167話 40年後、日本裏社会の首領に届いた割烹料理『京極』への招待状
京極の死から1年後の深夜……
下関市の壇ノ浦パーキングには溢れんばかりのヤン車と単車が集まっている。
一台の黒のレクサスがパーキングに入って来た。
レクサスの運転席から一人のシルバーヘアーの男が、巻いた旗を持って降りて、
「アンタらのボスは?」
ΩΩ≪トイレの前のベンツの4WDだ
シルバーヘアーの男は一人でベンツの4WDへ歩く……
黒のベンツの4WDの前には後藤朝子を真ん中に両サイドに美園礼子と雷火が立っている。
美園「『辺流★魔悪苦』の葛西が来た。 アサコ……コレで……」
雷火「遂に……」
シルバーヘアーの男は後藤朝子の前で、アスファルトに両膝を付いて持って来た暴走族『辺流★魔悪苦』特攻旗を広げた。
旗には葛西の名前と拇印が押されている。
葛西は、後藤朝子を見上げ、
「後藤さん、九州はあんたに降伏する……」
≪立てよ葛西≫
立ち上がった葛西を、後藤朝子は見つめ、
≪葛西、英断だ。 これで無駄な血が流れなくて済む≫
右手を出して、
≪これからは全国のヤンキーみんなが仲良くすりゃいい、来月に大阪で開く全国総長懇親会に来てくれるか?≫
「はい」
後藤朝子と葛西は握手した。
後日、大阪のホテルの披露宴会場では全国の暴走族の総長が集った懇親会が行われた。
名古屋のゴリラクイーンと美園礼子は腕相撲対決。
ゴリラクイーン「うおおおおおお!!」
美園礼子「ぐおおおおおお!!!」
裏方で呼ばれた聖クリOBの聖クリ四天王の三人は、
四Ω≪うお! テーブルが壊れた!?
天Ω≪という事は、ゴリラと美園は引き分けですことよ!?
王Ω≪割れたグラスを片付けなきゃ!
正装の谷口サトルは雪子と、二人の間に出来た赤ちゃんも眠ってる。
雪子「負けず嫌いのサトル君が後藤朝子に降参なんて意外やったよ? サトル君の夢も全国制覇やったもんね?」
不機嫌そうな谷口はグラスのビールをカッと飲み干した。
「ふん……」
雪子の膝の上の赤ちゃんが目を覚まし、
「パッ、パッパァ~~」
笑った。
赤ちゃんの顔を見た谷口がニコッと微笑んだ時、谷口には瓶ビールの口が見えた。
見上げると雷火が立っている。
「谷口さん、その子が『渦』を降参させた理由ですね?」
谷口はグラスを突き出し、ビールを注いで貰い、
「ふん」
ゴクゴクと一気に飲んだ後に、
「雷火、グラスは?」
「はい」
谷口は注ぎ返し、
「雷火、時間があったら徳島に遊びに来いや」
一気に飲んだ雷火、
「はい」
メーンテーブルの後藤朝子に、顔と名前を憶えて貰うために全国の総長が列を成してる。
Ω≪島根の『二三四《ジーサムス―》』の福田です! よろしくお願いします!
後藤朝子のオチョコに日本酒を注ぐ、
「おう、ジーサムスーな!? よろしくな!」
グイっと飲むと、次の総長が、
Ω≪五島列島の『闇世界』です! お会いできて光栄です!
後藤朝子はまた飲み干し、
「おうナイトゾーン! 今後もよろしくな!」
後藤朝子は立ち上がり、並んでる列に、
「すまねえ、ちょっとトイレ行ってくるわ」
ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ≪どうぞ!
披露宴会場を出て、トイレに歩く後藤朝子、
≪全国の総長っても、ピンキリだから数が多すぎるぜ……≫
前に、長い黒髪を結いだメガネの細い顔と体の30代後半の後藤朝子の母が立っていた。
≪母ちゃん? ホテルの部屋から出てきたんだね?≫
「うん…… 盛り上がってる会場を見てきたわ」
≪全国制覇て思ったより楽しそうだったろ? 悪いけど今夜は朝まで飲むことになりそうだ。 明日、大阪観光を二人でしよう≫
「朝子。 改めて全国制覇おめでとう」
≪母ちゃん? 素だと言うの恥ずかしい事だから、酔ってる今だから言っていい?≫
「なに?」
≪必死になって、アタイを育ててくれてありがとう≫
母は後ろを向いて、
「バカ……」
≪もう宮本晴彦の事は思い出にしまって、これからはホットモット弁当の店長と、第二の人生をやり直して欲しい≫
「考えておくわ」
トイレに行くために、母を越えた後藤朝子の後ろから声、
「朝子もこれからは自分の好きな様に生きて……」
≪うん≫
全国制覇を成し遂げた東京連合9代目総長後藤朝子は、東京連合を解散し、全国のヤンキーを統括する組織を形成した。
組織の名前は『極日本連合』
その初代会長に後藤朝子が就任した
極連と呼ばれる様になった組織は、後に日本の裏社会を統べるようになった。
極連には鉄の掟がある、
『ドラッグには手を出さない』
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全国制覇から39年後の年末……
東京の大きな和の屋敷の一室、テーブル越しでテレビを見る着物を着た後藤朝子(56歳)がいる。
≪遂に中国が尖閣諸島を占領しやがった…… 南海大地震もあったし、赤銅は大変だな……≫
フスマが開き、痩せた美園礼子(56歳)が手紙をポイっと後藤朝子の座るテーブルの上に投げ落として、
「会長とワタシに招待状だ」
後藤朝子は、手紙を拾い見た。
≪差出人クリスチーヌ? アタイと美園の母校の校長だった人か? 麻布十番の割烹料理屋『京極』で同窓会?≫