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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第1章 北の大領地の辺境伯令嬢

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19/70

19、ひ弱令嬢は再び伯爵邸へ

いつも「ひ弱」を読んでいただきありがとうございます。

昨年に引い続き、今年もどうぞ宜しくお願いします<m(__)m>

 ついに王都を離れる日・・・になっている。


「・・・もう」


 ・・・アンだけ置いて行かれたの。

 お父さまとお母さま、ベル兄さまとその護衛たちは既に出発したらしい・・・。

 熱を出したわけではないよ・・・出歩き過ぎて疲れたせいで起き上がることができなかっただけだよ。

 起こされても動けなくてその翌日もお昼近くまでベッドでウトウトしていただけなの。ノル兄さまはアンが初めて街でお買い物をして嬉しそうだったから止めなかったらしい。2日後の出発はアンを置いて行く事は、決まっていたと聞いてちょっと驚いた。お父さまが疲れたらすぐに屋敷に戻るように言っていたけど、最初から戻ってくるとは思っていなかったみたい。


「アンは明日の朝の出発でいいわ、私たちはこれ以上出発を遅らせられないから先に行くわね」


 枕もとでウトウトしてしながらお母さまの声を聞いたような気がする。


「先に行っているからね、後からノル兄上と帰っておいで」


 いつも優しいベル兄さまさえ待つ気はなかったらしい・・・悲し過ぎる。

 出発が1日延びたと言う事は、午後からやってくるニコラたちに会えると言う事だよね。これはこれで良かったかも・・・。


 何とかベッドから出て着替えさせてもらい、おんぶ紐で卵を背負った。遅い昼食を取るため食堂に向かったけど、ノル兄さまの姿はない。いるのは最近見かけていなかった侍女長と侍女だけ。


「エメリーヌ、ノル兄さまはサロンにいるの?」


「いえ、先ほどお出掛けになられました。王城に行くと伺っております」


「王城に?」


「はい、今日は夕食も不要とのことですから、お帰りは遅いと思います」


「そう・・・」


 今日も一人だよ・・・そうだ、キリーと遊ぼう。


 食事を終えて、庭に行って見たけどキリーはいなかった。ユーゴがきっちり見張っているけど、何もしないよ・・・。

 キリーは南に渡って行ったのかな?仕方がないからサロンでお茶を飲むことにしたよ。窓から外を眺めても退屈なのは変わらない・・・。

 背中の卵はいつ孵るのかな?孵ってくれたら一緒に遊べるかもしれない。ベル兄さまは、卵の事やキリーの事が記載された文献などがなかったから、今度は王城の図書室に行ってみたいとお父さまに伝えていたものね。今度っていつだろう?もしかして今日ノル兄さまが王城に行ったのは卵のことかな?

 でも・・・ノル兄様が調べるかな?違う用事かな・・・?うーん・・・。

 疲れがまだ取れないのかボーっと考え事をしていたら、何だか眠くなってきた・・・。


「アン・・・?」


「ん?・・・茉白?」


「そう・・・久しぶり、王都は楽しい?」


「久しぶりだね、楽しいけど、今は暇なの・・・そうそう、癒しの魔法を覚えたの」


「魔法って凄いよね、もうめっちゃファンタジーだね」


「めっちゃ?ふぁん?」


「とっても素敵ってこと」


「そうなの?」


「私のいた世界に魔法はなかったから」


「ないの?魔法がなくても病気やケガを治せるの?アンはもっと勉強をして病気も治せる魔法を覚えたいの」


「手術をしたり薬を飲んだり、ここより進んでいるかも。でも魔法は凄いよね。怪我はすぐに治るのでしょう?アンは頑張って凄い魔法使いになってね。ねぇ、そういえば夏の3の月の3週目とか秋の1の月とか以前言っていたけど、月日を表しているの?」


「そうだよ、1週は7日あって金の日、白の日、赤の日、緑の日、青の日、黄の日、紫の日で、金の日は仕事がお休みで紫の日もお休みだったり半日だけ仕事をしたりするの。1ヶ月は4週で、一年は12ヶ月、春の1の月から始まり、春夏秋冬でそれぞれ1の月から3の月まであるよ。茉白のところは?」


「1週間は7日で、1年は1月から12月までだから同じだけど1ヶ月は30日と31日があるから月間の日数が違うね。春は3月から5月、一年の始まりは1月で冬なの。1月に成人式と言うお祝い行事があって、成人は18歳だけど飲酒や喫煙は20歳からとかいろいろ面倒だよ」


「こちらは15歳で成人なの、一番上のノル兄さまは16才だから、もうお父様のお仕事をお手伝しているよ」


「へぇー、早くに大人になるんだね。だからお店の経営とか利益配分なんて言葉を理解できるのかぁ」


「茉白もリエキハイブンと言う言葉を知っているの?」


「うん、大学で勉強していた・・・病気で最後まで学べなかったけどね」


「あ・・・思い出せてごめんね」


「ううん、大丈夫。病気の事は覚悟をしていたから、でもこっちに心だけ来るとは思わなかったけど・・・ところで王都にもお店を作る事になったよね」


「そうなの・・・王妃さまが楽しみにしているって」


「そっか、シフォンケーキはメレンゲを作るのが大変だから、メレンゲのいらないケーキも焼いてみたら?こっちの世界は砂糖が高いんだよね?他のケーキにしても砂糖の消費量はあまり変わらないかもしれないけど」


「ケーキ・・・?あっ、うんいいかもしれない」


「それと人を雇うと人件費と言って人にもお金が掛かるでしょ。1日中同じ作業が必要なわけではないから、経費削減のために必要な時間だけ働いてもらうのはどう?ちょっとだけ働きたい人を雇ってみるという方法もあるよ。学生の夕方のみとか主婦の午前だけ、足の悪い人は腕を遣ってメレンゲ担当にするとか、アルバイトとかパートって言うんだけど・・・お金が欲しいけど長くは働けない、働きたいけど毎日は無理とかいろいろ事情がある人、ケーキを作るレシピを他に漏れないために1部分だけを作業するとか、ジャムを作るための果実の採取なら子供も出来そうじゃない。材料や分量、焼き方は信用できる料理人のみ任せると言う方法もあるよ」


「いろいろな働き方・・・」


「人が多いと時間や賃金の管理が面倒だけど、誰が何日、何時間働いたってなるから日払いにするとか、週払いにするとかアンのお父さんに相談してみたらいいよ」


「そんな方法があるの?相談してみる。ありがとう」



 ハッとして目が覚めた・・・いつのまにか眠っていたらしい。

 久しぶりに茉白と話をしたけど、眠っている時にしか出てこないのかな?

 ボーっとした頭で考えていたら、孤児院の子供たちが1階の従者が使う談話室に来ていると侍女が教えてくれた。

 さっきまで居眠りをしていたので思わず口の周りを確認してしまった・・・大丈夫、よだれは出ていない。


 ユーゴにニコラたちの所に行きたいと言ったけど、今はそれぞれの仕事の内容やここでの生活についての説明をしているはずだから、行かない方がいいと言われてしまった。

 夕食後なら会いに行ってもいいかと聞いたけど、明日は必ず出発しなければいけないのでおとなしく過ごすようにと言われ、食事が終わるとすぐに部屋まで送りとどけられてしまったよ。

 ・・・思うように行かない日だった。





 おとなしくしていたお陰で朝から元気いっぱいだ。

 朝食を済ませてから、抱っこ紐で卵を抱えてノル兄さまの龍に乗って出発した。ユーゴとノル兄さまの護衛と龍騎士が1人だから行く時と違って、小さな部隊だね。

 そんな事を思っていたら、ノル兄さまは何故か嬉しそうしている。


「近いうちにまた王都に行きたい」


「ノル兄さまは王都で何か面白い物でも見つけたの?」


「そのうちわかるよ」


 聞いても教えてくれなかった。面白いことは独り占めしちゃいけないのにね・・・。

 軽く息を吐きながら青い空を見て思った。龍はいいなぁ・・・早く10歳になって龍に選ばれたい。お父さまやノル兄さまのように龍と空を飛べたらいいな。でも龍騎士になると龍とずっと一緒だから、アンは結婚をしなければいいのかな?それとも・・・結婚相手が龍騎士でなければいいのかな?そういえばパトリック伯父さまは龍を持っているのかな?


「パトリック伯父上も龍は持っているよ」


「え?どうしてアンの考えていることがわかるの?」


「声が洩れていたからね・・・クッ」


何で笑いをこらえているの?


「い、いつから?」


「結婚相手が龍騎士でなければいいのかな?・・・からかな?」


「・・・う」


「結婚の事はまだ早いと思うけど、相手は龍騎士ではない方がいいのかい・・・?アンは龍に乗る事に不安はないだろう?」


「うん!飛ぶのは楽しい」


「そうか・・・アンが男の子だったら龍騎士になれたのにね」


 うっ・・・さり気なく否定されている。あまりうれしくない話を聞きながら休憩を挟んだりして、漸く以前泊まった立派な宿に着いた。宿には前回と同じく、王都の屋敷から来ている侍従と侍女が待っていて、すぐに湯浴みをさせられ着替えもしてやっと個室の食堂に向かったら、ノル兄さまが既に待っていてくれた。のんびり食事を楽しんで、ふと思いだしたことを聞いてみようと思った。


「ノル兄さま、侍女長のエメリーヌの姿が暫く見えなかったけどこちらに帰る前日見かけたの。エメリーヌも忙しかったの?孤児院から人を迎える準備で忙しかったのかな?」


「いや、店の件にエメリーヌは関わっていないよ・・・ただ・・・真面目で責任感が強い人だからね」


「うん、エメリーヌはとって真面目な感じがする」


「アンが・・・ふっ・・・キリーに乗って走り去っただろう?あの時は屋敷内が大騒ぎになってね、侍女たちは人を呼びに行ったりユーゴは走って追いかけたりしたけど、エメリーヌはアンが攫われたと思ってショックで気を失ってしまったから」


「あぅ・・・」


あの時だ・・・後ろの方からドサッと誰かが倒れたような音がしたけど、エメリーヌが倒れた音だったよ・・・心の中で再び謝っておこう・・・。


「エメリーヌは気を失った自分の事が許せなかったらしい。仕事を全うできなかったので退職して実家に帰ると言い出して、母上が止めたのだよ」


「そんな・・・辞めなくて良かった」


「そうだね・・・アンはいつも人を驚かせるから、こんな事で退職されたら侍女がみないなくなってしまうと母上が困っていた。アンに関しては気にしなくても良いし、生き物はこれ以上屋敷には増えないから、退職はせず今まで通りで何ら問題はないと説得したようだよ。」


「知らなかった・・・エメリーヌに迷惑かけたのね」


「かなり驚いたようだけど・・・エメリーヌなりにキリーに慣れようと考えたようで、夜に蒸した丸鶏の肉を持って庭へ行ったと陰で見ていた護衛から報告が上がっていたよ。食べさせようと恐る恐る近寄って差出したらしいのだけど、キリーがそれを見て驚いて走って逃げたらしい。エメリーヌなりの歩み寄りだとは思うけど・・・」


「エ、エメリーヌはキリーが鳥だと知っていたのですよね?」


「そこは流石に聞けなかったよ・・・キリーはあれから夜に庭へは来なくなったみたいだしね」


「キリーが学習したの?」


「そうとも言うのかな?」


 そう言えば2日前からキリーを見ていない、鶏肉に驚いたのか・・・南に行ったのか・・・ちょっと心配になった。

 夜もベッドでキリーのことを考えていたはずなのに、気がついたら朝を迎えていた。子どもはすぐ寝ちゃうね・・・。



 翌日は朝食後直ぐに出発し、次の宿や子爵邸に泊まりながら4日目の午後に無事パトリック伯父さまのところに着いた。



「ノルベール様、アンジェル様お待ちしていました」


「予定が何度も変更になり申し訳ない」


「どうぞお気になさらず、時間の許す限りゆっくりしていって下さい」


「パトリック伯父さま、またお世話になります」


「いつでも大歓迎ですよ。もしよろしければ前回行けなかった豚舎に行きませんか?3日前に仔豚が生まれたのです」


 パトリック伯父さまはいつもかがんでアンと目線を合わせて話してくれる。前回と同じく伯父さまの肩や頭に精霊さんが乗っていた。


「仔豚!ぜひ行きたいです。ノル兄さま、行ってもいいでしょ?」


「構わないよ、ここには2泊する予定だからね」


「パトリック伯父さま、明日連れて行ってください」


「喜んで御案内いたします、今日はお疲れでしょう。先ずはお部屋でゆっくりお休みください。夕食が整い次第お呼びいたします」


「ありがとうございます、あの・・・お父さまたちは?」


「昨日の朝、北の大領地に向かわれました」


「また・・・おいて行かれました」


「アン、父上と母上は仕事が増えてしまったからね。孤児院の子供たちの受け入れ準備もしないといけないのだよ」


「はい・・・ベル兄さまは?」


「ベルは来春の準備もあるからね・・・先ずは部屋に行って着替えて来なさい。一休みしよう」


「・・・はい」


 部屋に案内され、着替えてからお店で作るデザートの種類や働く人のことを考えていた。

 茉白が言っていた働く人や時間についてはメモしておいた方がいいかな?学院の子や主婦、けが人、孤児院の子・・・料理人も育ててもらわないといけないからね。

 料理の道具や材料の追加もしないと、お父さまとお母さま、そしてカジミールに相談かな?お砂糖は高いからケーキの値段が高くなるって言っていたような気がする。


 扉がノックされ夕食の支度が整ったので食堂に案内すると侍女が来てくれた。

 スープや美味しいお肉を食べ、デザートも残さず全て食べてとても満足した。パトリック伯父さまのところのお料理は野菜とお肉が新鮮なのかとても美味しい。

 食後はこれから出すお店の話をサロンですると、ノル兄さまが言った。


 王都で買ったお花の形のお砂糖を持ってサロン向かった。


「パトリック伯父さまにお土産です、王都の街で綺麗なお砂糖を見つけました」


「ありがとうございます、開けてもよろしいですか?」


「はい、どうぞ」


 パトリック伯父さまは丁寧にリボンを外して蓋を開けた。


「とても綺麗ですね。中々王都に行く機会がないので、こういったものを見る事も少ないです。これは、妻や娘が喜びます、ありがとうございます」


 喜んでもらえてよかった。

 パトリック伯父さまはその後、ノル兄さまとお店の件でお父さまの話のすり合わせをしていた。お父さまからの話は王都の店も同時に出すことになってしまった為、出資金は第三王子も加わる事になった事、王都の孤児院から見習いとして人がやってくるが更に人を増やさなければならない事、こちらのお店はどのあたりに出すのか等、改めて打ち合わせが必要だと話をしていた。


「アレクサンドル様はお忙しいと思いますので、私が北の大領地に向かうようにいたします」


「助かります、そのように父上に伝え、日程についてはまた改めて連絡をいたします」


「よろしくお願いします」


 今度はパトリック伯父さまが北の領地に来てくれるらしい。

 冬はカナールたちもいない・・・パトリック伯父さまが好きな動物はいないけどいいのかな?

 ・・・そうだ!グレースがいる。


「パトリック伯父さま、屋敷にはグレースがいるのです。とても大きい犬です。領地に来たら会って下さい。モフモフなのです」


「モフモフですか・・・それはいいですね。楽しみが増えました」


「アン?叔父上は仕事でくるのだけど」


「いいえ、構いません。動物は好きですから、アンジェル様ありがとうございます」


「パトリック伯父さまがいらっしゃるのを楽しみにしています」


 ノル兄さまは苦笑いしていたけど、次回会う約束をしたパトリック伯父さまはやっぱり優しくて良い人だった。




 翌日の朝の目覚めはすっきりだった。最近、随分元気になったと思う。

 朝食を終え部屋に戻ってから卵をリュックに入れ変えてポンチョをはおらせてもらい、ホールに向かうとノル兄さまとパトリック伯父さまが待っていた。

 豚舎は少し遠いので馬車で向かうらしい。馬車だとすぐ着くと言っていた。

 パトリック伯父さまだけの時は、馬に乗って行くらしい。パトリック伯父さまは龍に乗ると言っていたけど馬も乗ると言う事は、やっぱりアンは龍に乗る前に馬に乗る練習をしないといけないと言う事かな?

 いつ乗る練習をしていいのかお父さまに聞かないと。アンなら仔馬がちょうどいいかもしれない。


「パトリック伯父さまのところに仔馬はいますか?」


「仔馬は春に生まれるから、来年になってしまいますね」


「生まれたら、仔馬はどこかに行ってしまうのですか?」


「誰かに買われるか、護衛の馬になります」


「そうですか・・・余ったりしないのですか」


「余るほど生まれないですから」


 パトリック伯父さまは不思議そうに首をかしげながら答えてくれた。


「・・・そうですか」


 ちょっとがっかり。パトリック伯父さまのところではダメみたい。


「ノル兄さま、うちの領地で仔馬は生まれる?」


「生まれるけど、騎士が多いから新人騎士の馬になることが多いよ」


「そうなのね・・・」


 アンの馬になるのは難しいかもしれない。やっぱりお父さまに相談するしかないみたい。どうやってお父さまに相談するか悩んでいたら馬車が止まった。

 豚舎に着いたみたい。


「アン、何か考えていた?あとで教えて?」


「ノル兄さま・・・だ、大丈夫です。急ぎではないので領地に帰ったらゆっくり考えるから」


 慌てて返事をして馬車から降ろしてもらった。


「春に遊びに来たら仔馬も見せて差し上げますね」


 何かを察したのかパトリック伯父さまがニコニコしながら言ってくれたけど「見るだけじゃなく仔馬がほしいのです」とは言えないので「ありがとうございます」とお礼だけ言っておいた。


 パトリック伯父さまの案内で仔豚のいる豚舎に来た。真っ白いのや黒色が混じった仔豚たちがいた。真っ白いお母さん豚が横になって6匹の仔豚たちにお乳を飲ませている。お母さん豚は凄く大きかった。


「わぁー可愛い」


 仔豚たちが「プキ、プキ、プキ」と言いながらお乳を飲み続けている。大きなお母さん豚は動かないけど、アンの方を見て「プッヒ」と鳴いた。豚はプキとかプッヒと鳴くの?初めて聞いたよ。他にも沢山部屋があり、それぞれのお部屋にお母さん豚と仔豚たちがいるらしい。

 豚は沢山子ども産み、成長も早いので燻製肉やハムにして売っているとパトリック伯父さまが教えてくれた。今日の夕食にハムや燻製肉は出るのかな?この仔豚たちの伯父さまとか伯母さまとか・・・親戚筋かも。いきなり今日の夕食に出るのは少し抵抗があるかもしれない。いつか慣れるかな?


 次に隣の豚舎で大人の豚を見せてくれることになった。広い豚舎の中をのっそのっそと歩いている。とても大きくてちょっと怖い。びくびくしながらノル兄さまの後ろから顔だけ出して覗いてみた。

 パトリック伯父さまはアンの様子を見て笑いながら大きな豚の頭をなで始めると、黒色が混じった大きな豚は「プッヒ」と鳴いた。


「この豚はとてもおとなしくて嚙みついたり攻撃したりしないから大丈夫ですよ」


「プッヒ」


 豚が返事をしていた・・・キリーと一緒だね。


「タイミング良く鳴いたけど話は通じていないのです。人の声に反応して鳴くだけですから」


 キリーとは違うらしい、黙って頷いておいた。

 誰かが豚舎に入って来て、扉がバタンと音を立てた。


「プッヒ?プッヒ?」


 大人豚が扉の方を見て鳴いた。


「気にしなくても大丈夫です、餌が来たので喜んでいるのです」


 パトリック伯父さまが言った通り、豚舎の従者らしき人が餌を運んできた。沢山の豚が嬉しそうに「ブッヒ?ブッヒ?」と語尾を上げて鳴きながら、餌場に寄っていく。

 餌をバリバリと食べながら、「ブッヒ?ブッヒ?」と言っている。パトリック伯父さまの所はミルク牛も語尾が上がっていたよね?


「雑食で何でも食べるけど豚大根を切って小麦と混ぜるとたくさん食べてくれるので、大きくて丸々と太った豚になるのですよ」


 従者らしき人が言いていた。


「豚大根?」


「甘いのですが・・・煮ても泥臭くて灰汁が強いですから我々は食べられないです。この大根の本当の名前はわからないのですが、昔から豚がよく食べるので豚大根と呼ばれています」


 豚大根と言うのは茉白の世界のお砂糖が取れる甜菜と同じじゃないかな?


「パトリック伯父さま、豚大根は畑で作っているのですか?」


「隣の小領地の子爵領に委託して作ってもらっています。妻の実家ですが、どうかしましたか?」


「その豚大根を10個ほど欲しいです」


「10個でしたらすぐにお渡しできますが・・・餌が必要ですか?」


「試したいことがあります、お父さまに相談してからになりますが」


「アン?また何かするのかな?」


 ノル兄さまが困ったような顔で聞いてきた。


「うん、カジミールに頼んでうまく行ったら教えるね、今はまだ秘密」


 口元に人差し指を立てて笑ってみたら、ノル兄さまとパトリック伯父さまは苦笑していた。

 パトリック伯父さまの所に不作の時に備えて備蓄してある豚大根の種もあると聞いたので少しだけ分けてもらった。


 北の領地に帰ったらすぐにカジミールに頼まなくちゃね。

明日1月3日は「20、ひ弱令嬢は北の大領地に帰る」の予定です。

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