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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第1章 北の大領地の辺境伯令嬢

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44、ひ弱令嬢と新しいデザート

誤字の報告をありがとうございました。

 雪合戦を楽しんだあとに騎士団の激しい雪合戦まで見たせいか、部屋に戻ると夕食も取らずに眠ってしまったらしい・・・目が覚めたら朝になっていた。


 昨日のうちにベル兄さまと氷を作りたかったな・・・氷が作れていたらすぐに厨房で試せたのに・・・残念だよ。


「アンジェル様、お目覚めですか?」


「フォセット?」


「おはようございます、早朝にはお熱が下がっておりましたよ」


「えっ?熱が出ていたの?」


「はい、微熱でしたが・・・お薬を飲んだ事は覚えていらっしゃらないのですね。昨日はかなりお疲れだったのでしょう。夕食前にも声をお掛けしたのですが、ぐっすり眠っていらっしゃいました」


 ずっと外にいて、雪玉を投げていたからかな?

 それに・・・顔に雪が触れていた時に気持ちいいと思ったのは、熱があったからなの?

 微熱って言っていたけど、熱が出るほどはしゃぎ過ぎた?・・・でも楽しかったな。

 久しぶりに寝込んだけど・・・茉白は出てこなかったよ。あれから会ってないけど・・・どうしたのかな?


 

「今日はカジミールの所に行く予定だったの」


「本日は大事を取ってお部屋にいるようにと、ステファニー様がおっしゃっていました」


「・・・うん、わかった。カジミールとユーゴに予定は明日の午後からにしてほしいと伝えてくれる?」


「既に伝えてありますからご安心下さい」


「あ、ありがとう」


 フォセットって凄く気が利くよね・・・走ったりするけど。


「お食事もお部屋でとるようにとの事です、午後からはベルトラン様がお顔を見に来て下さるとおっしゃっていました」


「ベル兄さまが!わかった、おとなしく待っている」


 ベル兄さまが来たら氷魔法のこと聞いてみよう。




 ベル兄さまは予定通り午後からアンの部屋に来てくれた。


「思ったより元気そうだね、アンが夕食に来なかったから心配していたよ」


「心配かけてごめんなさい、直ぐに眠ってしまったから、熱が出ている事も気が付かないくらい微熱だったみたい。もう熱は下がったし、元気だよ」


「それは良かった・・・昨日、アンが言っていた氷魔法の事が気になって試してみたけど、今の季節なら外で水魔法から氷は出来たよ」


「外でなら?・・・もしかして暖かい部屋では出来なかったと言う事?」


「そうだね、暖かい室内では氷にならなかったよ。表面だけ薄く氷が張る程度だったからね」


「やっぱり無理なのかな?」


「操作はそんなに難しくはないよ、冷えた水を出す感じだからね。どこまで冷たく出来るかなんだけど、部屋が暖かいと固まる前に融けてしまうから・・・冬のうちに部屋を冷やして置いて、外から熱が入りこまないようにしておけば、その部屋で常に氷を作る事は出来ると思うよ。店の事を考えれば夏に氷があると冷たい物も提供できるようになるから、そう言った部屋があるといいよね」


「氷を置く専用の部屋を用意すればいいの?」


「そうだね、可能であれば、だけどね」


「ここではうまく行っても、王都では難しい?・・・あっ冬の間に王都まで氷を運んで行けばいい?」


「溶けなければいいけど・・・龍の宅急便でも王都までは3日はかかるからね」


「龍の宅急便の宿泊先にも氷専用の部屋を作ればいい?」


「可能かもしれないけど、宿泊先を限定しないといけないね。先ずは父上に要相談だね。伝えておくよ」


「うん、ベル兄さまありがとう」


「どういたしまして、氷は日が当たらない地下の部屋に作っておくのがいいね」


「氷があると、新しいデザートが作れるの」


「デザート?氷の?」


「デザートを作る時に氷が必要なの・・・明日作る予定なの」


「部屋はすぐに作れないから、明日の氷は外で作るしかないね。氷専用の部屋を地下のどの部屋にするか早急に検討しては貰うけど」


「・・・氷専用の部屋・・・楽しみ」


「フフ、アンの気持ちはわかるよ。美味しいものは早く作って食べたいよね。それと専用の部屋は保冷室と呼ぼうか?冷気を保つ部屋だからね。氷室と言う表現もあるけど新しい呼び方がいいと思う」


「うん、保冷室ね・・・新しいデザートの下準備があるから今日は氷を外で作って貰う事にする。保冷室が早くできるといいな。王都のお店でも出したいの」


「ノール本店で提供されているものが王都では扱っていないとなると、王妃様がテオドール第3王子と共に龍で飛んできそうだね」


「うわぁ・・・王城も北の領地も大騒ぎになりそう・・・あれ?王子様も龍に乗れるの?」


「テオドール王子だけは龍に乗れるよ。こちらにロベール第一王子と一緒に視察にいらした時に、龍舎をみたいとおっしゃってね」


「お父さまが許可したの?」


「龍に選ばれる可能性やその後の訓練の事も話して納得されていたから、許可したと聞いているよ。龍に乗りたかったようだね・・・ロベール王子も龍舎に行きたかったようだけど、当時16歳で成人なさっていて公務にも携わっていたから、訓練を受ける時間はないと許可が下りなかったみたいだね。あと1年早く来たかったと残念そうにしていたよ」


「そっか・・・ロベール王子さまは龍が好きなのかな?」


「龍に乗りたいと憧れる人は多いからね」


「テオドール王子さまも憧れていたの?」


「そうかもしれないね、移動が速いから助かるとも言っていたよ」


「確かに馬車より早いし、空に向かって飛ぶのは楽しいものね」


「アンも龍に乗るのが好きだと聞いているけど?」


「うん、好き・・・テオドール王子さまも龍が好きだったなんて・・・それじゃあ何度も領地に来ては龍舎に通ったの?」


「いや、10歳の時に1度きりだよ。龍舎に行くとすぐに火龍がテオドール王子を選んだから・・・父上もかなり驚いたと聞いているよ」


「1回で・・・さすが王族?」


「そうかもしれないね。龍との相性が良かったのか、龍に警戒されない人柄なのか・・・確かに凄い方かもしれないね」


 アンも警戒されない人柄にならないと・・・でも警戒されない人柄ってどんな人柄なのかな?

 あっ・・・話がそれちゃった。


「ベル兄さま、保冷室は出来るだけ早く作ってほしいの・・・それと明日、デザートが美味しく作る事が出来たら、パトリック伯父さまがいらっしゃる日にお出しできるよ」


「フフフ、可及的速やかに保冷室を作るようにするよ。アンは外に出て氷を作ったりしないようにね。また熱が出てしまうと、2日後にいらっしゃるパトリック伯父上にも心配かけてしまうからね。アンに会えるのを楽しみにしているようだからね」


「今回はユーゴとマクサンスとジュスタンに氷を作って貰えばいいよね」


「どのくらいの氷がいるかわからないけど程々にね・・・先ずは父上に伝えてくるよ」


「うん、お願い!」


 張り切って返事をしたよ。

 実験が好きだからあっと言う間に試してくれたんだね・・・流石ベル兄さま。

 保冷室ができるのが待ち遠しい・・・期待しちゃうよね。ああ、楽しみ。


 ベル兄さまが部屋を出て行ったあと、急いで明日の準備を紙に書いた。

 そして新しく寒い部屋を作って保冷室と呼ぶ事も。


「フォセット、今日はユーゴとマクサンスとジュスタンは扉の外?」


「今日はマクサンスとジュスタンの2人が待機しています」


「そっか、ユーゴは休みなの」


「はい、明日はいると聞いています」


「あー・・・そうだね、明日はいるよね」


 今日の試食会は明日に変更されたけど・・・あれ?ユーゴは今日いなくて明日いると言う事は休みを変更したの?

 そんな簡単に融通が利くとは知らなかったよ。


「ジュスタンに大きなバケツを4個用意して庭に持ってきてほしいと伝えてくれる?アンはマクサンスと庭に向かうから」


「今日はお部屋で過ごすようにと言われておりますが」


「すぐ戻るから、2日後にパトリック伯父様がいらっしゃるから用意しないといけないの」


「・・・少々お待ちくださいませ」



「お待たせいたしました」


 フォセットは部屋の外にいるマクサンスに何か話をしていたみたい。戻ってきたらそのままクローゼットに行き、何やらいっぱい抱えてアンの所に来た。


「こちらを着てくださいませ」


 コートを着てポンチョを羽織って帽子にストールと手袋・・・雪合戦じゃないのに。

 取り敢えず言うことを聞いておけば庭に行ける?


「フォセット?」


「さぁ参りましょうね」


 ニッコリ笑って言われた。

 諦めてモコモコのままヨタヨタ歩いくしかないよね。

 着膨れているし・・・ちょっと暑い・・・背中の卵が茹で卵になりそう・・・。


 部屋を出るとドアの外にマクサンスが立っていた。


「マクサンス、これから庭に出るけど大丈夫?」


「庭に出ると伺いましたので、上着だけは羽織りました。ジュスタンはバケツを取りに行っています」


「うん、じゃ行こう」


「はっ」




 庭に出るとジュスタンが大きなバケツを重ねて両手に抱えてやって来た。


「ジュスタンありがとう、これからする操作は誓約書第1第2だからね」


「はっ」


「アンが試しでやってみるから見ていてね」


 外に出られないから、窓を開けて冷たい風が吹くと水魔法を出して氷を作る・・・。

 最初は水と粉々の氷だったけど、ゆっくりやれば少し大きくなる。

 けれど今回は大きな塊でなくてもいい、小さくても大丈夫。部屋に置くなら溶けにくい大きな塊がいいけどね。

 バケツにコロンコロンと小さな氷が落ちていく。


「出来た!・・・マクサンス、ジュスタン、やってみて」


「「えっ・・・?」」


「氷を作るの、このバケツ4個一杯になったらこの紙と一緒にカジミールに届けてほしいの」


「は、はい・・・やってみます」


「アンは窓の所で見ているね」


「「は、はい・・・」」


 マクサンスとジュスタンは外に出て、何度か水魔法で水を出して試していた。ちょっと時間がかかったけどバケツにコロンコロンと氷が溜まっていく。

 第3条件に該当するだけあって器用かもしれないね。

 ユーゴにも次回は氷を作ってもらう事にしよう。


 4つのバケツに氷が山盛りになると、マクサンスは鼻と手を赤くして戻ってきた。

 寒かったよね、真冬に氷づくりだもの。

 頑張ってくれた2人には、明日から試食会のメンバーに入れてあげよう。ご褒美だよ。


「先にお部屋までお送りします」


「うん・・・明日はマクサンスとジュスタンはいる?」


「はい、明日はユーゴさんと3人です」


「マクサンスとジュスタンは寒いのに頑張ってくれたから、明日の午後はアンと一緒に厨房で試食会をしようね。昼食はお腹いっぱい食べないようにとジュスタンにも伝えて」


「試食会・・・ぞ、存じております。ユーゴさんが何度か参加していると噂で聞いた事があります。楽しみ・・・いえ、光栄です」


 楽しみって言いかけたよね。口元が緩んで見えるのは気のせいではないはず・・・。

 フフフ、美味しい物をみんなで楽しく食べられたらいいよね。

 それに『ユーゴさんが何度か参加していると噂で聞いた』って言ったけどユーゴは毎回参加で皆勤賞だよ。

 皆勤賞って茉白の世界では休まずにきちんと働くと称えられるもので、ご褒美みたいなものらしい。

 ソフィは療養と言う名の休暇だから、誘えない・・・皆勤賞、逃しちゃったね。

 今回はフォセットに声かけて参加してもらう事にしようかな。


「フォセットもね」


「私も厨房でございますか?」


 あれ?厨房で食べるのはダメだったかな?


「フォセットは厨房で食べるのはダメなの?」


「滅相もないです、試食会の噂は存じおります。楽しみ・・・いえ、その、光栄です」


「噂?」


「アンジェル様が厨房で試食会をすると美味しいものが増えると聞いております。まさか我々が参加できるなんて・・・ジュスタンも聞いたら喜びます」


 マクサンスがとても嬉しそうに言った。


「失敗しても食べるけど・・・大丈夫?」


「・・・失敗」


 マクサンスがちょっと動揺しているよ。


「ど、どの程度の失敗でしょうか?お腹が壊れるとか・・・眩暈や嘔吐がするとかでしょうか?」


 なぜフォセットが震えながら聞いてくるの?・・・それだと毒入りになっちゃうよ。

 ずっと前に、お母さまにユーゴは毒見役と言ったせいかな?


「そんなに酷くないよ・・・高級食材を使う事もあるから、ちょっと物足りない時もあると言う意味だからね。その時はカジミールが何とかしてくれるから大丈夫だよ」


「「そうですか」」


 2人とも凄くホッとした顔しているよ。

 今までカジミールが何とかしてくれていたし、ソフィとユーゴは毎回美味しいと言っていたから問題はなかったけど、今回作るものは滑らかさが出るか心配しているの。

 新しい物を作る時は不安がある・・・だから失敗するかもしれない。

 でも・・・やっと、前から作って欲しいと思っていたものが作れる・・・すごく楽しみ。

 ・・・早く明日にならないかな。


 この後はベル兄さまに送るハンカチに、少しだけ刺繡をして早めに休もう。







 マクサンスとジュスタンは緊張した顔で厨房にいる。

 フォセットも少し離れたところからじっとこちらを見ている。


 カジミールにマシロパンを作る専用粉をバターケーキの型に入れ、小さい角食を10本焼いてもらっていた。

 角食パンの型がないから代用品として使ってもらったの。

 角食は3センチ位の厚さに切ってから、ウッフとミルクとノールシュクレをよく混ぜた液に漬け込んでもらっていたの。

 角食の耳は切った方が見た目も綺麗だけど切らずにそのままにしてもらったの。パンも高級品だからね。

 角食は小さいから、ユーゴ達には6枚くらい必要かも。


 フライパンにバターを入れて弱火で焼いてもらう。ふっくらと焼き上げるために蓋をしてもらった。

 今回はフレンチトーストのアイス添え。

 アイスクリームが完成したら、クレープにもアイスクリームを付けたいと思っていたの。

 やっと食べられる・・・特に夏は必需品だよね。


 フレンチトーストを焼いている間に、氷の中に入れていた金属の容器を取り出して、中身をスプーンでかき混ぜてもらう。

 アイスクリームはウッフの黄身とノールシュクレをホイッパーで混ぜておき、生クリームとミルクは合わせて温め、そこに混ぜた黄身とノールシュクレを入れて更に混ぜる。

 混ぜ終わったら金属の容器に移してから冷やして、固まりかけたらまた混ぜて冷やす。これを何度か繰り返す事で、甘くて滑らかな冷たいアイスクリームが出来る。

 普段は楽しんで料理を作っているカジミールだけどアイスクリームには驚いていた。


 氷に塩をたっぷり入れると氷は溶けやすくなるけど、水はぬるくはならないと紙に書いたのでその通りやってくれたみたい。

 保冷室が出来れば塩は入らなくなるけどね。


 まだ保冷室が完成していないから、今朝ユーゴが氷をたくさん作ってバケツで届けてくれたらしい。

 マクサンスとジュスタンが、昨日氷を作ったら試食会に誘われたと嬉々としてユーゴに伝えたらしく、ユーゴも急いで氷を作る練習をして、バケツ4個分の氷を作って厨房に届けたと聞いた。

 ユーゴは氷を作らなくても試食会のメンバーなのに、気にしているのかな?

 意外とまじめなのかも・・・意外と・・・。


 これだよ、ずっとこれが食べてみたいと思っていたの。

 紙に書いただけでここまで仕上げてくれるカジミールは、やっぱりマジ優柔だと思う。


 フレンチトーストも両面が綺麗に焼き上がったみたい。

 ついに熱いフレンチトーストと冷たいアイスクリームが出来上がった。


「今日はフレンチトーストのアイス添え、7人で試食会の開始よ!オー!」


 いつものように握りこぶしは胸の前で止めたのに、フォセットがぎょっとしてアンの顔を見たのはなぜかな?

 拳は胸でもダメだったの?・・・もっと下げた方がいいの?あとでフォセットに聞いた方がいいかな?

 アイスが溶けちゃうから今は気にしないで食べよう。


「アイスが美味しい!」


 思わず声が出てしまった。


「うっ!」


 ユーゴが唸って頭を押さえている・・・アイスをいっぱい口に入れたらしい。

 キーンってしたのかも。

 莉白の世界ではかき氷をたくさん口に入れると頭がキーンとなるって、だからユーゴも冷たいアイスでキーンってなったのかも。


「ユーゴ、アイスは少しずつ食べないとキーンってなるよ」


「はー・・・アン様、先に行ってほしかったです。美味しいのにすぐに溶けてなくなってしまうので、たくさん口に入れたら大変なことになりました。口の中から頭に向かって剣が刺さったかと思うような痛みです」


「剣・・・そんなに痛かったの?」


「はい・・・これは凶器です・・・少しずつ飲みます」


「うん?アイスは飲み物ではないよ?」


 あれ?・・・飲み物だったかな?


「すぐ溶けますから飲み物ですよ」


 マクサンスとジュスタンも頷いていた。


「飲み物?・・・でもフレンチトーストやクレープに付けて食べるから・・・飲み物ではないような?でもアイスだけなら飲める・・・?も、もうどっちでもいいよ」


 食べ物ではなかったの?何だか分からなくなっちゃったよ。明日、他の人の意見も聞いた方がいいかもしれない。


「ユーゴのアイスはもうなくなっちゃったね、もう少し食べる?」


「はい、食べます」


 あっ、食べますと言ったよ・・・やっぱり飲み物ではないよね。


「今日は特別ね、マクサンスとジュスタンにも追加していいよ」


「はい!ありがとうございます、フレンチトーストもアイスも美味しいです。フレンチトーストはフワフワですが・・・アイスは口の中ですぐに溶けてしまうので食べ過ぎるかもしれませんね?」


 ジュスタンが張り切ってお皿を出している。

 何気にフレンチトーストもおかわりしたのは見ないふりをしておくね。


「私もアイスをたくさん口に入れようと思ったのですが・・・ユーゴさんを見ていたましたから・・・少しずつ食べます」


 マクサンスはユーゴで学習したらしい。いいことだよ。


「あの・・・いつもこのように試食会をしていたのですね。ソフィはよろしかったのですか?」


「ソフィは療養中だから試食会に参加出来ないの・・・でもお見舞いとしてあとで届ける予定だよ」


「そうでしたか・・・良かったです」


 フォセットはソフィに遠慮しているのかな?・・・とても良い人かも。


「味も食感も問題ないから明日の昼食に出せるね。フレンチトーストとアイスと他の付け合わせはカジミールに任せるよ」


「角食を使ったタルティーヌもあったらいいかもしれませんね・・・フレンチトーストは甘口ですから・・・それにしてもパンは色々楽しめますね。何よりアイスには・・・驚きました」


「アイスはフレーズや姫ポムのピューレをかけても美味しいかもしれない。あと大人味はラム酒漬けしたレザンを入れても美味しいと思う」


これは大人用のアイス、茉白の世界ではラムレーズンと言っていた。お父様とパトリック伯父さまが喜んでくれるといいな。


「ラム酒漬けのレザンですね、早速作って明日のお昼にお出し致します」


 カジミールは嬉しそうに言ってくれた。明日の組み合わせは既に考えているのかもしれない。


「チョコレート味もいいと思います」


 コンスタンもアイスを食べ終わって考えていたのかな?


「チョコレート味のアイス・・・高級品ですね」


 ジュスタンが目を丸くして言った。


「先ずは保冷室が出来てからだね、そうしたら色々な味のアイスを作り置き出来るもの・・・食事が終わったらユーゴ達は氷を交代で作っておいてね」


 ユーゴ達3人はいい笑顔で頷いていた。試食会効果がしっかりと出ているね。


「私たちも小さい氷ですが作れるようになりました。氷を作るのは私とコンスタンのみです。他の料理人にはまだ伝えていませんので安心してください」


「流石、カジミールとコンスタン・・・でも無理しないでね、アイスを作るだけでも手間がかかるから。お父さまの許可が出たらたくさんの人に氷づくりを協力してもらえるはず、でも保冷室が出来るまでアイスは作らない予定なの・・・あっ・・・カジミールたちに面倒掛けちゃうけど明日のお昼だけはアイスを作ってね」


「はい、心得ています」


「ありがとう、カジミール。それと食パンの型はパウンドケーキの型の2倍の大きさを考えていたけどフレンチトーストを作るには問題ないかな?」


「大きいと1枚ずつ切ったものを更に半分に切って使うことになりますが、大きい型を使った角食パンも焼いてみたいです。恐らくサンドイッチを作るのに適していると思います」


「いいかも・・・食パンの型は試作品として1個だけお父さまに頼んであるの」


「流石、用意周到ですね」


「フフ、カジミールに褒められたらなんだか凄く立派になったような気がする・・・それから、型に入れて焼いたパンは角食パンと呼ぶことにしたの」


「角食パン・・・確かに角がありますね」


「うん、わかりやすいよね・・・フレンチトーストとアイスは夏からお店で出すのがいいかな?」


「冬でも春でも・・・暖かい部屋で食べるアイスは贅沢の極みだと思います」


 ユーゴにとっては贅沢の極みになるの?・・・アイスと言う飲み物は・・・。


「贅沢の極み・・・アイスはクレープにも付けるからやっぱり春からかな?アイスは別料金で付けるのがいいかも・・・春ではまだ寒いから食べたくない人もいると思うの」


「好みで付けると言うのは良いですね」


「うん・・・あっ!・・・カジミール、冷えた生クリームとフレーズのピューレはある?」


「ええ、ありますが?」


 パフェが出来るよ。


「ユーゴは大きいボールに氷を少し作って入れて欲しいの」


「はい」


「コンスタンはその大きいボールに少し水を入れたら、小さいボールに生クリームとノールシュクレを入れて、大きいボールの中に浮かべながらホイッパーで混ぜて、角が立つくらい生クリームを堅くしてほしい」


「わかりました」


「マクサンスは温室に行ってフレーズの鉢を持ってきてくれる?」


「フレーズの鉢?・・・は、はい」


「カジミール、チョコレートのビター味はある?」


「ございます」


「チョコを刻んでから湯煎にかけて溶かしながらミルクを入れてチョコレートソースを作って欲しいの。今回は甘さ控え目に・・・作ったソースは冷ましてね」


「わかりました」


 バナナにチョコレートソースをかけてチョコバナナと言うのがあったよね。

 食べてみたいな・・・チョコバナナパフェと言うもの・・・茉白が食べていたもの。


「アンジェル様、生クリームはこのくらいで如何でしょうか?」


 コンスタンが見せてくれた生クリームはつんと角が出来ていた。


「うん、いい感じ」


 マクサンスが戻って来た。


「アンジェル様、蕾のついたものを一鉢持ってきました」


「う、うん?ありがとう」


 蕾が付いているのをわざわざ持ってきたと言う事はフレーズを食べるとわかって持ってきたのかな?・・・マクサンスもユーゴと同じ食いしん坊さんかも。

 魔法をかけると花が咲き、すぐに実がなった。その実は大きくなりそして赤くなっていく。アンの握りこぶしくらいのフレーズが8個も出来た。

 あっ・・・コンスタンは誓約書にサインしているのかな?まぁ今更だよね。

 コンスタン、口が開いたままだよ。


 フォセットがフレーズの茎をハサミで切って実を摘み取ってくれた。

 やっと気を取り直したコンスタンがフレーズを洗い始めた。


 カジミールにパフェの話をすると、口が少しだけ広がったワイングラスのような入れ物の真ん中にアイスを入れ、切ったフレーズをグラスの内側に貼付け、アイスとフレーズの間に生クリームを入れた。

 フレーズのピューレをかけて、さらにアイスを少し上に乗せる。

 最後に飾り付けるようにフレーズを添えた。

 うん・・・綺麗。

 もう一つはアイスとチョコレートソースを掛けたチョコレートパフェ。

 刻んだアマンドも散らして、その上に小さな葉っぱを乗せていた。これは・・・ミントと言う葉っぱかな?


「この葉っぱはミント?」


「この葉はマントと言う爽やかな味と香りがします」


 茉白の世界とちょっと違う名前だけどミントだよね。

 ちょっとかじったけど・・・大人の食べ物だと思う・・・アンの口に合わなかったよ。


「爽やかな葉っぱは子どもの口にはいらないみたい・・・飾り用でいいよね」


「彩としてもいいですから」


 カジミールが笑っていた。


「うーん・・・チョコレートパフェにはバナナがあるといいのにね」


「バナナですか?」


「うん、黄色くて細長くて、黄色い部分の皮をむいて中の白っぽい実を食べるの」


「細くて黄色・・・バナーヌでしょうか?・・・他国から輸入されているものだと思いますが、南の領地で食べられているはずです」


「あるの?」


「私は1度だけ見たことがありますが、日持ちがしないので北の領地までは入ってこないものです」


「そうなのね、保冷箱があったら運べるかな?」


「運べるといいですね、そうなると美味しい料理が増えます」


 カジミールは目をキラキラさせて頷いていた。

 バナーヌだったよね・・・これを何とかしないと。

 あっ、アイスが溶けちゃう。


「食べないと溶けちゃうね。フレーズパフェとチョコレートパフェの試食会を始めるよ!オー」


 フォセットがアンの胸の位置で止めた握り拳を見たのでお腹の辺りまで下げてみたけど・・・首を横に振っていた。

 ・・・まだダメらしい。

 握りこぶしの位置はどこまでが許容範囲なのかがわからない・・・ソフィに聞いてみたほうがいいかもしれない。

 ユーゴ達3人の護衛とコンスタンはニコニコして拳を突き上げている、あっカジミールは拳を顔の横まで上げているよ。

 顔の横が正しいのかもしれない。

 フォセットの手はテーブルの下だから握り拳を作ったかどうかは、わからなかった。


 今は気にしない、溶けるから食べよう・・・。


「美味しい・・・」


 生クリームを入れる袋と口金が欲しい・・・そうしたら生クリームが綺麗に飾れるのに・・・今は無理だからスプーンでやってもらうしかないよね。

 アイスを掬うときのアイスクリームディッシャーも欲しい。

 丸型のスプーンでもいいかな?・・・楕円型とかスィトロン型、フレーズ型も面白いかもしれない。


「カジミール、アイスを掬うスプーンを作ってもらった方がいいよね」


「そうですね、もう少し深くて丸い物があるといいかもしれません」


「楕円やフレーズみたいなかかわいい形があってもいいよね」


「それも楽しいですね」


「お父さまに伝えてみるね」


「はい、お願いします」


 みんなモクモクと食べているよ。

 ユーゴは先にフレーズを食べてそれからアイスと生クリームを合わせて口に運んでいた。


 ジュスタンはチョコレートパフェから先に食べた・・・チョコが好きなのかもしれない。


 今日も楽しい試食会だったよ。

 明日はパトリック伯父さま達が喜んでくれるといいな。




 厨房を出て部屋に戻ると直ぐに、角食パンの型とアイスディッシャーの依頼を紙に書いてお父さまに届けるようにフォセットに頼んだ。


 その間、ベル兄さまのプレゼント用のハンカチに刺繍をして、漸く1枚が完成した。すぐに2枚目の刺繍の準備をしないとね。

 この調子でいけば冬の間に3枚のハンカチの刺繍は終われると思う。

次回の更新は6月20日「45、ひ弱令嬢と保冷室」の予定です。

よろしくお願いいたします。

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