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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第1章 北の大領地の辺境伯令嬢

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42、アレクサンドル視点(処罰)

 父上の弟、リシャール叔父上に「夫人の妹の子どもを、短期間で構わないのでアンの家庭教師として雇って欲しい」と言う手紙が届いていた。

 その子どもは2年制を選択して王都の学院を卒業しているという事だが、血縁関係のない親戚だ。「勉強は上の兄2人が交代で教えている為、家庭教師は不要」と返事を出していたが、暫くすると「行儀見習いも兼ねて侍女として置いて欲しい」と再び手紙が届いた。

 行儀見習い?・・・格上との結婚でも希望しているのであれば、子爵では躾が足りないか・・・叔父上のところでも無理と言う事なのだろうか?侯爵にでも嫁ぐのか?「侍女頭の監視のもとで行儀見習い兼侍女見習であれば良い」と条件付きで渋々了承の返事を出した。

 こちらに来てある程度教育が進めば、春から正式な侍女になるソフィの手伝い程度までならさせて良いとさえ考えていた・・・。


 やって来た娘、リゼットと面談し、行儀見習いと侍女見習の仕事を希望していると聞いているが、屋敷の仕事をすると言う気持ちに変わりはないのか確認したところ、それでよいとの返事だった。

 態度に横柄なところも見られ、子爵の娘なのにこの程度の礼儀なのかと呆れる反面、だから行儀見習いに来たのかと納得もした。

 礼儀を教えるにしても・・・17歳にもなってこの程度では遅いのではと不安にもなった。


 ブリジットと共にアンに挨拶だけをさせる予定だったが、早朝からアンの部屋に勝手に行き好き放題やっていたと報告が上がってきた。


 リゼットはソフィに後ろで控えているように伝え、アンには家庭教師をやると言ったらしい。

 アンには考えがあったのか、家庭教師として予定を立てるように言い、ひたすら問題を作らせていたようだ。

 アンは会うどころか部屋にも入れず、全て護衛に対応させたのは褒めるべきところだろう。

 しかし、アンが久しぶりに街へ買い物に出たのに、誘拐されかけ怪我をした。ソフィはもっと酷い怪我を負ってしまった。

 シャルルが街に出てアンの後ろに立たなければ、ユーゴがアンを守れた可能性が高かったと思う。

 その事をわかっていたユーゴやシャルルは、居たたまれない気持ちでいるだろう。シャルルにはこれを機会に人を守る事の難しさを学んで欲しい。


 リゼットがアンの部屋に勝手に行って以来、各所に護衛を忍ばせていたが、アンが街に行く事をなぜ知っていたのか・・・?

 犯人はリゼットだと思う・・・だがリゼットは誰と連絡を取ってごろつきを雇ったのか・・・その証拠がまだつかめていない。


 誘拐未遂から2日後、ジュスタンから報告を受けた。


「リゼットはアンジェル様が体調不良ではなく怪我をしていると口走りました」


「そうか・・・リゼットはやはり黒だったな・・・引き続き警戒してくれ」


「はっ」


 アンに会えず、思い通りにならない日々の苛立ちで口走ってしまったのだろう。

 その翌日にはリゼットが屋敷の外で、庶民らしき女に手紙を渡していたと報告が上がってきた。

 いよいよ動き出すか?


 同日の夕方にリゼットはソフィの部屋の前に立っていたらしい。扉に耳を当て気配を探り、音がしないのでドアを置けようとしたが鍵が掛かっていた為、諦めておとなしく部屋に戻ったと聞いている

 ソフィは前日の夜にアンの部屋へ移動している。

 これもアンの行動を褒めるべきかもしれない・・・7歳の子どもが17歳の娘に、先手を打っていた事に笑ってしまった。


 次の日リゼットは街に向かい、昨日とは別の女と新たなごろつき3人と会っていたが、尾行した護衛が張り付いていることに全く気が付いていなかったらしい。

 声を潜めて話すこともなく、警戒心などまるでなかったと言う報告には呆れるばかりだった。



 2日後にごろつきを裏門から入れて木陰に忍ばせ、アンジェルを庭に誘い出だして誘拐させる計画だったと言う。

 リゼットは誘拐後にノルベールと一緒にアンを探し出して安心させ、近いうちに辺境伯夫人の座に収まる話までしていたという。

 女には侍女頭の座を、ごろつきには警護の仕事を与えるとまで言っていたらしい。

 どう考えたらそんな都合のいい話になるのか理解に苦しむ。


 私服姿で張り付いていた護衛3人が話を聞き終えた所で4人を捕らえたが、リゼットは「侍女にはめられた」と叫んでいたと言う。

 捕らえたのは謹慎処分明けのユーゴと龍騎士団第2部隊の2名だ。

 ユーゴは怒りのあまりごろつき3人を次々と殴り倒し、リゼットとごろつきたちを縄で何重にも巻いて縛りあげてしまったらしい。

 後から縄を解くのが大変だったと護衛がこぼしていたが「よくやったユーゴ、私も絶対同じ事をしたぞ」と心の中で叫んだのは秘密だ。


 しかし・・・犯行計画を護衛から聞いた時には、普段より屋敷の護衛が増えている事に気づきもしないお粗末さに、子どものかくれんぼや魔物ごっこの遊びかと思ってしまった。

 その浅慮さで、王都の学院をどうやって卒業したのか疑問にさえ思う。



 リゼットを捉えてすぐに、手紙を出していた叔父上たちから、漸く屋敷に来ると言う返事が来た。

 冬の2の月に入った日に、リシャール叔父上とリゼットの実家のデュラント子爵が、馬車でやって来ると言う内容だった。

 叔父上は龍ではなく、わざわざ馬車で来ると言う事に苛立ちを感じた。

 屋敷に来たらどのように責任を取るのか、是非とも聞かなければならない。





 リゼットを捕らえて、ごろつきと共に牢に入れて7日が経過していた。


 わざわざホールに出迎えることはしない、来客が来たらすぐに応接室に案内するように伝えておいた。

 執務室でノルベールとベルトランと共に、今月の半ばから龍の宅急便に乗せる荷物の量の確認と、店のプレオープンに向け備品と人材の教育の状況報告を確認しなければならない。

 正直・・・忙しいのだ。


 扉がノックされバスチアンが「リシャール様とデュラント子爵が到着し応接室に案内致しました」と告げた。

 重い腰を上げ、3人で応接室に向かった。



「リシャール叔父上、お久しぶりです」


「久しいな、アレクサンドル。忙しいのか?少し疲れた顔をしているのではないか?」


「ええ・・・大変忙しいです。余計な仕事もありましたから、その余計な根源の親であるデュラント子爵・・・会うのは初めてだな」


 青ざめていた顔が白くなったデュラント子爵は頭を下げた。


「お初にお目にかかります、デュラント子爵当主のモデストと申します。この度は愚かなリゼットがご迷惑おかけし大変申し訳ありません」


「これからリゼットの愚行を話す・・・その前に息子たちも同席させる」


「畏まりました」


 デュラント子爵は頭を下げたままだ。


「叔父上、お久しぶりです」


 ノルベールが声を掛け、ベルトランが一緒に会釈をしていた。


「ああ、久しい。2人ともすっかり大きくなったな」


 息子たちは返事をせず頷くだけだ。


「デュラント子爵、お初に目にかかります。辺境伯の長男、ノルベール・テールヴィオレットと言います。ノルベールと呼んで下さい」


「モデスト・デュラントです。どうぞモデストとお呼び下さい」


「わかりました。モデスト様」


「同じく次男のベルトランです。ベルトランと呼んでください」


「ベルトラン様もモデストとお呼びください」


「はい、モデスト様」


 それぞれがソファーに腰かけるとデュラント子爵が口を開いた。


「辺境伯様、この度は無理なお願いを聞いていただいたにも関わらずこのような事態になってしまい・・・どのような処分も受ける覚悟でやって参りました」


「問題を起こすとわかっていて預けたのか?」


「いいえ、決してその様なつもりはありませんでしたが・・・結果としてとんでもない事をしでかしました・・・妻とは離縁をし、娘は除籍致します。もともと政略結婚で妻も不満ばかりで・・・いくら注意しても全く聞く耳を持たず・・・勉強だけ出来ても素行が悪い娘は母親から離して行儀見習いと考えたのですが・・・預かって頂いた先でこのような大それた事を・・・本当に申し訳ありません」


「デュラント子爵には長男もいたな。この先はどのようになるのか、長男共々覚悟はしているのであろうな」


「長男に話はしてあります・・・長男は1歳の時に妻から離して跡取りとして祖父母が育て、本人もまじめに努力してきましたが・・・リゼットは・・・年の離れた長男と違い遅くに出来たせいもあり、妻が自分で育てると言い出し手元から離しませんでした。甘やかすだけ甘やかして・・・この結果です」


「リゼットと母親の処分は重い、母親は『賢い娘は格上と結婚できる』といつも言っていた事が発端だったようだが、リゼットが屋敷に来ても母親が侍女を使って知恵を与えていたようだ。今回リゼットは侍女として屋敷に入り、家庭教師の振りをしてノルベールに取り入るつもりだったらしい。ノルベールがだめならベルトランでもいいから親しくなれと言われていたとリゼットが白状した」


「なんと情けない事を・・・も、申し訳ございません」


 デュラント子爵はテーブルに頭がこすれるほど下げていた、


「処罰は決定している、離縁して庶民にしたところで変わらない。リゼットは北の最も山奥にある金属しか取れない鉱山に無期限での労働。辺境伯の娘に危害を加えたのだ、戻ってこられると思うな。母親も同じく鉱山送りで20年の労働。デュラント子爵家は爵位返上と言いたいところだが、長男がいるからな。男爵に降格と言う事で国王に報告をする。当主の座は長男に譲るように・・・妻と娘を管理出来なかった結果だ」


「はい・・・お、温情を頂きありがとうございます」


「さて・・・次は叔父上ですが・・・とんでもない娘を送って来た責はどう負うつもりですか?」


「わしは頼まれただけだが」


「頼まれれば何でもやると?」


 叔父上の無責任な態度に声が低くなってしまった。


「何でもやるとは言ってはおらん」


「アンジェルが・・・もし、誘拐されていたらどうなっていたか。今回は誘拐未遂だったが怪我をしたのです。怪我がもし顔だったらどうされるつもりだったのですか?顔でなかったとしても傷が残ればアンジェの将来はどうなっていたとお思いですか?・・・叔父上」


「大した怪我はせず、無事だったではないか」


「無事?無事と言ったか?・・・叔父上の気持ちは良くわかりました」


「そうか、理解したか」


「ええ、気位ばかり高くて現実を見ない人だと昔から思っていましたが、今も変わっていないとよくわかりましたよ・・・叔父上」


「なんだと!・・・いくら辺境伯当主とはいえ、言っていいことと悪いことがあるだろう」


「・・・話はもう結構です。残念ですが店の招待は取り消させていただきます」


「な、何を言っている」


「店はアンが代表ですから、怪我をさせられた元を作った人を招待する事はできません」


 顔色が変わったな。

 気位が高く、未だに当主の座にしがみついている叔父上には、貴族が集まる場に招待されないと言う事がどういう事か、よく解っているはずだ。

 北の領地ではノール本店の招待状はどの貴族に送られているのか、話題の中心になっている。

 新しい店に、新しい食べ物、新しい飲みもの。

 王族も王都店に招待され、今後王族御用達は確約されている。

 王都店は各大領地の当主も招待されている事も叔父上なら知っているだろう。貴族が挙って開店を待っているのだ。

 テールヴィオレットの血筋が呼ばれないとなると痛くもない腹まで探られ、良くない噂が王都迄行くのは歴然としている。

 さあ叔父上、どう出る?


「・・・卑怯な」


「卑怯?・・・ほぉ?けじめもつけられない人が言う言葉ですかな?」


 悔しさで握りこぶしが震えているではないか。

 大事な一人娘を傷つけられた父親が黙っていると思うなよ。


「・・・わかった、当主を長男に譲る・・・せめて長男夫婦だけは招待してくれ。息子に面目がたたない」


「・・・いいでしょう、そして叔父上は叔母上と共に社交界には2度と顔を出さないと約束していただきましょう。書面を作りますから署名をお願いします。ああ、デュラント子爵もだ・・・賠償金の件は後ほどそれぞれの屋敷に送ります」


「ば、賠償金・・・そんな」


 デュラント子爵は白くなった顔が赤くなったり青くなったりしている、払える金もないのか?

 叔父上は声出さずに頷いただけだった。


 既に用意してあった書面に署名させ、すぐに帰ってもらった。もちろんこれから店で出す菓子や茶など一切出してはいない。

 招待状は良い切り札だった、叔父上にとって社交界は命だからな。店の招待が貴族間で話題になっているのも・・・これもアンの功績か。

 色々と問題を起こす事もあるアンだが、アンが考案した甘い食べ物は叔父上には最も苦いものになっただろう。


 デュラント子爵家では頭がいいだけで素行の悪い娘に頭を痛め、行儀見習い先を探していたと言うのは事実のようだ。

 調べた結果、実際に家庭教師はしていたが無理な教育方針で子どもに負担が掛かり過ぎると、1か月も経たないうちに解雇されていた。

 その後もあちらこちらで問題を起こし、領地では住みづらくなっていたようだ。それなのにアンの家庭教師とはよく言ったものだ。


 アンが街に行く事を知られたのは、屋敷の侍女たちが話していた所にたまたま通ったリゼットが聞いていたからだった。

 そこで誘拐計画を思い付いたらしい。おしゃべり侍女は当然解雇した。今後もこのようなことがあっては困るからな。


 治癒魔法が使える光属性持ちのアンは特殊だ。

 恐らく・・・遠くない先、王都の大神殿に呼ばれることになる。

 アンは精霊巫女になりたくないと言っていたが、どこまで守ってやれるかわからない。叶うのであれば、アンの思う通りにさせてやりたい・・・。


「ノルとベルにも今後の勉強の為に同席してもらったが、案外早く片付いたな。シャルルも謹慎が解けているから、今夜は久しぶりに家族そろってゆっくり食事が出来る」


 書面を整理している息子達が頷いていた。


「そうですね、カジミールに美味しいものを作って貰うようにしましょう」


「ああ、それがいい・・・ベルももう少しで南の領地か・・・アンが寂しがるな」


「父上やノル兄上がいるので大丈夫ですよ」


「そうだね、アンが父上にしがみついて震えながら泣いていた時には、父上が一番安心できるのだと思いました」


「そうか、安心か・・・親としては嬉しい事のはずだが、今回は複雑だな・・・アンをしっかりと守らないとな」


「ええ、私もアンを守ります」


「兄上、1年間は離れてしまいますが、私もアンを守りますよ」


「2人とも、頼りにしているぞ」


「「はい、父上」」





 夕食は久しぶりに家族全員が揃った。

 アンとシャルが早々に会話をしている・・・最近は随分と仲良くなったようだ。


「アン、この間は守れなくてすまなかった。怪我はもういいのか?」


「怪我はすぐに治したから大丈夫。でも、シャル兄さまが悪いのではなく、悪いことした人がいけないの。だから謝らないで」


「そ、そうか・・・アンが元気になって良かった。怪我もすぐに治る程度だと手紙を貰った時はホッとした」


「シャル兄さまにも心配かけたもの・・・今度こそ美味しいお店に行こうね」


「ああ、行こう。ちゃんと報告して出かけるからな」


 それは当たり前だぞ・・・シャルよ。偉そうに胸を張るな。


「うん、そうしてね」


「今日の肉は美味いな・・・野菜も食べやすいぞ」


 ここでちょっと口を挟んでみたぞ。


「お父さまのお口に合って良かったです、昨日、カジミールに作ってとお願いしたの」


 ニッコリ笑うアンは可愛いが・・・知っているぞ、いつもの3人でこそこそ厨房に向かっただろう。


「そうか・・・ソバージュカナールが手に入ったと聞いた・・・春に見かける事はあるがこの寒さの一番厳しい冬に捕獲されるのは珍しいな」


「そう言えば春に中神殿へ行く途中の宿で、お父さまとノル兄さまとで食べましたね」


 そうだ・・・あの時もアンは酷い目に合ったな。


「ああ・・・あの時は美味いと思って食べたが、今日の肉はもっと美味いな」


「事件が解決したから一層美味しく感じるのかもしれません。今日は食事が終わったら、飲み物と一緒に新しいおやつが出ます」


「そうか・・・それは楽しみだな」


「はい、お父さま・・・お母さまも兄さまたち楽しみにしてくださいね」


 アンがニッコリ笑って話している。

 一先ず頷いたが、今日も肉やおやつの事は知っていた。昨日の夜に報告が来ていたからな。


 ----------------------------------------------------------------


 アンジェル様の行動報告書


 いつもの3人で厨房に向う


 1、明日の夕食のご馳走:肉のハーブ焼きみたいな感じ


 ソバージュカナールと言う魔物の肉を焼いたもの。

「肉は白ワインとはちみつ、塩、オレガノ、オリーブオイルで味付けしてからチーズを乗せ、お肉の周りに数種類の野菜を入れて窯で焼いて」とアンジェル様がカジミールに指示。


「周りの野菜はパプリカ、ブロッコリ、シャピニオン、ポティロン、マイスの輪切りを入れました」とカジミールよりアンジェル様に説明。


「マシロの世界にあったハーブ焼きみたいな感じ。シャピニオンがキノコっぽい・・・マイスはとうもろこしの輪切りかな?オレガノとかパプリカは同じ言葉だけどブロッコリはブロッコリーって最後がのびるのが面白いなぁ」と楽しそうに呟いておりました。


 意味不明な部分がある為、詳細記入不可。

 誓約書第1条件により追求せず。


「今までお肉は塩コショウで焼たり、バターで焼いたりしていたけど、たまには違った焼き方もいいよね」とアンジェル様が言うとカジミールがとても良い顔をしていた。喜んでいると思われる。


 2、新しいおやつ編・・・ポップコーン 4種の味

 カジミールとコンスタンがマイスを芯から1粒ずつ丁寧に外し、横で見ていた2名が風魔法で乾燥させた。

 カジミールとコンスタンも風魔法は扱えるが、鶏肉のハーブ焼きの下準備がある為、2名が乾燥担当をする。

(注:2名とは護衛と侍女)


 ・大きな蓋つきのフライパンを用意

 フライパンに油を引き熱したら乾燥したマイスを入れる。

 マイスが白っぽくなって来たら蓋をしてフライパンを火から少し離してゆする。

 ポンポン、パーンと軽い爆発音が続くと、コンスタンが「ひっ!」声をあげながらも必死で蓋を抑え続けている。

 弾ける音がなくなり静かになったら、マイスをすぐにトレーにあけるよう指示。

 ①皿に塩の分量を計って入れておく

 ・小さいフライパンと小さい鍋を用意。

 ②フライパンにノールシュクレと水を中火で熱し茶色になるまで煮詰め、バターを加えフライパンをまわして溶かす。

 ③小さい鍋にはチョコレートを入れて湯煎で溶かす。

 ④チーズはおろし金でおろしておく。

 爆発したマイスは4分の1ずつに分け、それぞれに①②③④をかけて冷めるまで置いておく。


 ポップコーンと言うおやつの4種の味

 ①塩味

 ②キャラメル味

 ③チョコ味

 ④チーズ味


 完成後、アンジェル様はいつもの4名に「早速今回も試食会よ、オー」と言って拳を胸の位置で留めていました。


 ①と④はエールに良いと言う説にカジミールが同意。


 試食後、アンジェル様が「うーん幸せ」と言いました。


 私とソフィも最初に試食が出来る幸せものです。

 この役職に更なる感謝を。


                          ユーゴ・シュバリエ


 -----------------------------------



 ユーゴの報告書にはいつも驚かされる。

 記憶力はかなり凄いと思う・・・だがこの料理の手順は報告書に必要か?

 ここまでの説明は不要だと思いつつも、アンの行動が手に取るようにわかってしまう内容を、何度も読み直してしまう・・・きっとアンはうれしそうな顔をしているのだろう。


 報告書を読んだ翌日の食事は、初めて知ったと言う顔をする為少し緊張する。

 アンのわくわくした顔を見るのは楽しくもあり嬉しい。人並みとはいかないが、随分元気になってくれたと思う。


 捨てるに捨てられないユーゴの報告書だが・・・今度は何を書いてくるのか。アンが楽しそうに試食会をしているのは正直羨ましくもある。

 ユーゴは随分とアンに信用されているのだな・・・ちょっと親しくなり過ぎないか?少し悔しいが、ソフィとユーゴがうまくやっているのだから暫くはこのままで見守るしかないな。


 報告書を思い出しながら食事も終えた。出てきた飲み物はカフェアロンジェだった。

 甘い香りを漂わせたポップコーンと言うものが運ばれ、報告書通り4種類がそれぞれの前に置かれた。


「アン、これはなんだ?」


 早速シャルが食いついているぞ。


「マイスを乾燥させてから油で炒ったポップコーンと言うの。塩味、キャラメル味、チョコ味、チーズ味なの・・・塩味とチーズ味はエールに合うってユー・・・じゃなくてカジミールが言っていたの」


 ①と④はエールに良いと言う説にカジミールが同意と書いていたが『説』とはユーゴの事だと思っていたが・・・間違いなかったな。


「うん、どれも美味いが、キャラメル味が1番好きだな」


 シャルらしい答えだ。


「私は今夜、塩味とチーズ味でエールを飲むとするか」


「お父さま、夜の分は別に用意していますので、仕事が終わった護衛と一緒にどうぞ」


「アンは気が利くな、そうさせてもらおう」


「お母さま、チョコ味もいいでしょう?」


「ええ、美味しいわ。観劇の時につまみたいわね・・・無意識に全部食べ終えてしまいそうだけど」


「う?うん、いいですね。アンも観劇で食べてみたいです」


 アンは一瞬不思議そうな顔をしていたが、何か思い出したのだろうかいずれにせよリゼットの事は解決した。

 元に戻った当たり前の家族の時間がずっと続くように守らなければ。そして人を介した人員は特に気をつけて雇わなければならない。叔父上の紹介だからとそのまま受け入れてしまった、私の甘さもある。今回の教訓を肝に銘じ、明日からアンの侍女をもう一人慎重に探さないといけない。


「アン、食事が終わったなら、リゼットの処分について簡単に話しておこう」


「・・・はい」


「先ずはリゼットとリゼットを唆していた母親は鉱山送りだ」


「鉱山送り・・・労働をすると言う事ですか?」


「そうだな」


「労働など・・・出来るのですか?」


「きついだろう・・・だからこそ罰になるのだ」


「・・・そうですね」


「そしてリゼットの実家は子爵から男爵に降格と当主の交代だ」


「新しく当主になった方も罪を問われるのでしょうか?」


「貴族は家族も連帯責任になるからな、降格となった新しい当主も周りの貴族から厳し目で見られるだろう。だからこそ家族は互いの情報を伝え、助け合っていかなければならいと言う事だ・・・ないものは補い合って行けばいいのだから、そして身の丈に合った事をする、それ以上を望むのなら努力を重ねて勝ち取ればいい」


「頑張れば出来る事が増えるのですね」


「そうだ、目標があるのならそれに向かって繰り返し努力をすればいい、アンはしたいことがあるのか?」


「たくさんあります、今は・・・体力をつけて丈夫な身体になることです」


「そうだな・・・それはこれから叶うと思うぞ、アンは随分元気になってきているからな。春からは王都に行く機会も増え、更に再来年は王都の学院にも行くのだろう?外出も増えていくから、もっと元気になるよう、程よい運動をして沢山食べることだな」


「美味しいものをたくさん食べて元気になります・・・でも運動はどうすればいいでしょうか」


「私と庭を走るか?」


「シャル兄さまと雪道を走るのですか?」


「シャル、アンにはまだ無理ではないか?倒れてしまう」


「雪道・・・あっ、雪合戦ならできます」


「雪合戦とはなんだ?」


 シャルが不思議そうに聞いているが、私も知らないぞ。合戦と言ったな、戦うのか?危険ではないのか?


「小さな壁と沢山の雪玉を作って、壁に隠れながら雪玉をぶつけあうの」


 やはり危険ではないか。


「じゃぁ明日はその雪合戦をしよう」


 シャル・・・簡単に返事をするな。


「はい!昼食後でいい?」


「そうだな、庭で待っている」


「私も行くよ」


 ベル、アンを守れ。


「ベル兄さまも雪玉作るの?」


「そうだね、アンの手伝いをしてもいいよ」


 手伝いではない、ベルが壁になるのだ。


「やったー、楽しみしているね」


 アンにとってやはりベルが1番なのだな・・・ちょっと寂しぞ。


「随分嬉しそうだな?」


 シャルもそう思うだろう?


「だって、ベル兄さまは優しくて一緒にいると楽しいもの」


「優しければいいのだな・・・しかたない、遊んでやる」


「ベル兄さまは、シャル兄さまみたいに偉そうに言わないよ」


 アンが口をとがらせていているが、シャルもアンが可愛いのだろう。

 しかし・・・ベルのようにもう少し柔らかく対応できれば、もっと好かれるのだろうが・・・まだ9歳だから仕方がないか。

 優秀な兄たちがいるから重圧もあっただろう。今は努力をしているようだが、これからはもっと伸びるだろう。

 シャルの成長も楽しみだ。

次回の更新は6月6日「43、ひ弱令嬢と雪合戦」の予定です。

よろしくお願いいたします。

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