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ひ弱な辺境伯令嬢は龍騎士になりたい  ~だから精霊巫女にはなりません~  作者: のもも
第1章 北の大領地の辺境伯令嬢

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12、ひ弱令嬢、王都に向かって出発

 食事を終えサロン行くと、お父さまとお母さまは3人掛けのソファーにゆったりと座り、ノル兄さまはお母さま側の一人掛け用のソファーに座ってお茶を飲んでいた。


「お待たせしました」


 軽く会釈をしてお父さまたちの向かいのソファーに座った。


「食事はきちんと食べられたかしら」


「はい、お母さま」


「では早速話をしようか」


「お父さま、お母さま・・・あの、心配をおかけして・・・ご、ごめんなさい」


「ああ・・・とても心配したぞ・・・アンはなぜキリーに乗っていたのだ?」


「キリーが乗ってもいいと・・・」


「キリーが?・・・キリーの言葉が理解できるのか?」


「えっと・・・乗ってもいい?って聞いたら・・・『グワァ』と返事をしたから・・・紐をキリーの首の下に回して手綱のようにして乗りました。キリーは揺れずに飛んでくれるし、羽の部分はとても暖かかったです。空に向かって飛んで・・・精霊さんたちも沢山ついて来て・・・精霊さんが『楽しい?嬉しい?面白い?』って聞いてきたので・・・楽しい、嬉しいって答えて・・・つい」


「キリーが返事をしたと?・・・それにアンは精霊と話ができると言うのか?」


「キリーは返事をするように頷いてくれます、精霊さんは片言で話しかけてくるけど、聞いたことに答えてくれないからわからない事も多いです・・・キリーは南に飛んで行くのって聞いたら精霊さんは『違う』って・・・たぶんカナールではないから南に行かないと言っているのだと思いました」


「そうか・・・アンはなぜキリーに乗りたかったのだ?」


「外に出られるからです・・・メテオール祭の日、街へ行けなかったもの、とても楽しみにしていたのに・・・屋敷の敷地から出たのは魔力検査の時だけで、それ以外は出掛けたことがなかったもの・・・すぐ熱が出るからお出掛けは無理だったから・・・だからキリーに乗って自由に出かけたかったの・・・卵を背負っていても気にしなくてもいいから・・・でもキリーは湖より遠くへは連れて行ってくれなかったの。もっと遠くに行ってみたいって言っても、行ってくれなかったの・・・空高く飛んで・・・外に行ってみたかったで、す・・・」


 溜まった涙を誤魔化すために下を向いた。膝の上できつく握られたアンの手に涙がポトポトと落ちる。

 本当は龍騎士になりたいの。龍騎士になれば、龍に乗って空に向かって飛んで行けるもの。でも・・・まだそれをお父さまとお母さまに言う事は出来ない・・・言ってはいけないような気がするの。


「我慢をさせる事が多かったと思う、だが今回の件はやってはいけない事だ。キリーはアンを落とすことなく飛んでいたようだが・・・もし、落ちていたら私たち家族はアンを失う事でどれ程悲しむかを知ってほしい。そして、アンの大切なキリーは処分の対象になってしまう。よくよく考えて行動しなければならない・・・わかるな」


「はい・・・あの・・・今回、キリーはどうなりますか?」


 キリーを守らないと。涙を袖口で拭いて真っ直ぐ前を向き、お父さまの目を見て尋ねた。


「窓を見てごらん・・・ふっ」


 お父さまは窓の方を見て困ったように笑っている。首をかしげながら窓を見ると、嘴を下げ首の方に寄せて、窓ガラスにあの太眉顔を貼り付けてこちらを見ているキリーがいた・・・。


「ぷっ!」


 思わず吹き出してしまった。心配して覗いていたのかもしれないけど、キリッとした眉は心配顔にはならない・・・キリーはキリーのままだったよ。お父さまとノル兄さまは横を向きお母さまは下を向いて肩を揺らしていた。


「まったく・・・安心しなさい、キリーは何も変わらないこのままだ。遠い他領地の湖にでも捨ておこうかとも考えたが、アンの希望を叶えず敷地内にとどまったと言う事であれば、ある程度の危険は理解しているのかもしれないな。人の言葉を理解し返事をするのであれば、今後はアンを乗せて飛んではいけないと伝えればよい。アン、思っている事は私たちにきちんと話をしなさい。願えば可能な限り対応をするようにしよう」


 お父さまは片手を額に付けて息を吐いた。


「お父さま・・・ありがとうございます」


「アンが希望する事は、みんなで考えましょうね」


「はい・・・お母さま。以前も相談するように仰ってくださっていたのに・・・ごめんなさい」


 目に溜まっていた涙を袖口で拭いたら、お母さまはアンの隣にやってきてそっと腕を抑え、ハンカチで目元を優しく拭いた後、鼻もそっと拭いてくれた。鼻水も垂れていたらしい・・・ちょっと恥ずかしい。


「これから王都に行く話をしようと私も来たけど、アンはもう休んだ方がよさそうだね」


 まだ笑いの収まらない顔のノル兄さまはアンの顔をのぞき込んで来た。


「今日は・・・熱が出ないうちに少し休みます」


「それがいいわね、部屋まで一緒に行きましょう」


 こくんと頷き、お母さまと一緒にサロンを出た。

 お母さまは『少しだけお話しをしましょう』と言って、アンのお部屋に来てくれた。



「秋の1の月に王都に行くことが決まっていたけど、夏の3の月3週目の終わりに龍で出発することになったわ」


「龍で!」


 目を大きく見開いて両手を胸の前で組んでしまった。


「アンの体調を考え4~5日掛けてゆっくり行くことにしたわ。最初の宿泊先は私の兄が領主をしている中領地で2泊する予定よ。龍に乗る時に着る服も作らせているわ、それと卵は前で抱えるための紐・・・おんぶ紐といったかしら、それも出来ているのよ・・・夏とは言え上空は寒いから身体を冷やさないように長めのポンチョも用意したわ」


「お母さま、ありがとう。あの・・・前で抱えるのは抱っこ紐と言います」


「そう・・・抱っこ紐と言うのね・・・フフ・・・アン、なんだか嬉しそうね、王都への初めての遠出は楽しみかしら」


「は、はい・・・」


 遠出は楽しみだけど、龍に乗れるのがもっと楽しみなのです、とは言えなかったよ。




 ◇   ◇   ◇




「父上、キリーには領旗のペンダントを首から下げるようにしておきましょう」


「ああ、それがいい。どこに飛んで行くかわからないからな。しかし・・・カナールではないような気がしていたが、キリーはいったい何の鳥なのか・・・返事をするって言っていたな・・・そうだペンダントは私が付ける。あとで持ってきてくれないか」


「既に用意してありますので、すぐお渡しできます」


 ノルベールは侍従にすぐ持ってくるように告げている。


 先程から窓に張り付くようにしているキリーを見て思わず呟いてしまった。


「本当に言葉がわかるのか?」


 キリーは首をかしげて「グワァ」と鳴いた。


 侍従はすぐに戻ってきて、細長い小さな箱をノルベールに渡している。

ノルベールは箱の蓋を開け、金色のチェーンがついた紫の地色に銀色の線で描かれた盾と龍のペンダントを見せてくれた。


「父上、北の領旗を模したものです」


「これはいいな、領地の物と良く判る。キリーに付けてみるか」


 受け取った箱からペンダントを取り出し、窓の横のドアを開けて外に出た。


「キリー」


「グワァ」


 すぐに返事をして寄ってきた・・・返事はすると聞いてが、あまりにも警戒心がなくて驚く。キリーは首をのばせは私の背丈より高いのではないか?身体もどっしりとしている。翼は広げたら4メートルくらいあるかもしれない。


「キリー、ペンダントを首に下げるから頭を下げてくれないか」


「グワァ」


 返事をして頭を下げたのでチェーンを首にかけた。


「私の言っていることが本当にわかるのだな、賢いな」


「グワァ」


「クックッ・・・その顔で返事されても・・・ちょっとな・・・」


 キリーは首を傾げてもきりっとしていた。


「キリー、そのペンダントは外さないように。北の領地の印になる。猟人の餌食になったらアンが悲しむからな、それからアンを絶対乗せて飛んではいけない・・・ただし危険が迫った時は必ずアンを守ってくれ」


「グッワァ!」


 キリーは首をのばし姿勢を正すように大きく返事をした。


「わかったのか?くれぐれもアンを乗せて飛ばないように、いいな」


 念を押すように伝えるが、キリーは返事をしない。驚いたように首を体の後ろにのけぞらせて目をウルウルとさせていたが、きりっとした太眉のせいで悲しそうな顔には見えなかった。

 そばで見ていたノルべールは一言も口を挟まない、笑いをこらえるのに必死で口を挟めなかったのか?

 鳥に話しかける自分、それに返事をする鳥・・・外で話せる話題ではないな・・・。

 身体の弱いアンの危険行為を厳しくしかる事が出来なかったが、せめてキリーにだけはきつく言い聞かせなければ・・・キリーが飛ばなければアンは諦めてくれるだろう。


 その日以来、キリーは庭の池やサロンの窓の所に毎日来るようになったが、アンを乗せて飛ぶ様子はないようだ。




 ◇   ◇   ◇




 いよいよ王都に向かう日だよ、嬉しくて落ち着かない。

 少し早めに庭に行くとキリーは嬉しそうに「グワァグゥ」と言いながら寄ってきた。


「キリー、今日から王都に向かうから龍に乗るのよ。凄いでしょ、ノル兄さまが乗せてくれるの。キリーはいい子で待っていてね、帰ってくる頃にはエリーやマリーは南に向かっているかもしれないけど・・・あっ、キリーも南に向かうの?」


「グワ」


「行くの?」


「グワァ」


「そっか・・・南に行ってもちゃんと戻って来てね」


「グワッ?」


「アン、そろそろ行くよ、父上たちが待っている」


 風龍と共に庭で待っていたノル兄さまはアンを龍に乗せてから、後ろに乗った。


「キリー、またね」


「グワァ」


「トルナード、出発だ」


 ノル兄さまは風龍のトルナードに声掛けると、ゆっくりと飛び立った。


「わぁぁ、空に向かって飛んで行く。トルナードはかっこいいね」


「ああ、トルナードは最高だよ。もっと早く飛べるけど、アンが乗っているからゆっくり行くよ。前の方に母上を乗せた父上がいるよ、見えるかい?」


「うん!・・・あれ?ベル兄さまは?」


「ベルは用事を済ませたら、ベルの護衛の龍に同乗して後からくるよ」


 ユーゴは横についてきている。真面目な顔して龍に乗っているユーゴは4番目にカッコイイかもしれない。1番はもちろんベル兄さま、とても穏やかで優しいから。2番はノル兄さまで3番はお父さま、2番と3番はほぼ同順だけど・・・お父さまはお母さまが1番だからね。シャル兄さま番外、カナールたちを美味しそうって言ったからじゃないよ。

 今回、ソフィは留守番だって。龍で移動だし、王都の屋敷にも侍従や侍女がいるからって聞いたの。


 宿泊先の中領地や陛下へのお土産はクッキーだとお父さまが言っていた。シフォンケーキをお土産にしなかったのは、今はまだ沢山作れないことと、王妃さまに欲しいと毎回ねだられるのが面倒だからと言っていた。そんな事を言って大丈夫なのかなって思っていたら、お母さまが「リシェンヌ王妃とお父様は姉弟なのよ」って教えてくれたの・・・王族と親戚だったよ・・・驚いちゃった。


「そう言えば、紫色のペンダントみたいのがキリーの首にかかっていたけど、あれは領地の印?」


「そうだよ、領地を模したものだよ。キリーがどこに行っても分かるようにね。4大領地の事は知っているよね?」


「うん、東西南北それぞれに1つずつ、アンの住んでいるところは北の大領地」


「そうだね。それぞれ領地の色と地域の特徴を表している領旗があって、東の大領地は緑の地色に、銀糸で桑の葉を背景に龍の姿が刺繡されている。西の大領地は黄色に、銀糸で麦の穂を交差させた背景に龍。南の大領地は赤色に、銀糸で珊瑚の上に龍。北の大領地は紫に、銀糸で盾を背景に龍だよ。国旗もあって王都に行ったら見る事ができるよ、黒色に銀糸で、シェーヌサクレの大木を背に龍だよ」


「それぞれ違うのね、キリーは北の領地のものになるの?」


「所有がはっきりしていると面倒がないからね。実際、北で育っているし、アンがとても大切にしているからね」


「うん!」


「もう少し進むと一旦休憩になるよ、疲れていないかい?」


「大丈夫、とても楽しいの。6歳の時にね、東の丘でベル兄さまと龍騎士たちが飛んでいるのを見たの。ノル兄さまが参加されていて、先頭で飛んでいるってベル兄さまが教えてくれたの、凄くカッコ良かった」


「・・・そうか・・・ベルと一緒に見たのか」




 休憩を何度か取り、夕方に中領地を管理している伯爵邸についた。何人かが屋敷の入り口でお出迎えをしてくれた。


「ようこそおいで下さいました、アレクサンドル様」


 お母さまのお兄さまかな?


「パトリック義兄上、また世話になる。今回は人数も多く2泊の予定だが、よろしく頼む」


「どうぞ、ゆっくりとお過ごし下さい。夜だけお泊り頂くことが多かったので、今回は是非とも領地の肉など堪能していただければと思っています」


「肉がうまいのは有名だからな・・・私もノルベールも楽しみにしていた」


「ありがとうございます」


「パトリックお兄様、お久しぶりです。今回は時間がありますからゆっくりお話も出来そうで嬉しいですわ」


 お母さまも久しぶりなのか嬉しそうだった。伯父さまの家族もお父さまとお母さま、ノル兄さまに挨拶をかわしていた。


「アン、挨拶を」


 お父さまが振り向いてアンを見ている。屋敷からあまり出る事がないから、緊張してお父さまの後ろにいたら、少し前に押し出されて、それから頭をポンポンと優しく触れてくれた。


「は、初めまして、アンジェルと申します。お世話になります」


 緊張しながら何とか挨拶をすると、伯父さまは少しかがんで目線を合わせ優しく微笑んでくれた。ポンチョで隠れているけど、膨らんだお腹はだっこ紐で抱えている卵があるから。でも伯父さまは膨らんだお腹を見ることなく真っ直ぐアンの目を見ている。


「初めまして、アンジェル様。ステファニーの兄でパトリック・ペレトリーと言います。どうぞ、ゆっくりしていって下さいね」


「ありがとうございます、パトリック伯父さま」


 次にパトリック伯父さまの隣にいる伯母様の方を向いて挨拶をした。


「初めましてアンジェルです、お世話になります」


「初めましてパトリックの妻のカサンドラです、お会いできて嬉しいですわ。アンジェル様にお会い出来る事を心待ちしておりましたのよ」


「アンもお会いできてうれしいです、カサンドラ伯母さま」


 パトリック伯父さまの子供たち3人とも挨拶を終えると、伯爵邸の執事が「皆様をお部屋にご案内いたします」と言ってそれぞれの客室に案内してくれた。

 長男のフレデリク様は覚えたけど、長女と次男の名前を忘れてしまったよ・・・。




 夕食は蒸し鶏の入ったサラダや、トマートソースでじっくりと煮込んだ牛肉で、口の中でホロホロとほどけるように溶けていくお肉、燻製肉とキノコが入ったショートパスタなど、色々なお肉が沢山使われ、どれも美味しくて少し食べ過ぎたかも。

 カジミールのお料理はとても美味しけど、伯爵邸のお肉も凄く美味しかった。ここの料理人も優秀らしい。お父さまもノル兄さまも美味しいと、お肉を沢山食べていた。


 食事も終わりサロンで、パトリック伯父さまのご家族と一緒にお茶を飲むことになった。


「パトリック伯父さま、先程頂いたお肉はどれもとても美味しかったです」


「アンジェル様のお口にあってよかったです。我が領地は牧畜が中心ですから、牛や豚、鳥など育て、燻製肉やソーセージ、バターやチーズを加工しているのです。よろしかったら明日ご案内いたしましょう」


「ありがとうございます。牛や豚や鳥はそばで見る事ができるのですか?」


「・・・バターやチーズを作る工場と思ったのですが、説明が足らず失礼たしました」


「どちらも見たいです」


「アン、無理を言ってはいけない」


「はい・・・お父さま」


「いえいえ、アンジェル様さえよろしければご案内致しますよ、ただ・・・家畜にはあまり近づく事はできませんがよろしいでしょうか?」


「はい!よろしくお願いします」


「良かったわね、アン」


「王都の帰りも立ち寄っていただけると聞いておりますから、お土産に燻製肉、ソーセージ、バターなどをお持ち帰り下さい」


「嬉しいです、どれも美味しくて・・・特にソーセージは留守番をしているシャル兄さまがすごく喜ぶと思います」


「シャルルも肉が好きだからな。・・・ああ、もうこんな時間か・・・アンはそろそろ休んだ方がいい、熱が出てしまうと明日の楽しみも、王都へ行く楽しみもなくなってしまうからな」


「・・・はい」


 皆にあいさつをして伯爵邸の侍女の案内で客室に戻り、休むことにした。ノル兄さまと伯爵邸の子供たちもそれぞれ部屋に戻ると言って一緒にサロンから出てきたけど、名前を憶えてないから会釈だけでして別れたよ。




 ◇   ◇   ◇




 サロンにはステファニーとパトリック義兄上とカサンドラ義姉上がまだ残っている。


「アレクサンドル様、アンジェル様はずっと卵を抱えたままなのですか?」


「ああ・・・試してみたが離すことは出来なかった。離せばアンが倒れてしまう。もし卵が孵ればどうなるのか・・・それもわからない状態だ・・・今までは屋敷内で過ごせたが、これからはそうはいかなくなる。まずは大神殿で魔力の再検査の結果を確認してからになるが・・・」


「アンジェル様はそんな大変な事になっていたのですね・・・大神殿で再検査とは?魔力が強いということですか?それとも・・・白く光ったのですか?」


 パトリック義兄上はアンが大神殿に行なければならない理由を光属性とは言わず、光る色で聞いてきた。


「そう言う事だ」


「やっと生まれた女の子だと言うのに・・・陛下のところも王子ばかりですからね。アンジェル様が生まれたと聞いた時はリシェンヌ王妃がとても喜ばれたらしいですが・・・そう言えばリシェンヌ王妃も白でしたね」


「ああ、辺境伯では稀に生まれる女児は白が必ず入ると聞いていた。それも気になるのか・・・会いたいから早く連れてきて欲しいと何度も言われているが、身体が弱くて屋敷から出るどころか部屋から出ることも少なかったからな・・・幸い性格は明るいというか・・・その、天真爛漫というか・・・他とうまくやって行けるのか心配だ」


「アンの思っていることをさせてあげたいと考えていますわ。身体が弱いからと我慢ばかりさせてしまったの・・・でも心は真っ直ぐで、たまに行動力がありすぎて・・・戸惑う事もあるけど・・・」


「ああ・・・そうだな・・・飛んで、いや・・・」


 ステファニーと目を合わせて、互いにそっと息を吐いた。


「今日お土産に頂いたクッキーは、アンジェル様が料理人に材料を支持して作らせたと聞きましたが、妻も子ども達もとても美味しいクッキーだと喜んでいました。料理の才能があるのかもしれませんね。販売してもいいくらいですよ」


 パトリック義兄上は聞いてはいけない事情があるかもしれないと話題を変えてくれたようだ。気を遣ってくれたのだと思う・・・たぶん。カサンドラ義姉上も口を挟まないのは何となく察したのだろうか?


「色々思いついては突然やりだしてしまうから、こちらが慌てることが多くてな、本当に7歳なのかと思うことがある」


「そうでしたか・・・才能がある子の成長は周りが苦労するのでしょうか?」


「「・・・」」


 私とステファニーは何とも返事が出来なかった。生まれる寸前から不思議なことが多く、今もいつ孵るかもわからない白い卵を抱えている。

 先日、アンがカナール擬きに乗って飛んでいたなど・・・パトリック義兄上にはとても言えない。折角パトリック義兄上が話題を変えてくれたが、返事が出来ず・・・会話は弾まなかった。

次回の更新は11月29日の予定で、「13、ひ弱令嬢は伯爵の領地を見学する」です。


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