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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第1章 北の大領地の辺境伯令嬢

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29、ひ弱令嬢のお店の準備と図書室の本

 今日は朝早く起きて、ソフィと共にラディの種をチマチマ取っているの。5回目になるとさすが、ソフィの作業は早かった。

 種のついたさやを布に入れ、棒でトントンと叩いて大きな枝やさやを取り除いた後、どこからか持ってきた底が網になった入れ物で、細かいごみを落として種だけを集めていた。

 素晴らしい・・・ソフィは種取り職人なったよ。

 種取りが思ったよりも早く終わったから、庭で作業しているジェローに鉢を返しに行く事にした。


 ジェローが受け取った鉢を片付けている間に、ローズにちょっとだけ成長の魔法をかけ、見つからないように急いで部屋へ戻った。

 ローズは少し大きくなってしまったけど・・・ジェローが気づきませんようにと心の中で祈ってみる。


 食堂に行くと、今日の朝食には絶対いるだろうと思っていたシャル兄さまは、予想通り目をキラキラさせて席についていた。

 うん、思った通り・・・ある意味期待を裏切らない人だった。でも・・・他の日はいつ朝食を取っているのかな?


「シャル兄さま、おはようございます」


「ああ・・・おはよう」


「朝食の席で会うのは、新しいメニュがある時だけのような気がするけど、他の日はどうしているの?」


「もっと早い時間にきちんと食べているぞ、今日はいつもより遅いから腹ペコだ」


「そんなに早く起きているの?」


「早朝に剣の鍛錬をしているからな」


「龍騎士になるのに剣術も必要なの?」


「当たり前だろう・・・?」


 シャル兄さまが不思議そうに首を傾げてアンを見た。剣も出来ないと龍騎士になれないのか・・・。

 馬術と剣術・・・2つも・・・。


「馬術や剣術は学院で教えてくれるの?」


「男子は必修科目だぞ」


「女児は?いえ・・・女子は?」


「女子は知らん・・・刺繍とかではないのか?」


「ない場合はどうすれば良いの?」


「アンに必要な事か?」


「へ?・・・必要かも・・・?」


「いらないだろう?そんな事より腹が減った」


「うー」


 そんな事って言ったよ、とっても、とっても大事なことなのに。


「アン、おはよう。どうしたのかな?」


 ノル兄さまがやって来て声を掛けてくれた。あれ珍しい、前髪が少し跳ねている・・・お寝坊したのかな?


「おはようございます。シャル兄さまに学院の事を聞いていたの」


「もうじきだね」


「・・・馬術や剣術の科目は女子にはないの?」


「ないわけではないよ、騎士を目指す女子は少数だけどいるから。でもアンには必要ないよね?」


 ノル兄さまは微笑みながらバッサリと打ち切ってよ。反論出来ない・・・何か他にいい方法はないかな?・・・頭の中で悶々と悩んでいいたら、お母さまが最後にやって来た。


「おはよう、遅れたかしら?すぐに始めましょうね」


「「おはようございます」」


 シャル兄さまと声が重なった・・・気があってしまったよ。


「母上、私も今来たところです。シャルはいつも早いですからね」


 ノル兄さまはシャル兄さまの朝が早い事を知っていたのか・・・。

 お母さまも揃ったところで朝食が運ばれてきた。最近定番になったマシロパンと一緒に籠に入っているのは蒸しパンだよ。


「これがレザン入りの蒸しパンかな?」


「はい、ノル兄さま。パンのように焼かずに蒸したものです」


「あら、これは午後のお茶の時間でもいいわね。それにしても次から次へと作るのね」


「蒸しパンはパン屋さんで販売しようと考えています」


「パン屋さんなら種類が必要になるから、いいわね」


「はい、他にもチーズ入りや燻製肉を使ったパンも考えています。今度カジミールに作ってもらうので、食事の時に試食をしてほしいです」


「もちろんいいわよ。楽しみにしているわ」


 お母さまの言葉ににっこり笑って頷いたけど、シャル兄さまがマシロパンと蒸しパンを交互に食べながら、新しいパンの話にピクンと反応していたのを見たよ。

 きっと厨房に聞きに行くと思う、でもカジミールにはまだ話をしていなからね。


「保存食のビスコッティと姫ポム入りのフレーバーティーは食後に出てきますから、試食をお願いします」


「わかったわ」


「蒸しパンは美味いが、新しいパンも楽しみだな。いつ作るのだ」


「まだ決めてないの」


「明日はどうだ?」


「これから材料の確認だから、明日は無理」


「シャルル、アンも忙しいのよ。無理を言ってはいけないわ」


「そうか・・・すまない」


 あれ?シャル兄さまって意外と素直?・・・単純なのかな。


「シャル兄さまが楽しみにしてくれているなら、早めにカジミールと打ち合わせしてみる。もう少し待っていてね」


「ああ・・・楽しみにしている。アンが考えたものはいつも美味いからな」


 おお・・・シャル兄さまがいい人っぽく見える。素直で・・・いや・・・ただの食いしん坊かもしれないけど・・・。


 食事を終えると、ビスコッティと紅茶が運ばれてきた。

 姫ポムの香りが漂い、カップに思わず顔を近づけ匂いを思いっきり吸ってしまった。ちょっとお行儀が悪かったかな?・・・誤魔化すように、慌ててカップを持ち上げて飲み始めた・・・うん、美味しい。


「いい香りね、ポムの味もほんのりするわ」


「良かったです、姫ポムの皮を乾燥させて紅茶に入れました。乾燥させることで保存期間が長くなるから作り置きができます。お店で注文の度にポムの皮をむいたり切ったりしなくてもいいので効率がいいと思いました」


「そう・・・よく考えたわね、素晴らしいわ・・・季節限定と言う事は他の季節も何かあるのかしら?」


「はい、春はフレーズ、夏はペーシュ、秋はナッツミルク、冬はジャンジャンブルの予定です。材料が揃ったら試作をしてみます・・・フレーズの実が出来たら、すぐに試作を始めます」


 茉白の世界ではペーシュを桃と言って、そのまま食べたりジュースと言う名前の果実水で飲んだりしているみたい。

 こちらの世界の実は大きいから、小さく切って乾燥させたもので味や香りを楽しめるかまだわからない。ポムは皮を使ったけどフレーズやペーシュは実を使う・・・姫ポムも実を使ってみたいけど、お店でどの位の量が必要になるのかわからないから、一先ず皮だけ入れてみたの。姫ポムがたくさん用意出来るようになったら、実も入れてみたいな。

 ジャンジャンブルはお父さまの掌より大きい。これは身体を温め、風邪予防になるらしい。冬の月になったら試作してみよう。

 先ずはフレーズの苗を手に入れて、育てなくちゃね。早めにジェローのところに行かないと。


「お母さま、クッキーの袋ですが、ソフィが刺繍をしてくれました。食後にサロンで見ていただいてもいいですか?」


「ええ、構わないわよ。もう見本が出来たのね」


「はい、朝起きたら出来上がっていて、ソフィの仕事の早さに驚きました」


「ソフィは優秀ね」


 お母さまが微笑みながらソフィに話しかけると、嬉しそうに頬を赤くしていた。


「アン、サロンに行く前に確認したいのだけれどいいかな?」


 ビスコッティを食べ終え、ゆっくり紅茶を飲んでいたノル兄さまが真顔で話しかけてきた。


「は、はい」


「ビスコッティは作るのに時間がかるものなのかな?」


「2度焼きしているので、パンを焼くときの2倍近い時間がかかるの」


「そう、どこかに頼んで焼いてもらうことは可能かな?」


「カジミールに作ってもらっている酵母を渡すことになるから、信用できる人が焼くならいいけど・・・酵母はまだ表に出したくないの」


「・・・そうだね」


「日持ちがするから、毎日焼いて作り置きしておく事が出来るの。騎士団の厨房で焼いてくれると運ぶ手間が省けるし、鉱山の休憩所や避難場所にも、騎士団が運んでくれればいいと思うけど・・・でも酵母はどうしようかな?」


「信用できる料理人を増やすことを検討するよ。ビスコッティはナッツとレザンも入っているし、噛み応えもあるから満足感があるね。2枚食べただけで結構お腹が膨れると思うよ」


「身体にいいものも入っているしね・・・作る事が決まったら教えてね」


「決まり次第伝えるよ」


「うん、ビスコッティの作り方はカジミールとコンスタンが知っているから、どちらかに聞いてね」


「わかったよ」


「アン、ビスコッティは貰ってもいいか?」


「シャル兄さま?どこかに持って行くの?」


「今日はこれから学院に行くから、休憩時間に食べようと思う」


「シャル、これはまだ公表していないものだから持ち出しは禁止だよ。アンが作った物は今のところ全て他言無用だから気を付けないとね」


「わかった、誰にも話してはいないから大丈夫だよ、ノル兄上」


「シャル兄さま、明日になるけどクッキーは持って行ってもいいよ。お母さまのお茶会でも使われているから、ナッツや干しレザンを入れたシャル兄さま用の大きいクッキーにしたらいいかも。カジミールに頼んでみたら?」


「そうだな、大きいのがいいな。よし、カジミールに頼んでくる」


 シャル兄さまは嬉しそうに行ってしまった。食べ物に関する行動力はすごいけど・・・今日は間に合わないってわかっているのかな?


「シャルルは口が堅かったのね。ただ沢山食べるだけ・・・コホン」


 言いかけて止めたけど・・・シャル兄さまを褒めたのですよね・・・?お母さま。

 ノル兄さまは仕事があるからと言って先に食堂を出たから、今日は久しぶりにお母さまと二人でお茶をする事になった。




 サロンでお茶を飲みながら、クッキー用の袋をお母さまと見ている。薄ピンク色の袋に1輪のローズの刺繍が刺されていて、濃い紫のリボンをかけると、とてもお洒落に見える。


「お母さま、薄い青色の袋も用意したいです。濃い紫のリボンにも合うと思います。少し落ち着いた感じがして男の人用にも使えそうです」


「とても素敵ね。そうね・・・リボンの端はお店の名前も刺繍しましょう。その方が宣伝にもなるでしょう?」


「わかりました。それから、木箱には1輪のローズの焼印を押そうと思います」


「確かに、彫るより焼いた方が早いわね。せっかくだから、木箱に使うリボンも紫色で統一した方がいいわね」


「はい、それがいいです」


「布やリボンの用意と刺繍はお母さまに任せてくれないかしら?専属の縫子や、刺繍職人を揃えるわ。アンの負担が少しは減ると思うの」


「ありがとうございます」


「でも木箱はアンに任せるわね。ポランが木工商会を立ち上げて、春から専属になるのでしょう?」


「はい、木箱の依頼は出します」


「アンは春から学院もあるでしょう、少しでも身体に負担がかからないようにしてほしいの」


「学院は月に1回、試験の時だけ行くつもりです。1日で4つの試験を受けると12か月間で48回受けられます。すべての試験に合格すれば、次は王都の学院で、月に1度の試験を毎月受けるつもりです。合格すると2年で卒業できますから・・・でもノル兄さまやベル兄さまのように首席は、無理だと思います」


 早く卒業して龍舎に行きたいと、今は言えないけど。


「2年制にすると決めたのね。でも、首席にならなくてもいいのよ。2年制を目指して努力するだけでも立派なことよ。折角学院に行くのだからお友達を作ってみるのはどうかしら?社交も大事なのよ。兄さまたちは社交もしていたわよ」


 友達?社交?・・・まだそこまでは考えていなかったよ。


「学院に行って同じように試験を受ける子がいたら、話をしてみるかもしれません。でも今のところはやりたい事を優先したいです」


「そう・・・お友達との良い出会いを、少しは気にしてくれると嬉しいのだけれど」


「・・・はい」


 お友達か・・・今はやってみたい事がイッパイあるから忙しいもの、お友達の優先度が下がっても仕方ないよね。

 お友達とおしゃべりしても龍騎士にはなれないし、もちろん馬術や剣術の相談相手にもなるはずもないよね・・・女性騎士を目指す人を探せばいいのかな?

 ううん・・・今はもっと考えなくてはいけないことが沢山ある。

 王都と街道沿いの飲食のお店が2件、そこに一緒に立ち上げるパン屋さんとケーキとクッキーを販売する店、ノル兄さまとベル兄さまが扱うリュックやブラノワを売る商会兼店舗が各2件・・・合わせると8件だよ。

 商会の名前も考えなくちゃいけない。

 ケーキやクッキーを作るための型や、ホイッパーなど備品の追加や材料、そして従業員も沢山必要だよね。従業員に関してはお父さまが動いてくれているから、どこまで進んでいるのか聞いてみたい。


「お母さま、各店の従業員の手配についてお父さまに相談したいです。それとお店の周りに植えるローズのことも」


「わかったわ、お父さまが戻られたら伝えておくわね」


「お店は1号店とか王都店とかでいいですか?」


「そうね、王都店はわかりやすくていいと思うわ。街道沿いのお店はノール店か本店がいいかもしれないわね」


「もし街道沿いを本店にすると開店は本店を先にしたほうがいいでしょうか?最初は同時開店と思っていましたけど・・・責任者が本店にいると王都店は不在になってしまいます。2週間くらい開店をずらしましょうか?」


「ええ、その方がいいわね。お父様にもその話をしましょうね」


「はい、それと鍛冶職人にケーキの型やホイッパーなどの追加と、焼印も依頼したいのです。カジミールを通して鍛冶職人に会ってみようと思います」


「先にカジミールに頼んだ方がいいわね。焼印は刺繍のデザインを見せたほうがいいから、それはお父様が戻られたらにしましょう」


「わかりました」


 久しぶりにお母さまとゆっくり相談ができて良かった。お父さまが戻られるまでまだ6日ある。それまでに出来る事をしておこう。



 部屋に戻ってからお店で使う備品について考えていた。

 シフォンケーキの型は大小それぞれの数は問題ないけれど、バターケーキの型やホイッパー、クッキーの型抜きの数が足りないかも知れない。特にホイッパーは他の料理でも使っているようだし・・・予備はあった方がいいよね。


「ソフィ、お願いがあるの」


「な、何でございましょう・・・?」


 ソフィはこの言葉を言うと緊張するようだけど・・・何か不安になるようなことあったかな・・・?


「明日で構わないからパウンドケーキの型20個とホイッパー20本、クッキーの型抜き3種類は各10個ずつ追加で注文してと、カジミールに頼んで欲しいの。今後はパウンドケーキの型ではなくバターケーキの型と呼び方を変えるから、カジミールやコンスタン・・・あと鍛冶職人にも伝えてほしいの」


 一気に伝えたらソフィが目を白黒させている。注文する備品の名前と数が書かれた紙を渡したら、ホッとしている。一気に言い過ぎたらしい。


「畏まりました・・・他にはございませんか?」


「え? ・・・えっと・・・そうそう、シャル兄さまが頼んだ大きなクッキーを作ったら、見に行きたいと伝えてくれる?」


「はい、畏まりました」


 微笑んで『畏まりました』って言っていたけど、さっきの『他には?』って・・・クッキーのことでよかったのかな?ソフィは大きなクッキーが食べたかったの・・・?ちょっと気になったよ。


「明日は午後からお勉強をするから、図書室に行くね」


「はい、心得ております」





 今日は午後から図書室に来ていた。先日読んだ歴史についてもう少し詳しく知りたいと思ったの。歴史と言うより、なぜ精霊巫女様が必要になったのか?

 精霊巫女様は祈りと魔力を捧げると言っていたけど・・・魔力は何の為?結界の為?今は精霊巫女様が不在だから、王都にある精霊樹には王族が祈りと魔力を捧げ、大領地にある精霊樹には領主とその親族が、祈りと魔力を捧げていると聞いている。王族と領主が出来るのになぜ精霊巫女様が必要だったのかな?そして精霊王はどこにいるの?

 精霊王についてもなんとなく気になっているの・・・前回読んだ本とは違う本を探してみたい。


 4大精霊の話は聞くけど精霊王については100年分さかのぼっても歴史の本には出てこない。国ができる前の時代からもう一度読み直してみたほうがいいのかな?

 歴史の本が並ぶ棚には「エスポワール王国」と書かれた本が2冊並んでいる・・・先ずは「エスポワール王国創成期」と言う題名の本から読んでみようと思う。


『600年前に襲撃から逃れ、海を渡ってこの地に流れ着いたのは、幼い王子とその王子を守るように抱いていた乳母と側近、数人の護衛たちとその家族や侍女たちだった。


 たどり着いた土地は花が咲き乱れ、精霊が飛び交う美しい場所だった。海の近くにいては敵が乗り込んで来た時に、幼い王子を危険にさらすのではと警戒し、壊れかけた船は燃やし奥地の森へと進んでいった。

 王子を守りながら側近とその家族や護衛たちは魔物と戦い、更に奥へと進み少しずつ土地を開拓していった。


 王子は精霊とおしゃべりをしながら一緒に遊び、時には精霊たちと共にいたずらまでしていた。

 王子が7歳になった時、森の大きな木の前で精霊王と出会った。精霊王は王子に「精霊を大切にしている様子をいつも眺めていた」と言って微笑んだ。

 そのおかげなのか、魔物が来た時は精霊が知らせ、大きな魔物が来た時は精霊王が火龍や風龍、地龍を呼んで魔物を倒してくれた。倒した魔物の肉は村の食料になった。

 精霊王に貰った小麦の種も、畑を耕して育て民の食料となった。

 森の中には沢山の木の実や季節の果物があり、生活に困ることはない。

 木の実や果物、数種類のポムが実った時に「ポムの中でも低木になっている小さなポムだけは食べてはいけない」と精霊王に言われていた。

 小さなポムは精霊王が可愛がっている龍の好物だと言う。

 人々はけっして小さいポムを口にすることはなかった。ポムの木はあちらこちらに沢山あり、背の高い木に実るポムは美味しく一人では食べきれないほど大きい。わざわざ小さなポムを取って食べる必要がなかったからだ』


 小さなポムって姫ポムの事?精霊王が可愛がっていた龍は火龍?風龍?地龍?水龍は海にいるから違うよね。

 龍は姫ポムが好きなの?そう言えば街道沿いの屋敷に行った時に、龍たちに姫ポムを食べさせてあげたら龍の機嫌がいいとノル兄さまが言っていたよね・・・。


『王子は成人近くになると、側近や護衛たちと共に田畑を耕し、民の手伝いまでするようになった。

 やがて王子は成人し、一人の美しい女性と結婚した。王子と王妃は村を作り、長となって村を守り精霊王に作物を捧げ続けた。

 村人たちも結婚をし、子を産み育てその子どもたちがさらに土地を広げ家族を増やし、そして村を街にしていった。

 やがていくつもの街や村ができ、その街や村を統一しエスポワール王国を作った。

 この地に流れ着いた王子の血を濃く引く4代目が、初代王フェリクス・エスポワール陛下だ。

 精霊王レスプラオンデュール様が認めた国王である。

 流れ着いてから100年の歳月が経っていた。

 王は更に家族を増やすため側室を2人迎え、それぞれ王子が生まれている。

 国王の住まいは現在の王都である』


 王都に王族が住んで500年?最初の頃は精霊王がいたね。その間に、精霊樹の所に神殿を作ったのかな?

 創成時代に精精霊王はいたけど、精霊巫女はいない?精霊巫女様の歴史はもっと浅いみたい。4大精霊も出てこないね。

 うーん・・・。今まで誰も不思議に思わなかったのかな?精霊が見えなくなったから、誰も気にしなくなった?これだけではまったくわからないよ。この本はもういいかな?他の歴史書も読んでみないと。


 先に読んだ本が置かれていた棚に並んでいる「エスポワール王国再生記」と言う本を手に取った。

「再生記」?1回滅びたのかな?


『この地は600年と言う長きに亘って、精霊と龍と人が共に生きてきた』


 うん・・・ここの部分は前にも読んだね。


『「再生の時代」

 エスポワール王国となって100年ほどたったころ、精霊王と精霊王の眷属と龍たちは森の奥に住み、人間たちと小さな精霊たちは森の周辺で暮らしていた。

 ある時、北の山から大量の魔物が暴走して村や街を襲いにきた』


 精霊王と眷属が出てきたよ。でも魔物の大量発生があったなんて・・しかも北の山って北の領地?


『精霊王は森の被害を抑えるため、国の東西南北の端の4箇所を起点に結界を張ったが、既に魔物は入り込んでしまっていた。

 精霊王は龍たちに人間を守るように伝え、結界の中に入り込んだ魔物を退治するため、3つの能力をもつ龍に魔力を与えた。

 大きな力を貰った龍は必死で火を吐き魔物を焼き払い、地に穴を開け竜巻を起こし焼いた魔物を穴へと転がし次々と埋めて行った。

 何日も何日も龍は魔物を焼き払い続けた。

 ついに魔物はいなくなったが、草原や森は焼け焦げ何もなくなってしまった。


 精霊王は「よく戦った、人間も動物もほとんどが避難し生き延びている。魔力さえあれば草原や森はすぐに元に戻る」とたった1匹で大量の魔物と戦った龍を褒め称えた。


 精霊王は土壌に魔力を注ぎ、草原と森を再び作った。

 人間には食物になる種や木の実や果実がなる幼木を沢山与え、更に小麦の種を風で蒔き一瞬にして実らせ、幼木の一部も成長させて木の実や果実を実らせた。

 人間や動物、龍も餓えることなく1年を無事に過ごす事ができるほどの量だった。


 ある時、魔物と戦った龍が幼木のシェーヌサクレの周りを石で囲い、1日中動かず見守るように眺めていた。時々飛び立ってはいくが数日するとまた戻って来ってくる。

 そんな龍を人間たちは見守り続け、いつでも龍が食べられるようにと果物を置いて行くようになった。


 人間たちは精霊王が与えてくれた小麦や幼木を毎年大切に育て、国王と家臣は民を守り国が以前のように再生する事に必死だった。

 森や畑が再生され国も漸く再建されたころ、誰も精霊王に出会っていなかった事に気がつく。

 更に長い年月が過ぎても精霊王に会う者はなく、国を救った龍もいつの間にか姿を見せなくなっていた。

 国王は龍がいつもいたシェーヌサクレの場所を大きな庭にして、それを囲むように大神殿を建てた。シェーヌサクレは精霊樹として崇め、祭壇を作り果物を捧げ続けた。


 東西南北の端の結界にも龍が訪れた木があり、シェーヌサクレと同じように石で囲まれていた。その木の隣に中神殿をそれぞれ建て、4つの大領地に分けて管理することを決めた。

 南の大領地は王弟が、西は1番目の側室の王子が、東は2番目の側室の王子が、北は護衛騎士団長が領主となり精霊樹を守り続けた。

 北の騎士団長のもとには国王の第一姫が嫁いでいる。

 南の精霊樹はオルム、西の精霊樹はティユール、東の精霊樹はマロニエ、北の精霊樹がプラターヌ、今も花が咲き実をつけ続けている。


 人は徐々に魔力が弱まり、精霊を見る事も少なくなってしまった。

 やがて精霊が見える者が精霊樹に祈りと魔力を捧げるようになっていった』


 今は精霊王がいないと言う事なの?そして火を吐き、風を起こし、土を掘り起こす龍?

 火龍と風龍と地龍の能力をもつ龍がいた?合体したような龍?体も翼も大きくて、地龍のように足も大きいのかな?ちょっと怖いかも・・・。


 精霊王を見た者がいないのは魔力の衰えのせい?それとも精霊の地に戻られたとか?かなり後になってから祈りと魔力を捧げるようになった?・・・精霊巫女様の始まりかな?大神殿にあった日記か文献か忘れちゃったけど、300年前のものが残っていると言っていたよね。

 各領地にある精霊樹は精霊王レスプラオンデュール様が、結界として種を飛ばし成長させた。その結界は500年位前・・・。

 合体龍が生きていた期間は200年としたら・・・精霊が見える者の祈りが300年前から始まったと考えればいいの?大神殿に300年前の日記か文献が、最初の記録として残っていると言う事でいいのかな?

 精霊が見える者は精霊に何かを聞いて祈り始めたと言う事・・・?


『国王は国を救ってくれた龍にも敬意を払い国旗と領旗を作った。


 東の大領地は緑の地色に銀糸で桑の葉を背景に龍の姿。

 西の大領地は黄色に銀糸で麦の穂を交差させた背景に龍。

 南の大領地は赤色に銀糸で珊瑚の上に龍。

 北の大領地は紫に銀糸で盾を背景に龍。

 国旗は王都にあり、黒色に銀糸でシェーヌサクレの大木を背に龍。』


 これは前にベル兄さまから聞いていた領旗と同じ。古くからあった旗が変わらずに今も使われているのね。

 いつの間にかいなくなった、合体龍は精霊の地に渡ったのかな?


『各領地の色は精霊王の眷属、4大精霊の色。

 東は山から大地へと流れる水の色、緑の水の精霊、オンディーヌ様。

 西は秋の大地にみのる黄金の絨毯と呼ばれる小麦の色、黄金の風の精霊、シルフェ様。

 南はかつて溶岩が流れていた活火山の色、赤い火の精霊、サラマンドル様。

 北は鉱山で取れるアメジストの色、紫の土の精霊、グノーム様。

 アメジストは、グノーム様が生み出していると言われている』


 4大精霊が出てきた、最初からいたと言う事だよね・・・。先代の精霊巫女イザベル様が会話した精霊と同じかな?

 ここで再生期は終わっている・・・。精霊巫女様の事は出てこなかった。大神殿で調べないとわからないのかな?


 王都に行っているベル兄さまが精霊王や精霊巫女様のことも調べて来てくれたらすごくうれしいけど・・・頼んではいないから調べていないよね。


 大神殿に行ってティモテ神殿長に頼んだら、精霊巫女様の日記や文献を見せてくれるかな?でも精霊巫女様になりなさいって言われたら困るよね。

 精霊巫女様になるつもりはないから、大神殿にはいかない方がいいかも。気になるけどもういいよね、取りあえず歴史の勉強になったから、忘れよう・・・。


 龍騎士になるのだから・・・馬術や剣術の本を読んだ方がいいもの。次は馬術の本を探してみようかな。


「ソフィ、もう部屋に戻るね」


「畏まりました」

次回の更新は3月14日「30、ひ弱令嬢は苗を増やしたい」の予定です。

よろしくお願いいたします。


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