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2、父、アレクサンドル視点

 私は大領地の領主であり、国の砦と言われている辺境伯の当主アレクサンドル・テールヴィオレットだ。


 溜まった仕事を片付け、息抜きがてら庭に咲き誇るローズを執務室の窓から見ている。妻のステファニーが好んでいるローズは、花の中心が黄色く外側に向かってオランジュ色から明るい赤に変わるグラデーションが美しい。

 西の大領地から来た庭師が苗を増やし春の1の月から秋の3の月まで途切れることなく咲くように調整してくれている。

 冬の1の月から3の月迄は温室で咲かしてくれているからローズはいつも咲いていると言う事になるな・・・。さすが、苗と一緒に連れて行ってくれと言っただけある。実に優秀な庭師だ。


「声が聞こえるな・・・ベルとアンか?」


 ローズを眺めていたら、次男のベルトランと末娘のアンジェルが手をつないで庭に出てきた。今日はアンの体調がいいようだな。

 これからどこに行くのか?だがなぜコートを着てさらにストールまで巻かれている?汗をかいて逆に身体が冷えるのではないか?よく見ると手袋までしているではないか。ベルよ、いくらアンが虚弱とは言え・・・もうすぐ夏の1の月だぞ・・・。

 窓を開けて声を掛けようとした時、ベルを呼び止める声が聞こえた。

 侍女のブリジットが慌ててやって来て、アンのコートとストールと手袋を剥ぎ取っていた。ブリジットと共にやって来た侍女見習のソフィに一緒に行くよう指示しているのだろう、ベルトランからバスケットを受取りソフィに渡している。

 ストールがなくなり首元がすっきりしたアンに、ブリジットがつばの広がった日よけ帽子を被せた。帽子の下から少し出ているステファニーと同じミルクティー色の髪が風に揺れた。

 私の娘は小さいが・・・とても可愛い。おもわず緩んだ顔を慌てて引き締めた。

 首から下げているお守りがちらっと見えたが、ソフィが服の中に入れている。ソフィも気が利くようになり成長が伺える。

 ソフィをアンの侍女として付ける為、ブリジットに教育を頼んでいる。ブリジットは長男ノルベールと次男ベルトランの乳母だったが、今は信頼できる侍女長だ。


 ノルベールは今年15歳で成人し、ベルトランも12歳になっている。2人とも7歳以降は侍従を付けた。

 3男のシャルルも昨年魔力検査が終わり、その後は侍従を付けている。

 来年アンは7歳になり、魔力検査の為神殿まで行く予定だが、虚弱で身体は細く小さい。とても7歳には見えないだろう。

 これまでブリジットには随分と助けられた。新しく雇った侍女では虚弱なアンの世話は難しい・・・表だって言えないこともありブリジットには負担をかけてしまったが、ソフィの侍女教育が終われば侍女長としての仕事に専念できると思う。





 6年前・・・。精霊巫女様の件で、ユルリッシュ国王陛下より4大領地の領主達が呼びだされ王都に向かった。

 3日間夜空に流星が降りそそぐ夏のメテオール祭だというに、祭りの初日は会議だった。精霊巫女として長きにわたり5ヶ所の精霊樹に祈りと魔力を注いできたイザベル様の力が弱まっているらしい。まだ新たな精霊巫女様が表れていない為、今後の事が不安視される中、早々に次代の精霊巫女を探し出してほしいとイザベル様より語られた。


 メテオール祭の最終日の夜は珍しく月が出ていた。イザベル様は夜にもかかわらず、精霊樹シェーヌサクレに魔力を注ぎ続け、遂に魔力枯渇によりお倒れになった。イザベル様は目を覚ますことなく、そのまま精霊の地へとお見送りすることになってしまった。


 2週間後に王族と大領地の領主、そして神殿関係者のみで精霊巫女様の御見送りの儀が執り行われた。

 これから新たな精霊巫女様を見つけなければ国を守る結界が弱まり、土地の魔力も不足する。各領地の作物も育ちにくくなるのではと懸念されている。

 イザベル様の希望通り、新たな精霊巫女様が見つかるまでは王族と大神殿の神殿長や神官たちが王都の精霊樹に、そして4大領地にあるそれぞれの精霊樹には領主とその親族および中神殿の神殿長と神官が定期的に魔力を注いで行くこととなった。

 毎年、秋になるとそれぞれの精霊樹は実をつけ、10㎝以上の実は魔力が多く含んでいるため、大神殿を通して精霊樹シェーヌサクレに供えることは例年通りだが、大きさに関わらず瘴気を含んだ黒色の実は、新たな精霊巫女様が現れるまで当時7歳だった第三王子、テオドール様が浄化を担うことになってしまった。




 御見送りの儀とその後の会議を終え、急いで自分の火龍マァルスに乗り護衛の龍騎士と共に北の領地へと向かった。

 馬車でなら2週間かかるが、龍に乗り無理をすれば最短3日で帰れる。しかし龍舎のない宿には泊まることができない為、龍舎のある中領地や小領地の領主邸に毎回世話になっている。この時は急ぎのため、宿泊のみ世話になり早朝には出発し領地に戻った。

 龍舎にマァルスを戻して魔力と果物を与え労い、龍舎の者に龍を休ませるよう頼んで急いで屋敷に向かった。

 いつものように執事のバスチアンが迎えに出ていたが、屋敷の中に入ってもステファニーの姿はなかった。・・・まさかもう生まれてしまったのか?・・・不安になりバスチアンに声を掛けた。


「ステファニーは休んでいるのか?」


「奥様は昨夜から起き上がることが出来ずお部屋で休んでおられます、食欲もあまりないようでございます」


「そうか、すぐステファニーの部屋に行く、まだ生まれていないのだな」


「はい、まだその予兆もございません。女医を呼んでおりますので間もなく到着する予定です」


 バスチアンがステファニーの部屋の扉をノックし声を掛けると中から侍女が扉を開けた。直ぐに部屋に入り奥の寝室に目を向ける。


「ステファニーは起き上がれないと聞いたが、話は出来るか」


「熱が高いため臥せっておりますが、少しの時間でしたら・・・」


 バスチアンは部屋には入らず「医者を迎える」と言って下がって行き、侍女は奥の寝室の扉をノックして声を掛けた。


「奥様、旦那様がお戻りになられました」


「・・・どうぞ」


 ステファニーの力のない声が聞こえたので、直ぐに寝室に入りベッドに入っているステファニーの熱っぽい顔を覗き込んだ。


「アレクサンドル様・・・お出迎えも出来ず、申し訳ございません」


「いや、問題ない・・・熱があるようだな」


 顔が赤く息も苦しそうだ。横の台に置いてあった桶の水を水魔法でさらに冷やしてタオルを浸した。


「旦那様、わたくしが!」


 慌てて侍女が声をかけてきたが、それを制しタオルを固く絞って額の汗を拭き、別のタオルを水に浸し今度は軽く絞って額にそっとのせた。


「ステファニー、水は飲めるか?」


 テーブルに用意されてあった水をグラスに少しいれ、ステファニーの背を支えながら飲ませた。


「美味し・・・い、ありがとうございます」


 微笑んでいるが、3男のシャルルの時より辛そうだ・・・。手を握り励ます事しか出来ず、不甲斐ない上に不安で仕方がない。無言のままベッドの傍らにいると、ノックの音が聞こえた。

 扉の外から「旦那様、女医が見えました」とバスチアンの声がし、扉が開けられると見慣れた女医が入って来た。


「アレクサンドル様、ご無沙汰しております」


 黒髪を後ろで一つにまとめ、ひざ上まである長い白衣の前を空けて歩いて来る姿は、15年前の長男の出産の時から世話になっているニレット・モロー女医だ。


「モロー女医、また世話になる・・・ステファニー、執務室にいるので診察が終わったらまた顔を見に来る」





 執務室に来てみたが、仕事に集中できず庭のローズをぼんやり眺めていた。暫くすると扉がノックされ、バスチアンが中に入ってきたが、顔色が良くない。


「診察が終わりましたが、モロー女医を応接室に通しております」


「わかった、すぐ行く」


 応接室にわざわざ通したという事はステファニーに何かあったのか?机上に広げたままの書類を急いで片付け、応接室に向かった。



 モロー女医が緊張した顔で立っていた為、ソファーを進めて座らせるとすぐに口を開いた。


「ステファニー様ですが、あまり良い状態とは言えません。シャルル様の時も予兆が現れてから発熱され心配いたしましたが、今回は予兆前からすでに高熱が出ております。更に熱が上がるようであれば、意識が保てなくなり・・・大変申し上げ難いのですが・・・このままでは母子のどちらかが・・・」


 直ぐに返事が出来なかった。子を失うなど・・・ましてやステファニーを失うなど考えられない。


「何か・・・対処方法はないのか・・・」


「あまり強い薬は出せませんが、解熱作用のある薬湯は飲んで頂きましたので、あとは様子を見るしかございません・・・容態が変われば直ぐに呼んでいただきますよう、今夜から御用意頂いた客間で待機させていただきます」


「ああ・・・宜しく頼む」


 女医が部屋から出て行ったあと、再びステファニーの部屋を訪れたが、赤い顔のまま浅い呼吸を繰り返し苦しそうに眠っていた。

 目を離さないよう侍女に告げ、一旦部屋に戻ったが仕事は手に付かない。

 ベッドに入っても眠れず、頭を抱えるだけだった。

 先程から聞こえていた雨音が急に強くなってきた。


「雨のせいだ・・・雨音が気になったせいだ」


 眠るのは諦め、机の横の棚から酒を出しグラスに注ぎ、一気に飲み干した。


「ステファニー・・・」


 呟いた声は突然激しく降り出した雨の音にかき消えた。ほとんど眠れず、良い考えが浮かばないのは雨音が煩いからだと思いたかった・・・。

 北の精霊樹のある方角の窓に向かって膝を折り祈る。


「精霊王レスプラオンデュール様、その眷属の4大精霊よ。そして彼らに仕える精霊たちよ・・・どうかステファニーと生まれる子の命をこの地に繋げて下さい」


 なぜこのようになったのか、シャルルは兄二人より魔力が少し多かったが無事に生まれた・・・今生まれようとしている子はもっと魔力が多いのだろうか?


 いつの間にか雨は止み、窓のカーテンの隙間がほんのりと明るくなりはじめ、外は朝を迎えようとしている。

 不意に扉がノックされ、バスチアンが「奥様に予兆が現れました」と知らせに来た。慌ててステファニーの部屋に向かう。

 予定より少し早い・・・。


 部屋に入ると、ステファニーは予兆のせいなのか時々苦しそうに眉を寄せている。

 予兆の時は毎回苦しそうだったが、それでも私と目が合うと微笑んでくれる余裕があったような気がする。

 しかし・・・今回はとても余裕があるようには見えなかった。


「今夜から明朝にかけて生まれると思われます、先程ステファニー様が・・・おしゃっていたのですが・・・万が一の場合は・・・お子様を優先するようと・・・」


 女医は言いにくそうに伝えてきた。それほど危険なのか?・・・ステファニーを失うなど考えられない。


「ステファニーと・・・話をしたい」


「少しの時間でしたら」


 ベッドに近寄り「ステファニー」と声を掛けた。


「女の子かしら、楽しみだわ・・・もし女の子ならアンジェルと、私たちの天使よ・・・お、男の子なら・・・プロスペール、幸運な子になるわ。アレクサンドル様、信じましょう・・・きっと・・・きっと・・・精霊の御加護が・・・」


 苦しいはずなのに微笑むステファニーを見て、うなずくしかなかった。母子ともに元気であるよう精霊に再び祈ろう。

 どちらかをあきらめる事などないのだと、ステファニーの手を握りそう思った。

 ステファニーは予兆の痛みと高熱で意識が薄れ始めてきたようだ。


「ステファニー!気をしっかり持ってくれ」


「ステファニー様の様子は私が見ます、大変恐縮ではございますが、そろそろお部屋から移動願えますでしょうか」


 女医から早く部屋を出るように言われてしまった。また、長い夜が始まるのか・・・残念だが今私に出来る事はない・・・諦めて退出しようと立ち上がった時、音が聞こえてきた。


 ・・・コトン・・・コトン・・・

 コトン、コトン、コトンコトンコトン


 窓の外のテラスに何かが落ちたような音がした。ここは2階だが・・・テラスに何かいるのか?

 窓を少しだけ開けそっと外を覗くと床に白い実がいくつも落ちていた。周りには誰もいない・・・鳥が落としたにしては数が多い。

 窓を開けてその白い実を拾おうとしたら、目の前を白い実がいくつも通り過ぎた。


「はぁ?」


 声は出てしまったが、咄嗟にその実を1つ掴んだ・・・これは北の精霊樹プラターヌの実ではないか。なぜここに・・・しかも白い実は摘み取ってはならぬと代々言われてきた。

 開けた窓から白い実がいくつもステファニーのベッドにフワフワと向かっていき、静に落とされていく。

 布団から出ていた手に触れた白い実は紫色に変わりながら膨らんでいく、髪に触れただけでも紫色に変わっていった。

 ステファニーの身体から魔力が溢れているのか?魔力がステファニーの身体から少しでも減ってくれたら、ステファニーと子が助かるかもしれない・・・ふとそんな気がした。

 テラスに落ちた白い実をすべて拾いステファニーに握らせ、首元や肩にも置いた。

 あっという間に紫色に変わって大きく膨らんでしまった。どれだけの魔力が溢れていたのだろうか?

 それにしても・・・なぜ実は運びこまれた?誰が運んで来た?・・・精霊なのか・・・?


 目を見開き周りを見渡したが、何もない。精霊の姿など今まで見たことがないのだから・・・見えるはずもないか。

 訳が分からないが、とにかく今はステファニーを助けたい。

 ベッドからは少し離れた所にある、開けたままのテラスの窓は、もう白い実はなく僅かに風が入って来るだけとなった。

 目を丸くして固まっていた侍女があわてて窓を閉めようとし、女医はベッドに残った僅かな白い実と膨らんだ紫の実を交互に見た後・・・口を開けてぽかんとしている。


「ア、アレク・・・サ、ンドル様・・・ううっ!」


 ステファニーが声を発したがすぐに痛みをこらえるような声に変わった。


「ステファニー!・・・意識が戻ったのか」


 声を掛けたが、女医に部屋から出るよう再び言われてしまった。

 侍女に紫の実を回収しておくように伝え、仕方なく執務室へ戻ったが、何も手に付かず不安だけが押し寄せる。

 そんな時に扉がノックされた。

 扉を開けるとノルベールとベルトランが不安そうな顔で立っていた。バスチアンに無理を言って話を聞きだしたらしく、共に精霊に祈ると言い出した。

 まだ9歳と6歳の兄たちは幼いながらも母と4番目の子の心配をしていたらしい。

 息子たちと共に、精霊王とその眷属4大精霊、そして彼らに使える精霊の眷属たちにステファニーと新たに生まれる子の無事を祈った。


 どの位時間がたったのだろう。遅い夕食を終え、子供達にはもう休むように言い、何かあれば必ず呼ぶと伝えた。


 昨夜も碌に眠っていなかったせいか、ソファーで眠ってしまったらしい。

 何かの気配を感じ周りを見渡したが・・・何もない・・・。


「気のせいか」


 ・・・ポツリと呟いた。

 プラターヌの実はステファニーと子を救うために運ばれたのだろうか?いたずら好きの精霊の仕業なら・・・そのいたずらに感謝しかない。

 窓を見ればうっすらと空が白み始め、また朝がやってきた。意識が薄れかけた時に扉をノックする音が聞こえた。

 少しふらつきながら扉を開ければ、バスチアンから女医が呼んでいると伝えられた。


 はやる気持ちを抑えつつステファニーの部屋に行き、扉を開けて直ぐに女医を探した。


「無事か?2人とも無事なのか?」


 寝室に行くと眠っているステファニーとベッドの横にあるベビーベッドに赤ん坊が眠っていた。


「おめでとうございます、アンジェル様とお呼びしてよろしいですか」


 女医が微笑んだ。


「そうか・・・女児か・・・無事に生まれたのだな。ああ・・・アンジェルだ。名前はアンジェルだ」


 無事だった・・・膝から崩れ落ちそうになるのをグッと堪えた。


「ステファニー様は疲労が激しいため暫くは安静にしていただきますよう、アンジェル様は熱があるため様子を見ながらと言う事になりますが・・・その・・・」


「ステファニーは無事なのだな、ん?・・・アンジェルに何かあるのか?」


「いつの間にか小さな白い実を握っておられ、取り除いても再び白い実が握られているのです」


 アレクサンドルは赤ん坊の握られた手に触れ、指を少しだけ広げてみた。

 小さい白い実がほんのりと光を放っているように見える。これもプラターヌの実か・・・。

 プラターヌの実は稀に赤やピンクかかった薄紫の実がなるが、10㎝を超える濃い紫の実がなった場合は魔力を強く含んでいる為、王都の大神殿に捧げることになっている。

 右手を胸に当て、頭を垂れる・・・。


「昨夜、ステファニーのベッドに落ちてきた実と同じか・・・精霊の加護に感謝を」


「実を口にしないように握られた左手に手袋をかけますので、ご了承願います」


「ああ・・・そうしてくれ」


 了承すると女医は侍女たちにステファニーの薬の説明とすぐに小さな手袋を用意する事と、乳児の肌は弱いので日に3度手袋の中を確認するように伝えていた。

 実のことは女医を含くめ、侍女たちに口外を禁じた。


 ステファニーは3日間眠り続け、身体の負担が大きかった為ベッドから出られるまで1か月を要した。

 漸く生まれたアンジェルは、すぐに熱を出し母乳もあまり飲めない為、成長の遅れが懸念された。

 生まれた時に握っていた白い実は徐々に薄紫になり、なぜか定期的に白い実がベビーベッドの上に置かれていた。

 ハイハイをする頃にはいつの間にか実は消えていたので手袋はしなくなったが、熱を出す頻度は変わらない。

 ハイハイを始めたのは1歳近くになってからで、上3人との成長の違いに本当に育つのかと不安を覚えものだ。


 2歳になると支えがあれば数歩は歩く事ができるようになったが、また白い実が手に握られていた。

 どこで拾ったのか不明だが持っていると機嫌が良く、熱で寝込む日数が短いような気がすると、アンジェルの世話をしているブリジットより報告があった。

 白い実は遊びなど何かに夢中になっている時に、手から転げ落ちる事が多くなってきた。

 乳児の時のように手袋をすると指の動きの妨げになり発達が遅れる可能性もある為、白い実は布の袋に入れて首から下げることにしたが特に問題はなかったようだ。

 天井を見つめて手を伸ばしたり、窓を開けた時に急に手を伸ばしてキャッキャッと笑いだしたりして機嫌が良くなり、何かを追いかけるように動き出す事が毎日のようにあった。

 不思議なことは多かったが、3歳になった頃からそう言った行動は全くなくなりホッとした。


 4歳の頃には白い実が薄紫に変わると5㎝程の大きさに膨らむようになった。実がもし10㎝を超えたら、大神殿に捧げることになるのだろうか?この事を公にしていいのか迷っていたが、5歳になっても5㎝以上大きくなることはなかった。

 この実がアンジェルとどんな関わり合いがあるのか、精霊の加護なのか、もしくは・・・今不在の巫女・・・いや、この先は・・・考えないように思考を止めた。


 6歳になった今も袋に入れた実は首から下がっているが、いつまで続ければいいのか?・・・命を継いでいる実なのかは未だわからない。

 少しでも成長して元気になってほしいと願っている。

 アンジェルの魔力で膨らんだ実は感謝を込めて精霊樹プラターヌの地の祭壇に捧げている。

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