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○月△日(妻side 1/3ページ)

お久しぶりです。

登場人物(夫婦)が心情をダダ漏れさせているだけの徒然日記です。

徒然なるままにお読みいただけたなら幸いです。

○月△日


 今日も、寝起きの夫は不細工だ。


「……おはよ」


 ぼさぼさで寝癖のついた髪と、寝起きで半分しか開いていない目。

 なんとも情けないボーッとした表情で起きてきた夫が、小さな声で挨拶する。

 これで王城で勤務する近衛騎士なのだから、世も末ではなかろうか。 


「おはよう。さっさとシャワー浴びないと遅刻するわよ」

「……うん」


 頷いたはずなのに、夫の足は浴室ではなく私のいるキッチンに向く。


「アレス?」

「……補充させて」


 ボソッと呟いたアレス――――私の夫が、ジャガイモの皮をピーラーで剥いていた私を背中から抱き締めてきた。


 補充させてって、なにを?


「もうっ、邪魔しないで」

「……うん」


 頷きながらも、離れる気配は微塵もない。


「うん」じゃないのよ! 「うん」じゃ!

 ……ホント、朝が弱いんだから。


 私に叱られたアレスは、頭を下げて私のうなじに顔を近づけた。

 ぼさぼさの髪が頬をくすぐると同時に、スンと匂いを嗅ぐ音がする。


「ちょっと、嗅がないでって、いつも言っているでしょう!」

「うん。……でもシアの匂いを嗅ぐと元気がでるから」

「この変態!」

「……うん」


 変態と罵られて、「うん」と頷くのはアレスくらいだろう。

 呆れていれば、彼の髪が右側の視界を大きく占めた。私を抱き締めていた長い指が襟元に伸びてきて、クイッと合わせ目を引っ張ってくる。


「……ついてる」


 嬉しそうな声が耳元で響いて、頬が熱くなった。


「アレス!」


 彼がジッと見つめているのは、私の喉から胸にかけて散らばる赤い痕だ。昨夜、しつこいくらいアレスがつけたキスマーク。


「薔薇の花びらみたいで可愛い……もっとも、一番可愛いのはシア自身だけど」

「アレス! ……もうっ!」


 ジャガイモとピーラーを放りだした私は、アレスの手をパシン! と叩き、クルリと振り返って睨みつけた。


「……やっぱり、可愛い……可愛すぎる!」


 突如両手で顔を覆ったアレスは、慌てたように下を向く。


「ご、ごめん、シア。……今、僕の顔を見ないで……シアが可愛すぎて……とっても見せられない顔をしているから」


 寝起きの夫の顔が、とんでもなく情けなくて見せられないものであることなど、よく知っている。


「いいから、早くシャワーを浴びてきなさい!」

「はい!」


 アレスは逃げるように浴室へ向かった。


「……まったく、もう」


 ため息をついた私は、ジャガイモを再び手に取る。


「アレスって私を好きすぎるんじゃないかしら?」


 肩を竦めて料理を続けた。







 ――――その十分後。

 急いで浴びてきたのだろう、アレスの髪はまだ少し濡れている。

 もぐもぐと口を動かしながら、はっきり目が覚めたせいで大きくなった切れ長の目が私を見ていた。

 スッと通った鼻筋といい鋭角なラインを描く輪郭といい、目の前の男の顔は非の打ち所がないほど整っている。

 さっきと同一人物? と疑ってしまうくらいのイケメンだった。


「シア、美味しい」


 とろりと幸せそうにゆるんだ笑顔は、濡れ髪と合わせて壮絶な色気を放つ。


「……うん。さっさと食べて」


 対照的に、私の表情はスッと消え失せた。


「毎朝、ありがとう。後片付けは僕がするね」

「いいから、早く仕事に行って」

「……でも」

「いいって言っているでしょう!」


 ちょっと強い口調で言えば、アレスは泣きそうになる。


「シア――――」


 絶世のイケメンの泣き顔は、世の女性陣ならば、なにを置いても慰めようとするものなのかもしれない。

 ……しかし、私には心底どうでもよかった。


「遅刻するわよ」

「うん……シア、ごめんね」


 謝る必要などないのに詫びの言葉を紡いだ口が、悲しそうに引き結ばれる。

 その後、黙々と朝食を摂ったアレスは、私を気にしつつ出かけていった。




 ――――彼の気配が消えて、ようやく肩の力が抜ける。

 今までなんの味もしなかった朝食にも旨味が感じられた。


「もっと早く出ていってくれればいいのに」


 こぼれた言葉は、我ながら冷たいもの。


 ――――自分の夫に対して、なんて酷い態度だと思われただろうか?


 でも、どうしてもダメなのだ。


 アレスのあの顔――――ものすごく綺麗なイケメン顔を見てしまうと、私の心は凍りついてしまう。


 そう。私は極度のイケメン嫌いだった。

 できれば顔も見たくないくらい。


 ()()()のアレスと、わずかながらも会話ができるようになったのも、つい最近のことだ。



 理由は、私が生まれる前――――前世まで遡る。


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よろしくお願いいたします。

<(_ _)>

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