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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第1章 北の大領地の辺境伯令嬢

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26、ひ弱令嬢は考える

 今日はアンのお部屋にお母さまとノル兄さま、ベル兄さまが来ているの。お店の経営について少しは知っていた方がいいと言う事になったから。

 ベル兄さまは既に学び終わっているけど「せっかくの機会だからもう一度一緒に聞くよ」と言っていた・・・ベル兄さまは勤勉だね。


「じゃあ、早速始めよう」


「はい、お願いします」


 ノル兄さまが教師役らしい


「まず、集めた出資金をもとにお店に必要な土地や建物と、家具や備品などを購入し、食材、従業員の給金、宣伝費などは必ず掛かる必要経費と言うものになる。ここまでは理解できるかな?」


「はい、あとお土産用の木箱やお店の制服もそう?」


「そうだね、それも必要経費になる・・・商品を売って得たお金から必要経費を除いたお金が利益となるけど、そこから修繕費など突然かかるお金を予備金として一部を取っておく・・・1年間を通して出た利益の一部が領地に納める税金になり、そこからさらに残った一部が出資者へ利益の配分という形で支払われる。利益の配分は受け取らずに商会に積み立てておき、商会から抜ける時にまとめて受け取ることもできる」


 いろいろ管理が大変そうだ・・・絶対に専門の担当がいるよね・・・事務員と言うものだったかな? 取りあえずアンが大人なるまでお父さまとノル兄さまに丸投げでいいらしい。

 良かった・・・。


「アン?大丈夫かな?きっちり覚えなくても構わないよ。何となく知っていればいいからね」


「はい、質問です!」


 思わず右手を上にまっすぐ伸ばしたら、ノル兄様がクスッと笑ったよ・・・なぜだろう?


「どんな質問かな?」


「まだお店ができていない時に使った今までの材料費とか・・・カジミールに頼んで作ってもらったケーキの型などのお金は誰が払ったのですか?・・・まさかカジミールが・・・?」


 カジミールに負担をかけでいたのではと不安になった。


「大丈夫よ、辺境伯の費用から支払っているから。アンがケーキの型や他にもいろいろ作ってもらっているでしょう、領地には専属の鍛冶職人がいるのよ。その担当から製作する前に掛かる費用は報告が上がるの。お父様や内容によるけど補佐をしているノルベールが了承すれば作る事ができるわ。最初のころの追加で購入した小麦や砂糖、バターも・・・ね」


 お母さまはにっこり笑って答えてくれたけど・・・今までの事は全部筒抜けだったらしい。


「そうそう、おんぶ紐とかポケット付きエプロンや刺繡糸も購入しているわね。これはアン個人の必要経費から支払っているの。アンの予算は余っているから、欲しいものがあれば遠慮なく言ってね」


 お母さまは嬉しそうに教えてくれた・・・今まで寝てばかりだったからね。お医者様にかかるお金を差し引いても、予算は余っているらしい。

 ドレスや宝石が欲しいと言ったらお母さまは喜んで買ってくれると思う・・・今は必要としていないけれど。


「お母さま、ありがとうございます」


 お母さまがアンの事で苦しんできた心が少しでも癒えるようにと、にっこり笑って答えた。最近はお熱も出ていない・・・もっと動ける丈夫な身体なりたいと思う。


「では、続けるよ。土地と屋敷の購入は出資金だけでは足りないから、王都の店は父上が不足分を立て替えて購入し、北の領地は父上とパトリック伯父上が半分ずつ立て替えて購入することになっている。これは商会が借金をしていると言う事だから、毎月売り上げから返していくことになる。だから借金がなくなるまで利益配分はないと考えるのが一般的だよ」


 ノル兄さまはゆっくりと説明してくれたけど・・・「当面は儲からないよ」ってことでいいのかな?


 借金からの出発・・・ちょっと悲しい響きかも・・・。

 そう言えば「積み木」はポランから仕入れる時は銅貨8枚だけど売値が小銀貨3枚は茉白用語のぼったくりと思っていたけど、経費と言うものを考えたらぼったくりではないのかもしれない・・・商売と言うものは色々とお金がかかるみたい。お父さま、ぼったくりと言ってごめんなさい。


「ベル兄さまもリュックやブラノワの商会を作ったけど・・・借金からの出発なの?」


「商会をどこに建てるかまだ決まっていなくてね。当面はデザートの店の2階の一室を借りて事務所にしたいと考えてはいるけど、今後は販売や注文を受け付ける店が必要になるから、いずれ作らないといけないと思っているよ。事務所だけなら間借りして家賃を払うだけだから、今は借金がないということになるね」


 ベル兄さまは借金がないのね。

 思っていた事をどんどん進めていって、難しいことは大人に丸投げ状態になっている・・・大変なのはお父さま、お母さま、兄さまたちだった・・・本当にごめんなさい。

 でもアンは止まらないかも・・・。


「アンはまだ7歳だから、面倒なことは私たちがするから心配しなくていいのよ。ただ・・・お店の経営や商会や、お金の事などをなんとなく知っておいて欲しいだけなのよ」


 お母さまは優しく話してくれ、ノル兄さまも微笑んで頷いていた。


「わからないことはちょっとずつ勉強していきます」


 そう答えるしかなかった。今は丸投げだからね。『よろしくお願いします』と心の中で頭を下げて呟いてみた。






 ついにパトリック伯父さまが帰る日となり、楽しい日々はあっという間に過ぎしまった。

 お土産にサクッとクッキーとプレーン味のシフォンケーキ、ラム酒味のバターケーキを渡したらとても喜んでくれた。


「次の春まで食べられないと思っていましたので、お土産は嬉しいです・・・家族の驚く顔が目に浮かびます」


 パトリック伯父さまはお菓子の入った木箱を見つめ、いたずらっぽい顔をして口角を上げていた。

 次回会う時にブラノワの収納箱を届けることにしたけど、子ども達とすぐに遊びたいから収納箱なしで持ち帰ると言っていた。気に入ってくれて何よりだよね。


 今回パトリック伯父さまと過ごしてわかった事は、優しいけど容赦のない勝負師で動物が大好きで、家族を驚かせるのが好きなお茶目な伯父さまだったと言う事。

 精霊さんは伯父さまみたいな人が好きなのね。・・・そう言えば王都であった王子さまは精霊さんがいっぱい付いていたけど、優しくてお茶目なのかな?強引な感じしかしなかったけど・・・?再生の魔法を教えてくれたからいい人なのかな?しばらく会うこともないから・・・気にしなくていいよね。




 街道沿いにある土地と屋敷を見に行くためパトリック伯父さまと一緒に出発した。残念ながらお母さまは予定があるらしく、行くのはお父さまとノル兄さまとベル兄さま。

 今回もノル兄さまの龍に乗せてもらっているの。空に向かって飛んでいくこの感覚が好き。

 早く龍舎に行って選ばれたいな・・・待遠しいよ。


「ノル兄さまが龍舎に行った時、龍はすぐ選んでくれたの?」


「すぐではなかったから、龍に認めてもらえるように毎日龍舎に通ったよ。龍も知らない人には警戒するからね。どんな奴かと観察していたのかも知れないよ」


「ノル兄さまはどの龍がいいとか思わなかったの?」


「こちらからは近づけないし少し離れたところから見るだけだから、どの龍がいいとか考えなかった。それでも1週間後には選ばれて受け入れてもらえたから、かなり早い方だったよ」


「選ばれて受け入れてもらうってどういう風にするの?」


「龍が寄って来たらまず自分の魔力を受け入れてもらって・・・それから果物を差し出すと食べてもらえるのだけど・・・初めてトルナードが来てくれた時は直ぐに果物を食べてもらえなくてね。・・・毎日色々な果物を持って行って、やっと食べてもらえた時は嬉しくて思わずトルナードの足に抱きついてしまってね、父上が笑っていたよ・・・まだ10歳だったから感情がそのまま出てしまって、あとからあれは恥ずかしかったと反省したけど」


 ノル兄さまは懐かしそうに目を細め嬉しそうに話してくれた。


「ノル兄さまも可愛い時があったのね」


「ハハハ・・・今はもう可愛いところはないのかな?」


「えー可愛いところ?」


「ふっ・・・冗談だよ・・・でもトルナードとはまだ6年の付き合いだけど、掛け替えのない相棒だよ。素直な気持ちで接していられる」


「いいなぁ・・・アンも相棒が欲しい」


「アンはこれからだよ、キリーやミラもいるだろう?」


「うん・・・そうだけど」


 キリーに乗ってはダメって言われているし、ミラは空を飛べないよ。


「それとも他にまだ欲しいものがあるのかな?」


「うーん・・・もう少し大きくなってからかな?」


「大きくなってから・・・?」



 ノル兄さまと話をしていたら下の方に街道が見えてきた。街道にはお店や宿なども並んでいて、馬車が行き来していた。とても賑やかな感じがする。

 さらに先に進むと街道沿いにもかかわらず、広い敷地と大きな屋敷が見える。屏に囲まれた土地は大きな屋敷が奥側にあり、街道側には1階建てのような建物が3件建っている。その建物の反対側は馬車が通る道と庭らしきものが見える。屋敷の奥も敷地が広がっていた。


 先頭のお父さまと護衛がその大きな屋敷に向かって下降を始めたら、次々と他の龍たちも下降を始めた。

 屋敷の裏側の広い敷地に龍たちは頭と背を地面と平行にして着地して行く。

 わぁーカッコイイ。

 龍たちは騎士が降りると頭を持ち上げ背をのばして、周りを見渡している。アンもノル兄さまに抱えられて龍から降りた。


「トルナード、いつもありがとう」


 お礼を言うと少し細められた目がアンを見て、それから背中のリュックを見たような気がした。


「トルナードが目を合わせるのは珍しいね。アンを気に入ったのかな?」


 トルナードはかがんでノル兄さまの頭を鼻で軽く押して、フンと鼻息をかけた。ノル兄さまは嬉しそうにトルネードの鼻先に触れている。

 いいなぁ・・・アンも仲良しになれる龍が欲しいな。


「これだけ広い敷地なら龍舎も作れるな」


 お父さまがパトリック伯父さまに話かけていた。


「そうですね、龍で移動できるなら助かります」


「向こうの塀に沿って並んでいる木の丸い実は放置されているようだが?・・・姫ポムか?」


 お父さまがあまり高くはない木を見て行っていた。あれは・・・姫ポムだよね。


「お父さま、きっと姫ポムです」


 木まで急いで行ってみると、まだところどころ青みがのこっている姫ポムの木だった。何て運がいいの。

 あれ?1本だけ魔法をかけて実を赤くしたら、実が少し大きくなったよ・・・魔法をかけ過ぎたかな?


「お父さま、姫ポムを収穫したらジャムがたくさん作れます。1本だけ赤くしたので、龍たちにも少しあげてもいいですか?」


「・・・赤くした?」


 パトリック伯父さまが目を丸くしているよ。


「パトリック義兄上・・・と、取りあえず・・・今は深く考えずに・・・アンは姫ポムを龍に食べさせたいらしい」


 お父さまはそう言って、パトリック伯父さまからそっと目をそらしていた。


「・・・そう、ですね・・・?アレクサンドル様」


 お父さまとパトリック伯父さまは何か呟やくように話をしている。ノル兄さまは慌てて護衛たちに姫ポムを収穫するように伝えていた。

 収穫された姫ポムは、龍騎士達が龍に渡している。龍は目をキラキラさせ、シャリシャリと美味しそうに食べ始めた。  

 良かったね。アンも少し貰って帰ろう。


「ユーゴ、姫ポムを10個位持って帰れる?」


「はい、10個でしたら持ち帰れます」


「屋敷に戻ったらカジミールに渡しておいてね」


「わかりました、何か作るのですか?」


 ユーゴが目をキラキラさせて聞いてきた。


「うん、ジャムを作るの」


「ジャムですか・・・」


 何でがっかりしているのかな?他に食べたい物でもあったの?まぁ・・・いいや。


 残りの姫ポムの木全体に薄く魔法をかけていき2、3日後には収穫できるようにした。

 ちょっと大きい姫ポムになったけど、ポムを買うお金が浮いてよかったと思いながら、満足してお父さまの方を向いたら、塩辛いものでも食べたような顔になっていた。

 パトリック伯父さまは他の姫ポムの木を見つめ「このぐらいで驚いてはいけない・・・いけない・・・いけない」と首を振りながら呟いている。

 ノル兄さまは片手を額にあて、下を向いている。ベル兄さまは笑ったまま、動かないよ。どうしたのかな?2、3日じゃ遅かった?


「お父さま2、3日で収穫できます。後で誰かに収穫するよう伝えて下さいね」


「2、3日?・・・わ、私はここを確認したらそのまま王都に向かう、ノル・・・手配はノルがやってくれ」


「はい?・・・父上・・・2、3日後ですか?・・・木が30本はあると思いますが・・・2、3日後には収穫できるようになった・・・?のですね?」


「そ、そうだな。2、3日になったらしい・・・もう任せたぞ・・・早く屋敷に行こう・・・中を確認したい」


「そうですね、急いで行きましょう」


 お父さまとノル兄さま、そしてベル兄さまとパトリック伯父さままでいそいそと屋敷の裏の扉に向かって行ってしまったよ。


「アン様、人が沢山いる時は植物を成長させる魔法の大判振る舞いは、しない方が良いかと」


 ユーゴの言葉に驚いた。


「大判振る舞い?魔法はちょっとしか使ってないよ」


「これだけの木に一斉にかけた魔法がちょっとですか?」


「うん、魔力はそんなに減ってないもの」


「・・・」


 あれ?ユーゴも塩辛いものを食べたの?

 屋敷の方を見ると、首をかしげながらノル兄さまが待ってくれていた。ユーゴのことはほっといて、屋敷の裏の扉までトボトボと歩いて行った。


 ノル兄さまが扉を開けてくれて、先に中へ入るようにうながされた。中に入るとお父さまとパトリック伯父さまが廊下を挟んで左右に分かれた部屋をそれぞれ覗いている。

「住み込みの使用人が使う部屋だったのだろう」とお父さまが言った。

 廊下を進むと、その先に広い厨房があって何故か沢山の棚が並んでいた。ここはケーキの型を置くのにちょうどいいね。厨房は調理台のあるところは上の方に窓があって明るい。

 調理台の反対側にドアが2つ並んでいる。1つ目の扉を開けると棚や仕切りで区切られていて、食材置き場として使っていたのかもしれない。もう一つの扉を開けると地下に行く階段があった。護衛が先に降りて確認したら、氷室として使っていたのではないかと言っていた。

 氷室・・・いいかも。夏は果物や生クリームも冷たくして出せるし、アイスも作れたらいいなぁ・・・夢が膨らむよ。

 興味津々でみんなの後を付いて行ったら、すごく涼しいを通り越して、今の季節では寒いくらいだった。もうすぐやってくる冬の月になったら氷が出来そうだよ・・・冬じゃ氷は使わないと思うけど。


 厨房から廊下に出てサロンとホール、そして客間なども確認した。テラスのあるサロンは広くて庭がよく見えるから、ローズを植えたらとても豪華になりそう。


「サロンは小さな舞踏会が出来そうな広さだな・・・思ったより部屋数も多い、侍女や護衛を連れた高位の貴族の対応も可能か・・・王都の方にも似たような部屋を作ったほうがいいかもしれないな・・・」


 お父さまは呟くように言っていた。高位貴族って王族のこと?


 2階に上がる階段はホールの奥にあり、左右に緩やかな螺旋の階段があった。どちらから行っても階段の上は踊り場になっていて繋がっている。踊り場をふさいで、片側だけお店の個室にするらしい。もう片側は事務所やアンたち休憩する部屋を作ると言っていた。

 ホールの左右にも部屋があり、大きな窓があるから部屋が明るい。ここは王都と作りが似ているね。窓の横にはテラスに出るドアがあった。

 玄関の扉は両開きで、外に出ると中央には花壇がある。花壇の左右に馬車が通れる広い道が門まで続いていた。


「ここまで見て回って気がついたのだけれど、部屋に段差がほとんどなく外から玄関に上がるポーチは階段ではなく緩やかな坂になっているね。階段や廊下の壁には手すりが付けられ、1階の広い部屋の壁も手すりが付いていたよ。ここに住んでいた老夫婦は足が不自由な人だったのかもしれないね」


「ベル兄さまも感じていたの?アンも段差がほとんどなくて楽だと思ったの。階段も緩やかな螺旋だったし」


 高齢者が使う家は障害物をなくする『バリアフリー』と言うものにするといいと茉白の記憶にあった。

 ここに住んでいた老夫婦の工夫が凄いのか、職人さんが凄いのかわからないけど感心しちゃうよ。

 それにしてもベル兄さまの観察力は凄いよね。アンのように背が低いと階段の上り下りは手すりがあると助かるし、足の悪い人なら手すりとか絶対必要だよね・・・でも元気なベル兄さまが手すりを使うはずないのに、気が付いたのだからすごいよね・・・尊敬の眼差しで見てしまった。


「アン、私の顔に何かついているのかな?」


「ううん・・・ついていない。そうじゃなくて尊敬して見ていたの。凄いなって」


「そう?・・・フフ、面と向かって褒められると照れるよ」


 ベル兄さまは照れたように笑っていた。恥ずかしいお年頃らしい・・・。


 屋敷の外に出て門の方に向かうと、門の内側の右横に建物が並んでいる。

 3件とも庭付きの1階建てで、正面に庭があり左側に3人位が並んで歩ける位の道がある。

 建物の左側が扉で右側には大きな窓。扉を開けてもらい、中に入ると小さなホールと横には広い応接室のような部屋があり、窓が大きいからとても明るかった。

 ホールの奥は部屋が3室と厨房。仕事場なのか・・・誰かが暮していたのか・・・よく分からない建物だとよ・・・1部屋だけ作業場のような大きな台と棚が設置されている。

 ここは何の為に建てられたのだろう?

 3件の建物の前には木が植えられているし、屋敷のテラスから少し離れたところにも木が植えられているので、お互いに建物が見えないように作られているのかな?・・・何に使っていたのかちょっと気になるよね。

 ここの建物はパン屋さんと商会にちょうどいいかも。折角お店や商会にするなら見えたほうがいいよね。木は低木かローズを植えてほしいと、お父さまに伝えておかないと。

 食事をしないでパンだけ買って帰るなら、門から近い建物は便利だと思うの。


 ベル兄さまと話をしていた、段差の少ない屋敷と玄関ポーチの事をお父さま伝えたら、お父さまもパトリック伯父さま同じことを感じていたらしい。


「自分の屋敷にも取り入れてもいいな・・・王都の店も外観と内観の工事をするついでに、玄関ポーチや扉の段差も見直すことにする。この屋敷は中々勉強になった」とお父さまは感心していた。


「いいところはすぐ取り入れようと考えるお父さまは凄いです」と言ったら「そうか・・・」と嬉しそうに笑っていた。


「従業員が住み込みできるような建物も屋敷の裏側にあったよ。老夫婦が元気なころは人が沢山いたようだね」とノル兄さまが言っていた。


「どこにあったの?」と言ったら、「アン様が見ていた姫ポムの反対側の場所ですよ」とユーゴの声が後ろから聞こえた。


 全く見てなかったよ。帰りに見てみよう。


 ここは龍舎や畑も作れて、凄く寒い部屋もあった。今回利用するには都合のいい優良物件というものらしい。不思議な3件の建物も使えるものね。

 既に契約は済ませてあるらしくあとは支払いだけだって。いくらするのかな?土地は王都の2倍以上広いよね。

 お父さまに聞いたらこちらの土地と屋敷の方が高いと言っていた。本当なら土地が狭くても王都の土地の方が高いはずなのに、訳あり物件だから激安だったらしい・・・訳あり、ありがとう。運が良かったと言っていいよね?

 

 ベル兄さまがここに商会を作っていいかお父さまに聞いている・・・気に入ったみたいだね。ここに作ると言う事は・・・ベル兄さまたちの商会も借金から出発なの?

 アンたち家族はみんな借金から出発?

 でもお金は辺境伯の当主であるお父さまが出して・・・出資者のお父さまも借金?

 自分で出して・・・借金?ん?

 ブツブツ言いながら悩んでいたら、ノル兄さまに笑われてしまった。


「アンの作ったものは美味しいから大丈夫だよ。みんな食べに来てくれるから潰れる事はないよ。当主として父上がお金を出していて、借金は商会という組織が借りているんだよ。ただ、父上の負担が一番大きいけどね」


せっかく教えてくれたけど、良く判らなかったよ・・・お父さまの借金が1番多いと言う事でいいのかな?


「リュックとブラノワはもう予約でいっぱいだから、私たちが立ち上げた商会は当面心配しなくていいよ。ケーキもお母さまが宣伝して下さっている、だから心配はいらないよ」


ベル兄さまも笑いなが教えてくれた。今のところお父さまは困らないと言う意味だよね。

 考えても良く判らないことが沢山あるけど、みんなに助けてもらって進んでいくよ。だから茉白の夢はみんなで頑張るってことだよね。


 屋敷は素晴しかったけど何よりも裏の姫ポムと広い土地がいい。いろいろと植えられるものね。


 お父さまに姫ポムやラディをここで育てたいと話したら、「ラディは塀で囲った方がいいかもしれないな」と言っていた。見られてはいけないものだったね。


 ここの土地は精霊さんが少ないから、ローズを沢山植えて屋敷の前や横にもっと花壇を作ってもらおう。裏庭にもお花やハーブとか植えたらいいかも。お花の精霊さんが増えたら嬉しいな。


 そう言えば門の横に家が3件並んで立っているのが珍しいってお父さまも言っていたけど、ここの屋敷の人も商会を作っていたのかな?姫ポムも沢山あったし、どんなん人か会ってみたいな。


「お父さま、お願いがあります」


「ど、どうした?急に」


 あれ驚かしちゃった?パトリック伯父さまと兄さまたちもすごい勢いでアンを見たよね。


「この土地と屋敷を売ってくれた人に姫ポムを回収したらお裾分けしたいです」


「なぜ急にそんなことをしようと思ったのだ?植えられた木も併せて購入しているのだから、礼は不要だが?」


「あの・・・バリアフリーが気になって」


「バリアフリーとは・・・なんだ?」


「段差の少ない屋敷と玄関ポーチ・・・夢の中のお友達の世界では高齢者が過ごす家は段差がないように作っているの。障害物がない所を『バリアフリー』って言います。だからそれを考えて屋敷に取り入れた人に会ってみたくて」


「会ってどうしたいのだ」


「どうするかはまだ・・・会ってから決めたいです」


「また何か始めることもあると言う事か?何かを始める前に相談するのだぞ・・・御夫妻を驚かせるような発言を控えるのであれば・・・まあ、いいだろう。ノル、アンと一緒に行ってくれるか?」


「わかりました」


「あの・・・マシロパンを持って行っていいですか、お店のことも伝えて食べに来てほしいです・・・」


「あの白い柔らかいパンだな。これから店で扱う商品か・・・店の宣伝も兼ねてであれば構わないが・・・だがあの規格外の姫ポムは持ち出し禁止だ。ジャムにして持って行ってはどうだ?」


「はい、そうします。お父さま、あの・・・今・・・思いついたのですが」


「思いついたぁ・・・?今度はいったい何を始めるのだ」


 あれ?お父さまが動揺している?


「えっと・・・開店前に親しい人を呼んでプレオープンと言うのをしてみてはどうでしょ?本番はグランドオープンと言います。プレオープンは友達の世界では親しい人やお世話になった人を招待して、感想など聞いて改善点を確認することです。グランドオープンが本番と言うか・・・開店日になります。改善点があればグランドオープンまでに修正することもできます。招待制にして料金は半額ぐらいで、ある程度保存がきくクッキーのお土産付きにするのはどうでしょうか?そこから広がれば宣伝にもなります」


「プレオープン・・・そうか・・・そういう方法もあるのか。丁度大領地の当主たちに仕入れについても話をしに行くところだ、打診のきっかけになっていいな。アン、老夫婦はランベール夫妻だ。伯爵だったが今は次男に当主を譲られている。夫人の体調があまり良くないと聞いているから面会を断られたら諦めること、いいな?」


「はい、わかりました」


「さて、我々はそろそろ出発しよう。アンたちも・・・もう帰りなさい」



「お父さまたちもお気を付けて」


「ああ・・・2週間以内には帰ってくる予定でいる」


 ノル兄さまが頷きそれぞれが龍のいるところに向かった。

 お父さまとベル兄さまとパトリック伯父さま、ノル兄さまとアンで別れ、それぞれが龍に乗って飛び立った。


「・・・なぜか龍たちは機嫌がいい」


 ノル兄さまが不思議そうにトルナードや護衛の龍たちを見ていた。確かに元気そうだよね。おやつを沢山食べたからかな?姫ポムは美味しいものね。


 お父さまにプレオープンのことを思いつきで話をしてランベール夫妻に合う許可を貰ったけど、体調の悪い人が元気になってお店に来てもらう方法はあるかな?起き上がれる元気があるなら、移動方法を考えればいいよね。先ずは木工職人に相談、明日はポランに会うようにしよう。

次回の更新は2月21日「27、ひ弱令嬢の新たな思いつき」の予定です。

よろしくお願いいたします。

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