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158話 54階 vs中国秘密機関『傘(カサ)』の黄文濤(こう・ぶんとう)

注:天安門事件は1989年、北京の天安門広場で民主化を求める若者が10万人集まった。

 6月4日、中国共産党は軍隊を動員し、民主化を求める若者達を鎮圧した。

 中国共産党により公表された死者は319人だが、数百人から数万人に及ぶなど複数の説があるが厳重な情報統制により、実際の死者数は不明である。

――――――――――――――――――――――――――――――――


 中国政府に秘密機関『カサ』がある。

 ターゲットに定めた民主国家を内部から崩壊させるために創設された組織。

 『傘』の工作員の1人に黄文濤こう・ぶんとうという男がいる。




 1989年6月4日、天安門事件の起きた夜。


 兄14歳と弟9歳の兄弟は天安門でのデモに参加していた。


ΩΩΩ≪中国に自由を!!

ΩΩΩ≪鄧小平とう・しょうへいが権力持ってるから自由がない!!

ΩΩΩ≪趙紫陽ちょう・しようなら共産主義を打破してくれる!!



 デモの中心にいる弟は周りを見渡して、


「凄い人の数だねお兄ちゃん!」


 兄は用意した『自由』と書かれた段ボールのプラカードを弟に渡して、


「中国が、日本やアメリカみたいにきっとなれる。 みんなで力を合わせて声を上げて、自由を勝ち取るんだ。 オレがお前を肩車するからそのプラカードを両手で持ち上げろ」


「うん!」


 兄は弟を肩車した。 弟はプラカードを持ち上げた。

 その子供の兄弟の姿を、周りのデモ参加者は少し笑った者もいた。


 その時……


≪おい! 戦車がたくさん来たぞ!≫

≪戦車が天安門広場を取り囲みやがった!≫

≪でもよ! まさか撃っては来ねえだろ!? 俺たちは民間人だぞ!≫

≪絶対に軍隊には手を出すなよ!≫



「おにいちゃん、戦車がたくさん来て広場を囲んじゃったよ……大丈夫かな?」


「万が一、何かあってもオレがお前を助ける。 テレビを見ていたお前を強引に連れてきた以上は責任がある。 肩車の上のお前は何が起きているか教えてくれ」


「うわ! 火炎瓶が戦車に投げられて戦車が一台燃えてるよ!」


 ドドドドドドドドドド!!

 ドドドドドドドドドド!!


≪ぎゃあああ!!≫

≪逃げろ!! ぎゃああ!!≫

≪皆殺しする気かよ!! 鄧小平とう・しょうへいは正気じゃねえ!!≫


 兄は弟を肩車から下ろし、


「くっ……なんでこんな事に…… 共産党……狂ってるよ…」


「おにいちゃん怖いよ!」


「死んだフリしろ! 寝ろ!」


「うん!」







 うつむいて倒れたオレの周りから音がする。


 パン


 兵隊の声が聞こえてきた。

「生き残って死んだフリしてるの多いな? これで何人目だよ?」


 パン


「震えてちゃ死んだフリにもならないぞ? でも、こんだけの死体を処理するのは後始末が大変だ」


 音がかなり近づいて来る……

 頭の震えを止めるために力の限りを頭に集中していた。


「しかしまあ…… 口封じのためにデモ参加者皆殺しにして、その全ての死体を処理するなんて……コイツラも思っても無かっただろうな?」


 振るえる弟の手がオレの左手に触れた、時……


 パン


「ちっ、しまった子供だったか? 殺したくは無かったけどな」


「うっうっ……」


 涙と後悔の声が止まらなかった。


「お前の弟だったのか? すぐに弟の所へ連れて行ってやる」


 死ぬのが怖かった……


「命だけは! 助けてください!」


 頭を下げて両手を地面につけた時、

 近くの死んだフリしていた男が立ち上がり、


≪みっともないマネは止めろ! あんたも自由を得るためにデモに参加しっ≫


 パン


 頭を撃たれた男はフッと倒れた。


 なんて軽い命なんだ……


 オレは兵隊を見上げ、


「オレは自由よりも! 自分の命が大事です!」


 遠くで死んだフリをしていた男が‥‥…


≪オレもです! 命だけは助けてください!≫


 パン


「アレは歳を取り過ぎていた」

「お前、歳は?」


 オレは二歳若く答えた。


「12歳です! 名前は楊紫延よう・しえん


「12歳でその体格なら、体もデカくなりそうだな? 今を持って天安門のデモに参加していた楊紫延よう・しえんは自由と共に死んだ」


 胸に赤いシールを貼られ、


「両手を上げて、あそこに並んで止まっているトラックに歩いて行け。 いずれ新しい名前が与えられるだろう」


 トラックに歩いて行くと、コンテナに乱雑に乗せられた。

 中には俺より若い男に女もいた。


 パン  パン パパパパパパパパパパ パパパパパパパパパパ


 だんだん雑になっていく銃声が聞こえてくる。

 俺より若い女は耳を塞いで泣いている。

 オレは…… 生きている事が幸運だと感じた。



 トラックは走り出した。


 とても長い時間をトラックの中で……


 出た場所は寒かった……


 体育館のような施設に、他の生き残り達と入れられ、最後に入ったオレは『319』と呼ばれる。


 3日間に及ぶ、運動能力テスト、知力テスト、思想テスト。


 白衣を着た眼鏡の男達が査定をする。


 合格に至らなかった生き残りは、兵隊に連れ出されて帰って来なかった。

 

 合格者はオレを含めて14人。


 それから14人には、英語やドイツ語や韓国語や日本語など、それぞれ違う国の言語を指導された。

 オレは日本語を学ばされた。

 その他にも、一対一戦闘技術(武術太極拳含む)、ハイテク機器、心理学。


 そして…… 


 神経機能が格段にアップする半永久なドーピングを射たれた。

 ドーピングの副作用でステロイド系の薬は、金輪際の使用は禁じられた。

 このドーピングで50歳までとても生きられないと聞かされる。

 定期的に中国科学省から出される抑制剤を飲まないと死に至るとも……


 8年後、1人が腎臓ガンで死んで13人になった時、


 秘密機関『カサ』が創設された。


 オレは『傘』の日本担当の工作員になり、黄文濤こう・ぶんとうという名前を与えられ、日本の東京に来た。

 表上の仕事は銀座のバー『アンブレラ』を営む。


 『傘』の指示で暴走族『修羅』の総長の女、両親が中国人の横山ツクシと接触した。 だけど彼女は狂っていてコントロールは無理だった……


 ツクシと宮本晴彦死後は、『傘』の指示で、シャーロットと中国残留孤児の風間スキンヘッドを懐柔した。

 『傘』の思惑通りにシャーロットの仕切る東京連合は、政治家の子達のスキャンダルを作り上げてはその証拠と、『傘』が聖クリスチーヌ女子学園に運んだドラッグ・クリエイターが精製する『チェリー』により強大化した。


 『傘』はアメリカ人のシャーロットより、中国の血が入っている横山直美を日本の裏社会のトップに立てたかった。 これから先、本格的に子達のスキャンダルにより一党独裁状の与党の大物政治家を操り、ドラッグ『チェリー』を中国国内で精製し日本中に売るつもりだった。


 順当にシャーロットから横山直美に日本の裏社会のトップは受け継がれるハズだったのだが………

 シャーロットの義理の妹、聖クリスチーヌ女子学園の校長クリスチーヌが京極茜を横須賀女子少年院から出所させてしまった事により狂いが生じた。


 バー『アンブレラ』でシャーロットはアメリカ人と日本人のハーフの京極茜を、ワタシの次の日本の裏社会のトップに立てたいと言った。

 「自由の女神ブラックチェリーの血を継ぐ京極茜が日本のワルを仕切るべきです、直美には幸せな人生を歩んて欲しい」と……


 ありえないんだよ…… シャーロット……

 京極茜がトップになれば…… 

 さんざん時間を費やしてきた『傘』の計画も……

 オレの黄文濤こう・ぶんとうの人生が無になる……


 横山直美がトップのダンテ発足と、用無しの東京連合を排除するために『傘』は陰で動いた……


 うっ……… 痛い……


 オレは腎臓ガンとドーピングの影響で余命はそんなに無いんだ……


 楊紫延よう・しえんは天安門で死に、生きている『傘』の黄文濤こう・ぶんとうにその姿を見せてくれ……

 死ぬ前に、一度、見てみたかった京極茜……いや……


 オレが心から憎む《《自由》》の女神ブラックチェリー……


 ス――――


 オレの前の54階のエレベーターの扉が開く……



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