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173話 新宿ゴールデン街 おふくろの味 居酒屋『京極』


 2年後……


 横山直美(50歳)は居酒屋たんぽぽに入るとオーナーと女将が、


【どうだった?】


《横山さん……落ちても、また次があるからね》


 横山は表彰状の様な紙をバッグから取り出し、


―――――――――――――――――――――――――――

調理師免許証

本拠地高知県

横山直美

平成●●年四月十日生


調理師法(昭和三十三年法律第百四十七号)により調理師の

免許を与える。よってこの証を交付する。


高知県知事 川枝千春

調理師名簿登録番号第39784

―――――――――――――――――――――――――――


 オーナーと女将に広げて見せた。


「受かってました♪」


 オーナーと女将は嬉しそうに横山直美を見て、


【良かったね】

《安心したわ》


 横山直美は大事に扱って調理免許をバッグに戻した後で、


「大将、女将さん、私が居酒屋たんぽぽを引き継ぎたいです」


 オーナーと女将は嬉しそうに顔を見合わせた後に、横山直美を見る。


【気持ちはすっごく嬉しい。 でも…… 横山さんは東京に戻りなさい】


「え?」


《ワタシは会った事が無いけど、きっと京極さんは赤銅さんにお客さんに来て貰いたかったと思うの》


「今の赤銅さんに来て貰う……」


【多分、ここで店をしていても東京にいる赤銅さんが来る事は無いよ。 横山さんのお店が赤銅さんに料理を出した時、京極さんの夢は叶ったと言える。 だから……引っ越しの手続きが済めば東京に戻りなさい】


「分かりました」


 横山直美の眼鏡の向こうの眼差しは強かった。


【横山さんは僕の弟子だ。 がんばって】


「本当に、ありがとうございます」




 翌月、私は室戸岬から新宿のアパート(1K)に引っ越した。

 引っ越した翌日には、店の物件探しに新宿のゴールデン街を歩く。


「たんぽぽの大将が、始めは小さな安いテナント料の店から始めた方が良いと言ってたけど…… 一通り探しても空いてる店舗が無い……」 


 古いくすんだ3階建てのビルの前で足を止めて、


「テナント募集中? 一階は古い「ろばた焼き」のお店だけど二階から上は空いてるテナントがある?」


 私は書かれていた電話番号にかけた。


≪はいセイワ不動産です≫


「ゴールデン街のコアラビルのテナント募集の看板を見て電話させていただいたのですが」


≪今、コアラビルにいるんですか?≫


「はい、ゴールデン街でお店を出したいので物件を探していたんです」


≪すぐにそちらに向かいますので、お待ちいただけますか?≫


「はい」


 切って、3分程すると20代位の男が小走りで来て、


≪セイワ不動産の戸田です≫


 名刺を渡してくれて受け取り、私は頭を下げて、


「返す名刺が無くて申し訳ありません。 私は横山直美と申します」


 戸田さんはスーツのポケットからカギをジャラジャラと取り出し、


≪では空きテナントをご案内しますね≫


「はい」


 急な階段を上がる。


 二階は向かい合いに二つの鉄のドアがあった。 

 一つの扉の上には『スナック夢二』。

 戸田さんは看板の無い方のテナントの鉄のドアのカギを開けて、


≪どうぞ≫


 私は中に入る。


 お客さんのスペースがカウンター4席と6人くらいは座れそうな長テーブル1つで小さい…… 


 だけどカウンターの中には設置されたコンロが4つあって……

 シンク(流し場)も広い……

 お皿を置ける場所も結構作れそう……


≪前はカラオケ居酒屋だったから構造はそのままなんですよね。 横山さんがスナックがしたいなら、調理スペースが大きい分、お客さんのスペースが小さいから、営利的には不向きな構造かもしれませんね≫


「お幾らですか?」


 戸田さんは少し驚いた顔で、


≪え? 良いんですか?≫


「はい決めました」


≪ありがとうございます。 ここは月10万ですね。 初回は6か月分を前払いになります≫




 私は借りた店舗のカウンターに座り、師匠に携帯で電話する。


≪trrrr trrrr はい、居酒屋たんぽぽです≫


 私はカウンターの上の店のカギを見つめ微笑みながら、


「大将。 お店の場所が決まりました」


≪おう~~ それは良かったね~~ どこに店を出すの?≫


「新宿のゴールデン街です」


≪え?≫


「どうしました?」


≪そんな所に出しちゃダメだよ! ライバルとなる店は長い時間を生き残って来た常連を多く抱えているベテラン老舗店が多いだろうし! まだ未熟な横山さんの店じゃ勝つにのは厳しいよ!≫


「そっそんな……」


≪きっと人通りが多いからと良い思ったんだね? 素人がよくやるミスだよ!≫


「そうだったんですか…… 大将に相談すべきでした」


≪家賃は?≫


「月10万です…… これはかなり安いと思うんですけど……」


≪新宿で10万? たしかに安いね?≫


「はい、調理場のスペースも問題無いです。 唯一の問題は階段が急な二階だけど」


≪二階!?≫


「どうしました?」


≪二階で居酒屋の新規営業は不利なの!!!≫


「ど、どうしてですか?」


一見いちげんさんが階段上って、わざわざ無名の横山さんの店に来ると思うかい?≫


「はっ!? たしかに!」


≪断れるならすぐに断った方が良いよ!≫


「大将…… すでに契約書にサインして、半年分の家賃60万をすでに支払ってるんです……」


≪まあ……もうそれなら始めるしかないね……≫


「はい…… 今度から何かあったら大将にすぐ相談します……」


≪うん、僕に遠慮しない相談してよ! ところで店の名前は?≫


 私はこれから出来る店内を見渡しながら、


「決まってます。 おふくろの味 居酒屋『京極』です」


≪良いと思う。 逆境に打ち勝てそうな名前だね≫


「はい」





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