得たいの知れない”カゲ”を狩る
●霞の丘市/とある公園(夕方)
母校である中学校から、徒歩10分ほどの圏内。
放課後になり、徘徊したらすぐに”カゲ”を見つけた。
芽島卯月めしまうづきは、特別な能力がある。
それは”邪眼”――この世あらざるモノを見通す力だ。
それを封じる”邪眼殺し(メガネ)”をかけて普段生活している。
しかし、夕方の時間帯になると能力を封じていても目がうずくのだ。
それが虫の知らせに近い、微量な知覚でありつつ。
見知った公園が視界に入った途端、右眼に鈍痛が走った。
か細い感覚を頼りに公園の入り口へ向かい”邪眼殺し(メガネ)”を外す。
ここはハイキングコースも兼ねた、少々規模の大きい公園。
入り口からすぐ大きな看板があり、園内の地図が記載されている。
その看板を岐路に、左右に歩道が別れていた。
傾斜がある林のハイキングコース。
平坦な道が続くウォーキングコース。
――この感じだと、こっちか。
卯月は右を、ウォーキングコースを選ぶ。
正直、他の人間にどう説明するためにはどういえばいいのか。
簡単にいえば、五感の多数決をとっているような感覚。
視覚は右を、嗅覚は左を、触感は右を――と。
「――いた」
コースに入って、1番手前の木製ベンチ。
そこに”カゲ”がいた。
形容しがたい風体。異様な雰囲気。生気は微塵も感じられない。
遠目から見ても、あれは人間ではない。それだけは断言できる。
そこだけ一部切り取ったような写真を撮り。
ベンチの辺りだけスプレー缶で黒く塗りつぶしたような、輪郭。
黒曜石色のガスが、ベンチに留まっていた。
卯月自身、正式な名称など知らない。
ガス、とか。
ジンガイ、とか。
様々な名称を考えてみたが、結局、安直なものとして呼んでいる。
奇しくもヤツらの存在を認識できるのは、卯月だけ。
子連れの夫婦や運動中の男性も、何事もなく、ベンチを横切っていく。
「”カゲ”め……いっちょ前に黄昏やがって……」
当の”カゲ”に意思があるだろうか。
そんな事は考えたことない。
ただただ、ぼうっとベンチに座り込み表情のない顔らしき頭部を夕日に向けている。
相手こそ卯月を認知しているのか、そうでないのか。
そもそも目というものが存在しているのか、よくわからない。
――いや、知るつもりもないか。
と、敵は敵だと戒める卯月。
人間に危害が加わる前に消すのが一番の解決策だ。
「さぁて、今日の標的はアイツにしますかね……っ!!」