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★ラストインターミッション★ 1850年 華僑『郭』家の未亡人 凛華(リンファ)さん


 1820年、327人の中国人が初めてアメリカへ海を渡り移り住んだ。

 

 この者達は、後の1848年サンフランシスコで起きたゴールドラッシュ以降にアメリカに移り住んだ労働者では無く、アヘンによる治安の悪化や経済の破綻が起きていた中国清王朝を見限りアメリカへ渡った華僑かきょう達である。


 1848年以降はアメリカ西海岸ゴールドラッシュで一獲千金を夢見た人々が世界中からカルフォルニア北部に殺到した。

 アメリカに渡った最有力の華僑のカク家も、中国から中国人の金採掘の労働移住者を迎い入れるためサンフランシスコに大きな中華街チャイナタウンを形成した。 

 当時のサンフランシスコチャイナタウンは治外法権であった。






 1990年。


 ワタクシは聖女マリア。


 ボディガードを二人連れてサンフランシスコのチャイナタウンに来た。

 目的は我らの信仰である自由の女神の存在を明らかにしたいからである。


 事実的の証拠は全く残ってはいないが、言い伝えではサンフランシスコチャイナタウンは昔は死の中華街チャイナタウンと呼ばれていたとか……

 もしかしたら自由の女神も、昔このチャイナタウンで誰かを救っていたかもしれない。


 ワタクシはそれなりの金を使い、このチャイナタウンで90歳の華僑の女と接見できる事になった。

 

 チャイナタウンの中央にある大きな屋敷の前で車を停めると、とても小柄なヒゲ面から、ワタクシだけ屋敷の中に誘われ中華風の豪華な部屋のイスに座らされる。


「祖母《ズーム―》!」


 とても小柄な男が呼ぶと、奥から背の低い白髪の老婆がペンギンの様な変わった歩き方でワタクシの横のイスまで来て座った。


 足元を見ると、ありえない程の小さな靴…… 10センチくらい?

 

 ワタクシが向ける靴への目線を見た後に、老婆は自分の小さな両足を伸ばして見つめ、


【この足は纏足てんそくじゃよ】


「てんそく?」


【人間として生まれて最も悲惨なことは、纏足される女子おなごじゃ】


「その足はされたのですか?」


【中国の風習じゃ。 今の時代では無いが、ワタシが20歳になる前くらいまでは女は4歳になると、麻酔代わりにアヘンを吸わされた上で寝台に固定され、親指を除く8本の足指を内側に強く折り曲げられ、舟状骨や距骨など足の甲の骨を石で砕き布でギュ――――っとこの上なく強く縛れらるんじゃ…… 親指以外の8本の足指を内側に曲げて全て足裏にくっつくようにするためにね】


「なぜそんな酷い事をするのですか?」


 老婆は目を大きく開いてワタクシを見て、


【男にとっては逃げられないから都合が良かったんじゃ…… 纏足は可愛いらしい歩き方になるしのぉぉ】


「バカげてます……」


【昔から中国の男には、女が小さな足を引きずるように狭い歩幅でヨチヨチ歩く姿を優雅とみる美意識があって、布できつく縛られた苦しみと痛みの足から漂う汗や膿や汚れの臭気は、ある種のフェロモンになったという。 事実、膣の閉まりも良くなるらしいからね? 纏足は二度と元に戻らっ】


 ワタクシは話を遮り、


「本題を聞きたいです。 このチャイナタウンは昔1850年頃は死の中華街チャイナタウンと呼ばれていたそうですが、事実ですか? 何か知ってませんか?」


 老婆は目を垂らし、口角を上げた。


【『三寸金蓮サンツンジンリエン』だったカク家の未亡人の凛華リンファさんの事だね? ワタシの先祖じゃよ】


「三寸金蓮? 郭家の未亡人のリンファさん?」


【三寸金蓮は、最高の纏足と歩き方を持つ女に与えられる称号じゃ。 美しかったリンファさんは身長170センチもあったが足の長さ9センチ。ワタシの身長は150センチで足の長さ11センチ…… リンファさんは毎日激痛だっただろうね。 リンファさんは当時のアメリカ最大の華僑『郭』家の跡継ぎに見初められ結婚し男の子を1人生んだ。 その子が生まれた直後に旦那は自殺したがね……】


 老婆は「クククク〘❒〙〘❒〙」と笑い出した。


【それからこのチャイナタウンは未亡人の凛華リンファさんの死の中華街チャイナタウンじゃ。 黒人奴隷やインディアン達を仕入れては殺戮を繰り返していた。 祖母の話では、健康や美貌の維持のためにアメリカパイソンの神の肝を大金で手に入れて食べたらしいよ】


「死の中華街チャイナタウンだったのは事実なんですね……」


【でも凛華さんが支配した郭家はね、ゴールドラッシュでアメリカで一番の金持ちになったんだけど、孫の代で騙され財産の大半を失った結果、郭の本家は中国に帰ったけどね、その後は知らないよ】


「おばあさんの先祖の未亡人の凛華さんは、どのような亡くなり方をされたのですか?」


【殺された。 至近距離でスプリングフィールドのライフル銃で右の纏足を誰かに撃たれて…… 1857年だったと思う】


「我らの自由の女神は存在している…… そして大富豪の《《リンファ》》を殺害している」


 老婆はテーブルのお茶を指差して、


【ほら、ワタシが煎じた茶でも飲みなさい……〘❒〙〘❒〙】










 140年前の1850年 昼


 サンフランシスコチャイナタウンの中央に巨大な5階建て中華風の赤い木造の建物がある。

 チャイナタウンが一望できる5階の茶室で、若い男がイスから崩れ落ちた。

 若い男の体は痙攣が始まり、


「え……ぇ……リン……ファ?」



 向かいに座っていた高級な黒のチャイナドレスを着た、お団子ヘアーの美しい中国人の女 凛華リンファは手に持っていたカップを逆さまにして、紅茶を捨て流した。


【どうしました旦那様? 毒でも飲まれたのですか?】


 座ったままの凛華リンファは、夫に優しい笑顔を向ける。

 その顔を苦悶の表情で見上げる夫は、


「お……まえ……が?」


 凛華リンファは両手をパンパンと叩くと、

 茶室に、郭家の屋敷に従事する纏足の女4人が入って来て、


「「「「ヂゥー?(ご主人様、何用でしょうか?)」」」」


 凛華リンファは目を瞑り笑みの口で黄金のキセルを吹かしながら、


【旦那様をラクにしておあげなさい】


「「「「シー(はい)」」」」


 従事の女4人は、動けない夫の四肢をそれぞれが両手で持ち、ブランコの様に遠心力をつけて「せ~の」と、窓の外へ投げた。



 凛華リンファは目を瞑ったままの笑みで黄金のキセルを吹かしながら、


【ブラックチェリーさん? これで、ワタシは郭家の未亡人になり、このチャイナタウンは自由の街になりましたよ】


 いつの間にか、座る凛華リンファの後ろに立っていたボサッた金髪、青い瞳、黒のレザースーツのシャーロット・マホニ―は包子パオズ(肉まん)をムシャムシャ食べながら、


「うめえなコレ……」


【ブラックチェリーさんは豚肉の包子パオズが大好きですね?】


「例の件、リンファを本当に信用して良いんだな?」


【ブライアンクリフに、新たに運ばれて来るナイジェリア人20名の身柄をワタシのチャイナタウンが預かります。 このサンフランシスコチャイナタウンはすぐに治外法権を得ますから】


「約束を破ったら…… 分かってるだろうな……≪●≫≪●≫」


 目を瞑ったまま笑む凛華リンファは、


【シー ハオデァ(はい、分かってます)】


 シャーロット・マホニーは黙って茶室を出た。


 イスから立ち上がった凛華リンファは目を瞑ったまま窓へ歩く……

 その美貌と『三寸金蓮サンツンジンリエン』の纏足てんそくで歩くさまは、

 美しいクビレが強調されるようにクネクネと、男なら悩殺される程にチャーム。


 サンフランシスコチャイナタウンを一望できる窓の前で、邪悪な瞳を開き……


≪■≫ ≪■≫


【ワタシの自由の街】




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