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2.選択と逃亡

 「何で人間がここにいるんだ?」

 「なんでって、ここは俺の通ってる学校で…」

 「あー違う違う。襲われて頭混乱してんのか?」


 神折は溜息を吐く。


 確かに神折の言う通り頭は混乱していた。もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 そりゃそうだろう。

 だってほんの数秒前までバカデカいムカデの化け物に命を狙われていたんだ、冷静でいられる方が可笑しい。

 しかし、だからと言って自分の通っている学校を間違える訳ない。

 と思っていたのだが。


 「お前よく見ろよ」


 神折に言われて俺は周りを見ると、そこには見知らぬ景色が広がっていた。


 違った。

 俺の知っている場所じゃない。学校じゃなかったのだ。

 何処か別の建物。

 俺の知らない建物の中に俺は居た。

 さっきまで確かに俺は学校にいたはずなのに。

 いつ?いつからだ。いつから俺は。


 「ここはなぁ…」


 神折が何か言おうとした時、廊下の向こう側から女性の声が聞こえてくる。

 若い女の人の声だ。


 「やーば。あいつのこと忘れてたわ」

 「あいつ?」


 廊下の向こう側から1人の女性が姿を現し、俺達の方に物凄い速度で迫って来る。

 俺と同い年くらいの女性だ。

 長く綺麗な茶色の髪。

 服の上からでも分かるスタイルの良さ。モテ女子オーラが凄い。

 神折はその女性を見ると面倒くさそうな顔をした。


 「神折!また私に黙って勝手な行動取ったわね!」


 そして、神折への説教が始まった。


 「一々俺の行動を御崎おざきに言う必要ないし」

 「あんたと私はバディなの!

  あんたの勝手な行動で問題が起きたら関係ない私まで連帯責任になるんだからね!」

 「俺、バディとかいらねーし」

 「私だってあんたのバディなんて嫌だよ!」

 「じゃあ辞めれば?」

 「バディを決めるのも解散を決めるのも私じゃない、総帥よ

  そんぐらい知ってんでしょ」


 説教から口喧嘩のようになって来た。

 明らかに空気が悪い。

 こういう空気は苦手だ。

 まぁ得意な人なんていないと思うが。

 気まず過ぎる。


 「はいはい。すいませんでした」

 「全然謝罪してるように聞こえないんですけどー」

 「ま、それより問題発生だ」


 神折は俺の方を指差して言う。

 女性は俺の方に視線を映し、目が合う。

 

 「え、誰?」

 「ど、どうも…」

 

 初対面の人と話をする時に漂う独特の何とも言えない重い雰囲気が漂う。

 これまた、気まずい。

 てか、本気で可愛いなこの人。


 「えー、あー。俺もコイツの名前知らねーな。

  お前、名前は?」

 

 神折は頭をポリポリと掻きながら、興味なさそうに俺に問う。


 「鳴瀬 コヨミ」

 「鳴瀬か」

 「いい名前ね! あ!私は御崎 夢、よろしくね」


 御崎と神折は俺は俺と同い年で16歳らしいが

 どちらも大人っぽくて、とても同い年には見えない。

 御崎は俺の名前であるコヨミと同じ名前の人が親戚にいるらしく、その親戚の話を神折に楽し気に話始める。

 そんな御崎の話を神折は心底どうでもいいと言った表情で聞き流していた。


 「おい、御崎。コイツどうするよ」

 「まだ話の途中なんだけど…」

 「気づかねーのかよ」

 「何に」

 「コイツ、人間だぜ」

 

 沈黙。

 沈黙が3秒程続く。


 御崎は俺の方をジッと見つめる。

 美人に見つめられると少し恥ずかしいな。

 気になる女の子に自分のスマホのカメラロールを見られているような気分だ。

 いや、そっちの方が恥ずかしいか。


 「本当に気づいてなかったのかよ」

 「本当だ。魂力を感じない…」


 魂力?聞いたことがない、知らない言葉が出て来た。

 それに何でこの二人は俺が人間だということにこんなに驚いているのだろう。自分達だって人間だろうに。

 あ、そうか。きっとそうだ。

 この二人はあれだ。拗らせちゃってんだ。

 自分は人間じゃなくて特別な何かとか思っちゃってる時期なんだ。俺にもそんな時期があった。


 「ど、ど、どうすんのよ!」

 「分かんねーよ、総帥の所にでも連れて行くか?」

 「いやそしたらコヨミ君は…」

 「しゃーねーだろ。ここでジッとしてても何も解決しねーだろ」


 御崎は心配そうに俺の事を見る。


 「取り敢えず総帥の所にでも連れて行く」

 「分かったわよ…。」

 

 御崎と神折の話し合いは終わったらしい。

 神折が俺のことを担ぐ。


 「な、何すんだよ!」

 「いいから大人しくしてろ」


 担がれながら外に出る。

 建物の外は、信じられない景色が広がっていた。


 「何処だよ、ここ…」


 街並みは現代より少し昔の日本のような感じ。

 まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような場所。

 実際に江戸時代の風景を見たという訳では勿論ないが、まぁこんな感じだったのだろう。 

 それに至る所に扉があった。

 数えたらキリがない程に多くの数の扉だ。

 

 「何でこんな色んな所に扉があるんだ」

 「おい。振り落とされるなよ?」

 「え?」 


 神折は一言そう言うと、俺を担いだまま。

 空を飛んだ。

 自由に飛び回る鳥のように。

 背中に翼でも生えたかのように、空を飛んだのだ。


 何かの機械使った訳ではない。

 身一つで空を飛んだのだ。


 知恵を絞り、技術を発展させ、あらゆる努力重ねて

 やっとの思いで飛行に成功させた人類が馬鹿に見えてくる。


 「人間って空飛べったっけ?」

 「俺らはオープナー。人間じゃねぇよ。」

 「オープナー?」


 オープナー?またまた知らない言葉。


 いや待て待て。

 そんなことより今コイツ人間じゃないって言わなかったか?

 確かに化け物を一撃で倒したり、今俺を担ぎながら空を飛んだり、人間じゃない要素は多く見られる。

 でも、しかしだ。

 化け物はたまたま一撃で倒せちゃっただけかもしれないし。実は超優秀なマジシャンの弟子で空を飛んでいるように見せてるだけかもしれない。

 それに、見た目は完全に俺と同じ人間だ。

 クラスに放り込んでも違和感はない。


 「何ジロジロ見てんだよ」

 「あ、すまん。どう見ても人間にしか見えなくて」


 おっと。無意識に観察してしまっていた。

 そして、やっぱり人間にしか見えない。


 「まぁ見た目は人間と変わらねぇからな」

 「じゃあ人間とお前、何が違うんだよ」

 「まぁ色々あるが…、一番の違いは魂力を持っているか、持っていないか」

 「魂力?」


 御崎がさっき俺を見て言ってた単語だ。

 神折の説明を聞く限りだと、魂力は俺の知っている知識で例えるなら漫画とかで出て来る魔力に似ていた。

 化け物を一撃で倒したのも、今空を飛んでいるのも

 その魂力を使っているらしい。


 「気づいてるかもしれないけど、ここはコヨミ君の住む世界とは別の世界。

  この世界は【扉】と呼ばれてる」


 もう認めよう。

 こいつらは人間ではない。

 そして今、俺はとんでもない事に足を踏み入れてしまっていることを。


 「コヨミ君もさっき見たでしょ?ムカデみたいな化け物」

 

 俺はこくりと一回頷く。


 出来ればもう見たくない。

 忘れたい記憶だ。


 「あーゆー化け物を私達は破壊者って呼んでる。

  あいつらは突然現れる、全ての世界に、コヨミ君の世界にも勿論現れる。

  そしてその世界を破壊する危険な存在」

 

 世界を破壊する破壊者…。


 「私達、オープナーの使命は破壊者の殲滅。

  今存在している4万5000千の世界を守ること。」

 「そんなに多くの世界があるのか」

 「そうなの。だから常に人手不足で大変なのよ」

 

 オープナー、破壊者を倒す者。

 オープナーにはそれぞれ担当の世界があるらしく、俺の世界はこの二人が担当らしい。

 じゃあ俺が平和な日常を送れていたの人知れずこいつらが戦ってくれいたお陰でもあるのか。感謝しなければ。


 担がれ始めて30分が経過。

 1つの立派な城が見えて来た。

 よく歴史の教科書なんかに出て来る城よりも立派な城だ。

 名前は朧城。

 ここには二人が総帥と呼ぶ人物がいるらしい。


 担がれたままその城に入り、ある部屋に連れてかれる。


 「御崎、神折。ただいま帰還しました。」

 「入れ」


 部屋の前で御崎が言うと老いた男の声が聞こえた。


 俺達は大きく重い部屋の扉を押して中に入る。

 中に入ると一人の老いた男がいた。

 この老いた男が総帥。二人の上司的な存在らしい。

 見た目は大体70歳後半。

 長く生きて来た証か、物凄い貫録が伝わって来る。


 「侵入していた破壊者の討伐が完了しました」


 御崎が報告する。

 しかし反応はない。

 総帥はジッと俺のことを見ていた。


 「何故、人間がここにいる」


 低く、怒りの感情が含まれた声で総帥は言った。


 「この人間は破壊者に襲われていて。

  破壊者がこの世界に侵入する際に巻き込まれたのかと…」


 総帥は御崎の話を聞いてため息をこぼす。

 

 「どんな経緯であれ人間がこの世界に居てはならぬ。

  お前達も知っておるだろう。」

 「承知しております。しかし…」

 「我々の存在は世界の誰にも知られてはならぬのだ」


 そう言うと、何も無い空間から鎖が出現する。

 その鎖はまるで命が宿っているかのように動き

 俺の体を拘束する。

 

 「いきなり!何だよコレ!」

 「総帥!彼は巻き込まれただけで…!」

 「二度も言わせるな、経緯は関係ないと」

 

 ここでずっと黙っていた神折が口を開く。


 「ジジィ。コイツをどうする気だ?」

 「この人間にはここで命を落として貰うか、記憶を消すかの二択しかない」

 「記憶を消すってのは破壊者やこの世界に関係することだけか?」

 「部分的な記憶の消去などとそんな都合良い物はない。

  記憶を消す事を選ぶのなら

  残念だが、家族、友人、これまで彼が歩んできた全ての記憶を失うことになるだろう」

 「そりゃ死ぬと変わらんぜ」

 

 俺を拘束する鎖の縛りが強くなる。

 ギシギシ。と骨の軋む音が響く。


 「選べ、どちらがいい」

 「待ってください!彼がこの世界の事について誰にも言わければいいだけの話です。そんな二択酷すぎます!」

 「では聞くが、この人間を生かしてメリットはあるのか?」

 「それは…」

 「この人間をこのまま生かすのはリスクしかない。

  我々にとってのメリットはゼロだ。」


 記憶か、命か。

 選べるはずがない。

 普通にどっちも嫌すぎるだろ。

 まだやりたいこと沢山あるんだ。

 記憶も命もまだ俺には必要なんだよ。


 「さぁ、選べ」

 「俺は…」


 その時、開かずの部屋で拾っていた短剣が光を放った。

 目も開けられない程の強い光。


 「何?!」

 

 鎖の拘束が緩くなる。

 俺は急いで鎖から脱出。

 目は開けられないが感覚を頼りに部屋を飛び出した。


 三人が目を開けた時、俺はもう部屋にはいなかった。


 「今動ける全隊員に告ぐ。

  人間の小僧、鳴瀬コヨミをこの世界から出すな。」

 「総帥!」

 「御崎、神折。お前達もだ、最悪殺しても構わない」  


 総帥の一言で俺の顔写真があらゆる場所に表示される。

 決して捕まってはいけない。

 命を懸けた鬼ごっこが始まった。


 

 


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