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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第1章 北の大領地の辺境伯令嬢

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21、ひ弱令嬢は忙しい

 今日も目覚めはすっきり。

 起きてすぐに豚大根の鉢植えにお水をあげて、早く大きくなるようにこっそりと魔法をかけてみた。

 王都の安売りの屋敷を見に行った時に、枯れかけていたお花を再生させたから、豚大根も大きく出来ると思うの。

 お水も水魔法の操作を本で読んでいたからすぐ出来たよ。


「おおぉ~、芽が出たよ」


 昨日種を植えたばかりなのに、ほんのちょっと魔法をかただけで、ちゃんと成長するね。

 7日分以上の成長だよ・・・ジェローが「春の暖かい時期なら3、4日で芽が出ますが、今の気温なら7日から10日はかかると思います」って言っていたものね。

 豚大根ができるまで6ヶ月位かかるらしいけど、このまま毎日魔法をかけ続けたら20日で出来るかも。

 植物を育てるのって楽しい。果物を育てるのもいいよね。ジェローに言って何か植えてもおうかな?


 魔法をもっと使ってみたい。お父さまに言って怪我した人がいないか聞いてみよう。お水を出す事もできるようになったけど、風魔法の練習もしてみたいな。

 大人立ち合いであれば風魔法の練習をしてもいいけど、火魔法は危険だから学院に入ってからって言われているの。

 もっとたくさん練習をしたいな・・・そうだ!朝食が済んだらお庭に行ってみよう。


 今日の朝食はふわふわのスクランブルウッフとベーコンとコーンスープとお豆の入ったサラダだった。


「スクランブルウッフは以前よりもフワフワになったような気がする」


「カジミールさんがホイッパーを使って卵をかき混ぜているそうです」


 大きく頷いて答えたソフィは、フワフワウッフが気に入っているのかも。ホイッパーがいろいろと役に立っているから良かったね。


 食事を終えてソフィとユーゴの3人でお庭に行ってみたけど、ジェローはいなかったよ。

 お庭のお花や木を見て回っていたら、奥の方に青くて丸い実を付けた木を見つけた。その実はアンのにぎり拳より少し小さい。


「ソフィ、あの青い実を付けた木は何て言う名前かわかる?」


「姫ポムだと思います」


「大きくないほうのポムってこと?」


「左様でございます、あの青い実はあと2倍くらい大きくなると思います。秋の3の月から冬の1の月に真っ赤に色づきます、そうすると収穫出来ます」


「収穫したらジャムにするの?」


「毎年ジャムにしていると聞いています」


「お庭に姫ポムがあるなんて知らなかった」


 普通のポムに比べたら小さいから姫と呼ばれているのかな・・・?

 大きさは茉白の世界のリンゴと変わらないよ・・・茉白の世界は魔力がないから野菜や果物が小さいのかな?

 姫ポムの木に近付き少しだけ魔力を流してみた・・・実がちょっとだけ大きくなった気がするけど、誰も気が付かないよね。ユーゴは空を見ているし、ソフィは横を見ていたもの・・・大丈夫、大丈夫。


「ソフィ、ジェローはいつ戻るの?」


「西の並木道の方に行っているかもしれません。ローズの苗を増やすように仰せつかっていると聞きましたから」


 お父さまはお店にローズを植える気満々なんだ。お母さまが凄く喜ぶよね。


「明日は会えるかな?」


「明日の午前に会えるよう手配いたしますか?」


「お願い」


「畏まりました。今日は風が冷たいですから、そろそろお部屋に戻りましょう」


「うん、昼食後はノル兄さまと仔犬を見に行く約束をしているの。少し休んでいたほうがいいよね」


 部屋に戻ってから本を読んでみたけど、すぐに飽きてしまった・・・散歩や図書室に一緒に行ってくれていたベル兄さまは忙しいらしい。

 シャル兄さまは学院に行っているから今日はいない・・・遊ぶつもりはないけど。

 キリーもいないし・・・つまらない。

 部屋で遊べるものを何か考えようかな?ボードゲームがいいかな?

 あ、あれ!茉白の世界のゲーム。片面が白色で反対側が黒色のコマをマスの上に1個ずつ交互に置いていき挟んでひっくり返す遊び・・・リバーシ!相手がいれば、アンでも出来るよ。

 シャル兄さまに取られるかもしれないから余分に作っておかないとね。

 紙に縦と横の線を引いてマスが縦横8個ずつ並ぶようにして書いておけば説明しやすいかも。白黒のコマは64個いるね。コマはどうしよう・・・木を削って丸くして色を塗ったらいいかな?職人に頼んだ方がいいかも。


「ソフィ、お願いがあるの」


「な、何でございましょう?」


 ソフィ?・・・今構えた?


「あのね、竹串職人・・・えっと・・・ユーゴに作ってもらいたいものがあるの」


「す、すぐ呼んでまいります!」


 あっという間に行ってしまった。


「アン様、お呼びですか?」


 後から来たソフィが壁に寄ったままこちらに来ないけど・・・大丈夫、今はソフィに仕事はないよ。


「ユーゴ、このマス目に入るくらいの丸くて平たいものを64個ほど木で作って欲しいの」


「これは・・・木工職人に依頼した方がいいです。手に持つものであれば木のささくれが指に当たらないようにヤスリをかけてなくては行けません。数も多いですし大きさも揃えるので時間がかかると思います。木工職人であれば綺麗に作るはずです」


「竹串職人では無理なのね」


「竹串職人?」


 ユーゴはちょっと不満そうな顔をした。


「・・・クレープ棒も持って歩いていたでしょう?」


「あれはたまたま部屋に置くのを忘れただけです」


「そうなの?」


 ユーゴ、どこでクレープ棒を作っていたの?部屋に置くのを忘れたって・・・今は部屋に保管しているの?ユーゴって謎が多いよね。


「たしか・・・ジェローの2番目の息子が木工職人と聞いていますが」


 ジェローはお父さまと急に北の領地にやって来はずだけど・・・奥さまと子どもたちをあとから連れて来たのかな?


「明日ジェローに会うから頼んでみる」


「それがいいです、ところでこれは何に使うのですか?」


「ボードゲームなの、出来上がったら一緒に遊んで」


「ボードゲームですか?・・・そうですか・・・では私は扉の外で待機しています」


 ユーゴは興味がないのか、さっさと行ってしまった。遊んでくれるとは言わなかったよ・・・後で遊びたいと言っても遊んであげないよ?

 ・・・うーん、ちょっと悔しいけどやっぱり遊んであげてもいいよ。アンは遊び相手が少ないから。

 今日は仕方がないから本を読んで我慢しよう・・・来年は学院だしね。




 昼になり、部屋で軽く食事を済ませてからホールに行くと、ノル兄さまが待っていた。


「ノル兄さま、お待たせ」


「私も来たばかりだから問題ないよ。犬舎まで歩くには少し遠いから馬車を用意したよ」


「龍には乗らないの?」


「龍に乗るほど遠くないからね」


 残念・・・龍に乗りたかったな。


 馬車はソフィと3人、ノル兄さまの護衛とユーゴは馬に乗るらしい。

 やっぱり馬は必要だよね。春になったら仔馬を見に行きたいな。お父さまになんて言ったら、馬に乗る練習をさせてくれるかな?


「もう着くよ」


 ノル兄さまに声をかけられてハッとしてしまった・・・思ったより近かったよ。

 馬車が止まり、ノル兄さまにひょいと抱えられて降ろしてもらったけど、犬舎まで少し距離があった。

 少し先に1階建ての建物がある、あれが犬舎かな?犬舎の後ろに、ずっと山が続いていた。あの山の向こうはどうなっているのかな?違う国がもしあるのなら・・・龍で空高く飛んで、上から見る事が出来るのにね。

 山の麓にはいくつかの鉱山あると図書室にあった資料で読んでいたけど、山の向こうの事は書かれていなかった気がする。

 麓には大きな建物が2つ建っていて、鉱山で働く人が泊まる建物と警備隊の人が泊まる建物が並び、そこには訓練が済んだ救助犬もいるとノル兄さまが教えてくれた。


 犬舎に入るとグレースと似た色の犬と全体が薄い灰色で胸と足が白色の大きい犬が沢山いた。

 皆モフモフで、ユッサユッサと尻尾を振っていた。


「わー、触りたい」


 嬉しくてぴょんって跳ねたらソフィにそっと肩に手を置かれた。

 ・・・はい、気を付けます。


「触っても良いけど、まだ若い個体は元気過ぎて力加減ができないから、アンは押し倒されてしまうかもしれないよ」


 ノル兄さまが心配してくれたけど、とにかく今はモフモフに触りたい・・・どのモフモフにしようか迷っていたら、犬舎の人がグレースと同じ色の犬を連れて来た。


「グレースの子で、今回生まれた仔犬のお父さんです」


「仔犬のお父さんはグレースより大きいね!触ってもいい?」


「はい、大丈夫ですよ」


 腕を伸ばして、そっとお父さん犬の首元に触れた。

 毛がフワフワしている、グレースと同じで胸と足先が白くて胸の毛はモフモフ・・・思わず目の前のモフモフに顔を埋めてしまった。

 お父さん犬は動かないでじっとしていてくれた。


「モフモフに思い切り触れた!」


「フフッ・・・グレースには顔を埋めなかったのかな?」


 笑いながら聞かれたけど・・ベル兄さまと出かけるとすぐ抱っこされてしまうから、ゆっくり触れた気がしなかったんだもの。

 ノル兄さまはベル兄さまほどアンを過保護にしないよねって、思っていたらお父さん犬にペロペロと顔をなめられてビックリしてしまった。


「ハハッ・・・アンが気に入ったのかな?」


 ノル兄さまは声を出して笑っているけど、ソフィはアンの顔を慌ててハンカチで拭いている。

 ノル兄さまは冷たく感じるところもあるけど、好きにさせてくれることが多いから、優しいのかもしれない。好感度を2位に戻して置こうかな?


「アン、満足したなら仔犬のところに行くよ」


 手を引いて「こっちだよ」と言って隣の部屋に連れて行ってくれた。部屋に入ると、大きな犬が横たわっていた。耳と背が薄い灰色で足も尻尾も胸も真っ白。そばに仔犬が4匹いたけど1匹だけ少し小さい。あの子がアンの仔犬?

 あの子だけお母さんに似て、耳と背中が薄い灰色で他は全部真っ白だけど、小さいからまだモフモフじゃないね。頭はヒヨコみたいに毛がポヤポヤして立っている。両目の上に灰色の丸い眉のような毛並みもかわいい。

 茉白ならきっと『まろ眉』って言うよね。

 あっ・・・こっちを見た。よたよたと歩いて来たけど、うしろから少し大きい仔犬たちが灰色の子を押しのけてやって来た。

 どの子も可愛いけど、小さい子は歩くのが遅くてよたよたしている。後ろ足があまり動いていないように見えた。


「ノル兄さま、あの灰色の子が足の悪い子?」


「そう、生まれた時から小さくて足が悪い。後ろ足に異常があって、獣医に確認してもらったけど治せないと言われているんだ。大型犬だから成長して体重が増えると足に負担がかかり、歩けなくなる可能性もあるらしい。育てても一緒に散歩は出来ないかもしれないね。それでもアンは飼ってみたいと思うかい?」


 ノル兄さまの質問に首を横に振った。


「・・・アン一人では無理だと思う・・・あの・・・灰色の仔犬に触ってもいい?」


「かまわないよ。きつく抱きしめないで、そっとね」


「うん、大丈夫」


 すぐに欲しいとは言えなかった。だって自分の事もちゃんと出来ないもの。でも触ってみたいと思ったの、足が悪くても可愛いのは変わらないよ。

 お父さまはこの子をなぜアンにくれると言ったのかな?歩けなくなった犬のお世話をしてほしいのかな?

 疑問を持ちながらも灰色の仔犬のところまで行ってしゃがみ込み、そっと顔に触れた。嫌がらずにすり寄ってくる・・・可愛い。

 他の仔犬たちもどんどん突進してくるからその子たちの頭を順番に撫でながら、反対の手で灰色の仔犬の足にも触れてみる・・・。

 触っても何が悪いのかはわからないけど・・・それでも・・・。

 足から手を離し、自分のお腹の前で両方の掌を上に向けてちょっとだけ魔力を貯める。仔犬の後ろ足を包み込むように魔力で覆う・・・他の子と同じように歩けますように・・・。

 一瞬ポーッと光り、その光は消えた。


「アン?今何をしたのかな?」


「神殿で習った治癒の魔法を少しだけかけてみたの。他の仔犬たちみたいに歩けるように、って・・・」


「・・・骨の異常も治せると?」


 ノル兄さまは片方の眉を上げて聞いてきた。

 ノル兄さまは顔も器用なのだなと思い、上がった眉をじっと見てしまった。


「アン・・・?」


 アンは慌てて首を横に振った。


「試したことがないからわからないの・・・でも・・・少しでも治ってくれたらいいかなと思って」


「そうだね、少しでも治るといいね・・・ああ、すまないが獣医をすぐ呼んでくれないか」


 ノル兄さまはアンに返事をした後、犬舎の人に声を掛けた。


「近くにいるはずですから、すぐ呼んできます」


 犬舎の人が奥の部屋へと走っていった。

 ノル兄さまと犬舎の人とのやり取りを聞きながらアンは薄い灰色の仔犬をそっと抱きしめた。仔犬は嫌がる様子もなくアンの胸によりかかり眠そうにしている。

 奥の部屋から犬舎の人と一緒に急ぎ足でやってきた人は丈の長い白い上着を羽織っていた。


「ノルベール様、何かありましたでしょうか?」


「この仔犬の足を見てほしい」


「あの・・・この子は生まれた時から、足が悪いのですが・・・」


 獣医さんはアンの方を見たので仔犬を獣医さんに渡した。少し困った顔をした獣医さんは部屋の端に敷かれている藁の上に仔犬を置き、背中から後ろ脚にかけてゆっくりとなでるように触って行く。


「この子は後ろ足の骨の歪みのせいで動きが悪く筋肉が付きにくいのです。体が大きくなると走る事は難しいだろうと判断したのですが、骨の歪み・・・ん?あれ?・・・いや、若干は、あるか・・・?」


「骨の歪みに何か?」


 ノル兄さまが仔犬見ながら訊ねた。


「・・・以前診察した時より歪みが少なくなっています・・・暫くは様子を見ながらにはなりますが、徐々に改善されれば歩行が楽になるかと・・・骨の発達とともに筋肉がつけば走ることも可能になると思います・・・」


 獣医さんは首をかしげていた。


「ノル兄さま、明日もここに来てもいい?」


「そうだね・・・また来ようか」


「はい!」


 ノル兄さまとにっこりと笑い合い、明日の約束をした。仔犬が歩けるようになり元気に走ってくれると嬉しいな。

 床に降ろされていた薄灰色の仔犬をまた抱きしめたら、お母さん犬と目が合ったのでお母さん犬のところに戻してあげた。お母さん犬は仔犬の頭や顔をペロペロと舐めはじめた。

 

 明日の午後もまた仔犬に会いに来ても良いって許可は貰ったから、また癒しの魔法をかけてあげるの。足が治ったら走れるようになるといいな・・・灰色の仔犬の名前も考えておいた方がいいよね。

 お母さん犬と仔犬たちが疲れるから、アンたちは長くいることは出来ないと言われているの。時間は短かったけど、また明日も会えるしね。


 馬車の中で、ノル兄さまに木のボードゲームを作るから、明日の午前中にジェローの息子の木工職人に会う予定だと伝えたら「どんなボードゲームか楽しみにしているよ」と言って、出来上がったら一緒に遊ぶ約束もしてくれた。楽しみが増えたよ。




 夕食の時間になったので食堂に行くと、お父さまとお母さまはすでに席に着いていた。

 今日はカナールのお肉だって。カナールって聞くと抵抗があるけど・・・こんがりと焼かれたお肉を恐る恐る食べてみたら凄く美味しかった、あっと言う間全部食べてしまったよ・・・。


 早速、明日の報告をしないとね。


「お父さま、仔犬がとても可愛いので明日も行きます」


「そうか、気に入ったか?」


 何か言いたげにアンの顔をじっと見ている。


「はい!」


「アン、身体に不調はないか?」


「はい・・・元気です。ごはんもおいしいです」


「そうか・・・無理はしないようにな」


「はい・・・気を付けます」


 なんだろう?お父さまはそれ以上何も言わなかった。

 朝の種かな?姫ポムかな?それとも灰色の仔犬のことかな?思い当たることが沢山あり過ぎて、そっと目線をずらしてしまった。

「ゆっくり仔犬の名前を考えたいです」と言い訳して、サロンには行かず真っ直ぐ部屋に戻った。


  部屋に戻り宣言通り仔犬の名前を考えた。凄く可愛いから、可愛いと言う意味の名前でいいよね。


「ミラにしよう」


 呼びやすいし・・・大きくなったらモフモフし放題だよ。


「フフフ」


 笑い声がもれたらソフィがちょっとだけ驚いた顔をしていた。


「仔犬は『ミラ』と言う名前にしたの。仔犬の毛はまだポヨポヨだったけど寒くないのかな?服を作って着せたほうがいい?」


「とても素敵な名前ですね・・・でも仔犬に服は要らないと思います」


「もうすぐ冬が来るのに寒くないの?」


「救助犬はもともと毛がフサフサしていますが、寒くなるとフサフサの毛の中に冬毛が更に生えますから、仔犬もすぐに冬毛が生えて、フサフサになるはずです」


「仔犬もすぐに冬毛とフサフサ・・・モコモコになるってことね・・・わぁ、とっても楽しみ。・・・あ、それと明日はジェローに会うけどジェローの息子の木工職人にも会えるといいな」


「ジェローには明日の朝、木工職人と一緒に屋敷の庭へ来るよう伝えています」


「ありがとう、さすがソフィね」


「お役に立て何よりです」


 ソフィがにっこり笑った。





 今日もスッキリ目覚めたので、早く起きていつものように白い卵をおんぶ紐のキルティングのところに入れて背負い、窓の鉢植えを見に行った。

 芽が出ていた種は双葉になっている。


「おおぉ~・・・育っている」


 土は乾いていないから、水は入らないかな?

 またちょっとだけ魔力を注ぐ。すると葉っぱが8枚も出てきた・・・あれ?ちょっと伸び過ぎた?でも根も育っているはずだから・・・あ・・・植え替えしないといけないね。もっと大きな鉢を用意してもらわないと。


 朝食を済ませて庭に行くとジェローとジェローの髪と同じ茶色の頭の男の人が頭を下げて待っていた。


「あの・・・頭を上げて、あなたが木工職人?」


 顔を上げた若い人はジェローに似ていた。


「はい、ジェローの息子でポランと言います」


「ポランね、私はアンジェルよ。今回作って欲しいものがあるの。これを見て?四角い板に線を引いた碁盤というものが1枚と、基盤の上に乗せるコマが64個いるの」


 板とコマを描いた紙を見せた。


「コマ?それが64個ですか?」


「コマは丸く削り上下になる部分を平らにして、平らな部分の片側が白でもう片側は黒にしてほしいの。四角い板は厚めにして半分に折れるようにしたいから、2枚の板にして裏側に蝶番を付けてね。64個のコマを入れる小箱もいるの、あと板と小箱が一緒にできるように収納箱も。このセットを一先ず、3セット作って1セットは先に届けてくれると嬉しい」


 コマは大人が指で持ちやすい厚さで碁盤の目よりちょっとだけ小さくして、紛失することもあるから、予備を3個追加で合計67個にして、と最後に伝えた。

 みんなが遊べるように・・・アンの相手が大人しかいないしね・・・あっシャル兄さまがいたけど遊ばないよね・・・きっと。


 一気に説明したらから、ポランが困ったような顔をしていた。


「板は1日で3枚出来ますがコマは同じ大きさに揃えるのが難しいです。これは何日かかるかやってみないとわかりません。同じ大きさのコマが出来たらヤスリで表面を滑らかにして、表に色を塗り乾かすのに1日、裏に色を塗ってまた1日乾かすことになります。時間に猶予はありますか?」


「1セットは出来るだけ早くほしいの」


「コマは見本を作って複数人の職人がやれば早いかもしれませんが」


「今は色々な人の目に触れてほしくないから、少ない人数で信用できる人に作って欲しい」


「仕事は依頼主や仕事内容を漏らさないのが基本ですから、信用して頂いて大丈夫です。工房で私を含めて3人で始めてみますが、それでも1セットに10日はみてほしいです。手間がかかる仕事なので3セットで小銀貨6枚になると思いますが、いかがでしょうか?」


「小銀貨6枚でいいよ。ソフィ、前金で小銀貨2枚渡して」


「かしこまりました」


 ソフィは手に持っていた袋から小銀貨2枚を出してポランに渡した。


「前金を頂けるとは思っていなかったです、ありがとうございます」


「手間がかかるからね」


 ポランはすぐに材木店にコマになる木を買いに行くと言って張り切って帰っていった。


「アンジェル様、息子に仕事下さってありがとうございます」


「ジェローの息子と聞いたので信用できるかと思って・・・それとね、ジェローにもお願いがあるの」


「また何か植えるのですか?」


「植え替え用の鉢が欲しいの」


 プランターカバーごと鉢を3つ、ユーゴが持ってきた。


「えっ・・・?」


 葉っぱが8枚も出ていたら驚くよね


「えっと・・・日当たりが良いいから凄く育った・・・の」


「えっ?」


 ジェローは「えっ?」しか言わないね。


「もっと深くて大きい鉢に植え替えしたいの」


「もっと?」


「うん、もっと」


「は・・・い?」


 急に葉っぱが出たことは理解できないけど、植え替えはやるよって言っているのかな?・・・たぶん


 ジェローは大きな鉢に1つずつ植え替えして3回に分けて持って来てくれた。プランターカバーに入れたら重いものね。

 ジェローが入れ替え作業している間に、姫ポムに魔力をちょっとだけ注いでおいたよ。姫ポムの実はまた少し大きくなっている。赤くなったら貰えるかな?

 後で聞いてみよう・・・今聞いて見にいかれたら、ジェローはきっと「えっ?」さえ言わなくなって無口になるかもしれないもの。


 植物を育て、これからは仔犬のお世話とお勉強とそのうちリバーシも出来てくるし、お店の計画もある。シフォンケーキの型も出来てくる頃には王都から二コラたちもやってくるはず。することが増えるね。

 それと春に仔馬を貰えないかな・・・?



 最近はなんだかする事がイッパイ。いろいろ思いつくことがあって、気がついたら行動している。ずっと寝てばかりだったけど、最近は寝込む回数が減ったからかも。

 そう言えば最後にキリーと遊んだのは王都の庭だったよね。今ごろは南の湖でのんびりしているのかな?どうしているのかな?・・・会いたいな。

 淋しいけど・・・今日は大丈夫。午後になったらミラに会える・・・足が良くなって一緒に走ることが出来たらいいな。

次回の更新は1月17日「22、ひ弱令嬢の思いつき」の予定です。

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