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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第1章 北の大領地の辺境伯令嬢

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25、ひ弱令嬢の報告

 いつも「ひ弱な辺境伯令嬢」を読んで頂きありがとうございます。毎回、更新を待っていて下さる方々がいるのだと思うと、次も頑張って投稿しようと思う力になり、とても励みになっています。

(*^▽^*)

 ブックマークやリアクション機能にポチっとして下さっている方々にも感謝しております。

どうぞ引き続き「ひ弱な辺境伯令嬢」をよろしくお願いいたします。(≧◇≦)ノシ


 昼食会も兄さまたち3人が揃っていた。新しい食べものがある時は必ずシャル兄さまいがいる。その情報はどこから集めてるいのかな?不思議だよね?

 最後に食堂にやってきたパトリック伯父さまが席に着いた事を確認したお父さまが、アンの方を見た。


「昼食のメニュの説明をしてくれ」


「はい、お父さま・・・これからお出しする昼食はお店で出す予定のものです。パトリック伯父さまが前回召し上がって頂いたクレープより、更に美味しくなっています。今回もハムやチーズ、バターはパトリック伯父さまのところで作られたもの使用しています。とても美味しいので今後もお店で是非使いたいです」


「それはありがたいことです、より良い製品を目指して精進しなといけませんね」


 パトリック伯父さまは嬉しそうに笑って答えてくれた。


「今後も楽しみにしていますね」


 早速侍女たちに合図をすると、ワゴンに乗ったクレープが運ばれテーブルに次々と置かれていく。


「先にお出ししたものは食事風クレープで、次がクレープシュゼットと姫ポムのジャムを使ったデザート風クレープです」


 クレープシュゼットも前回と同じだけど、お砂糖が違う・・・ノールシュクレを使っているからね。

 前回作った時は食事系、デザート系と伝えたけど、メニュに載せるから食事風やデザート風と呼び方を変えてみた。


「クレープはお店で出すものより小さめにしてあります。たくさんに用意してありますので、足りない場合は追加も出来ますが、この後もデザートを用意していますので、お腹は少し開けておいて欲しいです」


 お父さまは食事風クレープにナイフを入れていた。

 パトリック伯父も食事風クレープをじっくり眺め、それからゆっくりとナイフを入れ始める。

 兄さまたちも食事風から食べ始めている。

 お母さまはデザート風クレープから食べ始めた。お母さま・・・甘い物から食べるのですね?


 シャル兄さまとアンはお酒を使ったクレープシュゼットがまだ食べられないの。それにアンはもともと沢山食べることができないから、クレープシュゼットがなくてもお腹が一杯になってしまう・・・。

 シャル兄さまのデザートクレープは少し大きめしてもらったよ。大きいのはシャル兄さまだけで特別だからね。

 それでもシャル兄さまは羨ましそうにベル兄さまのクレープシュゼットを見ている。ベル兄さまはまだ成人してないけど・・・今回は特別にお父さまたちの半分の大きさでお酒控えめを用意して貰ったの。

 アルコールは飛ばしているから大丈夫なはず。ベル兄さまは嬉しそうにクレープシュゼットを食べ始めた。

 お口に合うかな?・・・あっ、ベル兄様の口角がちょっとだけ上がったよ。大人になり切れない年齢は、大人扱いされたいお年頃だと茉白の記憶にあったからね。シュゼットを置いて正解だった。アンも早く大きくなって大人の味を堪能したいよ。


 驚いた顔や嬉しそうにしている顔など様々な反応が見られて面白いけど、パトリック伯父さまは空のお皿を見つめていた。


「2度目でもやはり驚きます。領地で作ったハムとチーズにウッフをからめ、クレープと一緒に食べるとこんなに美味しく感じるなんて・・・こんな美味しい食べ方にもっと早く出会いたかったです」


「パトリック伯父さま、これからどんどん食べられますから、長生きして沢山食べて下さい」


「ははは、確かに長生きすればずっと食べられますね。特にこのデザート風クレープと姫ジャムは甘さが控えめですから、男性もわりと抵抗なく食べられるのではないでしょうか。朝食の時に食べたジャムよりポムの粒が大きく食感が良いですね」


「気づいてくれてうれしいです。クレープに使うジャムはポムの食感も楽しんでもらうため、姫ポムを大きめに刻んでもらっています」


「素晴らしい・・・工夫されているのがよくわかります。妻や子供たちにも早く食べさせてあげたいです」


 お父さまや兄さまたちも姫ポムジャムのクレープも食べてくれた。前回は食事風クレープとクレープシュゼットだけだったものね。

 お母さまも全部食べきりとても満足そうだけど・・・まだまだ続くよ。


「次はデザートになります。シフォンケーキはプレーンと紅茶味を、バターケーキはラム酒入りとスィトロンでそれぞれ2つの味を用意しました。パトリック伯父さまは初めて食べるケーキになります。甘いのが苦手な人も、1度は味わって欲しいです。それから・・・初めてお店に訪れたお客様はどれを食べていいのか迷われると思うので、クレープ3種類のセットやケーキを小さくカットして盛り合わせのセットもいいかと考えています」


「確かに、初めて見るケーキが4種類もあると迷いますね。盛り合わせであれば、色々と楽しめるので大賛成です」


 パトリック伯父はテーブルに置かれたお皿のケーキを見て感心していた。

 シフォンケーキのプレーンと紅茶葉入りの横に、生クリームを添えてあるので、お好みでつけて食べてもらうことにした。

 バターケーキはカットしたものをそのまま出したけど、スィトロン入りもお好みで生クリームをつけてもいいかも。

 昨日試食したのはスィトロンだけだったけど美味しかったよね。

 カジミール、コンスタン・・・頑張ってくれてありがとう。


「ラム酒入りは酒の苦みと香りがいいですね。これは甘い物が苦手な男性でも喜ばれるのではないでしょうか。ずっしりとしているけど、しっとりとした口当たりが良いです」


 パトリック伯父さまは気に入ってくれたみたい、良かった。


「スィトロンの酸味が口当たりを軽くするから、食べ過ぎてしまいそうね。シフォンケーキと違う味も楽しめるし、バターケーキもとても美味しいわ」


 お母さまはスィトロンの危険性がわかったかな?・・・これは食べ過ぎてしまうよ・・・絶対。


「ラム酒入りはいいね」


 ノル兄さまはお菓子をあまり食べないけど、ラム酒入りは気に入ってくれたみたい


「美味い、これはお腹を満たすから朝から食べてもいいな」


 朝からですと・・・?

 シャル兄さまにラム酒入りは出してないから3種類のケーキを大きめに切ってもらって出していたはずだけど・・・3種類すべてを追加して食べている・・・シフォンケーキは今までも散々食べていたのに・・・ケーキが本当に好きなのね。


「昼食とはいえ、デザート系を沢山食べるのは大変かと思いますので、もう2品は夕食時にお出ししますので、楽しみにしていてくださいね」


「アン・・・まだあるのか?」


「はい、お父さま。朝食で食べたマシロパンを使って挟まないサンドイッチのようなもので、タルティーヌと言うものを用意します。デザートはクレープを使ったものです」


「朝から始まって夜まで驚きが続くのですか?・・・も、もう流れに身を任せて、出されたものを堪能するだけです」


 あれ?・・・パトリック伯父が天井を見つめている・・・何か悩み?それとも好きではないものがあった?・・・大丈夫かな?


「義兄上・・・そのうち慣れるはず。・・・きっと・・・慣れると思う」


 お父さま、なぜ何かを諦めたように言うの?


「そ、そうですね・・・いつかきっと・・・」


 パトリック伯父さま・・・お店で出すメニュですからね。品数は必要なのですよ。それにもっと驚く事があるの、ラディの話をこれから書斎でするから。


「お店の宣伝を兼ねて、お母さま主催のお茶会でシフォンケーキをお出しになってもいいと思うのですが・・・」


「そうね・・・宣伝にはなるけど・・・御夫人達が家族にも食べさせたいからクッキーを販売して欲しいと言われているの。今は量産が出来ないからとお断りはしているけど、更に新しいお菓子としてシフォンケーキを出したら驚きと共に・・・早く売ってほしいという声が増えそうね。購入希望者は開店したらお店で食べてもらうか、お土産用として購入してもらうしかないと伝えるわね」


「・・・お願いします」


「今後は誰もが入手可能になるものだけれど・・・春が・・・待ち遠しいわ」


 お母さまがちょっと遠い目をされている・・・御夫人たちの圧力というのはどれほどなのかな?


「宣伝も考えているのですか?アンジェル様はまだ7歳だというのに・・・驚くことばかりです・・・いったい」


「義兄上、詳しい話は後ほど書斎で・・・話しますので」


「詳しい話?・・・ですか?・・・わかりました」


 パトリック伯父さまは目を瞑り、下を向き何だか考え事をしている・・・。

 お父さまは・・・・・・また天井を見ているよ。

 お母さまは次のお茶会のことを考えていのかもしれない・・・目がどこか遠くを見ているような・・・?

 ノル兄さまとベル兄さまは何も言わず紅茶のカップを持ったまま笑顔が固まっている、シャル兄さまは・・・相変わらず、黙々と食べていた。シャル兄さま・・・もう追加は出ないよ・・・。




 昼食後、書斎にはお父さまとお母さま、ノル兄さまとパトリック伯父さまとアンの5人で話をすることになった。

 ベル兄さまは忙しいらしく、あとからお父さまが伝えるらしい。


「アン、先ずはお店に出すメニュについてだが、もう2品あると言っていたな?」


「はい、夕食の時に見た目と味を確認していただきたいです。『タルティーヌ』と言いパンにバターを塗ってから、葉物とハムとトマートをハーブと塩で味付けして乗せたものと、蒸し鶏のサラダにスィトロン入りのドレッシングで味付けをして乗せたものを、2種類用意しています。さっぱりとした味ですがハムや蒸し鶏が乗っているので、男の人にも食べ応えがあると思います。デザートは『ミルクレープ』と言って、クレープと生クリームと薄く切った季節の果物を交互に何層も重ねたケーキです」


「そうか・・・夕食を楽しみにしよう」


「それとデザート風クレープですが、ジャムは季節によって変えていきます。バターケーキも同様に季節によって干した果物をラム酒で戻してから入れたり、季節の果物をシロップ漬けにして入れたりと、季節限定品のようにしたいです。クッキーはお土産用を袋に入れてリボンを付けたり、宝石箱のような形をした木箱に入れたりしてはどうかと考えています。シフォンケーキやバターケーキもプレゼント用として木箱に入れてもいいと思います。ケーキはホールごとでもいいですし、カットして一切れからの販売も考えています」


「随分と色々考えていたのだな。一切れからの販売でも構わないが、お土産用の木箱は前もって手配しておくのか?」


「はい、ある程度は用意するつもりですが、木箱入りは予約制にしてはどうかと」


「予約制か・・・その方がいいかもしれないな・・・数の把握がしやすい」


「木箱は予備も準備をするつもりです。次に飲み物ですが、紅茶、カフェ、季節の果物を使った果実水、寒い時期であればホットミルク、ジャンジャンブルティーを用意する予定です」


 ジャンジャンブルは茉白の世界の生姜でいいはず。体を温めるものだから冬にはいいよね。


「食べ物はそれでいいと思うけど・・・ジャンジャンブルを紅茶に入れても美味しいのかしら?」


「大丈夫です、お母さま。ジャンジャンブルは体を温めますしさっぱりしているので、お砂糖やミルクを入れても美味しいと思います。それと・・・カフェですが苦みが強く濃厚と聞きました。お店で出すカフェは2種類にして食事中でも飲めるように少し薄いカフェにしようかと考えています。呼び方も『カフェアロンジェ』にしようと思います」


 カフェは茉白の世界ではエスプレッソと言うもので『カフェアロンジェ』はアメリカンコーヒーと言うものになると思う。


「カフェは飲み過ぎると腹の調子が悪くなるから、薄いカフェはいいな」


「お父さまのお腹のために屋敷でも『カフェアロンジェ』をお出しした方がいいですね」


「ああ・・・そうしてくれるとありがたいな」


 お父さまがにっこり笑って言った。


「次にお店の名前ですが・・・お店の前や横にお母さまの好きなグラデーションのローズを植えたいとお父さまが希望されているようなので、「シャルダン・デ・ローズ」と言う名前はどうでしょう?バラの庭と言う意味になります」


「まぁ・・・ステキ」


 お母さまが頬を少し赤く染め、嬉しそうに声を出して両手を口で覆っている。嬉しくて口がにやけているのかな?

 お父さまはお母さまの顔を見て、うんうんと頷いたけど・・耳が少し赤いよ。ちょっと照れている?

 パトリック伯父さまは目のやり場に困っているのかな?・・・目が泳いでいるよ。

 お母さまが大好きなお父さまは普段の姿と違うから驚くよね・・・こういうのもそのうち慣れてね・・・。

 さぁ次はパトリック伯父に言わなければ・・・ね。


「お父さま、お砂糖の話をしてもいいですか?」


「あ、ああ・・・そうだな・・・パトリック義兄上、ここから先の話は内密の話になる」


 お父さまはさっきまで照れていたけど、お砂糖の話になると顔を引き締めパトリック伯父さまに秘密だよって言ってくれた。


「パトリック伯父さま、お店では沢山お砂糖を使います。そしてお砂糖は高いのでお店で出す商品は高級品になります」


「ええ、確かにどれも気軽に味わえるものではないですね」


「値段について、適切な値段がわからないので商品の値段の設定についてはお父さまやパトリック伯父さまにお任せしますが、お砂糖を少しでも安くできないかと考えました」


「アンジェル様は砂糖を安く出来るとおっしゃるのですか?」


 いつも穏やかな伯父さまの顔が、一瞬厳しい顔に変わったように見えたよ。


「はい、パトリック伯父さまが下さった豚大根であれば出来ます。豚大根はお砂糖がとれます」


「えっ?・・・あ、あれは餌ですよ・・・?」


「はい、今までは餌としてか価値がなかったようです・・・でもこれからは違います。豚大根から取ったお砂糖を見ていただきたいと思います」


 既に書斎に用意していた瓶の中から、添えてあったスプーンでお砂糖を皿にのせスプーンと共にパトリック伯父さまに手渡した。


「この薄茶色の粉が?」


「はい・・・スプーンですくって味を確認して下さい」


 パトリック伯父さまはスプーンで少しだけすくって口に入れ、目を見開いた。


「こ、これは・・・確かに砂糖ですね・・・なぜ?・・・なぜ砂糖になるとわかったのですか?」


 パトリック伯父さまはアンを見て困惑していた。


「義兄上・・・驚いたと思う・・・。私たち家族も日々驚くことばかりだ。アンの卵を背負って歩く姿を見て周りが驚く事から始まり、アンの考えることで驚き、突然の行動で驚き、日々驚きの連続だ。しかも・・・心の中に友人がいると言う・・・その友人の知識が・・・この世界にはなかったものを作り出しているらしいのだ。砂糖もその一つと聞いている」


「違う世界の知識ですか?」


「ああ・・・今はまだ他言できない内容が多い。特に砂糖は本来なら輸入品だ。北の領地で作りだしたら南の領地や外交問題など、王族までかかわってきてしまう」


「しかし・・・砂糖はこれからも必要不可欠です・・・今後は作っても良いのでは・・・?例えば・・・年々砂糖の輸入量を減らし、減った分は他の輸入品を増やすのはどうでしょう?」


「確かにそうだな、砂糖の件も含めて陛下に話をしておいた方がいいのかもしれないな・・・だが来春の開店から使う砂糖は間に合うかどうか・・・」


「今年収穫した豚大根は予備がありますから、一部でしたら提供できますが」


「パトリック伯父さま、豚大根の一部を売っていただけたら助かります。お砂糖を取ったあとの搾りかすは、小麦や葉物を混ぜて牛や鶏の餌にも出来ます」


「それはいいですね、搾りかすで少しでも戻るのであれば、倉庫にある豚大根の3割はお売りできます。ところで豚大根の砂糖は次の収穫まで間に合うのですか?」


「お店にどのくらいのお客様がいらっしゃるかによります、でも・・・お糖は足りなくなると思います、ですから急いで育てます」


「そ、育てる・・・?これから冬が来ますが?・・・植えるのは来年の春からですよね・・・収穫まで時間がかかるのではないですか?それに来年の春に植える種を準備出来たのですか?」


 パトリック伯父さまは領地の経営をされているからなのか・・疑問が次々と出てくるらしい。

 うんうん・・・わかるよ・・・不安だよね。


「種はあります、作りましたから」


「はぁ?作ったぁ・・・?」


 あっ・・・パトリック伯父さまがついに固まってしまった・・・丁寧な言葉使いも無くなったよ。


「魔法で成長を速めて種ができるまで育てました。毎日少しずつ魔法をかけて24日くらいで種が取れる予定だったのですが・・・慣れてきたので今は3日で出来るようになりました・・・えへへっ・・・ローズも春にお店の周りに小さい苗を植えたら、大きくして咲かせることもできると思います」


「3日・・・?咲かせる・・・?」


 一気に話しちゃうよ・・・パトリック伯父さま、気を確かに持ってね。


「それから豚大根は「ラディ」と呼ぶ事にしました。茶色いお砂糖は北の領地で作るので「ノールシュクレ」と名前を付けましたので、これで豚大根からお砂糖を取っているとわかりにくいと思うのです」


 話についてきてないパトリック伯父さまを見て、にっこり笑ってみた。


「・・・ラディ・・・と、ノールシュクレ?」


 パトリック伯父さまは笑ったままずっと固まって独り言のように呟いているけど・・・勢いに乗ってもう一つお願いしておかないとね。


「お父さま、パトリック伯父さま、デザートのお店の横にパンを作って売るお店もほしいです。朝食でお出ししたマシロパンや木の実やジャムを入れたパン、あとサンドイッチも売りたいです。デザートのお店でも食べられるようにしてもいいかと思っています。お店はどうしても作りたいです。お店の名前は「ブーランジェリー・マシロ」と決めています」


「パン屋ですか・・・朝のパンは美味しかったです・・・マシロ?・・・そうですか」


 パトリック伯父さまは話ができるようになったかと思ったけど、首を傾げたまま・・・目はどこを見ているのかな?


「パン屋?・・・わかった・・・アン、店は春になったらすぐに外装や内装を変える。デザートの店とパン屋で必要な道具や備品を後で私に言うように・・・もう追加はないか・・・?ないよな?」


 お父さまは大きなため息と共に困った顔しながら念を押してきた。

 お母さまは額に片手を当てたまま下を向き、ノル兄さまはこちらに振るなと言わんばかり目をそらしたよ。

 うーん・・・ないと思うけど・・・。


「はい・・・たぶん」


 一先ず頷いておいた。

 お父さまとお母さまはホッとした顔し、ノル兄さまもパトリック伯父さまもそっと息を吐いていた。

 アンの報告は今のところはここまでだよ。後は夕食でタルティーヌとミルクレープを食べてもらえればいいよね。


「私が王都に向かう日とパトリック義兄上が帰られる日が一緒なので、北の領地の店になる土地と屋敷を見に行くことにした。アンも見に来るだろう?」


「はい、行きます。お父さまは王都へ行くのですか?」


「ああ・・・陛下に砂糖の件も併せて、伝えねばならない事があるからな。ノルも一緒に行けたらよかったのだが・・・今回はアンの付き添いだ。ベルを王都に連れて行く。王城の図書室に卵とキリーのことについて調べてもらう予定だ。帰りは孤児院の子供たちと王都の屋敷の料理人を2人、店で働きたいと言う希望者を数人手配して、馬車で北に向かわせるよう準備してくる。パトリック義兄上のところからも料理人を出して貰う予定でいる」


「わかりました」


 そろそろ孤児院の人たちもやってくる・・・みんな元気かな?


「アン、疲れただろう。部屋で少し休みなさい」


「はい・・・あっ、パトリック伯父さま、仔犬のミラのところに案内したいのですが、明日の午後からお時間はありますか?」


「私は構いませんが、もう驚くことはないですか?」


「フフフ、後は可愛いミラを見るだけです」


 パトリック伯父さまはちょっと疲れた顔をほっとさせていた。

 明日はミラで癒されたらいいよ。




 ◇   ◇   ◇




 アンが書斎から出て行ったあと、パットリック義兄上は肺を空にするように長い息を吐いた。


「アレクサンドル様・・・アンジェル様はいつの間に・・・いえ・・・随分お元気になられて良かったと思うのですが・・・その・・・」


「ああ・・・私たちが想像もしないような事をどんどん進めてしまう・・・夢の中の友人の知識と言って・・・思いついた事がとても良い事だと思っているようだ。楽しそうにやっているが、どこへ突き進むのか先の予想が全く付かない・・・このまま自由にやらせていいものか・・・先ずは陛下に砂糖の件を知らせ、南の大領地にはカフェの豆の買い付けを依頼し、西の大領地には小麦、東の大領地にもラム酒の買い付けが増えると伝えてくる。小麦は店の分だけでもいずれ領地で育てても良いかと考えているが、西の大領地がなんと言ってくるか・・・あとは姫ポムの木も増やさなければならないな・・・そうだ、義兄上・・・これを見てほしい」


 書斎の横の台の上にある籠からアンが魔法をかけたちょっと大きい姫ポムを取り渡した。


「これは?・・・ポム?・・・いや、姫ポムだとしても・・・通常の2倍はありますね」


「うちの庭でいつもより1ヶ月早く収穫した姫ポムだ」


「朝と昼に食べたジャムはこれで作ったのですか?香りが強い・・・大ぶりですが艶もあり品質の高い姫ポムだと思いますが・・・1か月も早く収穫出来たという事は、豚だい・・・いえ・・・ラディでしたか?あれと同じと言う事でしょうか?」


「ああ・・・これは特殊と言うのだろうな・・・アンが早く育つ魔法をかけている。新しい砂糖の原料「ラディ」も魔法をかけて最短で育てたように」


「えっ?・・・魔法で最短・・・魔法で・・・?最短?」


 パトリック義兄上は考えを放棄したように、無表情で私の言葉を繰り返し呟いていた。


「それと・・・先日王都に行った時に大神殿で結果が出た。アンは精霊巫女様だと、過去の精霊巫女様の日記が読めた。日記は精霊巫女様と認められたもののみが読める貴重な資料らしい・・・だがアンは精霊巫女様にはなりたくないと言っている。卵を背負ってはいるが、やっと自由に動けるようになったのだ・・・アンの気持ちを尊重してやりたいと思うが、(のが)れられるものなのか・・・」


「・・・あの可愛いらしいアンジェル様がやっと出歩けるようになったのですから、このまま自由にさせてあげたいと願ってしまいます」


「今度は何をしでかすのか心配で・・・とにかく驚くことが多い。以前よりもずっと元気になってくれたことは嬉しいのだが・・・」


 思わずため息が出た。

 今は南の領地に行っているはずのキリーの件までは義兄上に話せなかった。夜にシーツを被ってキリーに乗って飛んで行き大騒ぎになったことや、飛んではいけないと注意したら、キリーに乗って走ったことなど・・・とても言えない。


「パトリック伯父上・・・明日行く犬舎にはアンが可愛がっている「ミラ」と言う仔犬がいます。足が悪かったのですが・・・それも治っています」


 ノルベールが真っ直ぐにパトリック義兄上を見て話し始めた。


「アンジェル様は光魔法を持っておられるのですから、傷を癒せるのでは?」


「傷ではなく歪んだ骨を治したのだ。生まれた時から体が小さく後ろ脚はほとんど動かせない。救助犬としては扱えない犬をどうするか・・・アンが欲しがれば育てさせるか・・・様子を見てからと思っていた・・・だがまだ断言はできないが、いずれ走ることも可能だろうと獣医に言われている。屋敷で飼う為の躾が終わればアンが育てると思う。子犬を気に入っているようだからな。アンの魔法は癒しなのか再生なのかわからないが・・・どこまで人の前に出していいのか迷う。そしてどこまで守れるのか。義兄上、アンの特性はまだ秘匿して頂きたい」


「承知しました。アンジェル様には無邪気に笑っていて欲しいですから・・・そして笑いなが美味しいものを作って頂くのがいいですね」


「パトリック義兄上、・・・それとここだけの話だが・・・もし、もしアンが仔馬を欲しがっても渡さないで欲しい」


「仔馬ですか?・・・そう言えば以前仔馬はいるかと尋ねられました。なぜ仔馬が必要なのでしょうか?」


「直接聞いてはいないのでわからないのだが・・・たぶん周りが乗っているからでは・・・アンの身体に合わせた乗りやすい馬が仔馬だと思っているかと・・・」


「乗馬を教えて差し上げたら良いのでは?」


「少し覚えると、勝手にどこかに行ってしまいそうでな・・・」


「どこかに・・・ですか?」


「いや・・・たぶん仔馬の事は言って来ないと思うが、念のためだ」


「そうですか・・・?・・・わかりました。仔馬の話がアンジェル様から出た場合はアレクサンドル様に相談するように伝えます」


 義兄上は何か問題でもあるのか、という様な顔をしていたが、了承してくれた。


「ああ・・・そうしてもらえると助かる」


 漸く話が終わり、義兄上やノルベールと共にブラノワを夕食まで楽しもうと、考えを切り替えた。


 義兄上は夕食に出たタルティーヌとミルクレープにも目を見張っていた。

 昨日まで見たこともなかった白いマシロパンの上に乗った具材は見た目も綺麗で、小さくカットされた挟まないサンドイッチ、そしてクレープが層になったケーキ。

 斬新で美味い。

 私たちは普段と変わらない食事をするように楽しんで食べているが、義兄上は話を聞いていたのに驚いている。

 いつか慣れてくれと願うが、義兄上の家族も巻き込まれるのだろうと安易に想像できた。

 パトリック義兄上・・・頑張ってくれ。




 ◇   ◇   ◇




 今日はノル兄さまとパトリック伯父さまの3人で犬舎に来たの。出迎えてくれるのはすっかり馴染みになったミラのお父さん。相変わらずアンの顔をペロペロと舐めてくる。


「今日もミラに会いに来たよ、パトリック伯父さまも一緒なの」


 ミラのお父さんに話しかけると嬉しそうにアンの顔をまたペロペロと舐めてくる。

 ソフィがポケットにハンカチを入れてくれていたのでそのハンカチで顔を拭いたけれど、何度も舐めてくるので諦めて好きにさせていたら、ノル兄さまが笑いながらハンカチで顔を拭いたくれた。

 ノル兄さまがミラのお父さんに「もう舐めなくていいよ」と話しかけたら、ミラのお父さんはジッとノル兄さまを見て「ワフッ」と言ってもう舐めなくなったよ・・・あれ?言葉が通じるの?


「ノル兄さま、ミラのお父さんは言葉がわかるの?」


「さぁ?どうだろうね。通じたかも知れないね」


 ノル兄さまもよくわかってなかった・・・取りあえず言ってみただけらしい。


「犬は賢いのである程度は理解できるのかもしれないですね」


 生き物が大好きなパトリック伯父さまはそう言ったけど、鶏や豚や牛はどうなのかな?


「鶏や豚や牛もなんとなく毎日の動作は理解しているようですが、言葉で理解しているかは不明です」


 思っていたことに返事が帰って来たので驚いた。パトリック伯父さまはアンの心が理解できるのだろうか?

 ミラのいる部屋に行きミラと遊んでいる間、パトリック伯父さまは他の犬たちと触れ合い「犬もいいですね、欲しくなりました」と満面の笑みで言っていた。

 動物が大好きなパトリック伯父さまに精霊が沢山寄ってくるのがよくわかったような気がした。

次回の更新は2月14日「26、ひ弱令嬢は考える」の予定です。

よろしくお願いいたします。

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