55話 天上天下唯我独尊の女 さんご
2年前の高松体育館。
プロレス興行があった。
カンカンカン
≪2分15秒~ 勝者ビッグバン・ベイラー≫
196センチ180キロのスキンヘッドの外人プロレスラーのベイラーはコーナポストに上がり腰に手を置きチャンピオンベルトアピール。
ΩΩ≪すげえ、星崎まったく相手にならんかった。 すげえ高さのパワーボム
ΩΩ≪120キロの星崎を軽々と持ち上げる超獣ベイラーのパワーすごいな
ΩΩ≪武道館のタイトルマッチは九州力が負けるだろうな、もう歳だし
二時間後……
ビジネス街の人気の無いビルの間を、巡業を終えた二人のタンクトップ着た外人レスラーがコンビニ袋を持って歩いている。
「ベイラー? タカマツ、ドコモ ミセ ミツカラナイ、ホテルデアルコールGO」
「イエス」
その時、原付バイクが外人レスラー二人の前に止まった。
テントウムシを模した半キャップヘルメットの特攻服を着たさんごがバイクに乗ったままジ~っとベイラーを見ながら、
「ベイラー?」
「イエス」
「ベイラー? コノ女の子、ファンダ。 シェイクハンド シテヤレ」
「イエス♪」
ベイラーは笑顔で右手を差し出した……
さんごもバイクから降りて、右手を出したが……
右手は上に行き、ベイラーの顔の前で中指を立て、
「ファックユー・ストリートファイトカモン」
ベイラーは両手を広げて、笑顔で首を振りながら。
「オ~ウ、オ~ウ」
ガツン★
さんご(170センチ)のコブシがベイラーの鼻頭に当たる。
「まともにやれ」
「シッツ……」
鼻を右手で抑えたベイラーの眼つきが変わる……
ベイラーの同伴レスラーがさんごを押さえつけようと迫って来た時!
瞬時にさんごは、特攻服の両サイドポケットに両手を入れ……
取り出したのは鉄のトンファー二つ!
鉄トンファーのエルボーを顔正面にガチン!
ひるんだ頭に鉄トンファーでガン!! ガチン!!
うつ伏せに倒れ動かなくなる。
倒れた同伴レスラーを見下ろすベイラー、
「ジェームス……?」
「次はおめえだよ、超獣」
「キルユー……」
圧倒的な体格差で乗りかかろうとした、その時……
プス―――
「ウウ…」
サンゴの待ち構えていたトンファーエルボーの先がベイラーの腹に刺さっている。
「トンファーの先は、相手を刺し殺せるように鋭利になっとる……」
「ヘルプ…ミー」
「ギブアップ?」
「ギブアップ……」
「ならこのテントウムシのヘルメットを覚えとけ? 香川の14歳のさんご様がおめえをぶっ倒した…ちゃんとマスコミや警察に言えよ? 住所は高松◯◯ー12」
「ジャパニーズ…ノー…」
「あ?ちっ… マイ・フォーティンエイジ! オッケー? ネームさんごオッケー?」
「フォーティンエイジ? age14? ネーム、サンゴ?」
「おっけ」
ガンガン!! ガンガン!! ガンガン!!
ボッコボッコのフルボッコにしてやった。
近くの銀行ビルに防犯カメラがあったから顔をしっかり向け、バイクにまたがりナンバーも見えるようにして走る。
これで全国でオレは有名になれる……
14歳がベイラーともう1人外人をぶっ壊したんだからな。
翌日…
オレの家の、オレの部屋のガレージで…
警察はまだかと待っている。
おせえ…
もう昼やぞ…
自首は、犯罪したことにビビっとるみたいで、だせえから出来ん…
警察~ 有名外人プロレスラーを殺人未遂だぞ? まだかよ?
隣の家まで行き、美顔ローラーしとるババア(母)に、
「おい? 警察からなんか電話とかなかった?」
「ない」
「ちっ」
ケイタイでプロレス団体のホームページのニュースをチェックする。
『ベイラー選手ジェームス選手、今シリーズ欠場の報告。←new』
「あ? 欠場の報告?」
押すと、
『昨夜の高松大会の試合後、宿舎にて階段から両選手は転落し重症となり、現在は両名とも治療中です。 以降の今シリーズ両名は欠場となります。 最終日の日本武道館のメインイベントのヘビー級のタイトルマッチは九州力vs佐々木に変更となります』
「なんだこれ? なんでなんでなんで~? …もしかしてプロレス団体側が… ベイラーが14歳にボコられたと世間に知られたら…都合が悪いとか思ったんか?」
しかたねえ…
ツイッターで、
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べイラーの大けがじつは、オレがやったんだよね
ほらこの血の付いたオレのトンファーみてみて
これでぼっこぼっこにしたった
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数時間後……
いいね2つ?
リツイート無し?
完全にしくじったわ……
写真か動画を撮っとくんやった…
超くそ…
最上のヤンキーになるには…
中途半端な伝説はダメ…
宮本春彦程度のレベルでもダメ…
もっと上、最上に…
最近、『卍』のスカジャン着た金髪外人ヤンキー女のケンカが巷で話題になる。 動画見た… この程度、オレにもできんのに… それにしても、すっげえPVの再生数やな…
やっぱ香川は田舎やな… 東京だからこの女はむちゃくちゃ得しとんな… コイツ狩ったらオレの方が全国で…いや…世界で有名になれんだけどな~
今日の昼、
近間からラインが来た。
高知のひろめ市場に、東京の有名な『卍』スカジャンのヤンキー女が来とると…
一緒に狩ろうと…
超チャンスが来た…
近間にも谷口にも殺らせねえ…
オレ1人が京極茜を殺る…
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トラックを運転するオレはガン!ガン!っと前方にある軽どもを跳ね除けて追手筋を飛ばす!
見えた! ひろめ市場!
アクセルをベタ踏む!
横から、
('Д')≪まさか! さんごさん!? 突っ込むんすか!?
「ヤル気マックス90キロ」
('Д')≪人が死ぬかもしれないっすよ! ひいい!当たる~~
オレは笑いながら、
「天上天下唯我独尊」
ガシャ――――ン
ガッガガ――――…
テーブルや店舗をクラッシュしまくった後にフロントガラスが割れたトラックを止め、
サイドミラーを見ると。
『卍』スカジャン!?
おった!
京極茜!!