170話 自由の女神に至る
刑務所を囲む塀の中の世界。
ここは独りぼっちで誰も助けてくれない。
茜じゃなくて私が死ねば良かったんだ……
なんて……
「もう絶対に思わない……【●】―【●】」
ΩΩΩΩ≪おい! ヨコカス! こっち来いや!
私は、秋葉原の雑居ビルで茜とタイマンした時に言われた言葉を思い出す。
≪オマエのコブシ、ぜんぜん響かねえ… オマエ…やっぱ、よええわ≫
私は報復してくる4人に歩きながら、
「そうだよ…… 私は、茜と違って弱いんだ…… でも、茜の夢は私が叶える。 例え、どれだけ踏み潰されてでも……」
ドスン ボコ ガス ドン バスン
グシャ グシャ グシャ グシャ
Ω≪ふう~
Ω≪今回はコレくらいにしとくわ
Ω≪また今度な?
Ω≪次はブラックチェリー様をマッパにさせて遊ぼうぜ
「これは私への贖罪だから、全てを受け入れる」
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| ̄ 旦  ̄| ≪横山あんた…… そんな状況に、30年も我慢できたの?
【いえ、私に報復してた受刑者達は4年で出所しましたから】
風間は、オカワリの缶ビールを袋から取り出し、プシュと開けて、
「ゴクゴク…………ヒック、オシッコしたい……」
【トイレできる所で止まって】
≪了解しました≫
全自動車は応答した。
| ̄ 旦  ̄| ≪やりたかった調理は出来るようになったの?
【その4年間の内で児童相談所への食事の配給が無くなり、調理実務自体が立ち消えていました】
| ̄ 旦  ̄| ≪そう…… でも意地悪な大林って刑務官はクズだね……
車はコンビニで止まり、
【どうぞトイレに行ってください、ごゆっくり】
| ̄ 旦  ̄| ≪ヨシトモさん、一緒にトイレまで連れて行ってあげる
「すまないな」
モアイは風間に肩を貸しコンビニへ……
車のシートで一人座る横山直美は、
「大林刑務官……」
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長い無期懲役の刑期中に……
時折、私は自由時間に壁を背もたれに座って目を瞑り、料理を作るイメージする。
食卓にはお母さん(シャーロット)と茜とパンダのお姉ちゃん…… そして、会いたいけど申し訳なくて、とても会うことの出来ない、あの人が座っている。
「おいしい?」
ニチャ~~
シャーロット「直美? また腕を上げましたね?」
「アネキ、このポテトサラダ……マジうめえぞ? ≪○≫≪○≫」
(ΘェΘ)≪あむ~♪
「横山先輩! このポテトサラダくっそうめえわ!!」
私はオタマの上に乗せたジャガイモを皆に見せて、
「ジャガイモにこだわってますからね♪」
( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )(ΘェΘ)
みんな笑ってる……
≪横山?≫
「【◯】ー【〇】は? 大林刑務官?」
≪今回は何を作ってた?≫
「え?」
≪これあげる≫
「この袋は?」
≪私、明日で京都に移動なんだ≫
大林刑務官は、座った私に頭を下げて、
≪ごめんなさい≫
去った。
大林刑務官が置いていったのは幾つかの料理の本だった。
開くと、おいしそうな料理の写真にレシピ―。
「今度はオムライスをみんなに食べさせてあげよう…… ん?」
料理の本の中に紙が挟まっていた。
その紙には遠藤周作の小説「沈黙」の、
司祭が神の踏み絵を前にした時の場面の一文がペンで書かれていた。
―――――――――――――――――――――
私は踏まれるため、この世に生まれ、
痛さを分かつため十字架を背負ったのだ
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その文を読んだ時、今までの私の人生を思い返す。
私は胸の刺青を触った時、
母を許せる様な気持ちになった。
目を瞑ると……
( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )(ΘェΘ)≪美味しいあむ~♪
私は、今度は現れた父さんと母さんにもポテトサラダを上げる。
「お父さんとお母さんも食べて」
宮本晴彦「ウメエ」
ツクシ「……まあまあだな」
ニチャ~~
≪ツクシさん? 照れてますね?≫
「照れてねえよ……シャーロット、つまんねえ事を言うなよ」
( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )( ◠‿◠ )(ΘェΘ)
毎日みんなに会ったり、
「ふふ、またシャーロットと茜がケンカしてるの、パンダのお姉ちゃんが止めてる」
毎日、私と母が迷惑をかけてきた人達への懺悔と、
海に流されたお父さんお母さんが成仏できるように祈った。
30年に及ぶ長い刑期……
出所が近づく時には、その30年はあっという間に感じた。
夜に、母の声が聞こえた気がした。
「なおみ?」
「お母さん?」
「本当にワタシを許してくれんのか?」
「はい。 お母さんの罪の分も、私が償いました。 成仏してください」
「ありがとう」
翌日、私は出所した。