13、ひ弱令嬢は伯爵の領地を見学する
朝起きると外はすでに明るくなっていた・・・あれ?完全に寝坊した?どうしてソフィは起こしてくれなかったのかな?と思っていたら、見慣れない侍女がお湯と柔らかい布を持ってきた。
「おはようございます、御身体は辛くないですか?」
「は、はい・・・大丈夫です」
声をかけられて伯爵邸だったと漸く気が付いた。
「ではお支度をさせていただきますね」
お湯に浸した柔らかい布で顔を拭いて貰い着替えさせてくれた。
侍女がおんぶ紐に戸惑っていたので、キルティング部分に卵を入れアンの背に充てて貰い、上側にある紐を肩の前に持ってきてから、下の輪へ通して貰った。前に持ってきた紐は自分で結んでみたけど、曲がっていたらしく、侍女がにっこり笑って結び直してくれた。
「ありがとう。今日は工場見学に連れて行ってもらうので、ポンチョを着て行きます」
「畏まりました、後ほどご用意いたします。では食堂にご案内致します」
食堂に行くとお父さまとお母さま、ノル兄さまは食事を終えていたようで、お茶を飲んでいた。
「おはようございます」
「おはよう、顔色は悪くないな」
「はい、大丈夫です」
「おはよう、よく眠れたかしら?身体は辛くない?」
「はい、ぐっすり眠りました」
「アン、今日は工場に行くのだろう私も一緒に行くよ」
「ノル兄さまも?」
「工場の様子をシャルルにも教えてあげようと思ってね・・・きっと羨ましがるよ」
「お土産を沢山用意しないといけないかも」
「今度は自分も行くと言い出すよ・・・フッ」
「ノル兄さまがちょっと悪い顔になっている」
「コホン・・・そんなことはないよ・・・さあ、早く食事を済ませなさない。パトリック伯父上が待っているよ」
お父さまとお母さまは伯母さまと共にお留守番をすると言っていた。
お母さまは伯母さまとおしゃべり会・・・ではなく次回のお茶会の打ち合わせをするらしい。
お父さまはお仕事かな?
すっかり遅くなってしまったので、運ばれてきたスープを慌てて口に入れた。
・・・美味しい。
燻製肉と焼いたウッフをハーブで味付けした料理はまだ暖かく、遅れてきたアンのために後から焼いてくれたのかもしれない。
パトリック伯父さまたちの気遣いが嬉しい。そういえば茉白の世界ではベーコンエッグと言われていたと思い出した。
茉白は卵料理の中で「だし巻き卵」と「茶わん蒸し」が好きと言って、お祖母ちゃんに作って貰っていたけど、「だし」というのがあったらカジミールに作って貰うのに・・・残念だよ。
食事を終えて急いで部屋に戻り、おんぶ紐からリュックに卵を入れかえてもらうよう侍女に伝えたら、珍しそうにリュックを見ていた。
パトリック伯父さまとノル兄さまと一緒にソーセージ工場にやって来た。護衛のユーゴが嬉しそうにしているのはソーセージを食べる気満々だから?
工場の周りには精霊さんが沢山いるよ。精霊さんは牛や豚、鳥が好きなのかな?
工場では、細かく刻んだ豚肉にハーブなどの香辛料で味付けし、それを豚の腸と言うものにするすると詰め込んでいくと聞いた。豚の腸とは体の中にあるものと聞いて驚いた・・・初めて見たよ。
お肉を詰める作業は、慣れないと空気が入ったり破れたりするらしい。出来上がったソーセージをお湯で茹でて、お皿に入れて出してくれた。出来立てはアツアツで肉汁が溢れてとても美味しかった。
ユーゴも1本貰っていたけど、横を向いてハフハフ言いながら食べていた。熱いからゆっくり食べたらいいのに。
それから・・・護衛はよそ見をしたらだめだよ。お父さまに言いつけるよ。
ノル兄さまは茹でたソーセージが美味しかったとシャル兄さまに伝えるらしい・・・これは悔しがると思う。
その後チーズ工場に行き、柔らかいチーズ、堅いチーズ、溶けて延びるチーズ、所々青くなっていてちょっと臭いチーズなどいろいろと味見をさせてもらった。
臭いチーズは「子どもが食べてはいけない、大人のチーズですね」と言ったら、パトリック伯父さまは声を出して笑っていた。・・・何故だろう?
次に行ったのは鶏舎でとても広かった。
鶏はアンの肩ぐらいまである大きさなのに、放し飼いになっているけど大丈夫なのかな?全身薄い灰色で目の周りと足が赤い。雛たちはカナールの雛のより色が濃い黄色だった。鶏舎にいる人が餌箱に葉っぱを入れている。
「盛り上がった藁に窪みを作って置くと、そこにウッフを産みますが、1羽がそこに産むと他の鶏たちもなぜか同じところにウッフを産むのです」
パトリック伯父さまが説明してくれた。見ると盛り上がった藁が数か所あり、そこに沢山のウッフがあった。
「ウッフを取る時は親鳥がよそ見をしている間にさっと籠に入れるのです。見ている前で取ると何度も嘴でつついてきます。3日間はウッフを取った人の顔を覚えているので注意が必要です・・・鶏舎の者が経験済みです」
経験済みって言ったけどわざと試してみたってこと?4日目は忘れているのか嘴でつつくことはないらしい。
鶏舎の人が「3日しか記憶出来ない・・・言わば鶏頭と言うやつです」と言った・・・とりあたま・・・。
「藁の上のウッフが2個残っていれば、いくつ取っても気が付かないです」
鶏舎の人が笑って教えてくれた。・・・鶏は2までしか数えられないの?
早速、ウッフ拾いをさせてもらうことにした。親鳥がよそ見したら素早く籠に入れていく、こちらをみたら手を止める。親鳥は首をかしげながら籠を見て、そして藁のウッフを見て安心したように去って行く。2つ残すという事に気が付いた人は凄いよね。
ウッフ拾いをしていたら、カナールの卵をこっそり拾ったことを思い出したけど・・・これは食べる卵だから育てないからね。
最後に牛舎を案内してくれたけど、ここにも精霊さんが沢山いる。
肉牛とミルク牛がいて、毎日放牧するらしく牛舎の横は丈の短い草が生えた土地が広がっていた。
ミルク牛が数頭戻ってきたらしく、ミルクを絞るところを見せてくれると言って、パトリック伯父さまが牛のところに案内してくれた。
ミルク牛は薄茶色の牛でとても大きく、牛の顔を見るのに見上げてしまった。
ん?目があったような気がする。
「モウ?モウ?」
ミルク牛が何か訴えているのかなと思い首をかしげていると、牛舎の人がやって来た。
「ミルク牛は鳴き声の語尾が上がります。質問されているみたいで気になりますよね・・・フフッ」
・・・紛らわしいよね・・・精霊さんも気になるのか沢山寄ってきたよ。
パトリック伯父さまは牛舎の人から大きなバケツを受け取った後、石鹼で丁寧に手を洗ってから牛の横でしゃがんだ。
「こうやってお乳を搾るのですよ」
パトリック伯父さまがするとは思わなくて、思わずパトリック伯父さまとミルク牛を交互に見てしまった。
「私が乳を搾るのは珍しいですか?仕事は先ず自分でやって試したくなるのです。はじめは上手く絞れなくて何度も練習しました。慣れると案外楽しいものです」
笑いながらミルクを搾るパトリック伯父さまの頭や肩、腕にまで精霊さんたちが止まっていた。
精霊さんはパトリック伯父さまの優しさが好きなのかもしれない。パトリック伯父さまは信じても大丈夫な人だと思った。
そんな事を考えていたら、絞ったミルクを小鍋に移し一旦沸してからカップに入れて渡してくれた。とても濃くて甘みもある。
「美味しい!」
思わず大きい声が出てしまった。
「遊びに来た時は搾りたてをご馳走しますよ、何度でも遊びにおいで下さい」
パトリック伯父さまは嬉しそうに笑い、ノル兄さまにも渡していた。
ノル兄さまは伯爵邸に来るたびに、搾りたてのミルクを飲んでいたらしい。
「フフフ、これもシャル兄さまは悔しがるね」
ノル兄さまに笑いながらちょっとだけ悪い顔して言ってみた。
「シャルルはあまりミルクを飲まないから悔しがるかどうか・・・アン・・・凄く悪い顔になっているよ・・・フッ」
笑われてしまった・・・屋敷に戻ったらミルクを飲まないと背が伸びないとシャル兄さまを脅かそうと決めた。
だけど・・・凄く悪い顔なんてしてない・・・ちょっとだけだよ。ノル兄さまの好感度順位を3番に下げようと思う。
肉牛はお肉が柔らかいけど病気に弱いおっとりとしておとなしい白牛と、とても丈夫だけど運動量が多いせいでお肉がちょっと堅いけど、うま味があるやんちゃな黒牛がいて、一緒に放牧させていたら10年くらい前から白黒模様の仔牛が生まれるようになったと、パトリック伯父さまが教えてくれた。
白黒牛はお肉が柔らかく病気にもかかりにくい、質の良い肉牛なので、今は白黒牛を中心に育てているらしい。
ただ・・・性格は混ざらずおっとりおとなしいのと、やんちゃな元気牛のどちらかにわかれるのが、残念だと言っていた。
おっとり牛は歩みが遅く、牛舎から出て戻るまで時間がかかり過ぎるため、遠くまで出せないけど放牧と言う名の散歩・・・いや3歩?歩いているらしい。
牛舎の人が「まさに牛歩ですよ、ハハハ」と笑って言った・・・ぎゅうほ・・・。
「昨日の夕食の肉はこの子の親の兄だよ」
牛舎の人が仔牛を指さして言うのでぎょっとしてしまった。命あるものを頂く事に感謝しないとね。でも・・・子どもに言わなくてもいいと思うの・・・凄く驚いたよ。
豚舎まで行く時間がなかったので次回、見学させてもらうことにした。楽しくも驚く一日はあっという間に過ぎた。見学する先々で食べてばかりいたので、夕食は入りそうもないかも。
見学を終えて部屋に戻り、お茶を飲んでくつろいでいた。
「・・・アン」
突然声が聞こえた。
「えっ?茉白?」
「そうだよ、今日は楽しい見学会だったみたいだね」
「うん。お面白くて、美味しくて、外に出ると楽しい事ばかりだったの」
「良かったね、体調も悪くないようだし。でも無理しないで」
「うん、気をつける」
「ねえ、パトリックさんの所のミルクやバター、チーズは凄く味がいいのでしょう?」
「うん、すごく美味しかった」
「美味しい材料があると色々作れるよ」
「・・・あっ!・・・そうだね」
「新鮮な材料で作るから、パトリックさんのところの限定品も出来そう。シフォンケーキとクッキー以外でもっとアイテムを増やして、お店で販売してみたら?」
「あいてむ?・・・はんばい?」
「品数を増やして売るの、人を雇ってアンは監督するだけ。事務仕事は大人にまかせちゃえばいいよ。パトリックさんのところから材料を買って作ったら凄く美味しくなるよ」
「ありがとう、お父さまとお母さまに相談してみる!」
「うん、頑張って」
ハッとして目が覚めた。ソファーで眠っていたらしい・・・毛布は伯爵邸の侍女が掛けてくれたのかな?
茉白が言っていたアイテムを増やす事と、お店・・・すぐに相談してみよう。厨房は借りられるかな?・・・道具がいるね、あるかな?なければユーゴに試食担当の仕事が出来たと言って作って貰えばいいよね。
伯爵邸の侍女にお父さまとお母さまの部屋に行きたいと伝えたら確認してくれた。
卵をおんぶ紐の背に入れると、侍女がすぐに手伝ってくれた。出来た侍女である。お礼を言って、お父さまたちの部屋に向かった。
「お父さま、お母さま、あの・・・ご相談があります」
「相談?・・・何かな?」
「厨房をお借りしたいです。今日パトリック伯父さまと工場に行ったらバターもミルクもチーズもとても美味しかったので、デザート兼食事になるものを作って食べてもらいたいのです」
「新しいお菓子を思いついたのかしら」
お母さまも興味津々な顔で聞いてきた。
「はい、夢の中で・・・」
「夢の中か・・・まずは厨房が借りられるか聞いてみよう」
「パトリック伯父さまに精霊さんが沢山ついていたの、信じてもいい人なの。だから美味しいお菓子の作り方を教えてもいい?」
「アン、ありがとう、兄は・・・アンの伯父様はとても真面目で昔から良く働く人なの。アンがそう言ってくれてとても嬉しいわ、兄も喜ぶと思う」
お母さまがとてもうれしそうに笑っていた。
パトリック伯父さまの侍従を通して厨房の件を確認してもっている間に、お父さまとお母さまには試食の後に話す内容の事で相談をした。
厨房の一部であれば使っても良いと了承を貰い、早速ユーゴと一緒に厨房へ行って道具と食材を確認させて貰った。
茉白の記憶から探った道具にトンボと言うのとひっくり返すときに使うスパチュラと言われているものがあった。スパチュラはパレットナイフで代用できるね。ユーゴに試食担当の仕事を頼みたいけどその前に、厨房にはなかったクレープ用トンボを3本作って欲しいと頼んだ。
トンボの持ち手の長さは竹串の3倍、クレープを広げる部分の長さは2倍、幅は4センチくらいでいいかな?・・・ユーゴに持ち手はアンの親指の2倍位と伝えたら「竹串と同じ太さじゃないですか」と言い出したので、ユーゴの目の前に無言で親指を立てて見せた。
「あ・・・すぐ作ります」と言ってどこかに行ってしまった。屋敷の中だから護衛はいなくてもいいのかな?取り敢えず棒の太さが理解できて良かったよ。
それにしても・・・ユーゴから見たらアンは骨だけなの?何だかもやっとする。茉白の記憶の中のおばあちゃんがやせ細った人を「ホネカワ スジコ」と言っていた・・・でもアンは細くて小さいけどちゃんとお肉もついているよ。
ユーゴにトンボを作ってもらっている間に、伯爵邸の料理長に果物を角切りにしてあまり甘過ぎないジャムを作って欲しいと頼んだ。
今の季節はポムとミルティーユがあると言っていたが、茉白の世界ではポムはリンゴでミルティーユは野生のブルーベリーだと思う、ポムは茉白の世界の西瓜と同じくらいの大きさだった。
余りにも大きいので半分はスライスしてお砂糖と酸味のあるスィトロンと言う果物の果汁を少しいれて煮てもらうことにした。
これはコンポートと言うもの。
スィトロンも茉白の世界ではレモンと呼ばれているみたいだけど、レモンよりスィトロンの方が4倍くらい大きかった。茉白の世界の果物は小さいね。
角切りもスライスも食感が残るようにと頼んだ。ミルティーユは中まで綺麗な赤紫色で粒は少し大きめだけどこれも甘さ控えめのジャムにするように伝えた。
ユーゴがトンボを作って持ってきたけど、あまりにも早くて驚いたら、護衛騎士2人に声をかけて一人1本ずつ作ったと言っていた。職人が増えたよ。
クレープはまだ広められないから、護衛騎士2人には食事のお肉を追加しておくようにパトリック伯父さまにお願いしなくては。
早速、パトリック伯父さまの立会いのもとクレープを作り始めることにした。パトリック伯父さまと料理長は、何が始まるのか戸惑っている・・・わかるよ、カジミールも同じだったからね。
試食の為、今回は小さめのクレープにしてデザート系と食事系を作ることにしたの。食事系はそば粉があればガレットが良かったけど、そば粉と同じものがあるのかもわからない。茉白の記憶を探ったけど・・・。そば粉がなくてもガレット風にはなるみたい。
普通のクレープとシュガーバタークレープとクレープシュゼットを作るよ。
料理長にクレープを広げる時は、トンボを寝かせて力を入れずに3〜4回くらい回して、生地をひっくり返すときはパレットナイフ使うように説明した。
普通のクレープは女性や子供向けあとは甘党の人ように、生クリームとジャムを添える。
これはポムとミルティーユの2種類にして・・・夏はアイスと言うものが欲しい・・・いつか作りたい。
クレープの中に生クリームやジャムなどを包んでもいいけど、今回は上からかけるようにしよう。焼いたクレープは半分に折ってもう一度折って、少しずらした4つ折りにする。
シュガーバタークレープはジャムをかけずにバターと粉砂糖をかけるだけ。
次はクレープシュゼット、オレンジはこちらではオランジュのようだ、これも大きかった・・・オレンジの4倍はある。
オランジュのスライスと果汁とバターやお砂糖を入れて煮る。最後にラム酒を入れてフランベと言う操作をして貰ってソースを作る。これをクレープにかける・・・大人の味だよね。
食事系はガレット風にした。
茉白の世界にあるフライパンと同じような形の鍋に、お砂糖を入れないクレープ生地を焼いてもらう。焼き上がったクレープ生地の上にハムとチーズを入れて、真ん中にウッフを割落とし、上下左右の縁を中心に向かって卵が見えるように折ってもらう。白身が白っぽくなったら出来上がり。横に野菜を添えるように伝えた。
早速、試食をしてもらうことになった。
パトリック伯父さまとカサンドラ伯母さま。お父さまとお母さまとノル兄さま、アンと試食担当のユーゴ・・・ユーゴはトンボを作る仕事してもらったので今回は特別にお父さまの許可を貰い、今だけ護衛騎士ではなく試食担当・・・真面目な顔を作っているいけど、目がキラキラして見える。
「見た目もおしゃれで、特にシュゼットは香りがいいです。領地で作ったバターやハムがこのような美味しい食事やデザートになるなんて驚きました」
パトリック伯父さまは目を丸くした。見た目がオシャレなのは料理長のセンス良いからだよ。
「シュゼットが美味いな」
お父さまはラム酒入りがお気に入りになったようだ。
「ポムとミルティーユのジャムは甘さが抑えられていて食べやすいわね。ポムの触感もあるから飽きずに食べられそう・・・でもシュガーバターもいいわね。」
お母さまはジャムかけクレープとシュガーバターが好きみたい。カサンドラ伯母さまもうなずいていたから好みが同じなのかも。
ノル兄さまはクレープとウッフとチーズの相性がいいと言っていた。ユーゴは・・・全部美味しそうに食べていたからどれがお気に入りなのかわからない。
「パトリック伯父さま、クレープは食事にもデザートにもなります。デザート系は季節の果物や木の実でもいいと思います」
「アンジェル様は料理の才があるとは思っていましたが、このような物まで作ってしまうとは・・・」
「パトリック伯父さま、カサンドラ伯母さま・・・アンは他にも焼き菓子なども作って、お店を開きたいと思っています。パトリック伯父さまのところで1号店を開き、その後王都にもお店を増やしたらどうかと思っています」
「「お店を・・・」」
伯父さまと伯母さまは驚いていた。
「お店の経営はよくわかりません・・・大人の人に手伝ってほしいです。どこでお店を開くのか、誰が作るのか、それに・・・お金もかかると思います」
お父さまは困った顔をしていた。
「パトリック伯父さまの所で美味しい物を沢山食べたせいかもしれません・・・だから・・・美味しいものをたくさんの人に食べてほしいと思って」
「アレクサンドル様・・・アンジェル様の考えは素晴らしいですが・・・とても驚いています・・・作るだけではなく、商売としても考えてらっしゃるなんて・・・是非とも前向きに検討させていただきたいです。バターもチーズも思う存分使って下さい」
「パトリック義兄上・・・明日は王都に向かって出発しなければならない。王都から戻って来たら具体的に話をしようと思う・・・当面は今日の事を口外しないで欲しい」
「勿論、口外はしません・・・クレープと言うのでしたね・・・実に美味しかったです。アンジェル様、材料は用意しておきますので、是非また作ってください。楽しみにしています」
「はい、また料理長さんをお借りして作りたいと思います」
考えていることを伝えられて良かったと思うと同時に、屋敷に戻ったらすぐにお店用のホイッパーの追加注文をカジミールに頼まなければと思った。
追々、シフォンケーキとパウンドケーキの型やクッキーの型抜きも用意しなくてはね。
次回の更新は12月6日「14、ひ弱令嬢は王都に向かう」の予定です。




