ー後日談ー 164話 鬼頭妹の末路と、後藤朝子の虎武流への処刑
新宿中央ビルから離れて行く黒の軽自動車が一台。
運転する鬼頭妹はケイタイを取り出してスピーカーにする。
≪喂≫
ケイタイからは低い男の声が聞こえた。
「局長…… 残念な報告ですが、『傘』の日本における計画は失敗です」
≪ボゥ…… 新宿中央ビルに派遣した者達は?≫
「動ける者は退避させましたが…… 死者はA級工作員の黄文濤を含めて3名です。 すでにその死体は回収して、山梨の処理場へ運んでいます」
≪あなた? しっかり処理お願いしますよ? 得意でしたね?≫
「はい」
≪横山直美は生きてるか分かりますか? 警察に捕まりましたか?≫
「今の段階では分かりません」
≪長い年月をかけた今回の計画でしたが…… まあ良いでしょう…… 日本を裏社会から侵略する次の手を考えます≫
「あの…… 変わった現象を目の当たりにしたのですが……」
≪なんですか?≫
「横山直美にリンファという女が乗り移ったんです。 京極もブラックチェリーが転生したとなんとか」
≪リンファ? ブラックチェリー? 転生? 詳しく聞きたいですね?≫
カチャ。
4時間後の早朝の山梨県の山中にある廃車場……
ガソリンで火を焚かれたドラム缶のすぐ近くで、
ウイイイ―! ウイイ! ウイイ――!
鬼頭妹は手際よくチェーンソーで切ったモノをポイッポイッとドラム缶の中へ投げていく。
最後に死体を包んできた黒ビニール袋をドラム缶の中に入れて、
「これで終わり」
近くの二つ重なったタイヤに腰を落としてタバコ(ショートホープ)を咥えて火をつける。 燃えるドラム缶を見つめながら、
「疲れたわ……」
ケイタイが鳴った。
≪ピポパポン~ピポパポン~≫
「もしもし」
≪処理はどうですか? 順調ですか?≫
4時間前に通話した男の低い声が聞こえた。
「もう全部焼いてます。 灰になったら名前も知らないどっかの小さな川に捨てておきます」
≪さすが。 それと、あなた、急いで中国に来なさい≫
「え? 局長? なぜ?」
≪横山直美が警察に捕まりました。 すぐ、あなたに警察来る可能性あるよ。 捕まったらどうですか? 死刑ですね? コッチで戸籍も用意します≫
「わっ、分かりました」
≪『傘』が派遣したドラッグ・クリエイター3人をあなたのいる廃車場に車で向かわせてます。 合流したら、あなたが死体運んだ車を捨てて、クリエイターの車で、灰を川に流して処理を完全に終わらせてから一緒に成田に向かってください。
カチャ。
「ちっ…… 沖縄に帰れずに中国行きかよ……」
鬼頭妹は目を細めてうっすらな朝焼けを見つめ、
「まっ、死んだ姉ちゃんの分も合わして、この2年ちょっとで8億は稼いだしな。 大半がアリペイ(電子マネー)だし向こうに住んでも楽しく過ごせっか」
軽自動車が見えてきた。
「アイツラ? あんな小せえ車で来たのかよ?」
近くで止まり、車の中から3人のドラッグクリエイターが降りて鬼頭妹の前でペコっと頭を下げた後に、
≪鬼頭さん、おつかれさまです≫
「おう、疲れたわ」
≪これ差し入れです≫
ドラッグクリエイター3人はマクドナルドの袋とコーラを差し出した。
「お? 気が利くな? 腹減ってた所だったわ」
タバコをポイ捨てして、ガサガサとハンバーガーを取り出し、
「ビッグマックか? やっぱこれうめえんだよな?」
ムシャムシャとあっさりと食べ終え。
コーラをゴキュゴキュと飲む。
また次のビッグマックを手に取り、
「まだ3つは余裕……ん? ぇぇ……」
鬼頭妹の体はプルプルと震える。
「おい? なにか盛ってねえよな? オメエら?」
≪はい≫
≪ワタシ達はその道のプロですから≫
≪ワタシ達を恨まないでください、コレは上(局長)から命令です≫
バタっと、うつ伏せで倒れた鬼頭妹は、
「かっ体が動かねえ…… おいオメエら…… 金ならマジある…… ケイタイで送金も見せる。 1人2億円出すから、命だけは助けてくれ……」
≪無理です≫
≪あなたを処理しないと、ワタシ達の命も無いし、中国の家族も危険にさらされます≫
≪鬼頭さん、チェンソー借りますね≫
ウイイイ―ギイイイイ!
「ぎゃああああああ…… はぁはぁ…やめて……助けて…」
≪右腕だけでも気持ち悪い≫
≪早く死なせてあげて≫
≪さっさと首やってあげて≫
ギリ―!
「ぎゃやああ!!」
後日……
とあるコンテナの中……
虎武流は目隠しされて両手両足に手錠をかけられて座っている。
「朝子! さっさと殺してチョンマゲ~! 愛してま~す!」
目隠しを外される。
目の前には後藤朝子と美園礼子。
「おい朝子! オレの●●●しゃぶれや! 美園いらね!」
美園礼子は後藤朝子に、
【コイツだけは、ラクに殺したらダメだぞ……】
「そうそう! 生きていた実感が欲しいっす! むごく殺しちゃって!」
ラッキーストライクを吸いながら虎武流を見つめる後藤朝子は、
≪美園? コイツ殺す価値あんのかな?≫
虎武流は興ざめした顔で後藤朝子を見て、
「もう……そういうのいいからさ…… さっさと痛めつけて殺してくれよ? 早くオレも京極と同じあの世に行きた~い」
美園礼子は血走ったギョロ目で、
【オメエと京極を一緒にすんな!】
「死ねば一緒じゃね? おまえバカ?」
【ぶっ殺してやる……】
虎武流は笑って、
「はいどうぞ」
≪美園待てよ……≫
【なんで止める朝子?】
≪コイツは、ココにずっと閉じ込めておこう≫
【え?】
≪病気かなんかで死ぬまで手足は手錠のまま、フロも入れねえし、自分の糞尿で汚ねえ暗闇のコンテナの中でな?≫
【なるほど…… そりゃあ…… 悪くねえな……】
≪ちょくちょく強烈な栄養剤を射てば結構ながく生きられんだろ? エアコンもねえからな? 季節によって暑くもなるし痒くもなるし寒くもなる≫
【詩吟をずっと流してやろうぜ? アレはワタシは10分も耐えれねえからな?】
≪名案だな? さっ、もう行こうぜ≫
「待てよ! 朝子!!」
後藤朝子は振り向き、
≪もう2度とアタイはオメエに会うこともねえ≫
扉は閉められた。
漆黒のコンテナの中に残された虎武流は……
「ファック!! 舌を嚙み切ってやる!! パフ……ファック!! 京極が投げた消火器のせいで歯がねえ!!!」
3時間後、美園礼子によってカセットテープが天井にガムテープで取り付けられた。
≪戦雲暗く 陽は落ちて弧城に月の 影悲し 誰が吹く笛か 識らねども 今宵名残の 白虎隊≫
終わっても、同じ詩吟が繰り返され続ける……
「なんだよ…… このゴミオブザゴミの歌は……」
1週間後……
≪戦雲暗く 陽は落ちて 弧城に月の 影悲し 誰が吹く笛か 識らねども 今宵名残の 白虎隊≫
「もう詩吟えいって…… なんか味のあるもの食べたい…… うまい棒でいいよ……」
一年後……
≪戦雲暗く 陽は落ちて 弧城に月の 影悲し 誰が吹く笛か 識らねども 今宵名残の 白虎隊≫
「ハンタハンター強さランキングやっぱりメルエム最強だよね…… 連載開始してんのかなぁ… くそ、蚊が入ってる……」
3年後……
≪戦雲暗く 陽は落ちて 弧城に月の 影悲し 誰が吹く笛か 識らねども 今宵名残の 白虎隊≫
「入れられて何日くらい経ってんだ? 朝子、これ経費の無駄だろ……放置してくれよ……」
10年後……
「へへへ、やっと手錠外してくれた…… 外された詩吟の音が欲しくなって来た」
15年後……
「肛門が痒い痛い… 痒い……あぁぁっアナル痛っ…いったああ」
18年後……
「朝子? マジでここまでやる? ありえんって? どんだけお互い無駄な時間やろ? 早く殺してって……」
20年後……
「何年くらい経ってんだろう……」
24年後……
「朝子!! まだ生きてんのか!! お―――い!! ……オレの知ってた芸能人とかもうかなり死んでるだろうな」
26年後……
Ω≪ジジイ、もう外に出ていいって
「え? え? 歩けませんけど……」
Ω≪マジで触りたくないから、這いつくばって出ろよ
「なんで外に?」
Ω≪外に会いたがってる人がいるからだよ、くっせ
「朝子か……? ふふふ、朝子もババアになってんだろうなあ、死ぬ前に一目見てやるか」
這いつくばって時間をかけて、なんとかコンテナから出ると、
【ハゲたな虎武流?】
「……み? みその? だったっけ?」
パ―――ン
銃声で、山中の鳥が飛んだ。