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不思議なゴミ箱

作者: 齧られメロン



不思議なゴミ箱




 何の変哲もない一人暮らしの日常。僕は美術大学に通っており美大の生徒の割にはきれいなデッサンがかけず教授には次のスケッチのテストで合格できなければ留年だといわれてしまった。このままではまずいと思い1週間前からデッサンの練習をしていた。


しかし、デッサンを書いてはその結果に満足できず書いては捨て、書いては捨てとなんの生産性もないことをやっていた。


「っくそ!! なんで上達しないんだよっ! 何枚、何十枚書いても全然うまくならないじゃないか……」


 自分が書いたものに納得できず、おまけに鉛筆だけがすり減ってゆく。自分にデッサンの才能が無いことを認めたくない一心で書き続けていた。


「なんの成果も得られない代わりにゴミだけは溜まるんだよな……」


 ふと、ゴミ箱の方へ視線を向ける。出来損ないの作品が詰まりに詰まり用紙の塊と化した物と菓子の袋がゴミ箱に入っていた。


 このままではゴミが溢れてしまうため定期的に袋を変えなければならないのだがこの日は疲れも溜まっており変えに行く気力がなかった。


僕はそのまま布団へと倒れこんだ。


 「あー……いつの間にかゴミ箱の中身が消えてればいいのにな……」


ゴミ箱が自らゴミを食べてくれるような機能があれば袋を変える必要もなくなるのに。


そう考えながら僕は死ぬように眠った。


 翌日、目を覚ますと腰を抜かした。ゴミ箱にあった用紙がきれいさっぱりと消えていたのだ。


 「っなんでだ? ……昨日までは用紙があったのに……」


 僕はその時寝ぼけていたのもあってきっと何かの幻を見ているのだろうと思い、何も入っていない袋を捨てて新しいゴミ袋に入れ替えた。


 


「きっと寝ぼけて疲れてるんだ。急に用紙が消えるなんてありえないしな。」




 僕はデッサンの練習をするために再び机に向かって作業を始めた。


数時間後、ゴミ箱がまた用紙だらけになった。


僕は今朝の事もあり用紙だらけになったゴミ箱を眺めていた。


「もし……もほんとに消えてるんならどうやって消えるんだろうな」


 そして消えた用紙はどこへ行ったのだろうか?と不思議に思っていた。


その時インターホンのチャイムが鳴った。きっと宅配便だ。荷物を受け取るため僕は一時だけその場から離れた。


 受け取りから戻るとまたもやゴミ袋から用紙やごみが消えていた。


「!? やっぱり今朝の出来事は僕の勘違いじゃなかったんだっ! ほんとにゴミ箱から用紙が消えているんだっ! 」


 ゴミ箱に駆け寄り中身を確認した。ゴミ箱を逆さにしてみたり、裏を確認したりした。


しかし、いくら確認したところで何の変哲もないただのゴミ箱だった。


 実際のところこのゴミ箱は店で買ったわけではなく一か月ほど前にとある占い師から譲り受けたものだった。


僕はあまりにも不安になってこのゴミ箱をあの占い師に返却しようと思い立った。


しかし、デッサンの試験が近づいていたこともあり、試験が終わってからでもいいかと考えていた。


 それからさらに一週間ほどが経過したが相変わらずゴミ箱から用紙やごみが消える現象は相も変わらず続いていた。


 今日は筆の進みがよく没になるものがほとんどなかったため、完成した用紙をゴミ箱に入れずに机に積み重ねていった。しかし、その時僕は自分の肘が当たったことによってスマホが机から落ちてゴミ箱に落ちているとは知らずデッサンの練習を続けていた。


 書き始めて数時間ほど経っただろうか。僕は明日行われるデッサン試験の内容を確認するためにスマホを探していた。


「おかしいな……ここに置いたはずなのになくなってる。これじゃ明日のデッサン何を書けばいいのかわかんねえよ……」


 冗談ではない。デッサン試験では求められた内容に則って描かなければ採点のしようがない。出鱈目な作品を書いても評価点がつかず0点と同じ扱いを受けてしまう。それだけは避けなければならない。


 今のご時世では生徒同士の接触が認められておらず入室から退室までは個室で試験を受ける決まりになっており当日誰かに内容を聞くことはできない。おまけにボッチなので頼る友人もいない。


 つまり何としてでも今日中にスマホを見つけなければならないのだ。


そんな中、唯一心当たりがあるものがあった。それはゴミ箱だ。しかし、当然ながらゴミの中は空だった。


 用紙が消えてゆく現象は変わらずに続いていたがそんなゴミ箱には特徴がいくつか存在していた。まずこのごみ箱は燃えるような物、いわゆる有機物は消えているのだが燃えないような  無機物は全く消える様子がないということだ。


 例えば有機物と無機物を混ぜてゴミ箱に捨てても有機物だけが消えて無機物だけが残っているケースが多かったため勝手に過程づけたものだ。


 僕はこの部屋ではなくたびたび寄っている図書館に置き忘れたのではないかと考え、図書館にむかった。 外は蒸し暑く夏の真っ最中と言わんばかりの暑さであった。暑さから逃げるように図書館へ入りスマホ探しを行った。


 スマホは見つからなかったが図書館内に偶然同じ学年の美大の生徒がいた。どうやら彼も僕と同じデッサンの試験を受けるようだった。


彼は僕がスマホを紛失して試験の内容を確認できない主旨や経緯を説明すると快く試験の内容を教えてくれた。


「試験前日にスマホが無くなるなんて災難だな。スマホが見つかったら連絡をくれよ! いつでも協力してやるからさ!」


 僕は彼のやさしさに涙腺が崩壊しそうだったがなんとか堪えてお礼を告げた。


世の中にはこんな優しい人間がいるのか。僕が彼の立場だったら断っているのにそれを快く教えてくれた。できた人間だなあ、人格者だなあと思った。


僕は今までの問題が解けて気分が抑揚していてルンルンで自宅へと戻った。


「なんだこれ……なんだよこれ……?」


 玄関を開けるとまるで部屋中を掃除機で吸い取ったようにありとあらゆる家具や机が無くなっていた。そんな部屋に唯一あったものはゴミ箱だった。ただ僕はその時、超直観というのだろうか。なんとなくだがこのゴミ箱からただならぬ気配を感じ取った。なにか、そう、なにか嫌な感じがしたのだ。


 僕はゴミ箱を掴むとその場に感情のままに叩きつけた。何度も何度も……


「っっこんの馬鹿がああっ!! 」


「っお前は有機物しか消さないんだろおっ?! 一歩も歩けないお前がどうやってここの家具全部消したんだあっ!?」


 ゴミ箱は数十回ほど床に叩きつけると床と共にぼろぼろになった。賃貸なので部屋を傷つけるのはまずいと思ったが、この際もはやどうにもなれと考えていた。金もないため鉛筆も買いに行けず最後の追い込みで書こうと考えていた用紙すらもなくなっているのだ。


 すべてが嫌になった。何故自分だけがこんな不幸に合わなければいけないのか。何故、こうも世の中は理不尽なのだろうか。自分にだってデッサンの才能が有ればこんなことにはならなかったのに。




 小学生の頃にゴッホの絵に憧れて芸術家を志した。しかし、いくら書いてもデッサン力は一向に向上せず、高校の三者面談では美大だけは辞めておけと教員からも親からも言われてしまった。それでも夢も諦めきれずAO入試で美大へと入学した。


 しかし、現実は厳しく減ってゆく単位と周りからの冷たい視線。


自分でもこの道は難しいのではないかと悩みに悩んだ。下手に書こうとして書いているんじゃない。夢を追うために書いているのだ。夢を追いかけようとして何が悪い。


 最後くらいは意地を張ろうと。せめて進級、卒業はしてやろう決意していた矢先にこれだ。


 今、僕がしていることは世の中に対する不平不満を物にぶつけるだけの非生産的なことを繰り返している。こうでもしなければ僕の日々の闇は晴せない。





どれほど続けていたのだろうか。


 ふと、掴んでいるゴミ箱を一瞥すると至る所が凹んでおり、しぼんだチューリップのようだった。床は元々カーペットが敷いてあったのだがそれも無くなってしまい剝き出しになった床に叩きつけたことによって塗装が剥がれひどく傷ついていた。


「……何やってんだよ……。いい年した大人が……情けないないな。今の自分」


冷静さを取り戻した自分はゴミ箱を床に放り投げ、床に仰向けに寝転んだ。




明日の試験どうしようか……




 そのことで頭がいっぱいだった。彼はいま試験に向けて書き続けているのだろうか。きっと彼は絵の才能があるのだろうな。自分とは大きく違うのだろう。僕もそんな世界に生まれたかったな。しばらく休校して新しい着眼点や経験を得たほうが有意義なのではないか。きっと自分にも何かの才能が隠れているのかもしれない。この機会に今の人生を見つめ直すのもありかな。


 そんなことを想像していると突如右足のつま先に違和感を覚えた。すぐさま右足を確認すると先ほど放り投げたゴミ箱が自分のつま先を吸いこんでいた。




「!? あっあっ……足がああっ! は・な・せっこのっ!」



 どういう原理かはわからないがゴミ箱が自分の足にくっついており、引きはがすことができない。



「っやっぱりこいつが部屋の家具をっ……くそっ全然離れないっ!」


 この状況においてやっと理解した。このゴミ箱は有機物だろうと無機物だろうがなんでも吸い込み、あわや自分すらも飲み込もうとしている。何故、床に叩きつけている最中にこいつを外へ放り出さなかったのだろうか。


そうも考えているうちにどんどん体が吸い込まれてゆく。


「くそおっ……! なんなんだオマエはあっ!? 何の恨みがあってこんなことを!?」


ゴミ箱が胸までに差し掛かってくる頃にゴミのこの中何かが映し出されていた。


人の顔だ。それはどこかで見た覚えがあった。そうその顔は図書館で出会った同級生だった。


「オマエはっ……図書館であった……」


「イイタイコトハ……ソレダケカ……」


「えッ……!」


「うっうおおおおっっ!? 待ってくれっ! 頼むっ……待っ……」


その言葉を最後に僕はゴミ箱の中に吸い込まれた。


~一か月後~


 住んでいた部屋は僕の失踪によって空き家という状態になっている。住人が一か月も家を空けているのに誰も不思議がらないんだから変な話だよな……その部屋に残っているものはゴミ箱の一つだったため住人の夜逃げとして扱われた。


 部屋にあったゴミ箱は撤去されて廃棄場へと捨てられた。




が、




「おっ! ちょうどいいサイズのゴミ箱捨てられてんじゃん! もったいねえよな~今どきの若い奴らってなんでも捨てやがる。」


どうやらゴミ箱になる人生も悪くない。徹底的に利用して最終的にはこいつを食ってやる……!


ククク……カカカカカ……! 俺と同じ苦悩を辛さを味わわせてやるっ! ククク……




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