眩しいです。    


「・・・ゲフッ!」


 えっ?『ゲフッ!』と聞こえましたが大丈夫なのでしょうか?

 魔力を食べ過ぎてお腹が苦しい?・・・キリーは魔力をお腹に貯めるのですか?やはり人間とは構造が違うのかもしれません。

 キリーはお昼を過ぎた頃、キラッキラに輝いた状態で南の方角に凄い早さで飛んで行き、あっという間に見えなくなりました。飛び立つ時にちょっとふらついて見えましたが、気のせいでしょうか?


 6日目の朝、漸くアンジェル様がお目覚めになり、直ぐにユーゴさんを通して皆様に伝えてもらいました。

 アレクサンドル様やステファニー様、3人のお兄様たちは安堵しておりました。私も心からホッと致しました。


「アンジェル様、皆様がいらしています」


「・・・はい」


「身体は辛くないか?」


「はい、問題ありません。ご心配をおかけしました」


「・・・ア、ン?」


 淡々と返事をするアンジェル様にステファニー様が声を掛け、手を伸ばしそっと頬に触れています。

 アンジェル様は驚いたように目を丸くしてステファニー様のお顔を見ています。


「本当に大丈夫なのかしら?」


「はい、問題ありません」


「だが・・・身体を動かすのは難しいのではないか?3日後は学院の入学式だ。無理をせず来年から通っても問題ないぞ」


「いえ、入学式は行きます。2の週にある試験も受けられます」


 アレクサンドル様は穏やかにゆっくりと話し掛けていますが、アンジェル様は淡々と答えています。


「アン・・・?いや・・・わかった。入学式はノルベールと一緒に龍で行きなさい。馬車では負担がかかり過ぎる。式が終わったら直ぐ帰ってくる事、よいな」


「キリーに乗って行ってもいいのですが・・・」


「キリーはダメだ、周りが驚く。あの姿は見慣れないからな、キリーが戻って来たら街や学院には行かないように言っておく」


「キリーは今どこへ行っているのかわかりますか?」


「南の方角に飛んで行ったと聞いているが、詳しくはわからない。ところでどうしたのだ?いつものアンらしくないぞ?」


「・・・いつものアン?」


「ええ、私も思っていたわ。眠っている間に凄く大人っぽくなったようだけど・・・何があったのか気になるわ」


「・・・な、何も、ありません」


「いつものアンじゃないぞ」


「シャル兄様までそんなことを?」


「それだ!アンはそんなすましていない」


「すまして・・・?」


 アレクサンドル様やステファニー様、お兄様たちは困惑しているようです。もちろん私も困惑しています。


「・・・あ、頭が痛い」


 どうしたのでしょうか、やはり北の精霊樹に行った影響でしょうか?


「もう休んだ方がいい、学院の事は様子を見て決めよう」


「・・・はい・・・お父様」


 ノルベール様とベルトラン様はアンジェル様に「無理をしないように」とお声をかけて部屋を出て行かれ、ステファニー様は目を伏せて悲しそうに「また来るわね」とおっしゃってお部屋を後にされました。

 アレクサンドル様は納得のいかないシャルル様の肩に手を置いて一緒に部屋を出るように促していました。

 皆様はとても困惑されています。




 再び眠っていたアンジェル様がお目覚めになられると「少し眠ったら頭痛は治まったみたい」とおっしゃったので、部屋で夕食を摂ることになりました。


「ソフィ、学院の入学式には行くとノル兄様に伝えて、制服の用意もお願いね」


「制服の用意は既に出来ております、ノルベール様からは龍に乗って行く準備は出来ていると言付かっています」


「さすがノル兄様ね、ソフィもありがとう」


「いいえ、私にお礼は不要です」


 アンジェル様は微笑んで頷いています。


「ピッ?」


「ごめんね、ネージュは途中まで一緒に行くけど、学院の中までは入れないと思うの」


「ピッ」


 アンジェル様がネージュに話しかけると、金色の目が不安そうに揺れていました。


「心配しないで、大丈夫だから」


 アンジェル様はネージュの気持ちがわかるのでしょうか?優しく声を掛け抱きしめているのですが、背中のフワフワの白い毛が一部動いています。翼がまたピコピコ動いているのでしょう・・・可愛いです。

 はっ!・・・今は和んでいる時ではありませんでした。


 アレクサンドル様やご家族の皆様とお話されていた時のアンジェル様は、顔つきが少し変わられたと感じましたが、顔つきだけではありません。可愛らしいお声は変わらないのに、話し方も違うのです。大人びたと思うのは気のせいでしょうか?お声を掛けると微笑んでくださるのですが、どこか悲しげでお辛そうなのです。

 アンジェル様・・・北の精霊樹で何があったのですか?


 もうすぐ学院の入学式です。慣れない学院でアンジェル様がまた体調を崩されたらと思うと、とても不安です。

 学院にシャルル様がいらっしゃいますが、アンジェル様の入学式の翌日から通われると聞きましたので、シャルル様は頼れません。

 入学式はノルベール様が引率されるので、問題はないとわかっていても・・・心配は尽きないのです。


 アレクサンドル様たちがお部屋を出られたあと、アンジェル様はベッドでぼんやりとしています。何かを考えていらっしゃるのか、それとも疲労の為何も手に付かないのか・・・私にはわかりません。アンジェル様は何もおっしゃってくださいませんから。

 以前のように『ソフィ、お願いがあるの』とおっしゃったり、拳を突き上げて『オーッ!』と言って飛び跳ねたりしてとても楽しそうにしているお姿を思い出されます。

 今なら拳を突き上げても許してしまいそうです。もちろん淑女としては許される事ではありませんが・・・。


 アンジェル様・・・私ではお役に立てないのでしょうか?

 お食事もあまり召し上がっていませんので、思い切ってお声掛け致しました。


「アンジェル様、今日はお天気が良いので、温室でお茶は如何でしょうか?」


「・・・温室?」


「庭師のジェローがローズを増やしたと聞きました。ノール本店と王都店の庭に植える苗が少しずつ蕾を膨らませているそうで、温室にその1部が置かれ咲き始めています。それとアンジェル様が育てていた、姫ポムやフレーズの実もなり始めています」


「実が・・・行ってみようかな?」


「はい、直ぐにお支度をしますね」



 温室に着くと大きな窓のある日当たりの良いところにアンジェル様をお連れして、姫ポムティーとサクッとクッキーとミルクチョコレートを用意しました。

 外をぼんやり眺めていたアンジェル様は紅茶の香りを楽しんでから、一口飲まれました。


「いい香り、温室の姫ポムももうすぐ収穫できるくらい育っているね」


「はい、アンジェル様が上手に調節されていましたから」


「フフ、そうだったね」


 笑っているはずのアンジェル様のお顔がなぜか悲しく見えるのです。


「チョコレートも如何ですか?」


「罪な味・・・グー様へ届ける予定だから、また精霊樹に行かないと・・・」


 また一口紅茶を飲まれてから、窓の方をぼんやりと見ています。


 どの位の時間が経ったのでしょうか?そろそろお声をお掛けしようとアンジェル様を見ると、頬に涙が伝って流れていました。


「ア、アンジェル様・・・?あの・・・私は何もお役に立てないかもしれませんが、お話を聞く事は出来ます」


 私は何を言っているのでしょう?・・・でも声を掛けずにはいられませんでした。


「・・・」


 アンジェル様は慌てて袖口で涙を拭いています。いつもなら腕を抑えてハンカチを当てるのですが・・・今はそれが出来ません。思わずハンカチを握りしめてしまい、皺くちゃにしてしまったのです。


「わ、私は両親を亡くしてからずっと悲しくて、心が空っぽになってしまったのですが、ブリジットさんとアレクサンドル様やステファニー様のおかげで、心は満たされ幸せになれました。ですから・・・今度はアンジェル様の為に何かをさせて頂きたいのです。私に出来る事はありませんか?そ、それにアンジェル様には・・・アレクサンドル様やステファニー様、お兄様たちもいらっしゃいます」


「・・・ソフィ・・・?ソフィも?心が空っぽになったの?」


 ソフィも?とおっしゃったと言う事はアンジェルの心は今、空っぽなのでしょうか?


「はい、7歳の時から1年間でしたが空っぽだったのです。私のお父様とお母様は精霊の地に渡られ、その後は食べ物があまりなくて、着るものも不自由していました。一人では何も出来ないと思い込んでいて・・・淋しくて、悲しくて全てを諦めていました」


 今日食べるご飯が部屋に運ばれない、明日のご飯もなかったらどうしようと毎日が不安だった事はさすがに言えません。ひもじくて惨めだったあの辛さは、心に不安と悲しみを抱えていらっしゃるアンジェル様には重い話ですから。


「そんな辛いことが・・・?ソフィは頑張ったのね」


「いいえ、何も頑張ってはいません。でも一生懸命になれる環境を与えていただいたのです。食べ物も着るものも不自由なく、それに学院にも通えましたし、魔法も侍女としての仕事も教えて頂きました。アレクサンドル様やステファニー様、ブリジットさんを始め周りの皆様も、なぜか無理をしないようにとばかりおっしゃっていましたが・・・心は日に日に満ちていったのです」


「ソフィは頑張り屋さんだもの」


「アンジェル様は私よりもっと前向きで頑張り屋さんです」


「前向き・・・?」


「はい、やりたいことを見つけると直ぐに始めていました・・・その・・・迷うことなく」


「迷うことなく・・・?・・・そう・・・そうだったね・・・」


 何かを考えていらっしゃる様子でしたが、それ以上は何もおっしゃらず、お部屋に戻ることになりました。


 翌日の朝はお部屋でお食事を少量取られ、その後は窓の外を見ながら膝の上にネージュを乗せて何か考えていらっしゃる様子でした。


「・・・ソフィ・・・」


「何でしょうか?」


「・・・あの・・・お願いがあるの」


「お願いでございますか?」


「・・・うん・・・アンのお話を聞いてくれる?」


「は、はい!もちろんです」


 アンジェル様は閉ざしていた心を開こうと思ってくださったのでしょうか?

 春の魔力検査の後、崖から落ちた辺りから今までの1年間に起きた事を話し始めました。思い出したように笑いながら話すこともありましたが、やはり精霊樹に行った時の事はお辛いようで涙を浮かべていました。

『ましろさん』の存在がとても大きかったようです。

 おんぶ紐やブラノワ、そして美味しい食べ物やドッグセラピー、車いすも『ましろさん』の世界にあったものだそうです。

 違う世界にいた『ましろさん』は全てを諦め空っぽになった心だけがこちらに来たとおっしゃっていました。

 まだ8歳のアンジェル様に『ましろさん』の心の痛みを受け止められるわけがありません。


「アンジェル様、お話をして下さってありがとうございます。『ましろさん』の世界にあったものだったとしても、こちらの世界にはなかったものですから、アンジェル様が工夫して作り上げたものだと思います。それに魔法で植物を育て、エリー、マリー、キリー救い、そしてネージュを育てているのはアンジェル様です。新しい魔法のコピーというものや氷も作り出しました」


「・・・うん・・・」


「アンジェル様は空っぽではありません。今まで行ってきた事は皆様に喜ばれているのです。これからも皆様が喜ぶものを沢山作り出せるかもしれません。学院で学ぶ事でもっとやりたい事が出てくるかもしれません。アンジェル様はこれからなのです」


「・・・これから?」


「はい、これからです。楽しみですね」


「・・・ソフィ・・・ありがとう。グー様からはやるべき事をやりなさいって言われたの・・・でも茉白がいなくなって、今までの事はなんだったのかな?やるべき事って何?って・・・でも魔力をもっと増やして畑を作ったりお店のメニュを考えたりしながら、グー様がおっしゃった『やるべき事』とは何かを考えてみてもいいのかな?・・・わからない事はお父様やお母様、兄様たちに・・・あっ、ソフィにも聞いたらいいよね。それに・・・龍騎士にな・・・えっと、な、何でもない・・・・」


「私も一生懸命考えます」


「う、うん・・・そう言えばチマチマ拾っていたラディの種を、道具を使って楽に取れるようになったのは、ソフィが道具を持ってきてくれたからだったね。」


「はい、あの種取りは面倒・・・いえ時間がかかりましたから、たまたま厨房に行った時に棚に置かれていた道具を見て、これだと思って使ってみたのです」


「すごく楽になったもの。また時間がかかる作業があったらいい方法を考えてね」


「わかりました・・・あの・・・差し出がましいようですが、アレクサンドル様とステファニー様にアンジェル様の心の事はお話になった方がよろしいと思います。アンジェル様の事を1番大切に思い、理解されている方たちですから」


「・・・うん、そうだね・・・そうする」


 アンジェル様は頷いて微笑えまれました。昨日までの悲しい笑顔とは違うように見えました。その後は紅茶をおかわりして、クッキーとチョコレートを召し上がり、少し元気になられたようです。


 いつも遠慮して1歩下がったところで見守っていたつもりでしたが、何かに戸惑っているアンジェル様を見て、私が遠慮している場合ではないと感じたのです。アンジェル様の心も守りたいのです・・・勇気を振り絞ってアンジェル様に私の気持ちを伝えてなくてはいけないと思ったのです。


「ア、アンジェル様、わ、私は何もお役に立てないかもしれませんが、お話を聞く事は出来ます」


 そう言った時、ハンカチを皺くちゃにしてしまいましたが、肩の力が抜けたような感じがしました。少しはアンジェル様の心に寄り添えたでしょうか? 春からは侍女見習いから侍女になります。フォセットさんと一緒にアンジェル様の笑顔が絶えないようにもっと寄り添っていく所存です。


 侍女見習いとして初めてご挨拶させていただいた時に、「アンと呼んでいいよ」とおっしゃって下さったのですが、あの時は恐れ多いとお断りしてしまいました・・・でもこれからはユーゴさんと同じく、アン様とお呼びして良いか聞いてみようと思います。



 次回の更新は8月11日「53、辺境伯令嬢の心」の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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