169話 兵庫県加個川女子刑務所
黒のスーツを着た、ショートヘアに眼鏡の横山直美(50歳)は、風間(元スキンヘッド)とモアイに頭を下げる。
下げ終え上げた顔は、32年前の面影があった。
| ̄ 旦  ̄|≪横山直美という事は昔のブラックチェリー? 京極が死んだ原因の?
モアイは横山直美を睨み、
| ̄ 旦  ̄|≪アンタ! ヨシトモさんを再び悪の道に勧誘する気でしょ!?
風間は、
「真澄美、ソレは無い……」
| ̄ 旦  ̄|≪え?
風間は横山直美の目を見つめ、
「久しぶりだな、直美」
【久しぶり、スキンヘッド】
「昔オレが、直美の母さんシャーロットを撃ったから来たんだろ? でも元はと言えば直美がオレに命じた事だ」
横山直美はワンピースのポケットからキーを取り出し押すと、道路に止めてある近くの電気自動車がピっと鳴った。
【二人とも乗ってください、東京まで送りますよ】
| ̄ 旦  ̄|≪どうしよう風間さん?
「乗せてもらおう」
三人は電気自動車に入り、対面のシートに横山と向き合って風間とモアイは座る。
【新宿のゴールデン街まで】
≪了解いたしました≫
全自動運転の車は応答して動き出す。
横山直美は横に置いてあるビニール袋からアサヒの缶ビール500mを取り出して風間に手渡した。
【差し入れ、スキンヘッドはアサヒの缶ビールが好きだったもんね】
「ありがとう」
プシュ
「ゴクゴク…… うおおおお…30年ぶりのビールうめえ……」
感極まって目を強く閉じる風間の顔を見た、横山直美とモアイは微笑んだ。
「で? 直美は、なんでオレに会いに来た?」
横山直美は缶ビールをモアイにも手渡した後で、
【正確には違うの。 私は……】
横山直美は缶ビールを飲み始めたモアイを見つめ、
【鬼ヶ原真澄美さんに会いに来たんです】
| ̄ 旦  ̄|≪え? ワタシ? 言っとくけどワタシは悪の道に入る気は無いからね
【なぜ?】
| ̄ 旦  ̄|≪ワタシは、総菜屋で働いてる今の生活で十分だからね
横山直美は笑顔を向けて、
【鬼ヶ原真澄さん、料理は楽しいですか?】
| ̄ 旦  ̄|≪うん。 しんどいけど楽しいよ。 まあ…… ブラックチェリーだったアンタなんかには何も分からないでしょうけどね?
横山直美はジッとモアイを見つめ、
【ワタシは新宿中央ビルから落ちる最中に、京極茜から託された事がありました】
| ̄ 旦  ̄|≪京極から?
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32年前、私は兵庫県加個川市の女子刑務所に送致されました。
だけど…… 元東京連合及び、ダンテの総長ブラックチェリー……
それ故に、一部の受刑者から報復行為をされていました。
Ω≪へ! こんなクソひ弱が東京連合のボスだったのかよ!
Ω≪ワタシの神奈川連合の彼氏はオメエのせいで車イスだよ!
Ω≪京極じゃなくてオメエが死ねば良かったんだよ!
Ω≪ワタシらの事を刑務官にチクったらマジで殺すからな?
大林刑務官が来てくれて、
≪みんな、なにしてる?≫
ΩΩΩΩ≪いえ……
≪横山から離れて向こうに行け≫
ΩΩΩΩ≪はい
【大林刑務官、ありがとうございました】
≪顔以外を殴られてるの? 大丈夫?≫
【はい……でも、されても仕方がない事を、外でして来ましたから】
≪横山の生い立ちから調べさせて貰ったよ。 自由の女神になりたかったのに…… 今はシャバの時の報復されてるんだね? 大変だな? ……ところで横山はお金たくさん持ってるよね?≫
【え?】
≪三日前に弁護士が面会に来た時に聞いたよ? 青山の家を売って一億は余裕にあるんでしょ?≫
【な、なに言ってるんですか? 大林刑務官?】
≪4000万でいいよ。 誰か知り合いに連絡して現金4000万を用意してワタシに渡してくれれば守ってあげるよ? 金を渡せないなら報復を黙認し続けるだけ。 これから先、何年も毎日、アイツラの報復に耐えられるかは知らないけど≫
【……あいにくですが、私には連絡できる親族も知り合いもいません】
≪それ? つまりノーて事なの?≫
【はい】
≪まいっか…… あ? 横山は『調理』の実務労働が希望だったよね?≫
【はい、加個川刑務所で作ったお弁当を児童相談所で保護してる子供達に提供しているんですよね? 私は子供たちに料理を作りたいです】
≪それ、ワタシがいる間はずっと却下ね≫
大林刑務官は背中を向けて去った。
私の目の前の景色と、私に託された茜の夢がグニャ~~と歪んだ。