表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第1章 北の大領地の辺境伯令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/70

22、ひ弱令嬢の思いつき

 豚大根の鉢に魔法で水をあげ、成長魔法をかけたら小さな蕾らしきものがいっぱい出てきた。まだ5日目だけど思ったより成長が早い。これが蕾なら種はたくさん採れそう。

 豚大根からお砂糖を作るのはまだダメって言われているから、種を増やすことにしたの。

 庭の奥の姫ポムも忘れずに・・・ちょっとだけ魔法を・・・。


 朝のお仕事が終わったので朝食をとって、それからお勉強。ノル兄さまやベル兄さまが図書室で教えてくれる事もあったけど、今はお部屋で歴史や地理の本を読むだけ。

 学院で習う読み書き計算は全部終わっちゃったの。お勉強が早く進んだのは茉白の記憶のおかげだと思う。計算はこちらの方が簡単だった。

 茉白の世界では『すうがく』や『かがく』があって、『かんすう』『びぶん・せきぶん』『げんそきごう』と言うよくわからないものがあった。普段の生活でどういった使い方をするのかな?魔法の方が便利で役に立つような気がする。

 アンに家庭教師がいないのは、寝てばかりでいつお勉強できるかわからなかったからだって。納得してしまったよ。

 学院で習うもので、貴族らしいお手紙の書き方があるらしいけど、お母さまは「貴族のお手紙の書き方は、まだ早いからもう少し後でいいわよ」って言っていた。どんな風に書くのかちょっと興味があるから、そのうち調べてみようと思っているの。

 


 昨日、お父さまから学院の事を教えてもらった。

 来年の春から行く学院は月に一度試験を受けて合格すれば毎日通わなくてもいいらしく、試験も1ヵ月に4つまで受ける事ができる。1年間で48の試験に全て1回で合格して90点以上かつ上位10位以内であれば、2年目は王都で1年間お勉強をして卒業できるらしい。

 実技は魔法だって。希望者は剣術も受けていいらしいけど、ノル兄さまとベル兄さまは剣術も受けたと言っていた・・・龍に乗るためには必要なのかな?ちょっと不安になったけど、お父さまには聞けない。

 シャル兄さまのお勉強の成績は教えてもらえないのでよくわからないけど、お母さまが言うには「魔法と剣術の実技だけは飛びぬけて優秀なのよ・・・魔法と剣術だけはね」と2度も言っていた・・・魔法と剣術はシャル兄さまにとっては優先事項なのかもしれない。


 お熱が出なければ2年制を選択できるかも・・・2年目は王都のお屋敷から通ってもいいかなって思うの。王都にお店もできるし・・・。

 お父さまとお母さまは「アンの身体に負担がないのなら、2年制にしてもかまわない」と言ってくれたの。学院に行くのは楽しみだけど・・・いつも背負っている白い卵はこのままなのかな?卵のことは心配だけど・・・ずっと背負ったままの姿で学院に行くのは少し不安。卵に成長の魔法ってかけたら、生まれるかな?

 人の怪我だって治せるし、王都の枯れた草花を再生させたらローズの精霊さんは元気になったよね。豚大根も姫ポムも育ったよ。いつか試してみたいな。

 もっと魔法がうまく操作できるようになったら卵にも・・・。


 午後から灰色の仔犬のミラに会いに行くの。魔法で足が治ってくれたらいいな、ミラが走れるようになればうれしい。

 

「ア・・・?アン・・・?」


「ん?・・・ま、茉、白?」


「元気?・・・色々忙しそうだけど」


「茉白!最近はとても元気だよ。今日も仔犬を見に行くの」


「いいね!犬も猫もかわいいよね。私はマーモットが1番好きなんだ」


「マーモット?」


「そう、ネズミっぽいような、耳の小さいうさぎっぽいような、動きが面白くて、腕がね・・・フフフ、毛皮で膨らんでいるだけなのか、デブなのか・・・凄い腕マッチョなの」


「マッチョ?」


「筋肉ムキムキってやつ」


「ムキムキのネズミ?・・・フフッ、面白いね」


「動物も飼いたかったし、大学を卒業したら働いてお金を貯めてパン屋さんもやってみたかったな」


「なんとなくわかる・・・アンも寝てばかりいるから」


「アンは凄く行動的になっているけど・・・私の影響?・・・やりたい事がいっぱいあったから、アンを通してちょっと楽しんでいるかも、もっとやってみたいって思っちゃうの・・・でも・・もう死んでいるから全て諦めなくちゃいけないのに・・・諦めきれなくて・・・ごめん・・・もし迷惑だったら言ってね、ちょっとだけ自重するから」


「ちょっとだけ?・・・フフ・・・。茉白のおかげで色々な事を知って楽しんでいるの。茉白も楽しめるなら一緒に楽しもう」



「アンジェル様?」


「・・・ん?」


「アンジェル様、お時間ですよ。食堂に参りましょう」


 ソフィの声で目が覚めた。

 あれ?お勉強していたのにいつの間にか眠っていたの?念の為、口の周りを触ったら・・・あ、ちょっと垂れていた。慌てて袖口で拭こうとしたらソフィにそっと腕を抑えられ、ハンカチで口の周りを拭かれてしまった。

 恥ずかしい・・・。

 そういえば・・・茉白に会っていたんだった。・・・夢以外で会えたらいいのに。




 午後から行く犬舎には今日もノル兄さまが一緒。

 昼食を済ませて馬車に乗り込み、少し行くと窓から見える木に大きな袋が沢山ぶら下がっていた。


「ノル兄さま、あの木に沢山の袋がぶら下がっているね」


「あれはポムの木だよ、実が大きいから落ちないように袋をかけて支えているんだ」


「重そう・・・あれもジャムにするの?」


「そのまま食べたりジャムにしたりすると思うよ。これからは店用の食感のある姫ポムジャムも作るようになるから、姫ポムの苗木を増やす予定だよ」


「今から苗木を育てたらすぐ実がなるの?」


「いや・・・2年はかかると聞いているよ」


「魔法をかけると早く成長するのに・・・」


「えっ?」


「あ・・・」


「魔法って?」


「そ、そう言えば、庭の奥にある姫ポムもジャムに?」


 うっかりノル兄さまに魔法のことを行ってしまったけど、慌てて話を少し変えてみた。


「えっ?・・・ああ、庭の姫ポムはジャムにしていたと思う」


「カジミールが作るの?」


「カジミールかコンスタンだと思うけど?どうかした?」


「ううん・・・ジャムは春から沢山使うから」


「うん?・・・そうだね。アン?もし面白いことを考えているなら先に教えてくれると助かるよ、兄様としては・・・」


 優しい口調で微笑んでいるけど目が笑ってないのはなぜかな?


「は、ひ・・・その時はいいま、す?」


「語尾がなぜ上がったのかな?」


 ノル兄さまは相変わらず微笑んでいるけど目どんどん怖くなっていく・・・ノル兄さまは目も器用だと思う。

 運よく馬車が止まったよ・・・助かった。


「つ、着いた・・・よ?」


「ふっ・・・そうだね」


 ノル兄さまは呆れたように笑って、アンを馬車から降ろしてくれた。

 犬舎に行ったら仔犬のお父さんが出迎えてくれたけど、アンの顔とお父さん犬の顔が同じ高さのせいもあって顔を何度もペロペロと舐められる。その度にソフィが慌ててハンカチを出していたのが面白かった。

 昨日と同じようにお父さん犬のモフモフ胸に顔を埋めて抱きつく。

 あーしあわせ・・・。

 モフモフの胸から顔を離して顔をなでると今度は手をペロペロしてくる。そのまま舐めさせていたら、ソフィがそっとハンカチを渡してきた。手がべとべとになっていたものね。


 お父さん犬と一緒に仔犬たちの様子を見に行くと、灰色の仔犬がヨタヨタと歩いていた。 少しずつ動けるようになっていたらいいな。


「ノル兄さま、すぐ抱っこしてもいい?」


「構わないよ」


 仔犬たちのところまで行ってしゃがんで灰色の仔犬を抱っこしたら、お母さん犬がアンの背中のリュックの匂いを嗅いでいた。食べ物じゃないよ。

 昨日は匂いを嗅いでいなかったような気がしたけど?匂いを嗅ぐだけならいいけど、噛まないでね。

 他の仔犬たちもアンの背中の方に寄って来たので仔犬たちの方へ向きを変え、灰色の仔犬をいったん床に降ろしてから頭をそれぞれ撫でてあげた。

 それから両手に魔力をためて、灰色の仔犬の後ろ足を包むように纏わせる。一瞬光って、その光がきらきらしながら消えて行った・・・あれ?昨日と違う。


「おや?きらきらしていたけど・・・何だったのだろうね」


 ノル兄さまも気づいたみたい。


「・・・いつもと同じようしたつもりなのに、何か違うのかな?」


 灰色の仔犬はアンの手に前足をかけて上がろうとしていた。


「仔犬は元気そうだから大丈夫だと思うけど2、3日空けてからまた様子を見に来た方がいいかもしれないね」


「明日はここには来ない方がいいの?」


「明日は私が来られないという事もあるけど、ちょっと時間を空けて様子を見たいからね。もう来られないわけじゃないから心配しなくてもいいよ」


 頷いて灰色の仔犬を抱き上げた。


「あなたの名前はミラにしたの」


 ミラは大人しく抱かれたまま、アンの目を見ている。

 短い時間でちょっと寂しい。長居は出来ないから、背中を撫でて頬ずりしてはまた背中を撫でてと繰り返してしまった。


「この子はミラと言う名前にしたのかい?いい名前だね、じゃぁそろそろ戻らないと。ミラをお母さんに返してあげて」


「うん・・・ミラ・・・また会いに来るね」


 諦めてお母さん犬のところにミラを戻して、犬舎を出た。


 馬車に乗り込み、行く時にも窓から見た袋入りポムを眺めていた。ポムってどうやって増やすのかな?ポムの苗木も欲しいな。ジェローに聞いてみよう。

 ポム以外の果物や野菜など、お店で使う材料が近くの畑で収穫出来れば新鮮でもっと美味しなるはず、仕入れにかかるお金も少なくなるかもしれない。

 でも暫くは豚大根の鉢と姫ポムに魔力を注ぎ、時々ミラに会いに行くという日々を過ごすしかないよね。


 今日もいつもの朝の日課を終えて朝食も済ませたけど、ミラに会いに行く日ではない・・・午後は何をして過ごそうかな?


「木工職人からリバーシが1セットだけ出来たので、直ぐに届けたいと連絡が来ています」


 悩んでいたらソフィが教えてくれた。

 午後から屋敷に来るように連絡して貰ったら、昼食後にすぐにやって来た。

 早くてちょっと驚いたよ。


 屋敷の周りは塀で囲まれていて、塀の横側に商人が出入りする門がある。そこには門番が数人いて屋敷の横の扉まで案内してくれる。

 扉の中に入ると小さなホールがあり、商人たちはそこにある椅子に腰かけて約束の時間まで待っているらしい。

 その奥に応接室がいくつかあって、商人とのやり取りはその部屋を使うと、ソフィから聞いた。

 いろいろとルールがあるらしく、いきなり屋敷の応接室に入れてはだめだったみたい。前回は庭師のジェローと一緒だったので特別だったらしい・・・知らなかったよ。

 でも・・・宝石やドレスの場合は、屋敷の応接室を使っていいらしい。宝石やドレスは高価だからね。

 だから今日は商人用の応接室でポランと会っているの。

 リバーシの確認をすると白と黒のコマが同じ大きさで碁盤の板にきちんと収まる。すごく丁寧に作らえていた・・・驚いたのは収納箱とコマを入れる小箱。

 木工職人って凄いね。

 白い木箱でローズの花が蓋の部分に彫られていて、宝石箱のように蓋は前から開けるようになっているけど、蓋は内側から蝶番というもので固定されていた。。

 蓋の裏には「アンジェル」と彫られていて、アン専用にしてくれたらしい。

 碁盤の板の裏側にもアンの名前が彫られている、しかも小箱も白い木で蓋の裏には北の大領地の領旗である盾に龍が彫られていた。


「うわぁ・・・凄いね!」


「同じものがいくつも出来る可能性があると思い、持ち主の名前があった方が良いと考えました」


 なんと、気を利かせて名前を彫ってくれたらしい。

 細かな気配りに茉白ならきっと「ポランはマジ優秀!」って言ったと思う。

 残りの2セットはお父さまとノル兄さま専用で、お父さまは火龍、お兄様は風龍を彫ってもらい、それぞれの名前も彫ってもらう事にした。

 ベル兄さまやパトリック伯父さまにもプレゼントしたいので2セット追加したの。

 ベル兄さまには前に嬉しそうに話をしていた水龍を、パトリック伯父さまは・・・牛?鶏?豚?あれ?何にしよう・・・。


「1セットだけ蓋の彫り物が決められないの」


「後から彫ることもできますので、彫り物なしで作りましょうか?」


「うん、そうする。じゃぁ1セットだけ名前のみね」


 パトリック伯父さまがあとから決めてくれればいいよね。

 シャル兄さまが拗ねたら面倒なので、予備も含めて今回は4セット追加して、その分の前金として半額分の小銀貨4枚を渡した。


「ありがとうございます!作り慣れてきたので次回はもっと早く納品が出来ます。彫り物も得意なので、花を彫るのは楽しかったです。これから作る龍も楽しみです」


 ポランはそう言って嬉しそうに帰って行った。ジェローは丁寧な仕事をすると聞いていたけど、息子のポランも細かくて丁寧な仕事だと思う。

 部屋に戻ったら、このボードゲームの名前を考えないとね。


 リバーシは茉白の世界の言葉なので意味を聞かれたら説明が面倒だよね。白と黒だからそのままの名前で行こう・・・「ブラン・ド・ノワール」・・・ちょっと長いかな?略して「ブラドノワー」・・・うーん・・・なんかしっくりこない。もうちょっと短く切って「ブラノワ」・・・これでいいかな?呼びやすいよね。



 早速、夕食後にサロンでお父さまたちにブラノワを見せた。


「お父さま、木工職人に木で遊び道具を作って貰ったのです。大人も子供も楽しめるボードゲームで『ブラノワ』と言う名前にしました」


「ボードゲームのブラノワ?・・・今度は何を始めたのだ?」


 お父さまは不審そうに聞いてきたので、収納箱ごとお父さまに渡すようにソフィに伝えた。


「ほう、彫られているのはローズか、裏には名前もある・・・小箱は・・・蓋の裏に北の領旗まで彫ってあるな。これは凝っているが・・・この丸いので遊ぶのか?」


 ノル兄さまとベル兄さまは収納箱を覗き込み、シャル兄さまはコマを触っていた。


「この白と黒に何か意味があるのか?」


 シャル兄さまがコマを何度ひっくり返しながら聞いてきた。


「遊びながら説明するね」


「私が先にやりたい・・・父上、よろしいですよね?」


「ああ、構わない。先ずはシャルのお手並み拝見と行こう」


 シャル兄さまのやる気満々な姿に、お父さまはちょっと驚きながらも笑っていた。

 「どちらが白か黒になるのかを決め、最初は中心に1ずつ置いてあとは交互にコマを置いて行くだけ、コマが挟まれたらひっくり返して陣地取りのような遊びだよ」と、言いながらコマを置いてはシャル兄さまのコマをひっくり返していった。

 フフフ・・・説明しながら容赦なく勝たせてもらったよ。

 お父さまにも説明しながら勝負して、もちろん容赦なく勝たせていただきました。

 ノル兄さまにも説明しながら・・・フフフ・・・3勝。

 そしてベル兄さま・・・あれ?おかしい・・・勝てなかった。ベル兄さまには永遠に勝てないの?・・惨敗したよ。


「ベル兄さま・・・容赦ないです」


「そうかな?アンも容赦なかったよ」


 ベル兄さまは微笑んでいたけど・・・本当は勝負師なのかもしれない。お母さまは笑って見ていているだけで、ゲームはしないらしい。

 その後もシャル兄さまに勝ったけど、お父さまとノル兄さまにはもう勝てなかった。まだやるとシャル兄さまがむきなっている。

 笑いながらベル兄さまが相手をしていたけど、ほとんどひっくり返されていた。優しいベル兄さまが1番容赦なかったよ。

「戦う相手を間違っているよ」って言いたいけど、いずれ自分で気付くよね・・・取り敢えず頑張れシャル兄さま。


「これは面白いな、どこで作ったのだ?」


「ジェローの息子で木工職人のポランに作って貰いました。1セットだけ先に届けてもらいました。お父さまとノル兄さまの分は既に頼んでいます。ベル兄さまの分も少し遅れますが届きますよ」


「そうか・・・それは楽しみだ」


 お父さまが笑って言ってくれた。

 ノル兄さまもベル兄さまも「楽しみにしているよ」と言ってくれた。


「・・・私の分はどうなっている」


 シャル兄さまがちょっと拗ねて聞いてきた。


「蓋に彫るものは何がいいの?」


 シャル兄さまの好きなものがわからないので首をかしげてみた。


「もちろん龍に決まっているだろう」


「シャル兄さま・・・龍は火龍と風龍のどっち?」


「あぁ~・・・火龍がいい!」


「シャルル、龍はまだ持っていないから龍を彫らない方がいいのではないか」


「父上、そうすると何を彫ったらいいのですか?」


「シャル兄さま、あとから彫ることも出来るから、来年以降に龍が決まってから彫ったらいいよ」


「そうか・・・後から彫れるのか」


「蓋の裏に名前だけ彫るようにするね・・・パトリック伯父さまの分も頼みました。蓋はあとから職人に伝えれば良いかと思います」


「そうか、義兄上は喜ぶと思う・・・そうだ、アン。商業ギルドに行って申請をしておいた方がいい。明日の午後から出かける支度をしておきなさい」


「商業ギルド?」


「商品を他の人が勝手に作って暴利な値段で売らないようにするためもあるが、これを作って売ることでアンにお金が入って来るようにするためだ」


「売る・・・?・・・考えていなかったです」


「明日の朝、詳しい話をするから執務室に来なさい」


「はい・・・今回は叱らない?」


「叱る?・・・いや叱らないが・・・どこかに持って行く前に先に見せてくれたからな、しかし・・・最初の1戦は説明と言いながら容赦がなかったぞ」


「も、もう勝てないですから・・・1戦くらいは勝ちたかったのです」


 あれ?根にもっているの?・・・お父さま。


「アンが大人になったら、私は勝てないかもしれないな・・・フッ」


 お父さまが笑った・・・もしかしたらアンは勝負師になる才能があるのかもしれない。



 翌日の朝、執務室に行くとお父さまとノル兄さまがいた

 ブラノワの製作費と、木工職人を専属にするかどうか聞かれた

 1セットは小銀貨2枚と伝え、専属にするかはポランに確認してもらうことにしたけど、ブラノワの販売価格は銀貨1枚とお父さまがおっしゃった・・・そんなに高いの?


 登録することで勝手に作ることが出来ず、同じものや類似品を作った人は罰金を払う事になるらしい。申請期間は10年で、その期間を過ぎたら同じものを他の人が作れるようになると教えてもらった。他にも何か作る時は、直ぐお父さまかノル兄さまに相談するようにも言われた。


「幼児の積み木も作ったらいいかもしれない」


 これだと思って提案してみた。


「ポランに作ってもらってからまた登録すればよいだろう」


 お父さまはあまり興味がなさそうに軽く返事をしていた。積み木が大量に売れてアンがひと儲けしても驚かないでね。


 翌日の午後、馬車で商業ギルドに行って登録手続きをして口座も作ってもらった。これからはそこにお金を預けるらしい。

 王都や北のお店は商会を作って商売をする為、ギルドには「作ったよ」と言う届け出だけでよく、ギルドを通して製品の登録は必要ないと聞いたけど・・・『ブラノワ』の登録と何が違うのかよくわからなかった。




 7日後にポランがブラノワを2セット届けに来た時、お父さまも一緒だったので、専属の話をしてもらった。

 お父さまの姿を見てポランは緊張してカチンコチンになっていたけど、仕事の話になると目がキラキラしていた。さすが職人だよね。


 今回届いた収納木箱は黒色とこげ茶色で重厚感があった。

 黒色の箱の火龍の目にベリドットが、こげ茶色の箱の風龍には金色に近い色の石が入っていた。

 ポランはお父さまとノル兄さまの目の色を知っていたの?凄いね。彫っているうちに楽しくなって石まで入れてしまい小銀貨2枚では出来なかったので、出来れば次回から石を入れた場合は追加の銀貨が欲しいと言っていた。良い出来なので、今回の追加分は支払うとお父さまが言った。


「庶民に負担を掛ける訳にはいかないだろう」


 ボソッと言っていたのを聞いてしまった。お父さま・・・それは貴族の矜持って言うやつですね。

 ポランはかなり恐縮して「1セットで銀貨1枚」なります」と言った。

 勝手に石を入れて値段が5倍になってしまったから恐縮するよね。でも楽しくなるとドンドン勝手にやってしまのは凄く、凄くわかるよ・・・。


 お父さまが銀貨2枚払うように執事のバスチアンに伝えていた。

 追加分の1セットはペリドットの石を入れベルトランの名を、2セットは彫るものが決まっていないので石もなしで名前はシャルルとパトリックと伝えた。

 更にもう1セット追加して、箱の蓋は風龍で石を入れ、ユーゴの名前を入れるよう頼んだ。ユーゴは赤茶の短い髪で目は薄い緑だ・・・。

 護衛としてついてきているユーゴに聞いたら、驚いていたけど、薄い緑がいいと嬉しそうに言った。

 そしてそれぞれの年齢を伝えてそれに合う木箱を作るように伝えたけど、ユーゴは・・・18歳だったよ。もっと上だと思っていた、もちろん声に出して言わなかったけど。


 支払いは全部で銀貨2枚と小銀貨4枚になる。前金を小銀貨で4枚支払っているから残りの銀貨2枚は商品と交換で支払うことになる。

 一人一人が自分用のおもちゃを持っていてもいいよね。大人になっても楽しいと思うの。

 ユーゴの分を作ったのは王都に行った時のお土産はお菓子のみだったから、それと仕事がいろいろ多いしね。それに今回は断られたけど、ブラノワ職人にするところだったしね。


「ポランはいずれ独立するのか?」


「はい、私はいつか独立して商会を立ち上げたいと考えています。この仕事がもっと増えるのでしたら、テールヴィオレット辺境伯様の専属を希望します」


 ポランは緊張しながら言った。


「『ブラノワ』はこれから貴族の間で広がるので、かなり忙しくなるぞ。来春に商会を立ち上げるなら、それまでに職人の確保をしておきなさい。それと、余裕があるなら『積み木』と言うものも作るように」


 お父さまがポランに告げた。あれ?覚えていてくれたの?・・・興味がないと思っていたのに。

 ポランに『積み木』の説明をすると「それほど難しくないので見習いに作らせ、仕上げの確認だけすればいいだけですから、今なら同時進行も可能です」と笑って言った。

 丸、三角、四角、四角は正方形と長方形と言う形の2種類でそれぞれ5個ずつあればいいよね、小さい子の遊びだから。

 金額は作ってから教えてもらうことになった。積み木を入れる木箱も凝ったものになれば金額が変わってくるからだって。先ずは最低の金額を教えてくれるように伝えた。


 ブラノワを貴族に広めるってお父さまが言っていたけど、貴族の中に王族も入っているよね。宝石でキラッキラッになるかも。王族用って言ったらポランは驚くよね。

 頑張れ・・・ポラン。




 あれから追加のブラノワも届き、お父さまや兄さまたちとサロンで遊んでいる。

 出来上がったユーゴのブラノワは、収納箱が赤味のある茶色の木で風龍の目は薄緑だった。

 収納箱を見て「私の色だ・・・」と呟いていた。

 箱の裏や碁盤の板の裏にユーゴと刻まれているのを見て「本当に私専用なのですね」と感動していた。

 握りこぶしで口元を隠しているけど、口角が上がっているのが見える。喜んでもらえて良かった。

 これからも色々な職人になってと頼むかもしれないから宜しくね。


 早速説明しながら遊ぶことにした。もちろん容赦なくユーゴから1勝をもぎ取ったけど、2回目からはお父さまたちと同様でやっぱり勝てなかった・・・おかしい・・・ユーゴってひょっとして優秀なの・・・?

 ユーゴもブラノワを気に入ってくれて休憩の時や交替時間後に騎士仲間と遊ぶと言っていた。


 その後騎士たちにも広がり、ブラノワの注文が凄いことになっているらしい。箱の蓋はほとんどの人が龍を希望している。お花を頼む人はいないよね、龍騎士団だからね。

 龍の目にする石は自分の色だけではなく、奥さまの目の色や髪の色にする人もいると聞いた。仲が良くて何よりだよね。

次回の更新は1月24日「23、ひ弱令嬢は収穫する」の予定です。

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ